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業務停止④

2023-08-10

1 基準の存在

 以前記載した通り、業務停止中の弁護士が、いかなる活動をすることができるかということについてはそれほど定まった法令等があるわけではありません。
 そのため、日弁連は平成4年の理事会決議として「被懲戒弁護士の業務停止期間中における業務規制等について弁護士会及び日本弁護士連合会の採るべき措置に関する基準」を公表しています(弁護士法人、外国法事務弁護士についても同様の規定があります)。
 それでは、この規程にはどのようなことが定めてあるのでしょうか。

2 基準の内容

 今回は、受任事件以外の規定をいくつか確認します。

①法律事務所の管理行為
 「被懲戒弁護士は、法律事務所の管理行為及び賃貸借契約並びに補助弁護士等及び従業者との雇用契約等を継続することができる。」

 代表弁護士が懲戒を受けたような場合でも、雇用している弁護士との契約や、事務員との雇用契約を解除することまでは求められません。これは、業務停止期間が経過した後は再び弁護士として活動することが予定されているからです。

②法律事務所の使用
 「被懲戒弁護士は、その法律事務所を自らの弁護士業務を行う目的で使用してはならない。ただし、受任事件の引継ぎその他この基準によって業務停止の期間中も認められている事務等のため必要があるときは、その法律事務所の使用目的その他必要な事項の届出を行った上で、弁護士会等の承認を得てその法律事務所を使用することができる。(後略)」

 業務停止を受けた弁護士は弁護士としての活動を行うことができませんので、その目的で法律事務所を使用することはできません。ただし、引継ぎ等は必要であり、求められるところですので、例外的に使用が許容されています。

③外観的な規定
 「被懲戒弁護士は、直ちに弁護士及び法律事務所であることを表示する表札、看板等一切の表示を除去(表示としての機能を失わせる措置一般をいう。以下同じ。)しなければならない。(後略)」
「懲戒弁護士は、弁護士の肩書又は法律事務所名を表示した名刺、事務用箋及び封筒を自ら使用し、又は他に使用させてはならない。(後略)」
「被懲戒弁護士は、弁護士記章規則(規則第三十五号)第五条第二項及び弁護士等の身分証明書の発行に関する規則(規則第六十号)第十三条第一項第二号の規定により、直ちに弁護士記章及び身分証明書を日本弁護士連合会に返還しなければならない。」

 業務停止中は弁護士としての活動を行うことができませんから、外部から見て弁護士のように見えるものは除去を求められます。それが看板・広告の除去、名刺等の使用禁止、身分証・徽章の返還に表れています。

④受任事件以外の事件
「被懲戒弁護士は、弁護士会及び日本弁護士連合会並びに法第四十四条の弁護士会連合会の会務に関する活動をすることができない。」
「被懲戒弁護士は、弁護士会等の推薦により官公署等の委員等に就任している場合は、直ちに当該官公署等に対し、辞任の手続を執らなければならない。弁護士であることに基づき委嘱された人権擁護委員、選挙管理委員、労働委員会委員、調停委員、鑑定委員、破産管財人、後見人、後見監督人等についても、同様とする。」

