弁護士法第20条違反の事例⑴

事例

 X弁護士は、Y弁護士会に登録をしていた弁護士であったが、Y県内には居住せず、Z県内にある自宅で弁護士の業務を営んでいた。
 Y弁護士会は、X弁護士に対して業務停止6月の懲戒処分を科したが、X弁護士は日弁連に異議申立を行った。
 しかしこの異議申立も棄却されたため、X弁護士は東京高等裁判所に対して処分取り消しを求める訴訟を提起した。
(東京高判昭和32年2月12日の事例を一部改変した)

1 弁護士法第20条違反

 X弁護士の行為の中で問題となっている行為は、弁護士法第20条2項です。
 弁護士法第20条2項は、「法律事務所は、その弁護士の所属弁護士会の地域内に設けなければならない」としており、単位会の管轄地域内に法律事務所を設けることが求められています。
 ここで設置が求められている「法律事務所」とは、そのような名称を付された事務所という意味ではなく、当該弁護士が主として執務を行う場所です。
 X弁護士やY弁護士会に登録をしていますから、Y県内で執務を行うことが求められます。しかし、実際にはZ県内にある自宅内で執務を行っていたということであれば、弁護士法第20条2項に違反する行為ということになります。

2 裁量権の濫用があったかどうか

 X弁護士は、弁護士会からの聴聞や高等裁判所での主張において、以下のような主張をしたようです。

 Z県内の自宅は、第二次世界大戦による戦災による居宅の消失等が原因で、あくまでも一時的に親族から借りていたものであった。
 そして、その一時的な住居に居住している際、近隣の人々から法律相談を受けるようになったため、そこを拠点に訴訟の対応などをしていただけである。
 戦前Y件に事務所を設け、事務員を置いていたが、戦時中の困難から事務員からの連絡も途絶えるようになり(その連絡が途絶している間に事務員の方は亡くなられていたようです)、これらの事情が分からないままZ県内の自宅で執務を行っていた。

 弁護士法に定める懲戒事由は、「この法律〔弁護士法〕・・・・に違反し」たときに懲戒する旨を定めています。
 しかし、現在の実務上の取り扱いでは、単に法律・会則違反であるからという理由でただちに懲戒をするのではなく、実質的に懲戒をするに値するほどの非行があるかどうかという点を審査し、懲戒処分を行っているとされています。
 そのため、仮に弁護士法違反の事由があったからといって、必ず懲戒を受けるとも限りません。その意味では、法律違反の点が認められるとしても、なお弁護士会が裁量権を逸脱したと主張する余地はあります。

 しかし、この事例では、X弁護士が主張するような事由があったとしても、Y弁護士会側はX弁護士に対して「再度反省を促し、進んで義務を履行するよう十分な期間を提供して来たにも拘らず、原告〔X〕は口に善処を約しながら、何ら理由なくこれを実行しなかった」という事情があるようですから、裁判所も裁量権の逸脱・濫用はなかったと判断しています。

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