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国選弁護人の辞任

2023-03-23

1 事例

 刑事事件第1審において、国選弁護人に選任された弁護士が裁判所に辞任届を提出し、そのまま公判に出廷しなかった。しかし、その状況で裁判所は実質的に審理を継続した。
 この点について、控訴審において①弁護人辞任届を提出しているに裁判所が解任しなかったのは違法である②公判に弁護士が出廷していないのに実質的な審理を行ったのは訴訟手続きの法令違反であるという主張が控訴審弁護人からなされた。
(東京高判昭和50年3月27日の事案)

2 裁判所の判断

①について

 「現行制度の下においては、裁判所によって選任せられた国選弁護人は、裁判所の解任行為によらなければ、原則としてその地位が消滅することはなく、また正当な理由がなければ辞任の申出をすることができないものであって(弁護士法二四条参照)、しかもその正当理由の有無の判断は、選解任権を有する裁判所がすべきものと解せられる。」としており、裁判所が解任をするまでは国選弁護人の地位は残るほか、解任するかどうかについても裁判所が判断する旨を述べました。

②について

「前記国選弁護人らの辞任の申出に正当な理由が認められないとしてこれを解任しなかった原審の措置に、所論のような違法があると認めることはできない。また国選弁護人が辞任届を提出し、出廷しなかったのは、被告人らの責に帰すべき事由によるもので、それによって生ずる不利益は被告人らがみずから甘受せざるを得ないものとして、弁護人不出廷のまま実質審理を行ない判決するに至った原審の措置は、必要的弁護事件でない本件においては、やむをえなかったものというほかはない。すなわち、被告人らが、原審のとったグループ別審理方式をはじめその他の公判運営上の措置を不満として、そのような形態による裁判の進行をあくまで阻止しようとして、国選弁護人らを辞任せざるを得ない状況に追い込み、その結果弁護人らが出廷しなくなったとしても、それは被告人らがみずから望んだところと言わざるをえない。したがって、このような事情の下において、原審が弁護人不出廷のままで審理判決したからといって、被告人の弁護人依頼権の保障を無視した措置があるということはできない。」
として、被告人らの責めに帰すべき事由により弁護人が出廷しないような場合には、弁護人不出頭を理由として公判を継続したとしても違法はない旨判示しました。

3 解説

 弁護士法第24条にある通り、弁護士は正当な理由がなければ官公署から委嘱を受けた事項を辞任できないとなされています。
 国選弁護人も裁判所から依頼を受けた事項であるため、正当な理由がなければ辞任できません。
 そして、国選弁護人については、刑事訴訟法にその解任事由が定めてある通り、裁判所が解任をすることとなっています。そのため、弁護人の一方的意思表示のみでは辞任できないということになります。
 ただ、弁護人が辞任を申し出、それに相応の理由がある場合には、刑事訴訟法第38条1項に記載の事由が当てはまるようになることが多いと思われますから、解任となる可能性はあると思われます。

弁護士法第24条違反

2023-03-16

1 委嘱事項を行う義務

 弁護士法第24条は弁護士に対して、正当な理由がない限り法令により官公署の委嘱した事項及び弁護士会・日弁連が指定した事項を行うことを辞することができないと定めています。

2 官公署が委嘱した事項

 官公署が委嘱した事項の例は、国選弁護人や、付審判請求がなされた場合の公訴維持を行う検察官役の弁護士のほか、司法試験委員や司法研修所教官などの職務も含みます。
 ただ、この規程においても、対象となる職務について「弁護士」を選任する旨が定められているものに限るか(たとえば、司法試験法第13条2項は「委員は、裁判官、検察官、弁護士及び学識経験を有する者のうちから、法務大臣が任命する」としており、弁護士であるから司法試験委員に任命されていると言えます)、それに限らないのか(破産管財人には弁護士が選任されていますが、破産法第74条1項で「破産管財人は、裁判所が選任する」と記載するだけで、弁護士でなければならないという制限は法律上はありません)という問題があります。この問題について決まった解釈は存在しないようですが、仮に後者の考え方であっても、「正当な理由」を広く解釈すれば足りると考えられています。

3 弁護士会・日弁連が指定した事項

 これについては、各種委員会の委員などが含まれると考えられています。

4 正当な理由

 正当な理由については、辞職することが認められる程度の重大な事由である必要があり、長期療養が必要な病気などが挙げられると考えられますが、職務上多忙であることが理由となるかどうかについては慎重に検討されるべきとされています。

