Archive for the ‘懲戒手続’ Category

懲戒委員会①

2023-10-12

1 懲戒委員会

 弁護士会が、当該単位会に所属する弁護士又は弁護士法人を懲戒する場合には、弁護士会の懲戒委員会による議決に基づく必要があります(弁護士法第58条5項)。
 弁護士法は、弁護士(弁護士法人)を懲戒するかどうかについて、会長の独断や弁護士会の総会等の意思決定機関ではなく、懲戒委員会に判断させることにしていますので、この懲戒委員会は独立性を保つ必要があります。
 そのため、法の明文はないものの、懲戒委員会の弁護士委員としては、会長副会長等の役員、常議員会の常議員、綱紀委員会の委員と兼職することは適当でないと考えられています(日弁連会長通知等)。

2 懲戒委員会の設置等

 弁護士法65条1項により、懲戒委員会は日弁連及び単位会に設置されることとされています。綱紀委員会と共に弁護士法上設置することが定められている委員会ですので、「弁護士法上委員会」などと整理している単位会も存在します。その他弁護士会には人権擁護委員会や刑事弁護委員会なども設置されていますが、これらの委員会は会則等で設置されることとなっているものですので、綱紀・懲戒委員会は設置根拠からしても全く別のものということになります。
 懲戒委員会は「その置かれた弁護士会又は日本弁護士連合会の求めにより、その所属の弁護士又は弁護士法人の懲戒に関して必要な審査をする。」(弁護士法65条2項)とされており、懲戒に関して必要な審査をすることがその任務となっています。
 ここでの「必要な審査」とは、綱紀委員会が懲戒委員会に付することを相当と議決した事件の審査を指していますので、懲戒委員会が独自で事件を立件するということは想定されていません。
 最終的に懲戒委員会で事案の審査を行い、懲戒をするべきか否か、懲戒するとすれば除名、退会命令、業務停止、戒告のいずれの処分が妥当であるのかを決定することとなります。

3 権限

 懲戒委員会は、「審査に関し必要があるときは、対象弁護士等、懲戒請求者、関係人及び官公署その他に対して陳述、説明又は資料の提出を求めることができる。」(弁護士法67条3項)というように、対象弁護士等に説明などを求めることができます。
 対象弁護士は、弁護士である以上綱紀・懲戒の手続きに協力する義務を負っていますので(日弁連会則第72条)、これに応じなかった場合に罰則等の手段はありませんし、これを説明や回答等を強制する法的手段はありませんが、応じなかったことそれ自体が会則違反であるということを理由に懲戒事由となる場合があります。

綱紀委員会④

2023-09-07

1 綱紀委員会の議決

 綱紀委員会は、調査が終了をすると議決を行います。
 この議決については、部会が編成されている単位会では、部会内で議決を行い、それを委員会全体の議決とすることが認められています。
 そして、綱紀委員会の議決には以下の3種類があります。
⑴懲戒委員会に事案の審査を求めることが相当である
 調査の結果、懲戒事由の存在が一応認定された場合に、事案を懲戒委員会に審査させる旨の議決を行います。
 この議決を受けた弁護士会は、議決内容に拘束されますので必ず事案を懲戒委員会に付さなければなりません。
⑵懲戒委員会に事案の審査を求めないことを相当とする
 結論として懲戒委員会に事案の審査を求めない場合には、このような議決がなされます。
 ただ、事案を懲戒委員会の審査に付さないとしても①そもそも懲戒事由が存在しない場合②懲戒事由に該当し得る事実は存在するが、事案の軽重等を判断して懲戒すべきでないことが明らかである場合③懲戒審査が不適法な場合など、様々な場合が存在します。
⑶対象弁護士の死亡、資格喪失等による終了
 対象弁護士が生存し、事案が付されている単位会に所属していることは当然の前提となります。
 そのため、調査の途中に対象弁護士が無くなった場合や、別の理由により弁護士資格を喪失したような場合には、調査を継続することができません。
 当然調査継続ができないということになるのですが、手続きの終了を明確にするため、このような議決がなされます。

