Archive for the ‘過去の懲戒事例’ Category

【弁護士が解説】依頼者からの要求は何でもするべきか、その危険性について解説

2024-04-02

【事例】

 X弁護士は、ある夫婦の妻Aから相談を受け、自身の夫であるBが浮気をしているので何かできることはないかと尋ねられた。

 Aが持参してきた調査会社の報告書や、LINEの履歴などから見て、確かにBが不貞行為をしていることとはほとんど確実であると考えたXは、Aに対して離婚や慰謝料の請求を行うことができる旨を説明した。

 しかし、Aとしてはそのようなことではとても収まりがつかず、Bの生活をめちゃくちゃにしてやりたいという希望があった。そのためAはXに対し、「あいつのことは絶対に許せない。今の生活ができないようにしてやりたいので、Bの実家や職場に先生から不貞慰謝料請求の内容証明郵便を出してもらいたい」と告げた。

 Xはこのようなことに応じてよいだろうか。

【解説】

 XにとってAは依頼者となりますので、弁護士職務基本規程第22条の「弁護士は、委任の趣旨に関する依頼者の意思を尊重して職務を行うものとする。」という規律が当てはまります。そのため、Aが希望することについては基本的にその意思を尊重すべきであると言えます。

 しかし反面、弁護士である以上、「弁護士は、事件の受任及び処理に当たり、自由かつ独立の立場を保持するように努める。」(同20条)、「弁護士は、良心に従い、依頼者の権利及び正当な利益を実現するように努める。」(同21条)、「弁護士は、名誉を重んじ、信用を維持するとともに、廉潔を保持し、常に品位を高めるように努める。」(同7条)などの規程も定められています。そのため、たとえ依頼者の希望であったとしても、何でもそのまま行ってよいということにはなりません。

 今回の事例で考えると、不貞行為をしているということは通常人に知られたくないものであることは間違いありません。また、公になっているようなもでもないですので、いわゆる「秘密」に属することは明らかです。このような秘密について、第三者に口外することは当然守秘義務との関係で問題となります。弁護士職務基本規程23条の秘密保持義務は「依頼者について」の秘密と限定しているものの、弁護士法23条の守秘義務にはそのような限定はありません。この弁護士法23条の守秘義務については、依頼者の秘密に限定されるのか第三者のものも含むのか争いがありますが、日弁連では第三者のものも含むと解釈しています。そのため、今回の事例と同様のケースで、相手方勤務先に離婚事件に関する事実をメールで送信したような事案で弁護士法上の守秘義務違反を認めたケースがあります。

 不貞行為があった場合、法的権利として認められるのは離婚や慰謝料の請求が基本的なものです。相手方配偶者の生活環境を破壊するということは、正当な利益ということはできないと考えられますので、これを実現することは、守秘義務違反の問題は別としても基本規程21条や7条の問題を生じさせます。ですので、X弁護士としてはAの依頼を断るべきですし、これで信頼関係が破壊されるようであれば委任契約の解約をする事案ということになります。

 今回の事例では、Bの連絡先などが確実に分かっていると言えるケースでしたので、勤務先や実家に連絡をすることが問題となるケースでした。ただ、今回の事例とは異なり、Bの連絡先が勤務先や実家以外全く分からないということは十分あり得ます。そのような場合、弁護士から連絡をすることはやむを得ない場合も存在すると思われます。ただ、そのような場合であっても、事件の内容や弁護士の主張を過度に記載するなどした場合にはやはり同様の問題が生じると思われますので、「連絡が欲しい」程度の簡単な記載に留めるべきであろうと思われます。


 

懲戒委員会の独立性が問題となった事案

2023-11-23

1 事案の概要

 A弁護士は、B弁護士会に所属する弁護士であるが、B弁護士会ではA弁護士に対して1年間の業務停止とする処分が決定した。
 これに対してA弁護士が日弁連に審査請求したところ、日弁連は不服を入れ、処分を戒告に変更した。
 ただ、この戒告処分に対してA弁護士が東京高裁に対して取消訴訟を提起した。
 取消訴訟の中でA弁護士が主張したのは、B弁護士会懲戒委員会が開かれた際、そこに本件懲戒請求の請求者でもあるB弁護士会会長が出席し、意見を述べるなどしたことが、委員会の公正を疑わせるのではないかという点である。