5 国選弁護人の辞任

 この条文をめぐって最も問題となりうるのは、国選弁護人の辞任の問題です。
 刑事訴訟法第38条3項では「裁判所は、・・・裁判所若しくは裁判長又は裁判官が付した弁護人を解任することができる」とし、解任事由として利益相反、心身の故障などが挙げられています。国選弁護人が「官公署の委嘱した事項」であることに争いはないと思われますが、いかなる場合に国選弁護人を辞任することが許される「正当な理由」があるといえるのかが問題となります。
 このうち、刑事訴訟法第38条1項1~5号に記載している場合には正当な理由があるとされることになると思われますが、たとえば被告人と弁護人の間の信頼関係喪失が正当な理由となりうるかが問題となります。
 この点について、裁判所は、正当な理由の有無の判断は裁判所がすべきものであるとしているものの、最判昭和54年7月24日において「被告人らは国選弁護人を通じて権利擁護のため正当な防禦活動を行う意思がないことを自らの行動によつて表明したものと評価すべきであり、そのため裁判所は、国選弁護人を解任せざるを得なかつた」としており、信頼関係喪失の程度や、事案の状況においては信頼関係喪失により解任することもやむを得ないと考えている様子も見受けられます(ただし、この件では5号に当たるように思われる事由も存在していました)。

懲戒事由(品位を失うべき非行)

2023-03-09

1 品位を失うべき非行

 弁護士法第56条第1項に定める懲戒事由のうち、最後のものが「職務の内外を問わずその品位を失うべき非行」です。
 この「品位を失うべき非行」については、それより前に記載されている「この法律・会則違反、信用秩序侵害」も含み、懲戒に値するべき非行を取り出す概念であると考えられていますが、具体的にどのような行為が品位を失うべき非行に該当するかは、個別具体的事案に応じた判断をするほかないと考えられています。

2 職務の内外

 「職務の内外を問わず」とされているので、弁護士としての業務上の事由だけでなく、私生活上の事由を理由として懲戒を受ける場合があります。
 飲酒運転などの犯罪行為はもちろんですが、不貞行為等も問題となり得るところです。

3 品位を失うべき非行の例

 この「品位を失うべき非行」は、最初に記載した通り、「懲戒に値るする非行」を取り出す概念です。また、「法律・会則違反」などについても、全ての弁護士法違反、全ての会則違反が懲戒の対象となるのではなく、それらのうち懲戒に値するものだけが懲戒となるとされていますから、多くの懲戒事例で「会則・法律違反」などと並んで「品位を失うべき非行」が列挙されています。
 これまでに問題となった例では、国選弁護人が被告人から国選弁護人報酬以外の報酬等の支払いを受けたような場合や、訴訟委任状を無断で作成行使したような事例などがあります。
 ここで、品位を失う行為が問題となった裁判例の文面を見てみましょう(東京高判昭和47年10月23日 上記国選弁護人の事例)。
「国選弁護人は、被告人の請求または職権により弁護士の中から裁判所または裁判長が選任して被告人のために附するものであり(刑事訴訟法第三六条・第三七条・第三八条第一項)、右弁護人に対しては、旅費・日当・宿泊料及び報酬が国費をもって支給される(同法第三八条第二項)のであるから、国選弁護人が選任された被告事件の弁護活動につき国から支給される右報酬等以外に、被告人その他何人からでも報酬等の支払を受けることは弁護士が基本的人権を擁護し社会正義を実現することをその使命とし(弁護士法第一条)、弁護士となる資格は法律をもって定められていることに鑑み非難に値する行為というべきであり、弁護士法第五六条第一項にいう弁護士の品位を失うべき非行に該当するものと解すべきである。」
 この事案では、当事者の主張に寄れば当時は国選弁護人の報酬に含まれていなかったと思われる保釈請求に関する手続きの報酬とされるものを受け取った事案であり、原告の弁護士はその旨を主張していましたが、それを理由に職務の範囲外であると主張することはできないと述べています。
 

