Archive for the ‘懲戒事由(各論)’ Category
【弁護士が解説】訴訟上の書面等に不適切な記載をしてしまった場合にどのようにすればよいか
【事例】
X弁護士は、ある夫婦の女性の側から夫との離婚調停を依頼されました。女性曰く、夫は一切家事をせず、家にお金を入れることもなく、普段自分に暴言ばかり吐いている
とのことでした。
X弁護士が聞いていても、女性の境遇はあまりにも不憫であり、離婚をして自由になる方が幸せであろうと思えるほどでした。
そこで、X弁護士が家庭裁判所に離婚調停を申し立てたところ、夫の側から反論の書面が提出されました。
その書面には、妻が行っていることは全てうそであること、自分は妻を愛していること等が滔々と記載されていました。
これを読んで激高したX弁護士は、次の書面で「この夫は人でなしであり、人間の心を持たない化け物である」等と記載した書面を提出した。
【解説】
弁護士職務基本規程第6条によると、「弁護士は、名誉を重んじ、信用を維持するとともに、廉潔を保持し、常に品位を高めるように努める」とされています。
今回のX弁護士の書いた書面は、たとえ夫側の主張が事実に反する虚偽の主張であったとしても、虚偽であることを主張するものではなく、単にその人格を否定する内容となっています。
このような内容の書面は、いくら依頼者のためであるとしても、品位ある書面であるとは言えません。
ただ、さすがに弁護士個人の感情としてあからさまに名誉を毀損し、品位を害する書面を記載することはそれほど多くないと思われます。
実際には、依頼者から感情的な表現をすることを依頼され、弁護士もこれに同情して記載してしまうのではないかと予想されます。
それでも、たとえ依頼者からの依頼であったとしても、最終的には弁護士名義で書面を出すのですから、弁護士としての基本的なルールは遵守する必要があります。
だからと言って、依頼者自身が感情的な表現を記載した文書を、弁護士が証拠として提出することも、不法なものに加担することになりかねませんので注意する必要があります。
ですので、対外的に発出する文書や、証拠については、提出前に一旦見返し、冷静な気持ちで本当に提出してよいものかどうかを考える必要があります。
また、このような事案の場合には弁護士の側に非があることが比較的はっきりしているので、示談交渉を行い、謝罪等をして処分の軽減を目指していくことも考えられます。
【最後に】
弁護士が懲戒請求を受けた場合、弁護士は代理人ではなく紛争の当事者となります。代理人として紛争にあたるのはいつもどおり出来たとしても、当事者として紛争にあたる場合には思った通りの活動が出来ないということはあり得ます。代理人を入れることで、事実をしっかりと整理し、懲戒処分の回避や軽減につながる可能性が上がります。
加えて、勤務弁護士について懲戒請求を受けた場合に、実際に懲戒処分がなされれば事務所全体の評判に関わる可能性があります。当該勤務弁護士について解雇・業務委託契約解除をしたとしても悪影響が払拭できない可能性もあります。
勤務弁護士が懲戒請求を受けている場合も含めて、懲戒請求手続について詳しく、懲戒請求に対する弁護活動経験が豊富な弁護士への相談を検討している先生方は、是非弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所にお問い合わせください。
【弁護士が解説】弁護士報酬を請求する際にトラブルとなった場合にはどのように対応すればよいか
【はじめに】
弁護士として事件を受任し、時間と労力をかけて、なんとか当初の見立て通りの結果が出たとします。仮に弁護活動の結果自体は満足のいくものであったとしても、法的紛争が起こっているからこそ弁護士にお金を払って依頼するのであり、事件が終了したのであれば弁護士にお金を払いたくないと考えてしまうのはある意味合理的なのかもしれません。したがって、事件終了時にトラブルになる可能性が高い問題の一つとして、報酬に関する問題が出てきます。
今回は、弁護士報酬に関してトラブルになった事例を一つ取り上げて、弁護士報酬トラブルでの懲戒請求について説明します。
【事例】
X弁護士は、登録15年程度の弁護士であり、個人事業主として法律事務所を経営していた。あるとき、依頼者男性Yから、相手方女性Zとの離婚調停、審判、裁判を受任した。離婚、財産分与、親権に関する結果についての成功報酬額は委任契約書に記載されていた。経済的利益の計算方法は法律事務所の基準による旨を説明しており、当該基準は法律事務所のホームページにも記載されていた。X弁護士の見通し説明としては、離婚を防ぐこと、子の親権をYとすることは困難であるものの、Zの不貞等の関係やZ側の財産分与に関する主張との関係で、財産分与についてはZ側の請求額から一定程度が減額される可能性があるとのことであった。着手金は、受任の時点でYからXに支払われた。