 受任事件以外であっても、会務活動や、弁護士であることを理由に推薦されている官公署の委員等についても辞任をする必要があります。

綱紀委員会③

2023-08-03

1 綱紀委員会の調査事項

 綱紀委員会が調査をする事項は以下のようなものです。
①当事者
懲戒請求者が存在するか(何人でも請求可能なので、特に個人の資格等は必要ないが、架空人による請求は認められない)、対象弁護士が現に単位会に所属する弁護士であるかどうかなど、当事者性の判断を行います。
②懲戒事由の存否
最も大きな調査事項は、懲戒事由たる事実が存在するか、またその事実が存在したとしてそれが懲戒事由たる非行に値するかという点です。
ここで、懲戒請求書等に記載されていない事実であって、懲戒に値するような事実が存在した場合が問題となります。この点については、綱紀委員会による立件が認められていないことに鑑みると、仮にこのような事実を発見したからといて、これを調査し、議決することは許されないと考えられています(ただし、この事実を弁護士会に報告し、弁護士会が会立件することは許されると思われます)。反対に、懲戒請求書等に記載されている事実については、全てについて議決を要するとされています。
③情状
懲戒事由となるとは、単なる法令・会則違反等ではなく、「懲戒に値するほどの」法令・会則違反等です。
そのため、懲戒事由該当事実だけではなく、その情状等についても調査の対象となると考えられています。
また、この情状には、事実発生時の事情だけではなく、事後的な事実(たとえば、懲戒請求後に請求者との間で和解が成立したような場合など)も含めて考慮できると考えられています。
④除斥期間
弁護士法第63条には「懲戒の事由があつたときから三年を経過したときは、懲戒の手続を開始することができない。」と定められています。この「3年」の性質は除斥期間と考えられていますので、問題は「懲戒の事由があったとき」という、除斥期間の始期がいつの時点であるのかということになります。
単発の行為であれば、その行為が終了したときを基準に考えればよいので、それほど問題は生じません。
これに対し、高額な弁護士報酬を受領し、それを返還していないというような事案の場合、「報酬受領時」を始期とするのか、返還未了を理由に非行は継続していると考えるのかが問題となります。このような事例の場合に、過去の裁判例では基本的には報酬受領時を基準とすると考えられました。

利益相反が問題となった事例④

2023-07-27

1 事案の概要

 X弁護士は、生前Aと共に遺言の作成を行った。その遺言の内容は、Xが遺言執行者になることの他、Aの財産を全てBに相続させる旨が記載されていた。
 なお、BはXの息子の妻であり、息子はXより先に死亡していたため、AはBを養子としていた。
 また、Aにはほかの相続人のとして、Aの娘Cらの他、AとBの間の子ども(代襲相続人)が存在した。
 Aが死亡した後、その財産全てをBが相続することとなったが、これに対してCが遺留分減殺の請求を行った。
 Cが家庭裁判所に対し、Bを相手方として遺留分減殺請求調停を申し立てると、Bの代理人としてXが就任した。
 このXが訴訟行為を行うことについて、①遺言執行者という立場と②特定の相続人の代理人という立場が、利益相反とならないかが問題となった。
(東京高判平成15年4月24日の事例)

2 判旨

 遺言執行者は、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の権利義務を有し(民法一〇一二条)、遺言執行者がある場合には、相続人は、相続財産の処分その他遺言の執行を妨げるべき行為をすることができない(同一〇一三条)。すなわち、遺言執行者がある場合には、相続財産の管理処分権は遺言執行者にゆだねられ、遺言執行者は善良なる管理者の注意をもって、その事務を処理しなければならない。したがって、遺言執行者の上記のような地位・権限からすれば、遺言執行者は、特定の相続人ないし受遺者の立場に偏することなく、中立的立場でその任務を遂行することが期待されているのであり、遺言執行者が弁護士である場合に、当該相続財産を巡る相続人間の紛争について、特定の相続人の代理人となって訴訟活動をするようなことは、その任務の遂行の中立公正を疑わせるものであるから、厳に慎まなければならない。弁護士倫理二六条二号は、弁護士が職務を行い得ない事件として、「受任している事件と利害相反する事件」を掲げているが、弁護士である遺言執行者が、当該相続財産を巡る相続人間の紛争につき特定の相続人の代理人となることは、中立的立場であるべき遺言執行者の任務と相反するものであるから、受任している事件(遺言執行事務)と利害相反する事件を受任したものとして、上記規定に違反するといわなければならない。