対象弁護士の地位

2023-03-02

1 対象弁護士の地位

 懲戒請求を受けた弁護士は、綱紀・懲戒委員会などから、事案についての陳述、説明、資料の提出をと求められることになります。
 このような手続きについて、弁護士法は70条の7で、日弁連綱紀委員会の手続きの内容として定めているところであり、単位会の手続きについては法律で定められているところではないのですが、おそらく多くの単位会で同じような規定が置かれているものと思われます。
 なお、弁護士法第70条の7では「綱紀委員会〔注:日弁連綱紀委員会を指す〕は、調査又は審査に関し必要があるときは、対象弁護士等・・・・・に対して陳述、説明又は資料の提出を求めることができる」と定められていますが、仮に説明を求められた弁護士が説明を拒否した場合にはどのように考えられるのでしょうか。
 この点について、日本弁護士連合会会則第72条は「弁護士及び弁護士法人は、会期で定めるところにより懲戒の手続きへの協力を求められたときは、正当な理由がない限り、これに応じなければならない」としており、弁護士及び弁護士法人に対して協力義務を課しています。ですので、仮に綱紀委員会等から説明を求められた際、正当な理由なく弁護士が説明を拒否するような場合には、この会則第72条違反となり、懲戒請求されている事由とは別に、会則違反として懲戒を受ける場合があります。

2 登録換えの制限

 弁護士法第62条第1項は、「懲戒の手続に付された弁護士は、その手続が結了するまで登録換又は登録取消の請求をすることができない」とされています。
 ここで問題となるのは「懲戒の手続に付された」と言えるのはどの手続きが開始した段階かという点と、「手続が結了」したといえるのはどのような状態になった場合かという点です。
 まず「懲戒の手続に付された」という言葉の解釈ですが、かつては①綱紀委員会の調査手続きに付された場合も含むという解釈と②懲戒委員会の審査手続に付された場合に限定するという解釈の2つの解釈が存在しました。しかし、現在は弁護士法第58条2項で「弁護士会は・・・・懲戒の手続に付し、綱紀委員会に事案の調査をさせなければならない」と定めているため、「懲戒の手続に付し」=「綱紀委員会に事案の調査をさせ」ることと考えられています。
 次に「手続が結了」したと言える時点ですが、こちらは懲戒処分の効力発生の時と考えられており、懲戒をする場合には対象弁護士に対して処分の通知があったとき、懲戒をしない場合にはその旨の通知が対象弁護士にあったときであると考えられています。ただし、懲戒をしない場合に、懲戒請求者から異議の申出があって事案が日弁連綱紀委員会に移送された場合には、この登録換え禁止の制限は継続することになります。

守秘義務違反が問題となった事例⑵

2023-02-23

1 事例

X弁護士は、横領事件で被疑者であるYの弁護人として選任された。

このYには、同種事件の余罪があり、その件についても既に捜査が開始されていた。

捜査機関はYの親族に対し、余罪についての証拠となるようなものの任意提出を求め、提出しない場合には強制捜査を行う旨を告げたが、Yの親族はこれを提出しなかった。

証拠物の扱いに困ったYの親族は、Xに相談を行い、Xは証拠物を自らのところに送るよう指示した。

そして、Xはこの証拠物を、Yの承諾なく捜査機関に提出した。

(日弁連綱紀委員会平成24年8月28日議決事案を改変したもの。実際には証拠物提出の承諾の有無に争いがあり、原弁護士会は事前の同意があったことが推認されるとしていた。)