2 議決後

 議決がなされると、この議決に弁護士会は拘束されます。
 綱紀委員会の議決は、常議員会や総会によっても変更することができません。
 ですので、懲戒委員会に事案の審査を求めるのが相当であるとの結論がなされた場合には、弁護士会は必ず事案を懲戒委員会に付さなければなりませんし、反対に懲戒委員会に事案の審査を求めないという結論が出された場合には、事案を懲戒委員会に付すことはできず、懲戒しない旨の結論を出さなければなりません。

3 不服申立て

 事案を懲戒委員会に付する議決に対しては、対象弁護士は不服申し立てを行うことはできません。不服の内容は懲戒委員会で主張すべきであると考えられるからです。
 反対に、事案を懲戒委員会に付さないという議決については、懲戒請求者は日弁連の綱紀委員会に不服申し立てを行うことができます。

綱紀委員会③

2023-08-03

1 綱紀委員会の調査事項

 綱紀委員会が調査をする事項は以下のようなものです。
①当事者
懲戒請求者が存在するか(何人でも請求可能なので、特に個人の資格等は必要ないが、架空人による請求は認められない)、対象弁護士が現に単位会に所属する弁護士であるかどうかなど、当事者性の判断を行います。
②懲戒事由の存否
最も大きな調査事項は、懲戒事由たる事実が存在するか、またその事実が存在したとしてそれが懲戒事由たる非行に値するかという点です。
ここで、懲戒請求書等に記載されていない事実であって、懲戒に値するような事実が存在した場合が問題となります。この点については、綱紀委員会による立件が認められていないことに鑑みると、仮にこのような事実を発見したからといて、これを調査し、議決することは許されないと考えられています(ただし、この事実を弁護士会に報告し、弁護士会が会立件することは許されると思われます)。反対に、懲戒請求書等に記載されている事実については、全てについて議決を要するとされています。
③情状
懲戒事由となるとは、単なる法令・会則違反等ではなく、「懲戒に値するほどの」法令・会則違反等です。
そのため、懲戒事由該当事実だけではなく、その情状等についても調査の対象となると考えられています。
また、この情状には、事実発生時の事情だけではなく、事後的な事実(たとえば、懲戒請求後に請求者との間で和解が成立したような場合など)も含めて考慮できると考えられています。
④除斥期間
弁護士法第63条には「懲戒の事由があつたときから三年を経過したときは、懲戒の手続を開始することができない。」と定められています。この「3年」の性質は除斥期間と考えられていますので、問題は「懲戒の事由があったとき」という、除斥期間の始期がいつの時点であるのかということになります。
単発の行為であれば、その行為が終了したときを基準に考えればよいので、それほど問題は生じません。
これに対し、高額な弁護士報酬を受領し、それを返還していないというような事案の場合、「報酬受領時」を始期とするのか、返還未了を理由に非行は継続していると考えるのかが問題となります。このような事例の場合に、過去の裁判例では基本的には報酬受領時を基準とすると考えられました。

綱紀委員会②

2023-07-06

1 綱紀委員会の手続

 綱紀委員会でどのような手続を行うか(調査方法をとるか)ということについて、具体的な方法等は弁護士法に定められておらず、その方法は各単位会が会則で定めることとなっています(弁護士法第33条第2項第8号の規定)。
 そのため、「綱紀委員会での手続」といっても、その内容は単位会毎に異なり得るものですので、以下の記載はあくまでも一般的な手続というものに留まります。

2 手続の流れ


①事件の配点
 懲戒請求がなされた場合や、会立件がなされた場合、事件は綱紀委員会に係属します。
大きな単位会であれば、部会を構成していますので、具体的には特定の部会に事件が配点されることになります。
②対象弁護士への通知
 事件が配点されると、対象弁護士に通知がなされます。具体的には、懲戒請求があったことだけではなく、答弁書を提出するよう求められます。
 綱紀委員会は、弁護士法第70条の7により、「綱紀委員会は、調査又は審査に関し必要があるときは、対象弁護士等、懲戒請求者、関係人及び官公署その他に対して陳述、説明又は資料の提出を求めることができる。」とされていますので、その一環として対象弁護士に対して答弁書の提出を求めます。
また、答弁書と同時にまたは答弁書提出後、綱紀委員会から資料の提出を求められることもあります。 この根拠も、上述の弁護士法第70条の7です。
 なお、日弁連会則第72条により「弁護士及び弁護士法人は、会規で定めるところにより懲戒の手続への協力を求められたときは、正当な理由がない限り、これに応じなければならない」と定められています。そのため、綱紀委員会からの答弁書提出や、資料の提出の求めに対して従わなかった場合には、日弁連の会則違反として別途懲戒事由を構成することとなります。
③事情聴取
 対象弁護士からの答弁書を踏まえ、事件の争点が一応明らかになると、今度は対象弁護士、懲戒請求者らを呼び、事情聴取を行います。
 この回数は通常1回程度のことが多いですが、懲戒請求者から追加の主張等がなされると、複数回にわたることもあります。
④議決
 最終的にこれらの調査の結果を元に議決を行い、その内容は対象弁護士に通知されます。

