Archive for the ‘懲戒事由(各論)’ Category
利益相反①
1 利益相反
弁護士法第25条は、弁護士が職務を行い得ない事件を定めています。
同様に、弁護士職務基本規程第27条、28条も職務を行い得ない事件を定めています。
今回から、複数回にわたり、この職務を行い得ない事件を解説していきます。
2 「相手方の協議を受けて賛助し、又はその依頼を承諾した事件」(法1号)
(1)相手方
法1号が定めているのは、典型的には民事裁判の原告と被告双方から依頼を受けるような場合(これは双方代理の問題もあります)を指しています。
ただ、ここでの「相手方」は、典型的な原告・被告関係ではなく、実質的に利害関係が対立する状況の当事者を指すと考えられています。
反対に言うと、形式的に立場が異なった場合であっても、実質的に利害を共通するような場合には、「相手方」には当たらないということになります。
(2)協議を受けて
協議を受けるというのは、法律相談などが典型例です。場所等は問われませんが、単なる雑談などは含まれないと考えられます。
(3)賛助
賛助とは、相談者が希望する一定の結論を擁護する具体的な見解を示したり、法的な助言をすることを指します。
そのため、相談者が希望する見解と反対の結論を述べたような場合には、賛助したとは評価されません。
この点について、最高裁の裁判例でも「法律事件の協議に対し、事情を聴取した結果具体的な法律的手段を教示する段階に達すれば、一般的にいって右法条にいわゆる『賛助し』に該当する」としています。
「具体的な法律的手段を教示」する状態がどのような状態であるかは個別具体的な判断となりますが、法律相談において(たとえ無料でも)希望する結論を擁護するような意見を述べれば「賛助」に当たると考えられるものの、単に意見を述べた程度(希望する結論などとは関係なく、一般的意見を伝えたにすぎない程度)であれば、「賛助」に当たらない可能性があります。
(4)依頼を承諾し
本号後段は、相手方の依頼を承諾した事件の受任を禁じています。これは双方代理のような場合が典型的なのですが、前段と異なり協議は必要ありません。
ですので、協議なく依頼を受けた場合には(その妥当性は別として)、それだけで相手方の事件の受任が禁じられているということになります。
(5)事件
後段で問題となる事件とは、訴訟物の同一性等を問題とするのではなく、実質的に同一の紛争であるかどうかが問題とされます。
ですので、刑事事件の場合、共犯者相互だけではなく、贈賄側と収賄側のような共犯関係にない場合も、本号により受任が禁じられると考えられます。
国選弁護人の辞任
1 事例
刑事事件第1審において、国選弁護人に選任された弁護士が裁判所に辞任届を提出し、そのまま公判に出廷しなかった。しかし、その状況で裁判所は実質的に審理を継続した。
この点について、控訴審において①弁護人辞任届を提出しているに裁判所が解任しなかったのは違法である②公判に弁護士が出廷していないのに実質的な審理を行ったのは訴訟手続きの法令違反であるという主張が控訴審弁護人からなされた。
(東京高判昭和50年3月27日の事案)
2 裁判所の判断
①について
「現行制度の下においては、裁判所によって選任せられた国選弁護人は、裁判所の解任行為によらなければ、原則としてその地位が消滅することはなく、また正当な理由がなければ辞任の申出をすることができないものであって(弁護士法二四条参照)、しかもその正当理由の有無の判断は、選解任権を有する裁判所がすべきものと解せられる。」としており、裁判所が解任をするまでは国選弁護人の地位は残るほか、解任するかどうかについても裁判所が判断する旨を述べました。
②について
「前記国選弁護人らの辞任の申出に正当な理由が認められないとしてこれを解任しなかった原審の措置に、所論のような違法があると認めることはできない。また国選弁護人が辞任届を提出し、出廷しなかったのは、被告人らの責に帰すべき事由によるもので、それによって生ずる不利益は被告人らがみずから甘受せざるを得ないものとして、弁護人不出廷のまま実質審理を行ない判決するに至った原審の措置は、必要的弁護事件でない本件においては、やむをえなかったものというほかはない。すなわち、被告人らが、原審のとったグループ別審理方式をはじめその他の公判運営上の措置を不満として、そのような形態による裁判の進行をあくまで阻止しようとして、国選弁護人らを辞任せざるを得ない状況に追い込み、その結果弁護人らが出廷しなくなったとしても、それは被告人らがみずから望んだところと言わざるをえない。したがって、このような事情の下において、原審が弁護人不出廷のままで審理判決したからといって、被告人の弁護人依頼権の保障を無視した措置があるということはできない。」