2 判断

(1)原弁護士会
 Yからの懲戒請求に対し、単位会は以下の通り判断しました。
「(中略)一方弁護人としては全方位に目配りしながら弁護活動に当たらねばならない。
弁護人であっても、刑事訴訟法の基本理念でもある真実発見に目をつぶる事は許されない。
更に、被疑者と関係を有する者についても、弁護人の認知する限り法令違背なきよう配慮しなければならない。ところで、本件業務上横領事件〔事例でいう余罪事件のこと〕については、前記の通り既に捜査が開始されていたこと、警察は本件証拠物の所在を認知し提出を求めていたこと等を考慮すると、弁護人といえどもこのような事実を認識しながら証拠物を保持したままこれを捜査機関に提出しないことは証拠隠滅罪にも問われかねない事態になること、本件証拠物を受領した弁護人としても真実発見という基本理念に目をつぶるべきではないこと、証拠物の提出は請求人の情状にも資することなどを総合的に考慮すれば(中略)弁護士としての判断で任意提出していたとしても、そのことで弁護士法の言う品位を失うべき非行には該当しないというべきである。」
(2)日弁連綱紀委員会の判断
原弁護士会の判断に対して、Yが異議申出を行い、事案は日弁連綱紀委員会に係属しましたが、綱紀委員会は以下の理由で、原弁護士会懲戒委員会に事案の審査を認めることを相当としました。
「刑事弁護人たるXは、「積極的真実義務」を課せられているものではないのであるから、仮に、自身の依頼者であるYの余罪の証拠である本件証拠物の所在を覚知したとしても、その事実を捜査機関に通報する義務はないし、ましてやその証拠物を自身に送付させ入手したうえで捜査機関に任意提出しなければならない義務のないことは明らかである。Xが、積極的に本件証拠物を入手して、Yの同意を得ないで、これを捜査機関に提出した行為は、明らかにXの正当な防御権を侵害する行為であり、刑事弁護人に求められる、被疑者及び被告人の権利及び利益を擁護するため最善の弁護活動に努める、という基本的誠実義務に著しく反する行為と言わざるを得ない。」

3 解説

 弁護人が守秘義務を負い、捜査機関に対して証拠物を提出する義務がないことは明らかなところです。
 ただ、依頼者(被疑者)が余罪を認めているような場合には、早めに進んで証拠を提出し、追加の身体拘束を回避したり、公判出の情状を良くするということは、弁護活動として考えられないも野であるとは言えません。
 そのため、この証拠を提出すべきかどうかという点が問題となるところですが、いずれにせよ依頼者の同意を明確にする必要があります。
 仮に依頼者に有利である面があるとしても、前述の通り守秘義務を負っていますから、勝手に提出することは許されないと考えるべきでしょう。

守秘義務違反⑵

2023-02-16

1 守秘義務の例外

 弁護士法第23条は守秘義務を定めていますが、その但書において「但し、法律に
別段の定めがある場合は、この限りでない」とされています。
 ここにいう「別段の定め」というのは、刑事訴訟法105条但書(「医師、歯科医師、助産師、看護師、弁護士(外国法事務弁護士を含む。)、弁理士、公証人、宗教の職に在る者又はこれらの職に在つた者は、業務上委託を受けたため、保管し、又は所持する物で他人の秘密に関するものについては、押収を拒むことができる。但し、本人が承諾した場合、押収の拒絶が被告人のためのみにする権利の濫用と認められる場合(被告人が本人である場合を除く。)その他裁判所の規則で定める事由がある場合は、この限りでない。)などを指すと考えられています。
 ただし、実際にはこのような法律の規定がある場合だけではなく、「正当な理由」がある場合には守秘義務違反にならないと考えられています。実際、弁護士職務基本規程第23条でも「弁護士は、正当な理由なく、依頼者について職務上知り得た秘密を他に漏らし、又は利用してはならない」としています。

2 正当な理由

 この守秘義務違反が許される正当な理由とは、法律に記載のあるような別段の定めがある場合だけではなく、以下のような場合も許されると考えられています。
①依頼者の承諾があるとき
 守秘義務は依頼者を保護するものですから、本人の承諾があれば解除されると考えられます。
 ただ、この承諾は真意に基づくものである必要があり、全体的には慎重に検討する必要があります。
②自己防衛の必要があるとき
 依頼された事件に関連し、弁護士自身が訴訟の当事者になったり(元依頼者から訴えられるようなケース)、紛議調停・懲戒の手続きに付されたような場合には、秘密の開示が許されると考えています。
ただし、注意を要する点があります。弁護士が依頼者に対して弁護士報酬の支払いを求めて訴訟を提起するような場合に、自己防衛であるかどうかが問題となります。
 もちろん報酬請求権は重要なものですから、全く守秘義務が解除されないとは言えないと思われますが、弁護士自身が訴えられたようなケースと同様とまでは考えられず、この点についても慎重に検討するべきであります。
③公共の利益のために必要があるとき
 弁護士には、依頼者の利益を守るという義務のほかに、公共の利益を守る義務も課されていると考えられます。
 たとえば、依頼者が第三者に対する殺人を相当具体的に企てていることを知った場合に、警察への通報や、第三者への注意喚起が許されるのかという問題が生じます。
 一般的には、生命や身体に対する重大な危害を防止するために必要がある場合には守秘義務が解除されると考えられます。
 ですので、上記の例のような場合には、捜査機関への通報などが守秘義務違反になると考えられません。
 次に、財産に対する危害を防止するために守秘義務が解除されるかですが、これについては、上記の生命・身体に対する危害よりは一層慎重に考える必要があります。現時点で決まった解釈があるわけではありませんが、安易に秘密を漏示することは許されないと考えらます。