(東京高判昭和42年8月7日の事案)

2 裁判所の判断

 懲戒は弁護士にとつて刑罰にも比すべき重大なことがらであつて、その審理、判断に特に公正が要求されることはいうまでもないところであり、法は、弁護士会が所属弁護士を懲戒するには必ず懲戒委員会の議決に基づくことを要求し(弁護士法五六条二項)、弁護士会長その他の理事者に裁量の余地を与えず、かつ、右懲戒委員会は、その委員に弁護士のほか裁判官、検察官および学識経験者を加えてこれを組織すべきものとし、その弁護士委員も弁護士会の総会の決議に基づくべきものとして(同法六九条、五二条三項)、つとめて理事者の影響から独立した機関としている。こうした法の趣旨にかんがみると、懲戒委員会における具体的事件の審査に、理事者が故なく出席して意見を述べることは、当該審査の公正を疑わしめるものとして、許されないものと解するのが相当であり、その点において、B弁護士会の懲戒委員会が本件事案についてした審査手続にはかしがあるものといわねばならない。
 しかし、その点については、原告の異議申立に基づき、被告の懲戒委員会においてさらに事案の実体につき適法公正な審査を遂げ、その議決に基づき、被告はB弁護士会のした業務停止一年の懲戒処分を重きに失するものとして取消し、懲戒として最も軽い戒告処分に変更しているのであるから、ほかに特段の事由がない限り、B弁護士会の懲戒委員会における右審査手続のかしは、これをもつて被告のした本件懲戒処分を取消すべき事由とするに足りないものと解する。

3 解説

 懲戒委員会は、弁護士の身分を剥奪する可能性のある重要な委員会であるため、この委員会は弁護士会と独立している必要があると考えられました。
 そのため、弁護士会の会長が懲戒委員会に出席して発言した場合、委員の意見が会長の意見に引っ張られる可能性も否定できず、このようなことを行うことは、懲戒委員会の独立性を害することと考えられました。
 実際、法律上は明文の規定はありませんが、弁護士会の役員、常議員が、懲戒委員会の委員を兼任することは不適切である旨の日弁連の通知等が存在し、これに基づいて委員は選任されるようになっています。

除斥期間の始期が問題となった事例

2023-09-28

1 事案の概要

 X弁護士は、事件当時A法律事務所に所属しており、同事務所の代表はB弁護士であった。
ある年、Xは、A法律事務所B弁護士名義で、Cらから多数の土地の明け渡し、売却等の手続の委任を受け、報酬は土地の売却価格の3~5%ほどと決定された。
 X弁護士は、問題となった土地を約4億円で売却し、その報酬として1300万円を受領した。
この金額が不当に高額ではないかということで懲戒請求がなされ(なお、本請求にはほかに書類のみ返却という問題も含まれている)、単位会では不当に高額であるとのことで懲戒事由に該当するとの判断を受けた。
 この結果、X弁護士には戒告の処分がなされたため、Xはこの取消訴訟を提起した。
 この報酬に関する問題として、X弁護士は除斥期間の主張を行った。実際、報酬を受領した日から、懲戒請求がなされた日まで5年ほどが経過していた。
(東京高判平成15年3月26日の事例 なお、旧報酬規程があった頃の事案である)

2 判旨

 弁護士法六四条は、「懲戒の事由があったときから三年を経過したときは、懲戒の手続を開始することができない。」と規定しているところ、Xは、処分理由〔1〕(注 弁護士報酬が不当に高額であるという主張)に係る同条の「懲戒の事由があったとき」とは、XがCから最終的に報酬を受け取った平成七年二月二八日であると主張し、他方、被告(日弁連)は、これを適正な報酬を超える金額を返還した時点か、委任契約が終了した時点のいずれかであるとした上、本件ではXないしCの受任事務が終了した平成九年一一月二七日であると主張するので、まず、この点について検討する。
 弁護士法六四条にいう「懲戒の事由」は、同法五六条に規定する同法あるいは弁護士会の会則違反行為、所属弁護士会の秩序又は信用を害する行為、品位を失うべき非行を意味するものである。処分理由〔1〕は、不当に高額の報酬を受け取ったことを懲戒の事由とするものであるから、その不当性が報酬を受け取った以後の事務処理をみなければ判断できないような事情、あるいは報酬契約が公序良俗に反するほどの暴利行為で、受領した報酬を返還しないこと自体も弁護士としての品位を失うべき非行であると評価される等の特段の事情のない限り、処分理由〔1〕に係る「懲戒の事由があったとき」とは、現に報酬を受け取ったときと解するのが相当である。