3 解説

 遺言執行者をめぐる利益相反の問題については、多数の懲戒事例、裁判例があり、その判断については事例ごとの判断となります。
 上記のような判旨と異なり、遺言の内容によっては「遺言執行者と遺留分減殺請求調停事件の申立人である相続人との間に職務基本規程57条にいう利益相反の関係が存するかについては、具体的事案に即して実質的に判断すべきところ、本件公正証書遺言では、その内容からして遺言執行者に裁量の余地はなく、遺言執行者の職務に同規定57条が適用または類推適用されるとしても、本件では弁護士である遺言執行者と懲戒瀬給者を含む各相続人との間に実質的に見て利益相反の関係は認められない」とした例(日弁連懲戒委員会平成22年5月10日議決)もあり、遺言の実質的な内容についても判断が変わる旨が示唆されています。
 上記の東京高裁の事例では、平成22年議決のような視点なく、利益相反に該当する旨が認定されて今うので、このような危険性が存在することは常に意識をしておかなければなりません。

利益相反④

2023-07-20

1 利益相反

 弁護士法第25条は、弁護士が職務を行い得ない事件を定めています。
 同様に、弁護士職務基本規程第27条、28条も職務を行い得ない事件を定めています。
前回に引き続き、この職務を行い得ない事件を解説していきます。

2 弁護士法人の社員についての規定

 弁護士法第25条6~9号は、弁護士法人の社員に関する規定です(弁護士・外国法事務弁護士協同法人についても同様です)。

六 弁護士法人(第三十条の二第一項に規定する弁護士法人をいう。以下この条において同じ。)若しくは弁護士・外国法事務弁護士共同法人(外国弁護士による法律事務の取扱い等に関する法律(昭和六十一年法律第六十六号)第二条第六号に規定する弁護士・外国法事務弁護士共同法人をいう。以下同じ。)の社員若しくは使用人である弁護士又は外国法事務弁護士法人(同条第五号に規定する外国法事務弁護士法人をいう。以下この条において同じ。)の使用人である弁護士としてその業務に従事していた期間内に、当該弁護士法人、当該弁護士・外国法事務弁護士共同法人又は当該外国法事務弁護士法人が相手方の協議を受けて賛助し、又はその依頼を承諾した事件であつて、自らこれに関与したもの
七 弁護士法人若しくは弁護士・外国法事務弁護士共同法人の社員若しくは使用人である弁護士又は外国法事務弁護士法人の使用人である弁護士としてその業務に従事していた期間内に、当該弁護士法人、当該弁護士・外国法事務弁護士共同法人又は当該外国法事務弁護士法人が相手方の協議を受けた事件で、その協議の程度及び方法が信頼関係に基づくと認められるものであつて、自らこれに関与したもの
八 弁護士法人若しくは弁護士・外国法事務弁護士共同法人の社員若しくは使用人又は外国法事務弁護士法人の使用人である場合に、当該弁護士法人、当該弁護士・外国法事務弁護士共同法人又は当該外国法事務弁護士法人が相手方から受任している事件
九 弁護士法人若しくは弁護士・外国法事務弁護士共同法人の社員若しくは使用人又は外国法事務弁護士法人の使用人である場合に、当該弁護士法人、当該弁護士・外国法事務弁護士共同法人又は当該外国法事務弁護士法人が受任している事件(当該弁護士が自ら関与しているものに限る。)の相手方からの依頼による他の事件

 6号は、ある弁護士法人に属していた弁護士が、その期間中に事件の相手方から協議を受けて賛助等しており、かつそれに当該弁護士が関与していた場合です。これは実質的に25条1号と同じ状況であるため禁止されているのですが、反対に弁護士法人として賛助等していたとしても、当該弁護士が関与をしていなければ1号と同じ状況にありませんから、この場合は職務を行うことを禁止されません。
 7号も、25条2号と同じような場合を定めています。
 この6・7号は、現在その弁護士法人に属している場合だけなく、その弁護士法人を退職後も禁止されるものです。
 8号は、6・7号と異なり、自らがその事件に関与しているか否かを問わず、現に属している弁護士法人が相手方から受任している事件について職務を行うことを禁止しています。これは正に公平性に疑念を持たれる状況だからです。ただし、自らが関与していなければ、6・7号の規定に抵触するわけではないので、弁護士法人を退社後であれば受任等が可能になります。
 9号は、25条3号と同様の規定ですが、これについては8号と異なり、自らが関与している事件の相手方からの依頼だけ禁じられており、同じ弁護士法人で受任していても、自らが関与をしていない事件の相手方からの依頼であれば禁止をする規定ではありません。また、3号と同様、依頼者の同意があれば禁止の対象ではないと考えられます。