懲戒事由(信用・秩序侵害)

2023-02-09

1 信用・秩序違反

 懲戒事由の3つ目は、「所属弁護士会の秩序又は信用を害し」たような場合です。
これについては、そもそも具体的な要件などが記載されていないため、実質的な価値判断を行う必要があります。
 また、実際の処分例でも、会則違反や、品位を失うべき非行があった結果、会の信用を毀損したというような形で、他の懲戒事由とあわせて記載されることがあります。
 たとえば、東京高判昭和53年6月26日の事件では、業務停止中に弁護士業務を行ったことが問題となりました。業務停止中は、弁護士業務を行うことは当然できず、これは法令・会則違反に当たる行為になります。このような事件で、裁判所は
「原告〔対象弁護士〕の行為は、所属弁護士会から一年八月の業務停止の懲戒処分に付されながら、右業務停止期間中に刑事弁護人として弁護士の業務を行ったというものである。業務停止の懲戒処分は、一定期間弁護士の業務に従事してはならない旨を命ずるものであって、この懲戒の告知を受けた弁護士は、その告知によって直ちに当該期間中弁護士としての一切の職務行為を行うことができないこととなるにもかかわらず、原告は、この処分に違反して弁護士業務を行ったものであり、所属弁護士会の統制に服さず、これによって弁護士会の秩序を乱した責任は、決して軽くない。」と判示しており、法令会則違反によって、弁護士会の秩序が乱れるというような論旨を記載しています。

2 弁護士法第12条

 弁護士の登録・登録換えに関し、心身に故障があるなどの理由のほか、「弁護士会の秩序若しくは信用を害するおそれがある者」の請求について、単位会はその進達の拒絶をすることができるとされています。
 これは、懲戒請求の事由の規定と同様で、予め弁護士会に入会することを防ぐ規定ですが、具体的な定めはありません。
 これに関連して、東京高判昭和53年2月21日の事例では、過去に横領事件を起こしたこと(この横領は、弁護士としてではなく、政治家として起こしている)を理由として入会を拒絶した大阪弁護士会・日弁連の判断を否定しています。
 その裁判では「原告〔弁護士〕の右犯罪事実のうち、その多くを占める詐欺、横領の事実は、いずれも政治家としての地位に関連して行なわれたものであるが、原告がその後政治家たることを断念し自粛自戒の生活を送つて来た事実は、成立に争いのない乙第一号証、原告本人の供述並びに弁論の全趣旨によつて認めることができ、これに右各判決確定後における時間の経過など諸般の事情を総合して勘案すると、右の各犯罪事実から、直ちに被告の主張するように、一般弁護士及び弁護士会の信用を害する虞れありと認定するには躊躇を感ぜざるを得ない。なお、乙第一四号証の一、二によると、原告は前示確定判決により大阪弁護士会を退会した後の昭和四一年八月二九日●●の依頼を受けて答弁書を作成しその手数料金三万円及び賃料供託金として金八、八〇〇円の交付を受けて、弁護士に非ずして弁護士業務を行なつた事実を認めることができるけれども、右乙号証によれば原告はその後右行為を反省してその金員も返還し、大阪弁護士会においても告発を猶予してこれを不問に付した事実を認めることができるから、右の事実によつて前叙認定を覆えすに足らず、他に原告の弁護士名簿登録によつて一般弁護士及び弁護士会の信用を害する虞れがあるとの事実を認めるに足りる証拠はない。」としました。

懲戒請求の対象者

2023-02-02

1 懲戒請求の対象者

 弁護士法第56条第1項によると、懲戒を受ける対象と定められているのは①弁護士及び②弁護士法人とされています。弁護士と弁護士法人が別に規定されていますので、法人に所属する個々の弁護士への懲戒と、弁護士法人そのものに対する懲戒は別物となります。
 なお、「弁護士」の中には、弁護士法に規定される弁護士以外に「外国法事務弁護士」というものがあり、特定の外国で弁護士となる資格を有しているものが、日本国内で、その外国の法律事務を行うために承認を受けて弁護活動を行うものを指しており、この外国法事務弁護士についても同じような懲戒制度がありますが、ここでは省略します。また、弁護士法人についても割愛します。