3 解説

 この判決は、継続的に見える非行事由に関し、不当に高額な報酬の受領という点については原則報酬受領時に非行が終了し、除斥期間の始期は報酬を受領したときが原則であると判断したものになります。
 この一般的な判旨の後、裁判所は「特段の事情」が存在しないことを認定し、この不当な報酬の点については懲戒手続が開始できなかったということを認めました。
 ただし、他の事由が懲戒に値することを理由に、Xの請求自体は棄却しています。

利益相反が問題となった事例③

2023-06-29

1 事案

 X弁護士は元裁判官であったが、裁判官時代にある刑事事件の再審請求審の判断に関与をしていた。
その後Xは裁判官を辞職して弁護士となり、刑事事件の方は再審無罪が確定した。
この刑事事件において、捜査官に違法な取調べがあったとする国家賠償訴訟について、Xが原告(元被告人)の代理人となることについて、弁護士法第25条4号に違反しないかが問題となった。
(高松高判昭和48年12月25日の事案)

2 判旨


弁護士法二五条四号が、弁護士が公務員として在職中取扱った事件を退職後に弁護士として取扱うことを禁止しているのは、弁護士の職務の公正を担保し、弁護士に対する一般の信頼を確保するにあることは云うまでもないところ、右の立法目的から考えると、公務員として在職中に取扱った事件(以下単に前件と云う)と退職後に弁護士として取扱う事件(以下単に後件と云う)とが、形式的に同一である場合でも、右在職中の職務の内容等から考え事件の実質に関与していなかった如き場合には、未だ右法条に該当しないと云うべきである反面、前件と後件とが、その件名を異にし或いは刑事々件と民事々件と云うが如く形式的には同一性がないとみられる場合でも、両事件が共に同一の社会的事実の存否を問題とする如き場合に於ては、後件につき、なお弁護士としてこれを取扱うことを禁止されているものと解するのが相当である。 
 本件についてみるに、前記再審請求の理由とするところは前認定の通り捜査官による、不法、不当な逮捕、勾留とこの間の誘導、強制、拷問に基づく自白及び右自白を裏付ける為に捜査官によって偽造された証拠書類、証拠物によって原告が犯人に仕立て上げられたことを主張するものであって、捜査官の違法行為を主たる理由とするものであるところ、本訴の請求の趣旨及び原因も、要するに、右●●事件の捜査に当り、捜査官である検事及び警察官らが、原告を不法に長期間●●の留置場に拘禁し、拷問を加えて原告に虚偽の自白を強要し、右自白を裏付ける為手記五通を偽造し、証拠物たる国防色ズボンもすり替えて公判廷に提出する等の不法行為があったとし、これに基因して無実の原告が死刑と云う極刑判決を受けたことによる慰藉料を請求すると云うものであって、前者は刑事判決に対する再審であり後者は民事々件と云う意味では形式的には同一性がないとみられるけれども、共に捜査官の同一違法行為の存否を問題とする点で、実質的には同一事件と云うを妨げないものである。そしてX弁護士は右再審事件について実質的な審理をなしていること前認定の通りであるから、同弁護士による本訴の提起は、弁護士法二五条四号に該当するものと云わねばならない。
 而して右法条四号に違反する訴の提起に対し、相手方より異議が述べられた場合は、右訴提起行為が無効となることは既に最高裁判所の判例の存するところであるから(最判昭和四二年三月二三日、同昭和四四年二月一三日)本訴は不適法な訴として却下すべきものである。