3 手続の公開性


 綱紀委員会の議事や議決については非公開とされてます。これは委員らの自由な意見表明を保証するためです。そのため、綱紀委員会の議事録自体も非公開とされ、閲覧、謄写は許されていません。
これに対し、調査期日の調書や提出書類等については、対象弁護士に対しては、手続き保障の観点から、閲覧謄写を許すべきであると考えられていますが、懲戒請求者に対してどのような措置をとるかは、綱紀委員会の裁量に任されていると考えられています。

綱紀委員会①

2023-06-01

1 綱紀委員会

 請求者から懲戒の請求があった場合、または会請求があった場合、最初に事案の審査が行われるのは綱紀委員会です。
 綱紀委員会の設置根拠は、弁護士法第70条にあり、懲戒委員会はそれより前の第65条にありますが、先に事案が係属するのは綱紀委員会です。また、綱紀、懲戒委員会は、その設置根拠が弁護士法上に存在することから、単位会によっては「弁護士法上委員会」などとして、他の委員会(刑事弁護委員会等)とは別の区分に分類されているところもあるかと思われます。
 綱紀委員会が設置されている理由は、濫用的な懲戒請求に対応し、明らかな懲戒不相当事案を選別するためと考えられています。すべての事件が懲戒委員会に係属してしまうと、重要な事件の審理を十分行うことができなくなります。このような事態を防ぐため、綱紀委員会が事件の選別を行っています。

2 綱紀保持に関する事項

 弁護士法第70条2項は、綱紀委員会の職務として、懲戒事件の士調査の他に「弁護士会所属の弁護士及び弁護士法人の綱紀保持に関する事項をつかさどる」としています。
 これは、具体的な懲戒請求事件の処理ではなく、一般的な弁護士倫理規範の定立、研修などが想定さえれています。
 あくまでも「一般論」ということを前提とする権限ですので、綱紀委員会が、懲戒不相当事案について対象弁護士に注意をするというようなことは想定されていません。

3 綱紀委員会の構成委員

 綱紀委員会は4名以上(弁護士法70条の2)で、弁護士、裁判官、検察官、学識経験者(大学教員が多いです)により構成されます(弁護士法70条の3第1項)。
 また、綱紀委員会の委員は、綱紀委員会んお職務については、「法令により公務に従事する職員とみなす」(同第4項)というみなし公務員規定が存在します。
 そのため、綱紀委員会の委員の職務執行に対して暴行、脅迫を以て妨害した場合には公務執行妨害となりますし、賄賂を供与した場合には贈賄罪が適用されることになります。
 この点までは、全ての単位会に共通するところです。
 ただ、規模の大きな単位会の場合、出される懲戒請求の数も膨大であり、請求があるごとに全綱紀委員で審査をするということは現実的ではありません。
 そこで弁護士法においては、綱紀委員会の中に部会を設置することができることになっています(弁護士法第70条の6第1項)。より少人数の部会委員によって、事件を効率的に調査できるようになっています。また、部会で出した結論を、そのまま委員会の議決にすることも可能です(同第5項)。ただし、それでは綱紀委員会の公正性に疑問がでるかのうせいがありますので、部会には弁護士、裁判官、検察官、学識経験者を1名以上入れるようになっており、弁護士委員だけで結論が出せないようになっています。
 さらに、ここからは単位会毎に取り扱いが異なると思われますが、実際には部会の中から2名ほどの委員が「主査・副査」という形で聞き取り等の調査を行い、その内容を部会で議論するというような形式が取られている単位会も多いのではないかと思われます。