として、被告人らの責めに帰すべき事由により弁護人が出廷しないような場合には、弁護人不出頭を理由として公判を継続したとしても違法はない旨判示しました。
3 解説
弁護士法第24条にある通り、弁護士は正当な理由がなければ官公署から委嘱を受けた事項を辞任できないとなされています。
国選弁護人も裁判所から依頼を受けた事項であるため、正当な理由がなければ辞任できません。
そして、国選弁護人については、刑事訴訟法にその解任事由が定めてある通り、裁判所が解任をすることとなっています。そのため、弁護人の一方的意思表示のみでは辞任できないということになります。
ただ、弁護人が辞任を申し出、それに相応の理由がある場合には、刑事訴訟法第38条1項に記載の事由が当てはまるようになることが多いと思われますから、解任となる可能性はあると思われます。
弁護士法第24条違反
1 委嘱事項を行う義務
弁護士法第24条は弁護士に対して、正当な理由がない限り法令により官公署の委嘱した事項及び弁護士会・日弁連が指定した事項を行うことを辞することができないと定めています。
2 官公署が委嘱した事項
官公署が委嘱した事項の例は、国選弁護人や、付審判請求がなされた場合の公訴維持を行う検察官役の弁護士のほか、司法試験委員や司法研修所教官などの職務も含みます。
ただ、この規程においても、対象となる職務について「弁護士」を選任する旨が定められているものに限るか(たとえば、司法試験法第13条2項は「委員は、裁判官、検察官、弁護士及び学識経験を有する者のうちから、法務大臣が任命する」としており、弁護士であるから司法試験委員に任命されていると言えます)、それに限らないのか(破産管財人には弁護士が選任されていますが、破産法第74条1項で「破産管財人は、裁判所が選任する」と記載するだけで、弁護士でなければならないという制限は法律上はありません)という問題があります。この問題について決まった解釈は存在しないようですが、仮に後者の考え方であっても、「正当な理由」を広く解釈すれば足りると考えられています。
3 弁護士会・日弁連が指定した事項
これについては、各種委員会の委員などが含まれると考えられています。
4 正当な理由
正当な理由については、辞職することが認められる程度の重大な事由である必要があり、長期療養が必要な病気などが挙げられると考えられますが、職務上多忙であることが理由となるかどうかについては慎重に検討されるべきとされています。
5 国選弁護人の辞任
この条文をめぐって最も問題となりうるのは、国選弁護人の辞任の問題です。
刑事訴訟法第38条3項では「裁判所は、・・・裁判所若しくは裁判長又は裁判官が付した弁護人を解任することができる」とし、解任事由として利益相反、心身の故障などが挙げられています。国選弁護人が「官公署の委嘱した事項」であることに争いはないと思われますが、いかなる場合に国選弁護人を辞任することが許される「正当な理由」があるといえるのかが問題となります。
このうち、刑事訴訟法第38条1項1~5号に記載している場合には正当な理由があるとされることになると思われますが、たとえば被告人と弁護人の間の信頼関係喪失が正当な理由となりうるかが問題となります。
この点について、裁判所は、正当な理由の有無の判断は裁判所がすべきものであるとしているものの、最判昭和54年7月24日において「被告人らは国選弁護人を通じて権利擁護のため正当な防禦活動を行う意思がないことを自らの行動によつて表明したものと評価すべきであり、そのため裁判所は、国選弁護人を解任せざるを得なかつた」としており、信頼関係喪失の程度や、事案の状況においては信頼関係喪失により解任することもやむを得ないと考えている様子も見受けられます(ただし、この件では5号に当たるように思われる事由も存在していました)。
守秘義務違反⑵
1 守秘義務の例外
弁護士法第23条は守秘義務を定めていますが、その但書において「但し、法律に
別段の定めがある場合は、この限りでない」とされています。
ここにいう「別段の定め」というのは、刑事訴訟法105条但書(「医師、歯科医師、助産師、看護師、弁護士(外国法事務弁護士を含む。)、弁理士、公証人、宗教の職に在る者又はこれらの職に在つた者は、業務上委託を受けたため、保管し、又は所持する物で他人の秘密に関するものについては、押収を拒むことができる。但し、本人が承諾した場合、押収の拒絶が被告人のためのみにする権利の濫用と認められる場合(被告人が本人である場合を除く。)その他裁判所の規則で定める事由がある場合は、この限りでない。)などを指すと考えられています。
