【弁護士が解説】被疑者・被告人から頻繁に接見要請があった場合、このすべてに応じなかったことは品位を失う非行として懲戒事由となるか

【はじめに】

 弁護士の懲戒事例は、もちろん刑事事件でも起こる可能性があります。国選弁護の事件では、私選弁護の事件と違って被疑者被告人との人的なつながりももともと薄く、事前に法律相談をした上で依頼を受けているわけでもありませんし、被疑者被告人との信頼を築きにくい場合もあります。
 さらに、国選弁護人の解任事由は刑事訴訟法第38条の3による事由に限られているほか、それさえも簡単には認められません。
 一方、私選弁護にしても、国選弁護よりも高いお金を自分たちで支払っているということで、弁護活動への不満は募りやすくなってくる面があるでしょう
 今回は、国選弁護の接見について不満が出て懲戒請求に至った事例を想定して解説します。

【事例】

 A弁護士は、登録2年程度の弁護士であり、法律事務所に勤務しています。勤務している法律事務所は、個人の交通事故などの民事事件のほか、破産の申立なども扱っており、主に過去の依頼者などからの紹介とインターネット広告などを集客手段としています。代表者は、登録20年程度の弁護士Bです。
 あるとき、A弁護士は被疑者Cの被疑者国選弁護を受任しました。事件自体は認め事件であり、事実関係に関する争いは特にありませんでした。
 被疑者段階で、Cは頻繁に接見要請を出してきましたが、全ての要請に答えられたわけではなく、結局3日くらいに一度の頻度で接見に行っていました。A弁護士としては、全ての接見要請に応えられるわけではないことを説明しており、弁護活動中にCから不満を言われることはありませんでした。
 被告人国選では、被告人質問と証拠意見確認のために2回ほど接見に行き、打合せ自体は問題なくできました。
 判決も執行猶予付きの懲役判決となり、被告人は無事釈放されたのですが、接見が満足に行われなかったとして、A弁護士はCから懲戒請求をされました。
 接見に際してメモは取っていましたが、録音を取っていたわけではありませんでした。
(事例は、フィクションであり、実在の弁護士、依頼者、その他個人、会社、団体とは一切関係ありません。)

【対応方法】

 弁護士が被疑者被告人に十分な接見をしなかったということでの懲戒処分事例は存在しています。目立つのは被疑者国選段階から判決まで全く接見をしなかったような事例ですが、懲戒処分がされるかどうかは程度の問題と考えられるので、全く接見に行っていないわけではなくとも懲戒処分がなされる可能性はあります。
 関係すると思われる規定は以下です。

弁護士職務基本規程
(刑事弁護の心構え)
第四十六条 弁護士は、被疑者及び被告人の防御権が保障されていることにかんがみ、その権利及び利益を擁護するため、最善の弁護活動に努める。
(接見の確保と身体拘束からの解放)
第四十七条 弁護士は、身体の拘束を受けている被疑者及び被告人について、必要な接見の機会の確保及び身体拘束からの解放に努める。

弁護士法 
(懲戒事由及び懲戒権者)
第五十六条 第1項 弁護士及び弁護士法人は、この法律(弁護士・外国法事務弁護士共同法人の社員又は使用人である弁護士及び外国法事務弁護士法人の使用人である弁護士にあつては、この法律又は外国弁護士による法律事務の取扱い等に関する法律)又は所属弁護士会若しくは日本弁護士連合会の会則に違反し、所属弁護士会の秩序又は信用を害し、その他職務の内外を問わずその品位を失うべき非行があつたときは、懲戒を受ける。

 最善の弁護に努めていない、必要な接見の機会の確保が出来ていない、と判断されれば何らかの懲戒処分を受けることになります。
 事例のようなケースでは、実際の接見の頻度、接見要請についての説明内容、実際に弁護していた事案の内容、予想された裁判の進行についての説明内容を示していき、規程違反、弁護士法違反の認定がなされない様に対応していく必要があるでしょう。
 その他にも、接見中の細かい言動などについてC側から主張が出る可能性もあるので、出来る限り事前に対処していくと良いでしょう。

【最後に】

 弁護士が懲戒請求を申し立てられた場合、弁護士は代理人ではなく紛争の当事者となります。代理人として紛争にあたるのと、当事者として紛争にあたるのとでは気持ちもパフォーマンスも大きく変わってくると考えられます。代理人を入れることで、事実をしっかりと整理し、懲戒処分の回避や軽減につながる可能性が上がります。
 加えて、勤務弁護士の国選弁護についての懲戒処分であったとしても、事務所全体の評判に関わる可能性もあり、当該勤務弁護士について解雇・業務委託契約解除をしたとしても悪影響が払拭できない可能性があります。
 勤務弁護士が懲戒請求を受けている場合も含めて、懲戒請求手続について詳しく、懲戒請求に対する弁護活動経験が豊富な弁護士への相談を検討している先生方は、是非弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所にお問い合わせください。

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