弁護士会による懲戒請求

2023-05-04

1 会請求

 弁護士法第58条2項は、「弁護士会は、所属の弁護士又は弁護士法人について、懲戒の事由があると思料するとき(中略)は、懲戒の手続きに付し、綱紀委員会に事案の調査をさせなければならない」としています。(中略)の部分に「前項の請求」という記載があり、こちらが一般的に依頼者、相手方等からなされる懲戒請求です。
 これに対して、冒頭で引用した、弁護士会自身が綱紀委員会に事案の調査をさせる手続きのことを、会請求と呼んでいます。

2 会請求の決定機関

 会請求をするかどうか判断するのは「弁護士会」となっていますが、弁護士会の機関のうちいずれが
意思決定をするのか定められていません。
 そのため、各単位会が会則等においていずれの機関に会請求の権限を付与しているかによって異なる
と思われますが、おそらく多くの会が会長や常議員会によって判断されていると思われます。

3 会請求の要件

 会請求をするためにも「懲戒の事由があると思料する」必要があるのですが、問題は弁護士会がどの程度の資料をもって認定するかが問題となります。
 弁護士会では、会請求がなされた後、綱紀委員会や懲戒委員会といった内部の委員会で手続きが行われます。
 そのため、最初の会請求をする段階で、綱紀委員会や懲戒委員会が議決をするのに必要となるほどの資料が必要であるとは考えられませんし、嫌疑の程度も求められないと考えられます。
 また、この「懲戒の事由がある」かどうかを判断するため、常議員会等の機関が調査を行うことができるかどうかが問題となります。
 かつての見解では、綱紀委員会の手続きを侵害するおそれがあるため、原則的に調査は相当でないとされていました。
 しかし、いずれにしても他から懲戒請求が出されれば綱紀委員会に事案が付されることや、懲戒請求時に弁護士が登録換えを禁止されるという重大な効果が付与されることを考えると、適切な会請求のためにはある程度の事案の調査は不可欠であると考えられ、現在はそのような運用がなされていると思われます。

懲戒請求の方式

2023-04-06

1 懲戒請求の方式

 弁護士法第58条1項では「何人も、弁護士又は弁護士法人について懲戒の事由があると思料するときは、その事由の説明を添えて、その弁護士又は弁護士法人の所属弁護士会にこれを懲戒することを求めることができる。」と定めているだけで、どのような方式で懲戒請求をしなければならないかの記載はありません。
 そのため、法律上は書面で請求することも口頭で請求することも可能と言えます。
 懲戒請求の方法については、各単位会の会則などで定められていると思われますので、確認が必要となります。

2 懲戒請求の要件

(1)対象弁護士(弁護士法人)が当該会に所属していること
 懲戒は、基本的には各単位会がなすものということになりますので、最終的に懲戒の処分を受ける対象弁護士または弁護士法人が、当該単位会に所属している必要があります。
 そのため、申立てを受けた単位会において、対象弁護士が存在しないという場合には、受付することができない(ただし、どのように処理するかは単位会によって異なると思われます)ということになります。
(2)懲戒を求めるものであること
 弁護士(または弁護士法人)に対しては、単なる苦情の申出もあり得ますし、紛議調停の申立てを行うこともあります。これらの者と懲戒請求は区別されなければなりませんので、申立の中で懲戒を求めるものであることが明らかにされる必要があります。
(3)懲戒事由
 弁護士法第58条1項で、「その事由の説明を添えて」と定められている以上、懲戒事由が記載されている必要があります。
 これは、弁護士法第56条で定める懲戒事由(法律上の抽象的なもの)ではなく、個々の具体的な事実を指すものと考えられます。
 ただし、記載されている事実が懲戒事由に該当するかどうかという点は、綱紀委員会が判断すべき事項ということになりますので、受付段階では問われないということになります。
(4)懲戒請求者
 懲戒請求である以上、誰がどの弁護士に対して請求するのか特定される必要があると考えられています。
 そのため、懲戒請求者が不特定であったり、匿名での懲戒請求は不適法なものになると考えられています。
 ただし、匿名での懲戒請求であっても、そこに記載された事実を元に会立件することは妨げられないと考えられています。

3 懲戒請求の受付

 懲戒請求を受け付けるのは弁護士会ですので、各単位会に窓口が存在すると思われます。
受付の方法にも特に法律上の制限がありませんので、持参して提出しても郵送しても請求を行うことができます。
 懲戒についての実質的な判断は綱紀委員会が行いますので、受付段階での審査は形式的なものに留まります。
 ただし、上記に記載したような要件を満たさないような請求については、場合によっては受付限りで却下することも許されると考えられています。