業務停止③

2023-07-13

1 基準の存在

 前回記載した通り、業務停止中の弁護士が、いかなる活動をすることができるかということについてはそれほど定まった法令等があるわけではありません。
 そのため、日弁連は平成4年の理事会決議として「被懲戒弁護士の業務停止期間中における業務規制等について弁護士会及び日本弁護士連合会の採るべき措置に関する基準」を公表しています(弁護士法人、外国法事務弁護士についても同様の規定があります)。
 それでは、この規程にはどのようなことが定めてあるのでしょうか。

2 基準の内容

 まず今回は、事件の処理等に関する規律を確認します。
①受任事件の取扱い
 被懲戒弁護士は、受任している法律事件(裁判所、検察庁及び行政庁(以下「裁判所等」という。)に係属するものに限らない。以下「受任事件」という。)について、次のイからニまでに従った措置を採らなければならない。
イ 被懲戒弁護士は、直ちに依頼者との委任契約を解除するとともに、委任契約を解除した受任事件に   ついて、解除後直ちにその係属する裁判所等に対し、辞任の手続を執らなければならない。
ロ イの規定にかかわらず、業務停止の期間が一箇月以内であって、依頼者が委任契約の継続を求めてその旨を記載した確認書を作成し、その写しを弁護士会等に提出する場合は、被懲戒弁護士は、依頼者との委任契約を解除しないことができる。ただし、被懲戒弁護士が依頼者に対して委任契約の継続を求める働きかけをした場合は、この限りでない。

 このように、短期間で終了する事件以外は、受任事件は原則解除となります。

②顧問契約の取扱い
 被懲戒弁護士は、直ちに依頼者との顧問契約を解除しなければならない。

 顧問契約は、例外なく解除です。

③期日変更
 被懲戒弁護士は、期日の延期及び変更の申請をすることができない。

 これが意外と思われるかもしれませんが、たとえば業務停止期間が1カ月間であり、その停止期間中に存在する期日を、停止期間外に延期するよう求めるというようなことは許されていません。
 このようなことを許してしまうと、①の潜脱となりかねません。業務停止を受けた場合には、速やかに辞任をし、依頼者が新しい弁護士に依頼できる期間を作るようにしなければなりません。

④復代理人の選任
 被懲戒弁護士は、新たに復代理人を選任し、又は他の弁護士若しくは外国法事務弁護士を雇用する等してはならない。

 これも①の実効性を確保するために必要です。復代理人を選任し、その者に業務停止期間を乗り切ってもらうというようなことは許されません。

綱紀委員会②

2023-07-06

1 綱紀委員会の手続

 綱紀委員会でどのような手続を行うか(調査方法をとるか)ということについて、具体的な方法等は弁護士法に定められておらず、その方法は各単位会が会則で定めることとなっています(弁護士法第33条第2項第8号の規定)。
 そのため、「綱紀委員会での手続」といっても、その内容は単位会毎に異なり得るものですので、以下の記載はあくまでも一般的な手続というものに留まります。