3 解説

 本件については、元々の事件は再審請求審、新しい事件は国家賠償訴訟という、刑事・民事というレベルで異なる事件ではありました。
 しかし、争点が同一であることなどから、社会的に同じ事実を対象とする事件であるということで、結果的に弁護士法第25条4号に該当し、職務を行い得ない事件であるということになりました。

利益相反が問題となった事例②

2023-06-22

1 事例

 X弁護士は、Aの依頼を受け、昭和31年3月23日にBを相手として土地の所有権確認訴訟を提起した。
 この訴訟は昭和35年5月12日に終了するが、その終了前にX弁護士はBの訴訟代理人としてCを相手とする建物収去土地明渡請求訴訟を提起した。
 問題は、X弁護士の行為が利益相反行為に該当するとして、そのBC間の訴訟での訴訟行為が無効となるかという点である。
(最判昭和41年9月8日の事例)

2 判旨

「右事実関係のもとにおいては、Bの訴訟代理人であるX弁護士らの訴訟行為は、弁護士法二五条一、二号に違反するものではなく、同条三号に違反するものというべきである。ところで、本件のように、受任している事件の相手方からの依頼による他の事件の相手方が、受任している事件の依頼者と異なる場合には、当該弁護士らの「他の事件」における訴訟行為は、「受任している事件」の依頼者の同意の有無にかかわりなく、これを有効と解するのが相当である。けだし、当該弁護士らの同条三号違反の職務行為により不利益を蒙むる虞れのある者は「受任している事件」の依頼者であつて「他の事件」の相手方ではなく、同条三号は、もつぱら、「受任している事件」の依頼者の利益の保護を目的とするものと解すべきだからである。
 したがつてBの訴訟代理人であるX弁護士らの訴訟行為は、別件の依頼者であるA、またはその相続人の同意の有無を問わず、これを有効と解すべきであり、その他、右訴訟行為を無効とすべき根拠はないから、これを有効とした原審の判断は、結論において正当である。

3 解説


 本判決は、結論としてBC間の訴訟におけるX弁護士の訴訟行為を有効と判断しました。
理由は本文中に記載のある通りで、あくまでも弁護士法第25条第3号の規定は元の依頼者であるAを保護する規定であるので、BCとの関係では訴訟行為を無効とする理由がないからです。
 ですのでX弁護士の訴訟行為自体の効力に影響は出ないところですが、判決が認定する通り弁護士法25条第3号の規定に当てはまっていますから、きっちりと同意を取るか、もしくは受任をしないという判断を行わない限りは弁護士法上の懲戒処分を受ける可能性が十分にあります。

業務停止中の行為が問題となった事例

2023-05-25

1 事案の概要

 元々の事案は、信用組合が個人に対し、約束手形に基づいて金銭の請求をした事件でした。
 第1審は原告(信用組合)の勝訴、控訴審は第1審被告(個人)の勝訴でした。
 この控訴審までは、弁護士の資格について特に争われた形跡はありません(手形の振り出しなどが問題となっていました)。
 この控訴審判決について、第1審原告(信用組合)が上告しました。
 ところで、この事件の第1審判決期日は昭和38年11月7日、控訴審判決期日は昭和40年2月16日で、その間に控訴審の訴訟手続きが行われています。
 第1審被告の控訴審での代理人弁護士は、昭和39年3月18日に弁護士会で業務停止3月の懲戒処分を受けているところでしたが、昭和39年4月15日、控訴審における口頭弁論期日が開かれていました。
 この口頭弁論期日での訴訟行為につき、上告人(信用組合)代理人弁護士が、無効な弁論であると主張して絶対的上告理由がある旨を主張しました。
(最判昭和42年9月27日の事例)

