Archive for the ‘過去の懲戒事例’ Category

弁護士法第20条違反の事例⑵

2022-12-22

1 事案

 X弁護士はある理由により一度弁護士登録を取り消していたところ、再出発のためにA弁護士会に再登録をした。
 しかし、再登録する際に法律事務所として届け出たB弁護士の事務所は事実上閉鎖中であったため、
X弁護士は再開まで待機をしていた。ただ、そうこうしているうちにX弁護士の家庭の事情により全く別の地方に引っ越す必要が生じてしまったため、C弁護士管内に自宅を転居したうえで、C県において弁護士業務を行うようになった。
 このような状況生じて比較的すぐの段階でX弁護士がC弁護士会に登録換えをしようとしたのであるが、C弁護士会は登録換えを認めない決定をした。
 そのため、もとのA弁護士会登録のまましばらく弁護士業務を続けていたのだが、X弁護士は再びC弁護士会に登録換えの請求を行ったところ、再び登録換えが認められなかったのでX弁護士が取消訴訟を提起した。
(東京高判決昭和50年1月30日を一部改変した事例)

2 判旨

X弁護士の行為は「法律事務所を設置すべき場所を地域的に制限し、かつ二重事務所の設置を禁止した弁護士法第二〇条の規定に違反したものであることは否定できないところである。しかし、右禁止規定の実質的な理由は、弁護士が二箇以上の法律事務所を設置して法律事務の執務を行えば、責任の所在が不明確となり、ひいては非弁護士と提携する弊害を招く虞があることに存するものと解されるところ、前記認定の事実によれば、原告はA弁護士会に入会後届出をした法律事務所においては全然執務できなかつたのであり、原告がC近辺に転居したのもやむを得ない生活事情によるものと考えられ、しかも、C近辺で法律事務の執務に当るようになつてから間もなく、C弁護士会に登録換の請求をしているのであるから、たとえ原告の行為が形式的に弁護士法第二〇条の規定に違反するとしても、その実質的な違法性は軽微というべきである。第一回目の登録換の請求が拒絶された以上は、A県の届出事務所において執務すべきであるとの被告の見解にも一理あることは否定できないが、右見解は原告に対し再度Aに転居することを要求するに等しいものであり、原告の生活事情に照らし酷に過ぎるものというべきである。従つて右事由をもつて原告の本件登録換の請求を認容することが弁護士会の秩序若しくは信用を害する虞があるとする被告の主張は採用できない。

3 説明

 弁護士法第20条3項では二重事務所を禁止しています。
 ここで問題となる「事務所」は、弁護士が法律事務を取り扱う施設を指しており、かつこの
事務所は所属弁護士会の管轄内に設置することが求められるほか、弁護士会に事務所として
届け出なければなりません。
 もちろん、弁護士は事務所外で執務を行うこともありますし、これが禁止されるわけではありません。特に弁護士の自宅の場合は、自宅で執務をする弁護士も多数いると思われます。
 しかし、専ら自宅で執務を行い、本来の法律事務所にほとんどいないという場合には、二重事務所の禁止に抵触すると思われます。 
 今回の事例では、弁護士の側にも理由があり、やむを得ないと認められる点があったことから、自宅での執務が続いていたことを理由とした弁護士会の秩序や信用を害するおそれがあるという主張は認められませんでした。

弁護士法第20条違反の事例⑴

2022-11-24

事例

 X弁護士は、Y弁護士会に登録をしていた弁護士であったが、Y県内には居住せず、Z県内にある自宅で弁護士の業務を営んでいた。
 Y弁護士会は、X弁護士に対して業務停止6月の懲戒処分を科したが、X弁護士は日弁連に異議申立を行った。
 しかしこの異議申立も棄却されたため、X弁護士は東京高等裁判所に対して処分取り消しを求める訴訟を提起した。
(東京高判昭和32年2月12日の事例を一部改変した)

1 弁護士法第20条違反

 X弁護士の行為の中で問題となっている行為は、弁護士法第20条2項です。
 弁護士法第20条2項は、「法律事務所は、その弁護士の所属弁護士会の地域内に設けなければならない」としており、単位会の管轄地域内に法律事務所を設けることが求められています。
 ここで設置が求められている「法律事務所」とは、そのような名称を付された事務所という意味ではなく、当該弁護士が主として執務を行う場所です。
 X弁護士やY弁護士会に登録をしていますから、Y県内で執務を行うことが求められます。しかし、実際にはZ県内にある自宅内で執務を行っていたということであれば、弁護士法第20条2項に違反する行為ということになります。

2 裁量権の濫用があったかどうか

 X弁護士は、弁護士会からの聴聞や高等裁判所での主張において、以下のような主張をしたようです。

 Z県内の自宅は、第二次世界大戦による戦災による居宅の消失等が原因で、あくまでも一時的に親族から借りていたものであった。
 そして、その一時的な住居に居住している際、近隣の人々から法律相談を受けるようになったため、そこを拠点に訴訟の対応などをしていただけである。
 戦前Y件に事務所を設け、事務員を置いていたが、戦時中の困難から事務員からの連絡も途絶えるようになり(その連絡が途絶している間に事務員の方は亡くなられていたようです)、これらの事情が分からないままZ県内の自宅で執務を行っていた。

 弁護士法に定める懲戒事由は、「この法律〔弁護士法〕・・・・に違反し」たときに懲戒する旨を定めています。
 しかし、現在の実務上の取り扱いでは、単に法律・会則違反であるからという理由でただちに懲戒をするのではなく、実質的に懲戒をするに値するほどの非行があるかどうかという点を審査し、懲戒処分を行っているとされています。
 そのため、仮に弁護士法違反の事由があったからといって、必ず懲戒を受けるとも限りません。その意味では、法律違反の点が認められるとしても、なお弁護士会が裁量権を逸脱したと主張する余地はあります。

 しかし、この事例では、X弁護士が主張するような事由があったとしても、Y弁護士会側はX弁護士に対して「再度反省を促し、進んで義務を履行するよう十分な期間を提供して来たにも拘らず、原告〔X〕は口に善処を約しながら、何ら理由なくこれを実行しなかった」という事情があるようですから、裁判所も裁量権の逸脱・濫用はなかったと判断しています。

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