Archive for the ‘懲戒事由(各論)’ Category
利益相反⑤
1 弁護士職務基本規程第27条
弁護士法第25条により職務を行うことが禁止されている事件とほとんど同様の規定が、弁護士職務基本規程第27条に定められています。
基本規程第27条の5号の範囲が「仲裁、調停、和解あっせんその他の裁判外紛争解決手続機関」という風に、弁護士法上の「仲裁」より拡大されているところはありますが、それ以外は違いがありません。
これに対し、弁護士職務基本規程第28条は、弁護士法に記載のない「職務を行い得ない事件」となります。
2 弁護士職務基本規程第28条
①1号
1号で禁止されているのは、事件の相手方が弁護士自身の親族であるような事件です。
このような事件の場合には、依頼者の利益を害する危険性があると言えます。
②2号
2号で禁止されているのは「受任している他の事件の依頼者又は継続的な法律事務の提供を約しているものを相手方とする事件」です。
弁護士法第25条第3号で禁止されているのは「受任している事件の相手方からの依頼」による事件だけですが、弁護士が受任している事件の依頼者等を相手方とする事件についても、弁護士がその者との関係を理由に新しい依頼者の利益を害する場合もありうるため、このような事件の受任は禁止されています。
③3号
3号で禁止されているのは「依頼者の利益と他の依頼者の利益が相反する事件」です。
たとえば、1人の債務者に対して、2人以上の債権者から債権回収の依頼を受ける場合が問題となります。この債務者に資力が十分あるような事案であれば問題は生じませんが、回収の見込みが不明瞭であるような場合には、片方の債権を回収してしまうと、もう片方の債権が回収不能となってしまう可能性があります。
このような場合、弁護士の公平性に疑念を持たれかねないということで、職務を行うことが禁止されています。
④4号
4号で禁止されているのは「依頼者の利益と自己の経済的利益が相反する事件」です。ここでの「自己」は弁護士を指していますので、弁護士と依頼者の利益が相反するような場合を指します。
たとえば、弁護士自身が株式を保有する企業に対する株主代表訴訟などはこれに該当する可能性があります。
⑤禁止の例外
これらの禁止についてはいずれも例外があり、1、4号については依頼者が同意した場合2号については依頼者及び相手方が、3号については双方の依頼者が同意をした場合には、禁止が解除されることとなっています。
利益相反④
1 利益相反
弁護士法第25条は、弁護士が職務を行い得ない事件を定めています。
同様に、弁護士職務基本規程第27条、28条も職務を行い得ない事件を定めています。
前回に引き続き、この職務を行い得ない事件を解説していきます。
2 弁護士法人の社員についての規定
弁護士法第25条6~9号は、弁護士法人の社員に関する規定です(弁護士・外国法事務弁護士協同法人についても同様です)。
六 弁護士法人(第三十条の二第一項に規定する弁護士法人をいう。以下この条において同じ。)若しくは弁護士・外国法事務弁護士共同法人(外国弁護士による法律事務の取扱い等に関する法律(昭和六十一年法律第六十六号)第二条第六号に規定する弁護士・外国法事務弁護士共同法人をいう。以下同じ。)の社員若しくは使用人である弁護士又は外国法事務弁護士法人(同条第五号に規定する外国法事務弁護士法人をいう。以下この条において同じ。)の使用人である弁護士としてその業務に従事していた期間内に、当該弁護士法人、当該弁護士・外国法事務弁護士共同法人又は当該外国法事務弁護士法人が相手方の協議を受けて賛助し、又はその依頼を承諾した事件であつて、自らこれに関与したもの
七 弁護士法人若しくは弁護士・外国法事務弁護士共同法人の社員若しくは使用人である弁護士又は外国法事務弁護士法人の使用人である弁護士としてその業務に従事していた期間内に、当該弁護士法人、当該弁護士・外国法事務弁護士共同法人又は当該外国法事務弁護士法人が相手方の協議を受けた事件で、その協議の程度及び方法が信頼関係に基づくと認められるものであつて、自らこれに関与したもの
八 弁護士法人若しくは弁護士・外国法事務弁護士共同法人の社員若しくは使用人又は外国法事務弁護士法人の使用人である場合に、当該弁護士法人、当該弁護士・外国法事務弁護士共同法人又は当該外国法事務弁護士法人が相手方から受任している事件