2 判旨

「裁判所が右の事実〔注:業務停止の事実〕を知らず、訴訟代理人としての資格に欠けるところがないと誤認したために、右弁護士を訴訟手続から排除することなく、その違法な訴訟行為を看過した場合において、当該訴訟行為の効力が右の瑕疵によつてどのような影響を受けるかは自ら別個の問題であつて、当裁判所は、右の瑕疵は、当該訴訟行為を直ちに無効ならしめるものではないと解する。いうまでもなく、業務停止の懲戒を受けた弁護士が、その処分を無視し、訴訟代理人として、あえて法廷活動をするがごときは、弁護士倫理にもとり、弁護士会の秩序をみだるものではあるが、これについては、所属弁護士会または日弁連による自主・自律的な適切な処置がとられるべきであり、これを理由として、その訴訟行為の効力を否定し、これを無効とすべきではない。けだし、弁護士に対する業務停止という懲戒処分は、弁護士としての身分または資格そのものまで剥奪するものではなく、したがつて、その訴訟行為を、直ちに非弁護士の訴訟行為たらしめるわけではないのみならず、このような場合には、訴訟関係者の利害についてはもちろん、さらに進んで、広く訴訟経済・裁判の安定という公共的な見地からの配慮を欠くことができないからである。」「本件を検討するに、一件記録によれば、弁護士Aが原審において被上告人の訴訟代理人として引き続き訴訟行為をしたこと、しかも裁判所が同人の訴訟関与を禁止した事実のないことがうかがわれるのであつて、同人に対し、所論のような懲戒がされ、しかもその処分が前示のようにすでにその効力を生じていたとしても、以上述べた理由により、同人が原審でした訴訟行為が無効となるものではない」

3 解説

 本判決は、訴訟経済等の理由から、業務停止中の弁護士の訴訟行為を有効と取り扱いました。
 なお、本判決中でも指摘されていますが、訴訟行為が有効であるからといって、その行為に何らの問題もないというわけではなく、この行為自体も再び懲戒の事由となります。
 ですので、業務停止を受けた弁護士としては、速やかに辞任等の措置をとる必要があります。

品位を失うべき非行の事例

2023-03-30

1 事例

 A弁護士は、ゴルフのプレー後、飲酒をした上で車で帰宅した。
その帰宅途中、警察の検問があり、酒気帯び運転の基準値を上回るアルコールが検出されたため、
酒気帯び運転の罪で現行犯逮捕された後、罰金を支払った。
(複数の事例を混ぜたもの)

2 解説

 今回問題となっている行為は、ゴルフのプレー後の出来事であるため、私生活上の行為であると言えます。
 しかし、弁護士法に定める懲戒事由は「その職務の内外を問わず」品位を失う行為とされていますので、弁護士としての職務上の行為に留まらず、私生活上の行為であっても懲戒の対象とされています。
 今回のような飲酒運転は、道路交通法に違反する犯罪行為ですから、弁護士として犯罪を行うことは、通常の人以上にその責任が大きいといえると思われます。特に、飲酒運転については昨今の社会情勢上絶対に許されないものとなっており、その様な面でも重い処分が下されやすい事例となっています。
 そのため、飲酒運転のような略式罰金で終了するような事件であっても、戒告に留まらず業務停止の処分を受けることが通常であろうと思われます。
 単なる飲酒運転だけであれば短期間の業務停止で留まりますが、これに加えて事故が発生しているような場合や、救護義務違反を犯しているような場合には、さらに業務停止期間が長くなります。

守秘義務違反が問題となった事例⑵

2023-02-23

1 事例

X弁護士は、横領事件で被疑者であるYの弁護人として選任された。

このYには、同種事件の余罪があり、その件についても既に捜査が開始されていた。

捜査機関はYの親族に対し、余罪についての証拠となるようなものの任意提出を求め、提出しない場合には強制捜査を行う旨を告げたが、Yの親族はこれを提出しなかった。

証拠物の扱いに困ったYの親族は、Xに相談を行い、Xは証拠物を自らのところに送るよう指示した。

そして、Xはこの証拠物を、Yの承諾なく捜査機関に提出した。

(日弁連綱紀委員会平成24年8月28日議決事案を改変したもの。実際には証拠物提出の承諾の有無に争いがあり、原弁護士会は事前の同意があったことが推認されるとしていた。)