2 弁護士であること

 懲戒請求の対象者であるためには、現に弁護士であることが求められます。
 通常はこの要件は問題とならないのですが、1つ問題が生じうる場合があります。
 まず、懲戒請求をされた弁護士が、登録の取消の請求を行うことは、弁護士法第62条第1項により禁止されています。そのため、懲戒を免れるために弁護士でなくなるというようなことはできません。
 しかし、①事態の深刻さを察知して予め登録取消の請求がなされ②その後に懲戒請求がされたような場合に、どのような処理が行われるのかということについては定まった見解がありません。
 もちろん、①と②の間に大きな時間的隔たりがあれば、既に弁護士でなくなったということで処理がされると思いますが、たとえば、弁護士が登録取消の届出を単位会に行い、その書類が未だ日弁連に届くまでの間に(弁護士法第11条により、登録取消は単位会を経由して日弁連に届け出ることになっています)懲戒請求がされたような場合に、登録取消が効力を有するようになるのはどの時点からなのか(=弁護士の身分を喪失するのはいつからか)という問題が発生します。これについては、単位会に届け出た時点で効力が発生する(①の時点で弁護士の身分を喪失し、ここから先は懲戒できない)という考え方もある一方、日弁連の方で処理されるまで身分は喪失しない(=この例では懲戒可能)という考え方もあり得るところです。

3 弁護士会への所属

 弁護士又は弁護士法人に対する懲戒の請求は、日本弁護士会連合会(日弁連)に対して行うのではなく、個々の弁護士会(単位会)に対して行う必要があります。
 そのため、懲戒請求の対象者が、請求をする先の弁護士会に所属している必要があります。
 たとえば、大阪弁護士会に所属する弁護士について、兵庫県弁護士会に懲戒請求をすることはできません。
 なお、懲戒請求をされた弁護士が、他の弁護士会に登録換えの請求を行うことは、弁護士法第62条1項により禁止されています。
 また、2と異なり、弁護士の身分自体が喪失するわけではありませんから仮に2と同じような事態が生じたとしても、新所属会の方に懲戒請求を行えば足りるということになります。

守秘義務違反が問題となった事例⑴

2023-01-26

1 事案

 Xは、自身の問題についてA弁護士とB弁護士に依頼をしていたが、Xと両弁護士との間で、事件に対する解決方針等で温度差があった。
 ところで、Y弁護士が開設する「○○被害サイト」というサイトには、Xが抱えている問題についての情報提供を呼びかける文言や、「秘密を守ります」との文言と共に、メールフォームが設置され、被害の情報に提供を呼びかける文言があった。
 そこでXは、メールフォームにAB弁護士の実名を挙げ、自身の被害の内容や、弁護士の対応状況等を記載したほか、「和解するしかないのでしょうか」「誰も引き受けなければ私法では解決できないでしょうか」との内容を記載した。
 Y弁護士は、メール内にあるA弁護士の名前が旧知の弁護士であったことから、A弁護士に電話をし、メールを送ってきた人物が実際の依頼者であるかどうかや、メールに対する返信をどうするべきか相談したところ、A弁護士から自身で対応する旨告げられたので、そのままメールに対して返信を行わなかった。
 Y弁護士がA弁護士に電話をし、メールの内容などを伝えたことが守秘義務違反となるかが争点である。
(大阪高判平成19年2月28日の事案を改変したもの)