九 弁護士法人若しくは弁護士・外国法事務弁護士共同法人の社員若しくは使用人又は外国法事務弁護士法人の使用人である場合に、当該弁護士法人、当該弁護士・外国法事務弁護士共同法人又は当該外国法事務弁護士法人が受任している事件(当該弁護士が自ら関与しているものに限る。)の相手方からの依頼による他の事件
6号は、ある弁護士法人に属していた弁護士が、その期間中に事件の相手方から協議を受けて賛助等しており、かつそれに当該弁護士が関与していた場合です。これは実質的に25条1号と同じ状況であるため禁止されているのですが、反対に弁護士法人として賛助等していたとしても、当該弁護士が関与をしていなければ1号と同じ状況にありませんから、この場合は職務を行うことを禁止されません。
7号も、25条2号と同じような場合を定めています。
この6・7号は、現在その弁護士法人に属している場合だけなく、その弁護士法人を退職後も禁止されるものです。
8号は、6・7号と異なり、自らがその事件に関与しているか否かを問わず、現に属している弁護士法人が相手方から受任している事件について職務を行うことを禁止しています。これは正に公平性に疑念を持たれる状況だからです。ただし、自らが関与していなければ、6・7号の規定に抵触するわけではないので、弁護士法人を退社後であれば受任等が可能になります。
9号は、25条3号と同様の規定ですが、これについては8号と異なり、自らが関与している事件の相手方からの依頼だけ禁じられており、同じ弁護士法人で受任していても、自らが関与をしていない事件の相手方からの依頼であれば禁止をする規定ではありません。また、3号と同様、依頼者の同意があれば禁止の対象ではないと考えられます。
利益相反が問題となった事例③
1 事案
X弁護士は元裁判官であったが、裁判官時代にある刑事事件の再審請求審の判断に関与をしていた。
その後Xは裁判官を辞職して弁護士となり、刑事事件の方は再審無罪が確定した。
この刑事事件において、捜査官に違法な取調べがあったとする国家賠償訴訟について、Xが原告(元被告人)の代理人となることについて、弁護士法第25条4号に違反しないかが問題となった。
(高松高判昭和48年12月25日の事案)
2 判旨
弁護士法二五条四号が、弁護士が公務員として在職中取扱った事件を退職後に弁護士として取扱うことを禁止しているのは、弁護士の職務の公正を担保し、弁護士に対する一般の信頼を確保するにあることは云うまでもないところ、右の立法目的から考えると、公務員として在職中に取扱った事件(以下単に前件と云う)と退職後に弁護士として取扱う事件(以下単に後件と云う)とが、形式的に同一である場合でも、右在職中の職務の内容等から考え事件の実質に関与していなかった如き場合には、未だ右法条に該当しないと云うべきである反面、前件と後件とが、その件名を異にし或いは刑事々件と民事々件と云うが如く形式的には同一性がないとみられる場合でも、両事件が共に同一の社会的事実の存否を問題とする如き場合に於ては、後件につき、なお弁護士としてこれを取扱うことを禁止されているものと解するのが相当である。
本件についてみるに、前記再審請求の理由とするところは前認定の通り捜査官による、不法、不当な逮捕、勾留とこの間の誘導、強制、拷問に基づく自白及び右自白を裏付ける為に捜査官によって偽造された証拠書類、証拠物によって原告が犯人に仕立て上げられたことを主張するものであって、捜査官の違法行為を主たる理由とするものであるところ、本訴の請求の趣旨及び原因も、要するに、右●●事件の捜査に当り、捜査官である検事及び警察官らが、原告を不法に長期間●●の留置場に拘禁し、拷問を加えて原告に虚偽の自白を強要し、右自白を裏付ける為手記五通を偽造し、証拠物たる国防色ズボンもすり替えて公判廷に提出する等の不法行為があったとし、これに基因して無実の原告が死刑と云う極刑判決を受けたことによる慰藉料を請求すると云うものであって、前者は刑事判決に対する再審であり後者は民事々件と云う意味では形式的には同一性がないとみられるけれども、共に捜査官の同一違法行為の存否を問題とする点で、実質的には同一事件と云うを妨げないものである。そしてX弁護士は右再審事件について実質的な審理をなしていること前認定の通りであるから、同弁護士による本訴の提起は、弁護士法二五条四号に該当するものと云わねばならない。
而して右法条四号に違反する訴の提起に対し、相手方より異議が述べられた場合は、右訴提起行為が無効となることは既に最高裁判所の判例の存するところであるから(最判昭和四二年三月二三日、同昭和四四年二月一三日)本訴は不適法な訴として却下すべきものである。