2 判断

(1)原弁護士会
 Yからの懲戒請求に対し、単位会は以下の通り判断しました。
「(中略)一方弁護人としては全方位に目配りしながら弁護活動に当たらねばならない。
弁護人であっても、刑事訴訟法の基本理念でもある真実発見に目をつぶる事は許されない。
更に、被疑者と関係を有する者についても、弁護人の認知する限り法令違背なきよう配慮しなければならない。ところで、本件業務上横領事件〔事例でいう余罪事件のこと〕については、前記の通り既に捜査が開始されていたこと、警察は本件証拠物の所在を認知し提出を求めていたこと等を考慮すると、弁護人といえどもこのような事実を認識しながら証拠物を保持したままこれを捜査機関に提出しないことは証拠隠滅罪にも問われかねない事態になること、本件証拠物を受領した弁護人としても真実発見という基本理念に目をつぶるべきではないこと、証拠物の提出は請求人の情状にも資することなどを総合的に考慮すれば(中略)弁護士としての判断で任意提出していたとしても、そのことで弁護士法の言う品位を失うべき非行には該当しないというべきである。」
(2)日弁連綱紀委員会の判断
原弁護士会の判断に対して、Yが異議申出を行い、事案は日弁連綱紀委員会に係属しましたが、綱紀委員会は以下の理由で、原弁護士会懲戒委員会に事案の審査を認めることを相当としました。
「刑事弁護人たるXは、「積極的真実義務」を課せられているものではないのであるから、仮に、自身の依頼者であるYの余罪の証拠である本件証拠物の所在を覚知したとしても、その事実を捜査機関に通報する義務はないし、ましてやその証拠物を自身に送付させ入手したうえで捜査機関に任意提出しなければならない義務のないことは明らかである。Xが、積極的に本件証拠物を入手して、Yの同意を得ないで、これを捜査機関に提出した行為は、明らかにXの正当な防御権を侵害する行為であり、刑事弁護人に求められる、被疑者及び被告人の権利及び利益を擁護するため最善の弁護活動に努める、という基本的誠実義務に著しく反する行為と言わざるを得ない。」

3 解説

 弁護人が守秘義務を負い、捜査機関に対して証拠物を提出する義務がないことは明らかなところです。
 ただ、依頼者(被疑者)が余罪を認めているような場合には、早めに進んで証拠を提出し、追加の身体拘束を回避したり、公判出の情状を良くするということは、弁護活動として考えられないも野であるとは言えません。
 そのため、この証拠を提出すべきかどうかという点が問題となるところですが、いずれにせよ依頼者の同意を明確にする必要があります。
 仮に依頼者に有利である面があるとしても、前述の通り守秘義務を負っていますから、勝手に提出することは許されないと考えるべきでしょう。

守秘義務違反が問題となった事例⑴

2023-01-26

1 事案

 Xは、自身の問題についてA弁護士とB弁護士に依頼をしていたが、Xと両弁護士との間で、事件に対する解決方針等で温度差があった。
 ところで、Y弁護士が開設する「○○被害サイト」というサイトには、Xが抱えている問題についての情報提供を呼びかける文言や、「秘密を守ります」との文言と共に、メールフォームが設置され、被害の情報に提供を呼びかける文言があった。
 そこでXは、メールフォームにAB弁護士の実名を挙げ、自身の被害の内容や、弁護士の対応状況等を記載したほか、「和解するしかないのでしょうか」「誰も引き受けなければ私法では解決できないでしょうか」との内容を記載した。
 Y弁護士は、メール内にあるA弁護士の名前が旧知の弁護士であったことから、A弁護士に電話をし、メールを送ってきた人物が実際の依頼者であるかどうかや、メールに対する返信をどうするべきか相談したところ、A弁護士から自身で対応する旨告げられたので、そのままメールに対して返信を行わなかった。
 Y弁護士がA弁護士に電話をし、メールの内容などを伝えたことが守秘義務違反となるかが争点である。
(大阪高判平成19年2月28日の事案を改変したもの)

