守秘義務違反が問題となった事例⑴

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1 事案

 Xは、自身の問題についてA弁護士とB弁護士に依頼をしていたが、Xと両弁護士との間で、事件に対する解決方針等で温度差があった。
 ところで、Y弁護士が開設する「○○被害サイト」というサイトには、Xが抱えている問題についての情報提供を呼びかける文言や、「秘密を守ります」との文言と共に、メールフォームが設置され、被害の情報に提供を呼びかける文言があった。
 そこでXは、メールフォームにAB弁護士の実名を挙げ、自身の被害の内容や、弁護士の対応状況等を記載したほか、「和解するしかないのでしょうか」「誰も引き受けなければ私法では解決できないでしょうか」との内容を記載した。
 Y弁護士は、メール内にあるA弁護士の名前が旧知の弁護士であったことから、A弁護士に電話をし、メールを送ってきた人物が実際の依頼者であるかどうかや、メールに対する返信をどうするべきか相談したところ、A弁護士から自身で対応する旨告げられたので、そのままメールに対して返信を行わなかった。
 Y弁護士がA弁護士に電話をし、メールの内容などを伝えたことが守秘義務違反となるかが争点である。
(大阪高判平成19年2月28日の事案を改変したもの)

2 判旨

 「弁護士法23条は,弁護士はその職務上知り得た秘密を保持する権利を有し,義務を負うと規定し,弁護士倫理20条(現行弁護士職務規程23条)にも正当な理由がないのに職務上の秘密を漏らすことを禁じる旨の規定がある。上記の規定にいう「職務上知り得た」とは,弁護士がその職務を行うについて知り得たという意味であり,弁護士が弁護士法3条の依頼者から依頼を受け,訴訟事件等その他一般的法律事務を処理する上で知り得た事項についての守秘義務が課せられ,また,将来依頼を受ける予定で知り得た事項にも及ぶが,他方,そのような弁護士としての一般的法律事務を行うものではない,例えば,弁護士会の会務を行う際に知り得た事実については弁護士としての守秘義務は及ばないと解される。
 上記認定のとおり,Xは,サイトの共同主催者であるYに対し,いきなり本件メールを送信したものであって,サイトは,○○被害を取り扱い,○○被害の情報を得ようとしていたことは,ホームページに明示されており,サイトの活動に関係して,サイトの○○問題の情報提供の範疇に入らない内容が記載された本件メールが突然Yに送られたに過ぎない。
 確かに,Yは弁護士の資格を有するものであることを明らかにしてサイトを共同主催するものであるが,これは,サイトの信頼を高めるためのものであって,一般的な法律事件について事務を処理しようとする意思が表示されたものであるとは認めることはできないし,Yにそのような意思があったことを認めることはできない。したがって,Yの受けた本件メールは,サイトの活動に関して一方的に送信されたものであって,Yが弁護士として職務を行う上で知り得た事項とはいえないものである。
 そして,上記認定の事実によると,XがYに一方的に送信した本件メールの内容もYに対し,積極的な解決や相談を持ちかけた内容ではなく,Xが本件○○問題に遭遇した具体的経過,依頼した弁護士との意見の相違があり悩んでいるなどの単なる心情を吐露したものに過ぎないものであって,上記のとおり,積極的に何らかの法律上の意見や判断を求めているものではないから,これを直ちに法律相談であると認めることはできない。」
「仮に,本件メールがXから弁護士であるYに対してなされた法律相談であり,弁護士が職務上知り得た事項であるとしても,以下の説示のとおり,Yの行為は,弁護士としての守秘義務に違反する違法な行為などということはできない。すなわち,Xも全く面識のない弁護士にそのような内容の本件メールを送信すれば,弁護士であるYにおいて,本件メールがいたずらではないかとの疑問を抱くのは当然であり,Xが実在の人物であるか,書かれた内容が事実であるか,本件○○問題の相手方の主張や証拠及び紛争処理に関する態度が不明であることに加え,Xの回答がいかなる使われ方をするのかなどYの意図などについて懸念を抱き,必要な範囲で裏付けの調査をする必要が生じてくることは容易に推測できる。