2 手続の流れ


①事件の配点
 懲戒請求がなされた場合や、会立件がなされた場合、事件は綱紀委員会に係属します。
大きな単位会であれば、部会を構成していますので、具体的には特定の部会に事件が配点されることになります。
②対象弁護士への通知
 事件が配点されると、対象弁護士に通知がなされます。具体的には、懲戒請求があったことだけではなく、答弁書を提出するよう求められます。
 綱紀委員会は、弁護士法第70条の7により、「綱紀委員会は、調査又は審査に関し必要があるときは、対象弁護士等、懲戒請求者、関係人及び官公署その他に対して陳述、説明又は資料の提出を求めることができる。」とされていますので、その一環として対象弁護士に対して答弁書の提出を求めます。
また、答弁書と同時にまたは答弁書提出後、綱紀委員会から資料の提出を求められることもあります。 この根拠も、上述の弁護士法第70条の7です。
 なお、日弁連会則第72条により「弁護士及び弁護士法人は、会規で定めるところにより懲戒の手続への協力を求められたときは、正当な理由がない限り、これに応じなければならない」と定められています。そのため、綱紀委員会からの答弁書提出や、資料の提出の求めに対して従わなかった場合には、日弁連の会則違反として別途懲戒事由を構成することとなります。
③事情聴取
 対象弁護士からの答弁書を踏まえ、事件の争点が一応明らかになると、今度は対象弁護士、懲戒請求者らを呼び、事情聴取を行います。
 この回数は通常1回程度のことが多いですが、懲戒請求者から追加の主張等がなされると、複数回にわたることもあります。
④議決
 最終的にこれらの調査の結果を元に議決を行い、その内容は対象弁護士に通知されます。

3 手続の公開性


 綱紀委員会の議事や議決については非公開とされてます。これは委員らの自由な意見表明を保証するためです。そのため、綱紀委員会の議事録自体も非公開とされ、閲覧、謄写は許されていません。
これに対し、調査期日の調書や提出書類等については、対象弁護士に対しては、手続き保障の観点から、閲覧謄写を許すべきであると考えられていますが、懲戒請求者に対してどのような措置をとるかは、綱紀委員会の裁量に任されていると考えられています。

利益相反が問題となった事例③

2023-06-29

1 事案

 X弁護士は元裁判官であったが、裁判官時代にある刑事事件の再審請求審の判断に関与をしていた。
その後Xは裁判官を辞職して弁護士となり、刑事事件の方は再審無罪が確定した。
この刑事事件において、捜査官に違法な取調べがあったとする国家賠償訴訟について、Xが原告(元被告人)の代理人となることについて、弁護士法第25条4号に違反しないかが問題となった。
(高松高判昭和48年12月25日の事案)

2 判旨


弁護士法二五条四号が、弁護士が公務員として在職中取扱った事件を退職後に弁護士として取扱うことを禁止しているのは、弁護士の職務の公正を担保し、弁護士に対する一般の信頼を確保するにあることは云うまでもないところ、右の立法目的から考えると、公務員として在職中に取扱った事件(以下単に前件と云う)と退職後に弁護士として取扱う事件(以下単に後件と云う)とが、形式的に同一である場合でも、右在職中の職務の内容等から考え事件の実質に関与していなかった如き場合には、未だ右法条に該当しないと云うべきである反面、前件と後件とが、その件名を異にし或いは刑事々件と民事々件と云うが如く形式的には同一性がないとみられる場合でも、両事件が共に同一の社会的事実の存否を問題とする如き場合に於ては、後件につき、なお弁護士としてこれを取扱うことを禁止されているものと解するのが相当である。 
 本件についてみるに、前記再審請求の理由とするところは前認定の通り捜査官による、不法、不当な逮捕、勾留とこの間の誘導、強制、拷問に基づく自白及び右自白を裏付ける為に捜査官によって偽造された証拠書類、証拠物によって原告が犯人に仕立て上げられたことを主張するものであって、捜査官の違法行為を主たる理由とするものであるところ、本訴の請求の趣旨及び原因も、要するに、右●●事件の捜査に当り、捜査官である検事及び警察官らが、原告を不法に長期間●●の留置場に拘禁し、拷問を加えて原告に虚偽の自白を強要し、右自白を裏付ける為手記五通を偽造し、証拠物たる国防色ズボンもすり替えて公判廷に提出する等の不法行為があったとし、これに基因して無実の原告が死刑と云う極刑判決を受けたことによる慰藉料を請求すると云うものであって、前者は刑事判決に対する再審であり後者は民事々件と云う意味では形式的には同一性がないとみられるけれども、共に捜査官の同一違法行為の存否を問題とする点で、実質的には同一事件と云うを妨げないものである。そしてX弁護士は右再審事件について実質的な審理をなしていること前認定の通りであるから、同弁護士による本訴の提起は、弁護士法二五条四号に該当するものと云わねばならない。
 而して右法条四号に違反する訴の提起に対し、相手方より異議が述べられた場合は、右訴提起行為が無効となることは既に最高裁判所の判例の存するところであるから(最判昭和四二年三月二三日、同昭和四四年二月一三日)本訴は不適法な訴として却下すべきものである。