2 判旨

 「弁護士法23条は,弁護士はその職務上知り得た秘密を保持する権利を有し,義務を負うと規定し,弁護士倫理20条(現行弁護士職務規程23条)にも正当な理由がないのに職務上の秘密を漏らすことを禁じる旨の規定がある。上記の規定にいう「職務上知り得た」とは,弁護士がその職務を行うについて知り得たという意味であり,弁護士が弁護士法3条の依頼者から依頼を受け,訴訟事件等その他一般的法律事務を処理する上で知り得た事項についての守秘義務が課せられ,また,将来依頼を受ける予定で知り得た事項にも及ぶが,他方,そのような弁護士としての一般的法律事務を行うものではない,例えば,弁護士会の会務を行う際に知り得た事実については弁護士としての守秘義務は及ばないと解される。
 上記認定のとおり,Xは,サイトの共同主催者であるYに対し,いきなり本件メールを送信したものであって,サイトは,○○被害を取り扱い,○○被害の情報を得ようとしていたことは,ホームページに明示されており,サイトの活動に関係して,サイトの○○問題の情報提供の範疇に入らない内容が記載された本件メールが突然Yに送られたに過ぎない。
 確かに,Yは弁護士の資格を有するものであることを明らかにしてサイトを共同主催するものであるが,これは,サイトの信頼を高めるためのものであって,一般的な法律事件について事務を処理しようとする意思が表示されたものであるとは認めることはできないし,Yにそのような意思があったことを認めることはできない。したがって,Yの受けた本件メールは,サイトの活動に関して一方的に送信されたものであって,Yが弁護士として職務を行う上で知り得た事項とはいえないものである。
 そして,上記認定の事実によると,XがYに一方的に送信した本件メールの内容もYに対し,積極的な解決や相談を持ちかけた内容ではなく,Xが本件○○問題に遭遇した具体的経過,依頼した弁護士との意見の相違があり悩んでいるなどの単なる心情を吐露したものに過ぎないものであって,上記のとおり,積極的に何らかの法律上の意見や判断を求めているものではないから,これを直ちに法律相談であると認めることはできない。」
「仮に,本件メールがXから弁護士であるYに対してなされた法律相談であり,弁護士が職務上知り得た事項であるとしても,以下の説示のとおり,Yの行為は,弁護士としての守秘義務に違反する違法な行為などということはできない。すなわち,Xも全く面識のない弁護士にそのような内容の本件メールを送信すれば,弁護士であるYにおいて,本件メールがいたずらではないかとの疑問を抱くのは当然であり,Xが実在の人物であるか,書かれた内容が事実であるか,本件○○問題の相手方の主張や証拠及び紛争処理に関する態度が不明であることに加え,Xの回答がいかなる使われ方をするのかなどYの意図などについて懸念を抱き,必要な範囲で裏付けの調査をする必要が生じてくることは容易に推測できる。そうすると,仮に,Xにおいても,Yが本件メールが単なる心情吐露したメールではなく,Yが弁護士であることに着眼した法律相談であるとの認識であれば,Yが本件メールの内容について,Xのプライバシー権などに配慮した上で,何らかの手段で裏付け調査した上で,回答することを予測し得たものと認めることができる。上記認定の事実によると,Yは,受任弁護士であるA弁護士が信頼できる弁護士であると判断した上で,Xの実在を確かめる趣旨で電話を架け,A弁護士の返事から少なくともXの実在を確認でき,Yが本件メールの相談について回答する必要のないものであると判断したにすぎないのである。
 したがって,本件メールがYと全く面識のないXによる突然の一方的なメールの送信である以上,その際,Yが受任弁護士にXから本件メールがあったことを告げ,Xが実在の人物であるかどうかを確かめることは,正当な弁護士活動であるといえ,これに加え,尋ねた相手も弁護士であって,互いに守秘義務を負う者であって,それ以上第三者に伝播されるものではないことを考慮すると,少なくとも弁護士としての正当な行為であるといえ,Yに課せられた守秘義務に違反するものではない。」
「ところで,秘密とは,世間一般に知られていない事実で,本人が特に秘匿しておきたいと考える性質を持つ事項(主観的意味の秘密)に限られず,一般人の立場から見て秘匿しておきたいと考える性質を持つ事項(客観的意味の秘密)を意味すると解される。上記認定の事実によると,本件メールには,Xが○○被害を受けたことや受任弁護士の対応に関するXの不満などの心情を伝えたうえ,Xが不満足と考える内容の和解で解決するほかないのか,司法の場で解決することはできないのかと述べるものであって,詳細な事実関係の記載に加え,受任弁護士が取った助言等についての不満や悩みを訴えるものであって,それ自体は一応上記の秘密に該当すると認められる
 しかし,上記認定の事実によると,Xは,本件メールの内容については,集会などにおいて,同様の内容を述べ,他の弁護士にも同様の内容を相談したことがあるのであるから,本件メールの内容が秘密性を有するとしても,X自ら秘匿性を開放し,明らかにしているといえ,サイトのホームページに送信フォームを用いて本件メールをYに送信したことを考慮しても,Xが本件メールの内容を秘匿しておきたいと考えていたとみることは困難である。
 そして,本件では,XがYに本件メールを送信したこと自体が秘密にあたるかということが問題となるが,XがB弁護士,A弁護士に事件処理を委任しているときに,Xが受任弁護士との関係悪化を懸念することがあり得ることは当然であるとしても,他方,突然本件メールを送信されたYとしては,少なくとも送信者が実在するのかについて確かめる必要があり,その相手方がXの受任弁護士である場合には,XからYに対し,突然本件メールがあったことを伝えなければ,受任弁護士からXの実在の有無についての回答を得られないことになりかねないのであるから,その限度では,XからYに本件メールがあったことを告げる行為は,上記のとおり,Yの正当な理由によって守秘義務を免れる行為といえ,弁護士が守秘義務に違反するとはいえないと解すべきである。