3 解説
本件については、元々の事件は再審請求審、新しい事件は国家賠償訴訟という、刑事・民事というレベルで異なる事件ではありました。
しかし、争点が同一であることなどから、社会的に同じ事実を対象とする事件であるということで、結果的に弁護士法第25条4号に該当し、職務を行い得ない事件であるということになりました。
利益相反が問題となった事例②
1 事例
X弁護士は、Aの依頼を受け、昭和31年3月23日にBを相手として土地の所有権確認訴訟を提起した。
この訴訟は昭和35年5月12日に終了するが、その終了前にX弁護士はBの訴訟代理人としてCを相手とする建物収去土地明渡請求訴訟を提起した。
問題は、X弁護士の行為が利益相反行為に該当するとして、そのBC間の訴訟での訴訟行為が無効となるかという点である。
(最判昭和41年9月8日の事例)
2 判旨
「右事実関係のもとにおいては、Bの訴訟代理人であるX弁護士らの訴訟行為は、弁護士法二五条一、二号に違反するものではなく、同条三号に違反するものというべきである。ところで、本件のように、受任している事件の相手方からの依頼による他の事件の相手方が、受任している事件の依頼者と異なる場合には、当該弁護士らの「他の事件」における訴訟行為は、「受任している事件」の依頼者の同意の有無にかかわりなく、これを有効と解するのが相当である。けだし、当該弁護士らの同条三号違反の職務行為により不利益を蒙むる虞れのある者は「受任している事件」の依頼者であつて「他の事件」の相手方ではなく、同条三号は、もつぱら、「受任している事件」の依頼者の利益の保護を目的とするものと解すべきだからである。
したがつてBの訴訟代理人であるX弁護士らの訴訟行為は、別件の依頼者であるA、またはその相続人の同意の有無を問わず、これを有効と解すべきであり、その他、右訴訟行為を無効とすべき根拠はないから、これを有効とした原審の判断は、結論において正当である。
3 解説
本判決は、結論としてBC間の訴訟におけるX弁護士の訴訟行為を有効と判断しました。
理由は本文中に記載のある通りで、あくまでも弁護士法第25条第3号の規定は元の依頼者であるAを保護する規定であるので、BCとの関係では訴訟行為を無効とする理由がないからです。
ですのでX弁護士の訴訟行為自体の効力に影響は出ないところですが、判決が認定する通り弁護士法25条第3号の規定に当てはまっていますから、きっちりと同意を取るか、もしくは受任をしないという判断を行わない限りは弁護士法上の懲戒処分を受ける可能性が十分にあります。
利益相反②
1 利益相反
弁護士法第25条は、弁護士が職務を行い得ない事件を定めています。
同様に、弁護士職務基本規程第27条、28条も職務を行い得ない事件を定めています。
前回に引き続き、この職務を行い得ない事件を解説していきます。
2 弁護士法第25条第3号
弁護士法第25条第3号は、職務を行い得ない事件として「受任している事件の相手方からの依頼による他の事件」を定めています。
この規程が想定する状況は、弁護士がAとBが対立する事件のA代理人として受任をしている際、問題となっている事件とは別の事件についてBから依頼を受けることを禁止するというものです。
仮にこのような事態で受任が許されると、Bが報酬金を多数支払うなどして弁護士を懐柔し、A対Bの事件の結論に影響を与えることが可能になってしまいます。
そのため、このような事態を防ぐため、弁護士の受任が禁じられています。
ただし、この3号の規定からは、本人(この場合であればA)の同意があれば受任禁止が解除されることとなっています。
なお、ここでいう「受任している事件」とは、現に受任している事件を指しており、過去において受任していて終了した事件は含みません。
3 弁護士法第25条第4号
弁護士法第25条第4号は、職務を行い得ない事件として「公務員として職務上取り扱った事件」を定めています。
典型的には、検察官、裁判官が退官した後弁護士となった際に、検察官・裁判官として取り扱った事件の受任が禁止されています。このような事件の受任は、明らかに公正性を害するからです。
ただ、法が禁止するのは「公務員」として取り扱った事件ですので、検察官や裁判官に限られません。国家公務員、地方公務員、常勤非常勤を問わず、公務員として扱った事件すべてが禁止されます。ですので、公証人として扱った事件などの受任も禁止されることになります。
4 弁護士法第25条第5号