3 解説

 本件については、元々の事件は再審請求審、新しい事件は国家賠償訴訟という、刑事・民事というレベルで異なる事件ではありました。
 しかし、争点が同一であることなどから、社会的に同じ事実を対象とする事件であるということで、結果的に弁護士法第25条4号に該当し、職務を行い得ない事件であるということになりました。

利益相反が問題となった事例②

2023-06-22

1 事例

 X弁護士は、Aの依頼を受け、昭和31年3月23日にBを相手として土地の所有権確認訴訟を提起した。
 この訴訟は昭和35年5月12日に終了するが、その終了前にX弁護士はBの訴訟代理人としてCを相手とする建物収去土地明渡請求訴訟を提起した。
 問題は、X弁護士の行為が利益相反行為に該当するとして、そのBC間の訴訟での訴訟行為が無効となるかという点である。
(最判昭和41年9月8日の事例)

2 判旨

「右事実関係のもとにおいては、Bの訴訟代理人であるX弁護士らの訴訟行為は、弁護士法二五条一、二号に違反するものではなく、同条三号に違反するものというべきである。ところで、本件のように、受任している事件の相手方からの依頼による他の事件の相手方が、受任している事件の依頼者と異なる場合には、当該弁護士らの「他の事件」における訴訟行為は、「受任している事件」の依頼者の同意の有無にかかわりなく、これを有効と解するのが相当である。けだし、当該弁護士らの同条三号違反の職務行為により不利益を蒙むる虞れのある者は「受任している事件」の依頼者であつて「他の事件」の相手方ではなく、同条三号は、もつぱら、「受任している事件」の依頼者の利益の保護を目的とするものと解すべきだからである。
 したがつてBの訴訟代理人であるX弁護士らの訴訟行為は、別件の依頼者であるA、またはその相続人の同意の有無を問わず、これを有効と解すべきであり、その他、右訴訟行為を無効とすべき根拠はないから、これを有効とした原審の判断は、結論において正当である。

3 解説


 本判決は、結論としてBC間の訴訟におけるX弁護士の訴訟行為を有効と判断しました。
理由は本文中に記載のある通りで、あくまでも弁護士法第25条第3号の規定は元の依頼者であるAを保護する規定であるので、BCとの関係では訴訟行為を無効とする理由がないからです。
 ですのでX弁護士の訴訟行為自体の効力に影響は出ないところですが、判決が認定する通り弁護士法25条第3号の規定に当てはまっていますから、きっちりと同意を取るか、もしくは受任をしないという判断を行わない限りは弁護士法上の懲戒処分を受ける可能性が十分にあります。

利益相反②

2023-06-15

1 利益相反

 弁護士法第25条は、弁護士が職務を行い得ない事件を定めています。
 同様に、弁護士職務基本規程第27条、28条も職務を行い得ない事件を定めています。
前回に引き続き、この職務を行い得ない事件を解説していきます。

