利益相反が問題となった事例③

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1 事案

 X弁護士は元裁判官であったが、裁判官時代にある刑事事件の再審請求審の判断に関与をしていた。
その後Xは裁判官を辞職して弁護士となり、刑事事件の方は再審無罪が確定した。
この刑事事件において、捜査官に違法な取調べがあったとする国家賠償訴訟について、Xが原告(元被告人)の代理人となることについて、弁護士法第25条4号に違反しないかが問題となった。
(高松高判昭和48年12月25日の事案)

2 判旨


弁護士法二五条四号が、弁護士が公務員として在職中取扱った事件を退職後に弁護士として取扱うことを禁止しているのは、弁護士の職務の公正を担保し、弁護士に対する一般の信頼を確保するにあることは云うまでもないところ、右の立法目的から考えると、公務員として在職中に取扱った事件(以下単に前件と云う)と退職後に弁護士として取扱う事件(以下単に後件と云う)とが、形式的に同一である場合でも、右在職中の職務の内容等から考え事件の実質に関与していなかった如き場合には、未だ右法条に該当しないと云うべきである反面、前件と後件とが、その件名を異にし或いは刑事々件と民事々件と云うが如く形式的には同一性がないとみられる場合でも、両事件が共に同一の社会的事実の存否を問題とする如き場合に於ては、後件につき、なお弁護士としてこれを取扱うことを禁止されているものと解するのが相当である。 
 本件についてみるに、前記再審請求の理由とするところは前認定の通り捜査官による、不法、不当な逮捕、勾留とこの間の誘導、強制、拷問に基づく自白及び右自白を裏付ける為に捜査官によって偽造された証拠書類、証拠物によって原告が犯人に仕立て上げられたことを主張するものであって、捜査官の違法行為を主たる理由とするものであるところ、本訴の請求の趣旨及び原因も、要するに、右●●事件の捜査に当り、捜査官である検事及び警察官らが、原告を不法に長期間●●の留置場に拘禁し、拷問を加えて原告に虚偽の自白を強要し、右自白を裏付ける為手記五通を偽造し、証拠物たる国防色ズボンもすり替えて公判廷に提出する等の不法行為があったとし、これに基因して無実の原告が死刑と云う極刑判決を受けたことによる慰藉料を請求すると云うものであって、前者は刑事判決に対する再審であり後者は民事々件と云う意味では形式的には同一性がないとみられるけれども、共に捜査官の同一違法行為の存否を問題とする点で、実質的には同一事件と云うを妨げないものである。そしてX弁護士は右再審事件について実質的な審理をなしていること前認定の通りであるから、同弁護士による本訴の提起は、弁護士法二五条四号に該当するものと云わねばならない。
 而して右法条四号に違反する訴の提起に対し、相手方より異議が述べられた場合は、右訴提起行為が無効となることは既に最高裁判所の判例の存するところであるから(最判昭和四二年三月二三日、同昭和四四年二月一三日)本訴は不適法な訴として却下すべきものである。

3 解説

 本件については、元々の事件は再審請求審、新しい事件は国家賠償訴訟という、刑事・民事というレベルで異なる事件ではありました。
 しかし、争点が同一であることなどから、社会的に同じ事実を対象とする事件であるということで、結果的に弁護士法第25条4号に該当し、職務を行い得ない事件であるということになりました。

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