対象弁護士の地位

2023-03-02

1 対象弁護士の地位

 懲戒請求を受けた弁護士は、綱紀・懲戒委員会などから、事案についての陳述、説明、資料の提出をと求められることになります。
 このような手続きについて、弁護士法は70条の7で、日弁連綱紀委員会の手続きの内容として定めているところであり、単位会の手続きについては法律で定められているところではないのですが、おそらく多くの単位会で同じような規定が置かれているものと思われます。
 なお、弁護士法第70条の7では「綱紀委員会〔注:日弁連綱紀委員会を指す〕は、調査又は審査に関し必要があるときは、対象弁護士等・・・・・に対して陳述、説明又は資料の提出を求めることができる」と定められていますが、仮に説明を求められた弁護士が説明を拒否した場合にはどのように考えられるのでしょうか。
 この点について、日本弁護士連合会会則第72条は「弁護士及び弁護士法人は、会期で定めるところにより懲戒の手続きへの協力を求められたときは、正当な理由がない限り、これに応じなければならない」としており、弁護士及び弁護士法人に対して協力義務を課しています。ですので、仮に綱紀委員会等から説明を求められた際、正当な理由なく弁護士が説明を拒否するような場合には、この会則第72条違反となり、懲戒請求されている事由とは別に、会則違反として懲戒を受ける場合があります。

2 登録換えの制限

 弁護士法第62条第1項は、「懲戒の手続に付された弁護士は、その手続が結了するまで登録換又は登録取消の請求をすることができない」とされています。
 ここで問題となるのは「懲戒の手続に付された」と言えるのはどの手続きが開始した段階かという点と、「手続が結了」したといえるのはどのような状態になった場合かという点です。
 まず「懲戒の手続に付された」という言葉の解釈ですが、かつては①綱紀委員会の調査手続きに付された場合も含むという解釈と②懲戒委員会の審査手続に付された場合に限定するという解釈の2つの解釈が存在しました。しかし、現在は弁護士法第58条2項で「弁護士会は・・・・懲戒の手続に付し、綱紀委員会に事案の調査をさせなければならない」と定めているため、「懲戒の手続に付し」=「綱紀委員会に事案の調査をさせ」ることと考えられています。
 次に「手続が結了」したと言える時点ですが、こちらは懲戒処分の効力発生の時と考えられており、懲戒をする場合には対象弁護士に対して処分の通知があったとき、懲戒をしない場合にはその旨の通知が対象弁護士にあったときであると考えられています。ただし、懲戒をしない場合に、懲戒請求者から異議の申出があって事案が日弁連綱紀委員会に移送された場合には、この登録換え禁止の制限は継続することになります。

懲戒請求の対象者

2023-02-02

1 懲戒請求の対象者

 弁護士法第56条第1項によると、懲戒を受ける対象と定められているのは①弁護士及び②弁護士法人とされています。弁護士と弁護士法人が別に規定されていますので、法人に所属する個々の弁護士への懲戒と、弁護士法人そのものに対する懲戒は別物となります。
 なお、「弁護士」の中には、弁護士法に規定される弁護士以外に「外国法事務弁護士」というものがあり、特定の外国で弁護士となる資格を有しているものが、日本国内で、その外国の法律事務を行うために承認を受けて弁護活動を行うものを指しており、この外国法事務弁護士についても同じような懲戒制度がありますが、ここでは省略します。また、弁護士法人についても割愛します。