弁護士法第25条第5号は、職務を行い得ない事件として「仲裁手続により仲裁人として取り扱った事件」を定めています。
ここでの「仲裁手続」とは、仲裁法で定める仲裁手続を指しています。仲裁法上の仲裁人には、双方から事件内容を聴取するなどの権限が与えられているため、公平性の観点から5号の規定が置かれていると考えられます。
利益相反②
1 利益相反
弁護士法第25条は、弁護士が職務を行い得ない事件を定めています。
同様に、弁護士職務基本規程第27条、28条も職務を行い得ない事件を定めています。
前回に引き続き、この職務を行い得ない事件を解説していきます。
2 弁護士法第25条第2号
弁護士法第25条第2号は、職務を行い得ない事件として「相手方の協議を受けた事件で、その協議の程度及び方法が信頼関係に基づくと認められるもの」を定めています。
⑴協議を受けた事件
「協議を受けた事件」の意味は、1号と同じ文言ですが、協議を受けるというのは、法律相談などが典型例です。場所等は問われませんが、単なる雑談などは含まれないと考えられます。
⑵1号との違い
1号は「依頼を受けた」事件、「賛助した」事件を対象としています。
1号と本号の違いは、依頼を受けた後の問題を規律するのが1号、依頼を受ける前の信頼関係の状態を問題とするのが本号という形となります。
⑶「協議の方法及び程度が信頼関係に基づく」
上記の通り、本号は依頼に至る前の信頼関係を問題としていることになりますが、1号と同じく職務を行い得ない事件であると定められている以上、依頼を受けている1号と同じ程度の強い信頼関係は必要であると思われます。
そこで「協議の方法」と「協議の程度」が問題とされます。
「協議の方法」とは、回数や場所、直接の面談か電話・メール等でのやり取りかなどの協議のやり方を問題とするものです。
これに対し「協議の程度」は、協議の内容等のどの程度込み入った事情まで協議をしたのか(反対に一般的抽象的なアドバイスに留まるのか等)が問題となります。
利益相反①
1 利益相反
弁護士法第25条は、弁護士が職務を行い得ない事件を定めています。
同様に、弁護士職務基本規程第27条、28条も職務を行い得ない事件を定めています。
今回から、複数回にわたり、この職務を行い得ない事件を解説していきます。
2 「相手方の協議を受けて賛助し、又はその依頼を承諾した事件」(法1号)
(1)相手方
法1号が定めているのは、典型的には民事裁判の原告と被告双方から依頼を受けるような場合(これは双方代理の問題もあります)を指しています。
ただ、ここでの「相手方」は、典型的な原告・被告関係ではなく、実質的に利害関係が対立する状況の当事者を指すと考えられています。
反対に言うと、形式的に立場が異なった場合であっても、実質的に利害を共通するような場合には、「相手方」には当たらないということになります。
(2)協議を受けて
協議を受けるというのは、法律相談などが典型例です。場所等は問われませんが、単なる雑談などは含まれないと考えられます。
(3)賛助
賛助とは、相談者が希望する一定の結論を擁護する具体的な見解を示したり、法的な助言をすることを指します。
そのため、相談者が希望する見解と反対の結論を述べたような場合には、賛助したとは評価されません。
この点について、最高裁の裁判例でも「法律事件の協議に対し、事情を聴取した結果具体的な法律的手段を教示する段階に達すれば、一般的にいって右法条にいわゆる『賛助し』に該当する」としています。
「具体的な法律的手段を教示」する状態がどのような状態であるかは個別具体的な判断となりますが、法律相談において(たとえ無料でも)希望する結論を擁護するような意見を述べれば「賛助」に当たると考えられるものの、単に意見を述べた程度(希望する結論などとは関係なく、一般的意見を伝えたにすぎない程度)であれば、「賛助」に当たらない可能性があります。
(4)依頼を承諾し
本号後段は、相手方の依頼を承諾した事件の受任を禁じています。これは双方代理のような場合が典型的なのですが、前段と異なり協議は必要ありません。
ですので、協議なく依頼を受けた場合には(その妥当性は別として)、それだけで相手方の事件の受任が禁じられているということになります。
(5)事件
後段で問題となる事件とは、訴訟物の同一性等を問題とするのではなく、実質的に同一の紛争であるかどうかが問題とされます。
ですので、刑事事件の場合、共犯者相互だけではなく、贈賄側と収賄側のような共犯関係にない場合も、本号により受任が禁じられると考えられます。
国選弁護人の辞任
1 事例