2 判旨

 「弁護士法23条は,弁護士はその職務上知り得た秘密を保持する権利を有し,義務を負うと規定し,弁護士倫理20条(現行弁護士職務規程23条)にも正当な理由がないのに職務上の秘密を漏らすことを禁じる旨の規定がある。上記の規定にいう「職務上知り得た」とは,弁護士がその職務を行うについて知り得たという意味であり,弁護士が弁護士法3条の依頼者から依頼を受け,訴訟事件等その他一般的法律事務を処理する上で知り得た事項についての守秘義務が課せられ,また,将来依頼を受ける予定で知り得た事項にも及ぶが,他方,そのような弁護士としての一般的法律事務を行うものではない,例えば,弁護士会の会務を行う際に知り得た事実については弁護士としての守秘義務は及ばないと解される。
 上記認定のとおり,Xは,サイトの共同主催者であるYに対し,いきなり本件メールを送信したものであって,サイトは,○○被害を取り扱い,○○被害の情報を得ようとしていたことは,ホームページに明示されており,サイトの活動に関係して,サイトの○○問題の情報提供の範疇に入らない内容が記載された本件メールが突然Yに送られたに過ぎない。
 確かに,Yは弁護士の資格を有するものであることを明らかにしてサイトを共同主催するものであるが,これは,サイトの信頼を高めるためのものであって,一般的な法律事件について事務を処理しようとする意思が表示されたものであるとは認めることはできないし,Yにそのような意思があったことを認めることはできない。したがって,Yの受けた本件メールは,サイトの活動に関して一方的に送信されたものであって,Yが弁護士として職務を行う上で知り得た事項とはいえないものである。
 そして,上記認定の事実によると,XがYに一方的に送信した本件メールの内容もYに対し,積極的な解決や相談を持ちかけた内容ではなく,Xが本件○○問題に遭遇した具体的経過,依頼した弁護士との意見の相違があり悩んでいるなどの単なる心情を吐露したものに過ぎないものであって,上記のとおり,積極的に何らかの法律上の意見や判断を求めているものではないから,これを直ちに法律相談であると認めることはできない。」
「仮に,本件メールがXから弁護士であるYに対してなされた法律相談であり,弁護士が職務上知り得た事項であるとしても,以下の説示のとおり,Yの行為は,弁護士としての守秘義務に違反する違法な行為などということはできない。すなわち,Xも全く面識のない弁護士にそのような内容の本件メールを送信すれば,弁護士であるYにおいて,本件メールがいたずらではないかとの疑問を抱くのは当然であり,Xが実在の人物であるか,書かれた内容が事実であるか,本件○○問題の相手方の主張や証拠及び紛争処理に関する態度が不明であることに加え,Xの回答がいかなる使われ方をするのかなどYの意図などについて懸念を抱き,必要な範囲で裏付けの調査をする必要が生じてくることは容易に推測できる。そうすると,仮に,Xにおいても,Yが本件メールが単なる心情吐露したメールではなく,Yが弁護士であることに着眼した法律相談であるとの認識であれば,Yが本件メールの内容について,Xのプライバシー権などに配慮した上で,何らかの手段で裏付け調査した上で,回答することを予測し得たものと認めることができる。上記認定の事実によると,Yは,受任弁護士であるA弁護士が信頼できる弁護士であると判断した上で,Xの実在を確かめる趣旨で電話を架け,A弁護士の返事から少なくともXの実在を確認でき,Yが本件メールの相談について回答する必要のないものであると判断したにすぎないのである。
 したがって,本件メールがYと全く面識のないXによる突然の一方的なメールの送信である以上,その際,Yが受任弁護士にXから本件メールがあったことを告げ,Xが実在の人物であるかどうかを確かめることは,正当な弁護士活動であるといえ,これに加え,尋ねた相手も弁護士であって,互いに守秘義務を負う者であって,それ以上第三者に伝播されるものではないことを考慮すると,少なくとも弁護士としての正当な行為であるといえ,Yに課せられた守秘義務に違反するものではない。」
「ところで,秘密とは,世間一般に知られていない事実で,本人が特に秘匿しておきたいと考える性質を持つ事項(主観的意味の秘密)に限られず,一般人の立場から見て秘匿しておきたいと考える性質を持つ事項(客観的意味の秘密)を意味すると解される。上記認定の事実によると,本件メールには,Xが○○被害を受けたことや受任弁護士の対応に関するXの不満などの心情を伝えたうえ,Xが不満足と考える内容の和解で解決するほかないのか,司法の場で解決することはできないのかと述べるものであって,詳細な事実関係の記載に加え,受任弁護士が取った助言等についての不満や悩みを訴えるものであって,それ自体は一応上記の秘密に該当すると認められる
 しかし,上記認定の事実によると,Xは,本件メールの内容については,集会などにおいて,同様の内容を述べ,他の弁護士にも同様の内容を相談したことがあるのであるから,本件メールの内容が秘密性を有するとしても,X自ら秘匿性を開放し,明らかにしているといえ,サイトのホームページに送信フォームを用いて本件メールをYに送信したことを考慮しても,Xが本件メールの内容を秘匿しておきたいと考えていたとみることは困難である。
 そして,本件では,XがYに本件メールを送信したこと自体が秘密にあたるかということが問題となるが,XがB弁護士,A弁護士に事件処理を委任しているときに,Xが受任弁護士との関係悪化を懸念することがあり得ることは当然であるとしても,他方,突然本件メールを送信されたYとしては,少なくとも送信者が実在するのかについて確かめる必要があり,その相手方がXの受任弁護士である場合には,XからYに対し,突然本件メールがあったことを伝えなければ,受任弁護士からXの実在の有無についての回答を得られないことになりかねないのであるから,その限度では,XからYに本件メールがあったことを告げる行為は,上記のとおり,Yの正当な理由によって守秘義務を免れる行為といえ,弁護士が守秘義務に違反するとはいえないと解すべきである。