3 解説

 守秘義務の対象となる「秘密」の意義を明らかにした裁判例です。
 守秘義務の対象となる秘密には、一般人が知らない事項のうち、①本人が秘密にしておきたいと
考える事項だけでなく②一般人であれば秘密にしたいと考えるような性質の事項も含まれると考えらえます。
 例えば、「弁護士に依頼している」という事実は、本人が秘密にしておきたいかどうかは別としても、一般人であれば紛争の当事者になっているということが知られてしまうことになりますから、秘匿しておきたいと考える事項であろうと思われます。
 ただ、本件では受任をしている弁護士当人に対して確認がなされたこと(第三者へ広がっていない)や、法律事務所ではない一般のメールフォームという形式などの点を踏まえ、守秘義務違反を否定しています

弁護士法第20条違反の事例⑶

2022-12-29

事例


Ⅹ弁護士はY県において「P法律事務所」を開設していたが、別の特許事務所に勤務していた友人のZ(弁護士、弁理士資格を持たない)がその職を辞めざるを得なくなったことから、自身で特許業務を行うことを考え、Zを事務として雇用することを考えた。
そこで、既存のP法律事務所とは別の場所(同じY県内)に事務所を借り、事務所名を「P法律特許事務所」と変更する届出を弁護士会に出したうえで、新しく借りた事務所を「P法律特許事務所特許部」と案内した。
Y県弁護士会会長がXに対して複数事務所の禁止に抵触する可能性を告げたところ、Xは新しい事務所をZの調査事務所と変更することにしたが、実際は約5か月間事務所を閉鎖しなかった。

A弁護士は本来B県に法律事務所を開設していたが、C県にいるDから依頼をされ、C県のビル1室を借り、そこに「A法律事務所C連絡所」の名称を付したうえ、そこで1か月に3回程度法律相談を受けるなどした。
また、その際Dに対し、「A法律事務所事務員」の名刺を使用させた。
(いずれも自由と正義掲載の事案を改変したものである)。

判断

①については戒告、②については業務停止2か月の処分がなされた。

解説

いずれの事案も、複数事務所を開設することを禁ずる弁護士法第20条3項に抵触します。
複数事務所の禁止は、所属する単位会の管轄外の場所に事務所を開設することが許されないだけではなく、仮に同一単位会管轄内であっても禁止されます。
複数事務所の開設が禁止されている趣旨は、1つには弁護士が所属する単位会の監督権を十分に発揮させるためですが、それだけに尽きるものではなく、弁護士のいない事務所が開設され、非弁行為が横行することのないようにするためというものも含まれます。
そのような意味で、①の事案が戒告であるにもかかわらず、②の事案が業務停止となったのは、②の事案ではDがC県で弁護士の代理のような活動をして、非弁行為と思われるようなものが含まれていたことがされた重視されたものと思われます。

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