刑事事件第1審において、国選弁護人に選任された弁護士が裁判所に辞任届を提出し、そのまま公判に出廷しなかった。しかし、その状況で裁判所は実質的に審理を継続した。
この点について、控訴審において①弁護人辞任届を提出しているに裁判所が解任しなかったのは違法である②公判に弁護士が出廷していないのに実質的な審理を行ったのは訴訟手続きの法令違反であるという主張が控訴審弁護人からなされた。
(東京高判昭和50年3月27日の事案)
2 裁判所の判断
①について
「現行制度の下においては、裁判所によって選任せられた国選弁護人は、裁判所の解任行為によらなければ、原則としてその地位が消滅することはなく、また正当な理由がなければ辞任の申出をすることができないものであって(弁護士法二四条参照)、しかもその正当理由の有無の判断は、選解任権を有する裁判所がすべきものと解せられる。」としており、裁判所が解任をするまでは国選弁護人の地位は残るほか、解任するかどうかについても裁判所が判断する旨を述べました。
②について
「前記国選弁護人らの辞任の申出に正当な理由が認められないとしてこれを解任しなかった原審の措置に、所論のような違法があると認めることはできない。また国選弁護人が辞任届を提出し、出廷しなかったのは、被告人らの責に帰すべき事由によるもので、それによって生ずる不利益は被告人らがみずから甘受せざるを得ないものとして、弁護人不出廷のまま実質審理を行ない判決するに至った原審の措置は、必要的弁護事件でない本件においては、やむをえなかったものというほかはない。すなわち、被告人らが、原審のとったグループ別審理方式をはじめその他の公判運営上の措置を不満として、そのような形態による裁判の進行をあくまで阻止しようとして、国選弁護人らを辞任せざるを得ない状況に追い込み、その結果弁護人らが出廷しなくなったとしても、それは被告人らがみずから望んだところと言わざるをえない。したがって、このような事情の下において、原審が弁護人不出廷のままで審理判決したからといって、被告人の弁護人依頼権の保障を無視した措置があるということはできない。」
として、被告人らの責めに帰すべき事由により弁護人が出廷しないような場合には、弁護人不出頭を理由として公判を継続したとしても違法はない旨判示しました。
3 解説
弁護士法第24条にある通り、弁護士は正当な理由がなければ官公署から委嘱を受けた事項を辞任できないとなされています。
国選弁護人も裁判所から依頼を受けた事項であるため、正当な理由がなければ辞任できません。
そして、国選弁護人については、刑事訴訟法にその解任事由が定めてある通り、裁判所が解任をすることとなっています。そのため、弁護人の一方的意思表示のみでは辞任できないということになります。
ただ、弁護人が辞任を申し出、それに相応の理由がある場合には、刑事訴訟法第38条1項に記載の事由が当てはまるようになることが多いと思われますから、解任となる可能性はあると思われます。
弁護士法第24条違反
1 委嘱事項を行う義務
弁護士法第24条は弁護士に対して、正当な理由がない限り法令により官公署の委嘱した事項及び弁護士会・日弁連が指定した事項を行うことを辞することができないと定めています。
2 官公署が委嘱した事項
官公署が委嘱した事項の例は、国選弁護人や、付審判請求がなされた場合の公訴維持を行う検察官役の弁護士のほか、司法試験委員や司法研修所教官などの職務も含みます。
ただ、この規程においても、対象となる職務について「弁護士」を選任する旨が定められているものに限るか(たとえば、司法試験法第13条2項は「委員は、裁判官、検察官、弁護士及び学識経験を有する者のうちから、法務大臣が任命する」としており、弁護士であるから司法試験委員に任命されていると言えます)、それに限らないのか(破産管財人には弁護士が選任されていますが、破産法第74条1項で「破産管財人は、裁判所が選任する」と記載するだけで、弁護士でなければならないという制限は法律上はありません)という問題があります。この問題について決まった解釈は存在しないようですが、仮に後者の考え方であっても、「正当な理由」を広く解釈すれば足りると考えられています。
3 弁護士会・日弁連が指定した事項
これについては、各種委員会の委員などが含まれると考えられています。
4 正当な理由
正当な理由については、辞職することが認められる程度の重大な事由である必要があり、長期療養が必要な病気などが挙げられると考えられますが、職務上多忙であることが理由となるかどうかについては慎重に検討されるべきとされています。