2 弁護士法第25条第3号

 弁護士法第25条第3号は、職務を行い得ない事件として「受任している事件の相手方からの依頼による他の事件」を定めています。
 この規程が想定する状況は、弁護士がAとBが対立する事件のA代理人として受任をしている際、問題となっている事件とは別の事件についてBから依頼を受けることを禁止するというものです。
 仮にこのような事態で受任が許されると、Bが報酬金を多数支払うなどして弁護士を懐柔し、A対Bの事件の結論に影響を与えることが可能になってしまいます。
 そのため、このような事態を防ぐため、弁護士の受任が禁じられています。
 ただし、この3号の規定からは、本人(この場合であればA)の同意があれば受任禁止が解除されることとなっています。
 なお、ここでいう「受任している事件」とは、現に受任している事件を指しており、過去において受任していて終了した事件は含みません。

3 弁護士法第25条第4号

 弁護士法第25条第4号は、職務を行い得ない事件として「公務員として職務上取り扱った事件」を定めています。
 典型的には、検察官、裁判官が退官した後弁護士となった際に、検察官・裁判官として取り扱った事件の受任が禁止されています。このような事件の受任は、明らかに公正性を害するからです。
 ただ、法が禁止するのは「公務員」として取り扱った事件ですので、検察官や裁判官に限られません。国家公務員、地方公務員、常勤非常勤を問わず、公務員として扱った事件すべてが禁止されます。ですので、公証人として扱った事件などの受任も禁止されることになります。

4 弁護士法第25条第5号

 弁護士法第25条第5号は、職務を行い得ない事件として「仲裁手続により仲裁人として取り扱った事件」を定めています。

 ここでの「仲裁手続」とは、仲裁法で定める仲裁手続を指しています。仲裁法上の仲裁人には、双方から事件内容を聴取するなどの権限が与えられているため、公平性の観点から5号の規定が置かれていると考えられます。

業務停止②

2023-06-08

1 業務停止期間中にできないこと(前回の続き)

(1)税理士等の業務

 弁護士が、弁護士業務の一環として税務活動を行うような場合には、これは当然停止されます。
問題は、弁護士が、弁護士という資格を利用して、同時に税理士登録をしている場合(税理士法第3条第1項3号)、この税理士資格に基づく業務がどのようになるかです。
この点について税理士法には第43条で、原資格が停止されたときには税理士業務を行ってはならない旨の規定があります。
 しかし、同じように弁護士がその資格を以て登録可能な資格の中でも、弁理士にはそのような規定はありません(社会保険労務士なども同様)。このような場合にどのように考えるかが問題となりますが、それらの資格にはその資格特有の懲戒手続が存在し、そのような懲戒手続きを経ず、法の規定もない中で、資格の効力を制限することはできないと考えられています。
 ただ、弁理士については、次回説明をする通知により特別の定めがありますので、その点に注意をする必要があります。

(2)会務活動

 業務停止によって停止される「業務」については、弁護士法第3条で定める業務、つまり「弁護士は、当事者その他関係人の依頼又は官公署の委嘱によつて、訴訟事件、非訟事件及び審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件に関する行為その他一般の法律事務を行うことを職務とする。」に記載されていることに限られるという考え方と、それに限らず広く考える考え方と2通りあり得るところです。
 そのため、業務を限定的に解釈した場合には、弁護士会の会務活動はこれに当たらず、業務停止期間中であっても会務は可能であると考えることになります。対して、業務を広く考えれば、会務活動を禁止することに繋がります。
 この点についても、通知に特別の定めがありますので、そちらに従うことになりますが、会則上は会務活動は行えないことになっています。
ただ、法解釈としては、文言上は法律に定められた職務を基準に考えるべきであるとも考えられます。

(3)業務停止に関する基準

 これまでの通り、業務停止期間中にどのような業務を行うことが禁じられるのかについては、解釈上明確でない点があります。
 そのため、この点を明らかにするため、日弁連では業務停止中の禁止事項を定める通知が必要となるところです。
 現行の通知は、平成4年に発出された「被懲戒弁護士の業務停止期間中における業務規制等について弁護士会及び日本弁護士連合会の取るべき措置に関する基準」であり、実際にはこの基準に基づいて、各弁護士への指導が行われることになっています。

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