2 弁護士であること

 懲戒請求の対象者であるためには、現に弁護士であることが求められます。
 通常はこの要件は問題とならないのですが、1つ問題が生じうる場合があります。
 まず、懲戒請求をされた弁護士が、登録の取消の請求を行うことは、弁護士法第62条第1項により禁止されています。そのため、懲戒を免れるために弁護士でなくなるというようなことはできません。
 しかし、①事態の深刻さを察知して予め登録取消の請求がなされ②その後に懲戒請求がされたような場合に、どのような処理が行われるのかということについては定まった見解がありません。
 もちろん、①と②の間に大きな時間的隔たりがあれば、既に弁護士でなくなったということで処理がされると思いますが、たとえば、弁護士が登録取消の届出を単位会に行い、その書類が未だ日弁連に届くまでの間に(弁護士法第11条により、登録取消は単位会を経由して日弁連に届け出ることになっています)懲戒請求がされたような場合に、登録取消が効力を有するようになるのはどの時点からなのか(=弁護士の身分を喪失するのはいつからか)という問題が発生します。これについては、単位会に届け出た時点で効力が発生する(①の時点で弁護士の身分を喪失し、ここから先は懲戒できない)という考え方もある一方、日弁連の方で処理されるまで身分は喪失しない(=この例では懲戒可能)という考え方もあり得るところです。

3 弁護士会への所属

 弁護士又は弁護士法人に対する懲戒の請求は、日本弁護士会連合会(日弁連)に対して行うのではなく、個々の弁護士会(単位会)に対して行う必要があります。
 そのため、懲戒請求の対象者が、請求をする先の弁護士会に所属している必要があります。
 たとえば、大阪弁護士会に所属する弁護士について、兵庫県弁護士会に懲戒請求をすることはできません。
 なお、懲戒請求をされた弁護士が、他の弁護士会に登録換えの請求を行うことは、弁護士法第62条1項により禁止されています。
 また、2と異なり、弁護士の身分自体が喪失するわけではありませんから仮に2と同じような事態が生じたとしても、新所属会の方に懲戒請求を行えば足りるということになります。

懲戒請求権者⑵

2023-01-05

1 会請求・会立件

⑴会請求・会立件とは

 一般の方からの懲戒請求だけではなく、弁護士会が独自に懲戒請求を開始することも認められています。
 このことを「会請求」「会立件」などと呼んでいます(以下は会請求で代表します)。
 会請求がなされるのは、「弁護士会が所属の弁護士又は弁護士法人について懲戒の事由があると思料するとき」とされています(弁護士法第58条2項)。

⑵会請求の決定機関

 会請求をするかどうか判断するのは「弁護士会」となっていますが、弁護士会の機関のうちいずれが
意思決定をするのか定められていません。
 そのため、各単位会が会則等においていずれの機関に会請求の権限を付与しているかによって異なる
と思われますが、おそらく多くの会が会長や常議員会によって判断されていると思われます。

⑶会請求の要件

 会請求をするためにも「懲戒の事由があると思料する」必要があるのですが、問題は弁護士会がどの程度の資料をもって認定するかが問題となります。
 弁護士会では、会請求がなされた後、綱紀委員会や懲戒委員会といった内部の委員会で手続きが行われます。
 そのため、最初の会請求をする段階で、綱紀委員会や懲戒委員会が議決をするのに必要となるほどの資料が必要であるとは考えられませんし、同程度の嫌疑の程度も求められないと考えられます。

⑷会請求の手続き

 会請求の意思決定機関により会請求が行われる旨が決定されると、事案は綱紀委員会に付されることになります。
 この後の手続きは、一般の方による懲戒請求の場合と異なりません。

2 日弁連による懲戒請求

⑴日弁連による請求の意義

 日弁連は、弁護士又は弁護士法人について、懲戒の事由があると思料するときは、自ら懲戒の手続きに付し、日弁連の懲戒委員会に事案の調査をさせることができます(弁護士法第60条2項)。
 本来、弁護士又は弁護士法人に対する懲戒は、各単位会が行うべきものです。しかし、何らかの理由により単位会の懲戒手続が働かない場合などには、日弁連自身が懲戒をするほかありません。
 また、所属弁護士会が異なる複数の弁護士に、同一の懲戒事由があるときなどには、判断を統一させるためにも日弁連が懲戒を行う意味があります。

⑵日弁連の決定機関

 日弁連では、会則により常務理事会が審議をし、懲戒請求をするかどうか判断することとなっています。

⑶日弁連に対する懲戒請求

 しかし、一般の方が日弁連に直接懲戒請求をすることはできないとされています。
 弁護士法第58条では「所属弁護士会に対し」懲戒請求をすることになっていますので、その文理解釈から日弁連に懲戒請求はできないと考えられています。 
 ただし、仮に日弁連に直接懲戒請求をした場合には、請求者に対して所属弁護士会に請求するよう指導をすることとされていますので、いきなり拒絶されるということはないようになっています。

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