5 国選弁護人の辞任
この条文をめぐって最も問題となりうるのは、国選弁護人の辞任の問題です。
刑事訴訟法第38条3項では「裁判所は、・・・裁判所若しくは裁判長又は裁判官が付した弁護人を解任することができる」とし、解任事由として利益相反、心身の故障などが挙げられています。国選弁護人が「官公署の委嘱した事項」であることに争いはないと思われますが、いかなる場合に国選弁護人を辞任することが許される「正当な理由」があるといえるのかが問題となります。
このうち、刑事訴訟法第38条1項1~5号に記載している場合には正当な理由があるとされることになると思われますが、たとえば被告人と弁護人の間の信頼関係喪失が正当な理由となりうるかが問題となります。
この点について、裁判所は、正当な理由の有無の判断は裁判所がすべきものであるとしているものの、最判昭和54年7月24日において「被告人らは国選弁護人を通じて権利擁護のため正当な防禦活動を行う意思がないことを自らの行動によつて表明したものと評価すべきであり、そのため裁判所は、国選弁護人を解任せざるを得なかつた」としており、信頼関係喪失の程度や、事案の状況においては信頼関係喪失により解任することもやむを得ないと考えている様子も見受けられます(ただし、この件では5号に当たるように思われる事由も存在していました)。
守秘義務違反⑵
1 守秘義務の例外
弁護士法第23条は守秘義務を定めていますが、その但書において「但し、法律に
別段の定めがある場合は、この限りでない」とされています。
ここにいう「別段の定め」というのは、刑事訴訟法105条但書(「医師、歯科医師、助産師、看護師、弁護士(外国法事務弁護士を含む。)、弁理士、公証人、宗教の職に在る者又はこれらの職に在つた者は、業務上委託を受けたため、保管し、又は所持する物で他人の秘密に関するものについては、押収を拒むことができる。但し、本人が承諾した場合、押収の拒絶が被告人のためのみにする権利の濫用と認められる場合(被告人が本人である場合を除く。)その他裁判所の規則で定める事由がある場合は、この限りでない。)などを指すと考えられています。
ただし、実際にはこのような法律の規定がある場合だけではなく、「正当な理由」がある場合には守秘義務違反にならないと考えられています。実際、弁護士職務基本規程第23条でも「弁護士は、正当な理由なく、依頼者について職務上知り得た秘密を他に漏らし、又は利用してはならない」としています。
2 正当な理由
この守秘義務違反が許される正当な理由とは、法律に記載のあるような別段の定めがある場合だけではなく、以下のような場合も許されると考えられています。
①依頼者の承諾があるとき
守秘義務は依頼者を保護するものですから、本人の承諾があれば解除されると考えられます。
ただ、この承諾は真意に基づくものである必要があり、全体的には慎重に検討する必要があります。
②自己防衛の必要があるとき
依頼された事件に関連し、弁護士自身が訴訟の当事者になったり(元依頼者から訴えられるようなケース)、紛議調停・懲戒の手続きに付されたような場合には、秘密の開示が許されると考えています。
ただし、注意を要する点があります。弁護士が依頼者に対して弁護士報酬の支払いを求めて訴訟を提起するような場合に、自己防衛であるかどうかが問題となります。
もちろん報酬請求権は重要なものですから、全く守秘義務が解除されないとは言えないと思われますが、弁護士自身が訴えられたようなケースと同様とまでは考えられず、この点についても慎重に検討するべきであります。
③公共の利益のために必要があるとき
弁護士には、依頼者の利益を守るという義務のほかに、公共の利益を守る義務も課されていると考えられます。
たとえば、依頼者が第三者に対する殺人を相当具体的に企てていることを知った場合に、警察への通報や、第三者への注意喚起が許されるのかという問題が生じます。
一般的には、生命や身体に対する重大な危害を防止するために必要がある場合には守秘義務が解除されると考えられます。
ですので、上記の例のような場合には、捜査機関への通報などが守秘義務違反になると考えられません。
次に、財産に対する危害を防止するために守秘義務が解除されるかですが、これについては、上記の生命・身体に対する危害よりは一層慎重に考える必要があります。現時点で決まった解釈があるわけではありませんが、安易に秘密を漏示することは許されないと考えらます。