ただし、実際にはこのような法律の規定がある場合だけではなく、「正当な理由」がある場合には守秘義務違反にならないと考えられています。実際、弁護士職務基本規程第23条でも「弁護士は、正当な理由なく、依頼者について職務上知り得た秘密を他に漏らし、又は利用してはならない」としています。
2 正当な理由
この守秘義務違反が許される正当な理由とは、法律に記載のあるような別段の定めがある場合だけではなく、以下のような場合も許されると考えられています。
①依頼者の承諾があるとき
守秘義務は依頼者を保護するものですから、本人の承諾があれば解除されると考えられます。
ただ、この承諾は真意に基づくものである必要があり、全体的には慎重に検討する必要があります。
②自己防衛の必要があるとき
依頼された事件に関連し、弁護士自身が訴訟の当事者になったり(元依頼者から訴えられるようなケース)、紛議調停・懲戒の手続きに付されたような場合には、秘密の開示が許されると考えています。
ただし、注意を要する点があります。弁護士が依頼者に対して弁護士報酬の支払いを求めて訴訟を提起するような場合に、自己防衛であるかどうかが問題となります。
もちろん報酬請求権は重要なものですから、全く守秘義務が解除されないとは言えないと思われますが、弁護士自身が訴えられたようなケースと同様とまでは考えられず、この点についても慎重に検討するべきであります。
③公共の利益のために必要があるとき
弁護士には、依頼者の利益を守るという義務のほかに、公共の利益を守る義務も課されていると考えられます。
たとえば、依頼者が第三者に対する殺人を相当具体的に企てていることを知った場合に、警察への通報や、第三者への注意喚起が許されるのかという問題が生じます。
一般的には、生命や身体に対する重大な危害を防止するために必要がある場合には守秘義務が解除されると考えられます。
ですので、上記の例のような場合には、捜査機関への通報などが守秘義務違反になると考えられません。
次に、財産に対する危害を防止するために守秘義務が解除されるかですが、これについては、上記の生命・身体に対する危害よりは一層慎重に考える必要があります。現時点で決まった解釈があるわけではありませんが、安易に秘密を漏示することは許されないと考えらます。
守秘義務⑴
1 守秘義務とは
弁護士法第23条は、「弁護士又は弁護士であつた者は、その職務上知り得た秘密を保持する権利を有し、義務を負う。」と定めています。これがいわゆる弁護士の「守秘義務」の根拠となっています。
2 守秘義務の趣旨
弁護士が守秘義務を負うのは、弁護士が法律事務を行うにあたり、自由闊達な議論を行ったり、正確な見通しを伝えるためには、依頼者から秘密に当たるような事項についても話してもらう必要があるところ、依頼者にしてもこのような義務がなければ、秘密漏示の危険性を意識する必要があるようになってしまうことから、このような守秘義務が定められていると考えられます。
弁護士の守秘義務は、弁護士法第23条に定められていますから、守秘義務違反は法律違反として懲戒の事由となりますが、それだけでなく刑法の秘密漏示罪にも該当することになりますから、罰則の対象にもなります。
3 守秘義務を負う者
弁護士法上守秘義務を負うのは「弁護士又は弁護士であった者」です。そのため、仮に弁護士を辞めたとしても、守秘義務は継続して残ることになります。
また、弁護士の使用人たる事務員が秘密漏示をした場合には、弁護士法上の守秘義務違反になるわけではありませんが、不法行為責任を負う可能性はあります。このような場合でも、弁護士職務基本規程第19条において、弁護士は事務職員、司法修習生等に対し、秘密漏示をしないよう監督指導する義務
を定められていますので、この義務を怠ったということであれば、会則違反として懲戒を受ける可能性があります。
4 守秘義務の対象
守秘義務の対象となる事項は「職務上知り得た秘密」です。
職務上知り得た秘密とは、弁護士が職務を行う過程で知った秘密を指しており、職務を離れて知った秘密についてはこの対象ではありません。
ここで「秘密」とは、一般に知られていな事実であって、本人が知られたくない事実であるか、一般人から見て知られたくないような事実であると考えられます。
問題は秘密が「依頼者の秘密」に限定されるのかどうかです。弁護士職務基本規程第23条は「依頼者について職務上知り得た秘密」の漏示等を禁止していますので、これとの関係性が問題となります。
日弁連の綱紀委員会では、弁護士法第23条の秘密の対象を第三者の秘密まで広げて解釈しているようです。ただ、弁護士と第三者の間には信頼関係があるとは限らないですから、秘密を漏示する正当な理由があるかどうかという点では、第三者の秘密の方が漏示することが許される場合が広いと考えられると思われます。
弁護士法第20条違反⑵
1 二重事務所の例外?