3 解説

 守秘義務の対象となる「秘密」の意義を明らかにした裁判例です。
 守秘義務の対象となる秘密には、一般人が知らない事項のうち、①本人が秘密にしておきたいと
考える事項だけでなく②一般人であれば秘密にしたいと考えるような性質の事項も含まれると考えらえます。
 例えば、「弁護士に依頼している」という事実は、本人が秘密にしておきたいかどうかは別としても、一般人であれば紛争の当事者になっているということが知られてしまうことになりますから、秘匿しておきたいと考える事項であろうと思われます。
 ただ、本件では受任をしている弁護士当人に対して確認がなされたこと(第三者へ広がっていない)や、法律事務所ではない一般のメールフォームという形式などの点を踏まえ、守秘義務違反を否定しています

守秘義務⑴

2023-01-19

1 守秘義務とは

 弁護士法第23条は、「弁護士又は弁護士であつた者は、その職務上知り得た秘密を保持する権利を有し、義務を負う。」と定めています。これがいわゆる弁護士の「守秘義務」の根拠となっています。

2 守秘義務の趣旨

 弁護士が守秘義務を負うのは、弁護士が法律事務を行うにあたり、自由闊達な議論を行ったり、正確な見通しを伝えるためには、依頼者から秘密に当たるような事項についても話してもらう必要があるところ、依頼者にしてもこのような義務がなければ、秘密漏示の危険性を意識する必要があるようになってしまうことから、このような守秘義務が定められていると考えられます。
 弁護士の守秘義務は、弁護士法第23条に定められていますから、守秘義務違反は法律違反として懲戒の事由となりますが、それだけでなく刑法の秘密漏示罪にも該当することになりますから、罰則の対象にもなります。

3 守秘義務を負う者

 弁護士法上守秘義務を負うのは「弁護士又は弁護士であった者」です。そのため、仮に弁護士を辞めたとしても、守秘義務は継続して残ることになります。
 また、弁護士の使用人たる事務員が秘密漏示をした場合には、弁護士法上の守秘義務違反になるわけではありませんが、不法行為責任を負う可能性はあります。このような場合でも、弁護士職務基本規程第19条において、弁護士は事務職員、司法修習生等に対し、秘密漏示をしないよう監督指導する義務
を定められていますので、この義務を怠ったということであれば、会則違反として懲戒を受ける可能性があります。

4 守秘義務の対象

 守秘義務の対象となる事項は「職務上知り得た秘密」です。
 職務上知り得た秘密とは、弁護士が職務を行う過程で知った秘密を指しており、職務を離れて知った秘密についてはこの対象ではありません。
 ここで「秘密」とは、一般に知られていな事実であって、本人が知られたくない事実であるか、一般人から見て知られたくないような事実であると考えられます。
 問題は秘密が「依頼者の秘密」に限定されるのかどうかです。弁護士職務基本規程第23条は「依頼者について職務上知り得た秘密」の漏示等を禁止していますので、これとの関係性が問題となります。
 日弁連の綱紀委員会では、弁護士法第23条の秘密の対象を第三者の秘密まで広げて解釈しているようです。ただ、弁護士と第三者の間には信頼関係があるとは限らないですから、秘密を漏示する正当な理由があるかどうかという点では、第三者の秘密の方が漏示することが許される場合が広いと考えられると思われます。

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