そうすると,仮に,Xにおいても,Yが本件メールが単なる心情吐露したメールではなく,Yが弁護士であることに着眼した法律相談であるとの認識であれば,Yが本件メールの内容について,Xのプライバシー権などに配慮した上で,何らかの手段で裏付け調査した上で,回答することを予測し得たものと認めることができる。上記認定の事実によると,Yは,受任弁護士であるA弁護士が信頼できる弁護士であると判断した上で,Xの実在を確かめる趣旨で電話を架け,A弁護士の返事から少なくともXの実在を確認でき,Yが本件メールの相談について回答する必要のないものであると判断したにすぎないのである。
 したがって,本件メールがYと全く面識のないXによる突然の一方的なメールの送信である以上,その際,Yが受任弁護士にXから本件メールがあったことを告げ,Xが実在の人物であるかどうかを確かめることは,正当な弁護士活動であるといえ,これに加え,尋ねた相手も弁護士であって,互いに守秘義務を負う者であって,それ以上第三者に伝播されるものではないことを考慮すると,少なくとも弁護士としての正当な行為であるといえ,Yに課せられた守秘義務に違反するものではない。」
「ところで,秘密とは,世間一般に知られていない事実で,本人が特に秘匿しておきたいと考える性質を持つ事項(主観的意味の秘密)に限られず,一般人の立場から見て秘匿しておきたいと考える性質を持つ事項(客観的意味の秘密)を意味すると解される。上記認定の事実によると,本件メールには,Xが○○被害を受けたことや受任弁護士の対応に関するXの不満などの心情を伝えたうえ,Xが不満足と考える内容の和解で解決するほかないのか,司法の場で解決することはできないのかと述べるものであって,詳細な事実関係の記載に加え,受任弁護士が取った助言等についての不満や悩みを訴えるものであって,それ自体は一応上記の秘密に該当すると認められる
 しかし,上記認定の事実によると,Xは,本件メールの内容については,集会などにおいて,同様の内容を述べ,他の弁護士にも同様の内容を相談したことがあるのであるから,本件メールの内容が秘密性を有するとしても,X自ら秘匿性を開放し,明らかにしているといえ,サイトのホームページに送信フォームを用いて本件メールをYに送信したことを考慮しても,Xが本件メールの内容を秘匿しておきたいと考えていたとみることは困難である。
 そして,本件では,XがYに本件メールを送信したこと自体が秘密にあたるかということが問題となるが,XがB弁護士,A弁護士に事件処理を委任しているときに,Xが受任弁護士との関係悪化を懸念することがあり得ることは当然であるとしても,他方,突然本件メールを送信されたYとしては,少なくとも送信者が実在するのかについて確かめる必要があり,その相手方がXの受任弁護士である場合には,XからYに対し,突然本件メールがあったことを伝えなければ,受任弁護士からXの実在の有無についての回答を得られないことになりかねないのであるから,その限度では,XからYに本件メールがあったことを告げる行為は,上記のとおり,Yの正当な理由によって守秘義務を免れる行為といえ,弁護士が守秘義務に違反するとはいえないと解すべきである。

3 解説

 守秘義務の対象となる「秘密」の意義を明らかにした裁判例です。
 守秘義務の対象となる秘密には、一般人が知らない事項のうち、①本人が秘密にしておきたいと
考える事項だけでなく②一般人であれば秘密にしたいと考えるような性質の事項も含まれると考えらえます。
 例えば、「弁護士に依頼している」という事実は、本人が秘密にしておきたいかどうかは別としても、一般人であれば紛争の当事者になっているということが知られてしまうことになりますから、秘匿しておきたいと考える事項であろうと思われます。
 ただ、本件では受任をしている弁護士当人に対して確認がなされたこと(第三者へ広がっていない)や、法律事務所ではない一般のメールフォームという形式などの点を踏まえ、守秘義務違反を否定しています

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