「弁護士は、いかなる名義をもつてしても、2箇以上の法律事務所を設けることができない」とされています。これが前回ご説明した二重事務所の禁止問題です。
しかし、弁護士法第20条3項は但書で「但し、他の弁護士の法律事務所において執務することを妨げない」と記載しています。これだけ見ると、この但書き記載は二重事務所の禁止の例外にもあたるようにも見えます。
2 弁護士の執務場所
弁護士の執務場所は、特に決まりがあるわけではありません。通常は事務所内で執務を行うことが多いと思われますが、裁判所で執務をすることもあるでしょうし、役所などで執務を行うこともあると思われます。
その意味では、弁護士の執務場所は、弁護士がいるところということになります。
3 弁護士法第20条3項但書の意味
そうすると、この但書きはどのように解釈するべきなのでしょうか。
仮に弁護士が、他の弁護士の事務所に行って執務を行う場合(例えば、弁護団事件の打ち合わせなど)を想定した場合、その瞬間を見れば、弁護士(これは赴いた方の弁護士です)がほかの弁護士事務所を執務場所とし、それとは別に自身が開設している事務所が存在しているように見え、二重事務所のように見えなくもないという状況が生じています。
しかし、二重事務所が禁止されているのは、弁護士が不在の事務所が生じることで非弁護士による非弁活動が跋扈することを防止するためですから、上記のような場合を禁止するものではありません。
むしろ、弁護士がほかの弁護士の事務所に赴き、共同して作業を行うことは自然なことですから、このよう場合が禁止されるということの方が不自然であるといえます。
そのため、弁護士法第20条3項は、あくまでも当たり前のことを規定しただけであって、二重事務所の禁止の例外を設けたようなものではないということになります。
もっとも、赴く方の弁護士が、専ら他の弁護士の事務所で執務を行い、執務場所の本拠となっているような場合や、他の弁護士の事務所に自身の名前を掲げているような場合には、もはや本拠は他の弁護士の事務所であるとしか言えないでしょうから、二重事務所の禁止に該当するということになります。
弁護士法第20条違反(1)
1 弁護士法第20条
弁護士法第20条は、法律事務所の名称、法律事務所の設置場所、二重事務所の禁止を定めています。
2 名称について
まず、1項は「弁護士の事務所は、法律事務所と称する」としています。司法書士事務所などが「法務事務所」などの名称を付与している場合がありますが、弁護士法第74条により、弁護士又は弁護士法人以外の者が「法律事務所」の名称を用いることはできません。
反対に、弁護士であれば、その事務所に必ず「法律事務所」とつけなければならないかという問題については、消極的に理解されています。
実際、法律事務所等の名称等に関する規程第3条では「弁護士は、その法律事務所に名称を付するときは、事務所名称中に「法律事務所」の文字を用いなければならない」としており、「名称を付するとき」だけ「法律事務所」とつけなければならないこととされています。そのため、特に事務所名を付さない場合などは、「法律事務所」を標榜する必要はないということになります。
3 法律事務所の設置場所
2項は、「法律事務所は、その弁護士の所属弁護士会の地域内に設けなければならない」としています。
弁護士は、各単位会に所属することが義務付けられていますが、その単位会による監督等を実効的なものにするため、事務所が単位会の地域内に所属する必要がある旨が定められています。
もし他の地域に法律事務所を移転する場合には、併せて登録換えを行う必要があります。
そのため、所属弁護士会の地域の外に事務所を設ける場合は当然本項に違反します(大阪弁護士会所属の弁護士が、兵庫県内にのみ事務所を設けた場合)。
また、たとえば京都弁護士会に所属する弁護士が、事務所を設けずに滋賀県内の自宅で執務をするような場合であっても、本項に違反することとなります。このような場合であっても、所属弁護士会による監督が困難となることに変わりはないと考えられるからです。
このような場合以外にも、所属弁護士会内に事務所を設けているものの、主たる執務が地域外の別の場所で行われているような場合には、本条3項に違反するだけでなく、本項にも違反すると考えられています。
なお、仮に本項に違反する行為があったとしても、事件の受任や訴訟行為自体は有効であるとされています。