受任から約3年後、結局審判を経てYとZは正式に離婚することとなり、子の親権者はZとされたものの、YがZに支払わなければならない金額としてはZの請求額よりも1000万円程度減額された。 弁護士報酬は、着手金、成功報酬、日当を合わせると合計400万円程度となった。X弁護士から依頼者Yに上記報酬を請求したところ、Yから、財産分与については一定の結果が出たものの自分としては親権を獲得したいというのが一番の希望であって、事件解決にも時間がかかっているので報酬には不満であること、弁護士報酬についても説明が十分になかったこと、他の弁護士事務所よりも弁護士報酬が高いので弁護士報酬を払いたくないと言った不満が出た。これに対し、X弁護士は料金は契約書通りであるので必ず支払ってもらう旨Yに伝え、それから3か月ほどYに内容証明等で督促をし続けたがYは一向にZが上記弁護士報酬と着手金の差額を支払おうとしなかった。そのため、XはZに対し、弁護士報酬の合計を350万円とする旨の提案をしたが、Yはそれにも応じなかった。やむなく、Xは所属弁護士会に対して紛議調停を申し立てたところ、それに腹を立てたYがXを懲戒するよう、Xが所属する弁護士会に懲戒請求を行った。
(事例は、フィクションであり、実在の弁護士、依頼者、その他個人、会社、団体とは一切関係ありません。)
【対応方法】
弁護士として仕事をしていると、事件が終わったところになってこのように元依頼人から報酬についての不満を出されることがあるかと思います。このような場合に実際に懲戒処分がされる事案については、ある程度共通した事情があると考えられます。
本件に関係しそうな規定は以下です。
弁護士職務基本規程
(名誉と信用)
(弁護士報酬)
第二十四条 弁護士は経済的利益事案の難易時間及び労力その他の事情に照らして 適正かつ妥当な弁護士報酬を提示しなければならない。
弁護士法
(懲戒事由及び懲戒権者)
第五十六条 第1項 弁護士及び弁護士法人は、この法律(弁護士・外国法事務弁護士共同法人の社員又は使用人である弁護士及び外国法事務弁護士法人の使用人である弁護士にあつては、この法律又は外国弁護士による法律事務の取扱い等に関する法律)又は所属弁護士会若しくは日本弁護士連合会の会則に違反し、所属弁護士会の秩序又は信用を害し、その他職務の内外を問わずその品位を失うべき非行があつたときは、懲戒を受ける。
本記事を作成するために調べた限りだと、弁護士報酬が単に他の事務所よりも高いからといってそれだけで懲戒処分がなされる事案は多くないように思われます。懲戒処分がなされるような事案は、契約の際の説明に大きな不備があるとか、あまりにも相手方に配慮がない請求の仕方を行っている等の要素が目立っているように思います。本件について考えると、弁護士報酬や計算基準については契約書に記載されていますが、経済的利益の計算基準についてはX弁護士の法律事務所基準によるとし、実際にホームページに記載があるとはいえ、契約の際に具体的には説明を行っていません。この点については、「基準」の予測可能性がどの程度あるか、「基準」について依頼者が疑義を申し立てることが有ったかどうかが問題になりそうです。
また、弁護活動が完全に成功したわけではないところで契約書通りの請求を行っていますが、依頼人によってはそのような請求をとらえて懲戒請求において主張してくる可能性があります。弁護士報酬の説明状況等について具体的に説明出来るようにしておくことで、実際に懲戒処分を避けることができる可能性が上がるでしょう。
最後に、X弁護士側から紛議調停を申し立てた点ですが、具体的な交渉状況を説明し、これがやむを得なかったことを説明する必要があります。
【最後に】
上に挙げた事例とは異なり、弁護活動に際して契約書を作成せずに弁護活動に入り、弁護士報酬を請求して懲戒される、というパターンは非常に典型的なパターンといえます。上に挙げた事例では、契約書もありますし、依頼者に対して相当な説明をした、という主張は比較的しやすいかも知れません。しかし、懲戒処分は厳密な証拠裁判主義にのっとって行われる民事・刑事裁判とは異なりますので、懲戒対応の経験やノウハウを持つ弁護士が代理に入ることで、納得のいかない処分を回避出来る可能性は上昇すると考えられます。
加えて、勤務弁護士が懲戒処分を受ければ、当該勤務弁護士について解雇・業務委託契約解除をしたとしても法律事務所への悪影響が生じるのを防げない可能性があります。
勤務弁護士が懲戒請求を受けている場合も含めて、懲戒請求手続のノウハウを持つ弁護士への相談を検討している先生方は、是非弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所にお問い合わせください。
【弁護士が解説】会費の滞納により懲戒処分となるのはなぜか
【事例】
A弁護士は、B県弁護士会に所属している弁護士です。
B県でも、弁護士数がかなり増えてきたことから、A弁護士の売上自体は年々減少していました。
弁護士である以上、毎月の会費の支払いが必要となってきます。
しかし、A弁護士はなかなかその費用が捻出できず、支払が滞りがちになっています。
【解説】
弁護士会は強制加入団体となっています。
法律上の制度でいえば、「弁護士となるには、日本弁護士連合会に備えた弁護士名簿に登録されなければならない。」(弁護士法8条)とされていますので、弁護士は全員日弁連に備えている名簿に登録されていることになります。
ただ、直接日弁連に登録を求めることはできず、「弁護士となるには、入会しようとする弁護士会を経て、日本弁護士連合会に登録の請求をしなければならない。」(弁護士法9条)となっており、必ずいずれかの弁護士会を経由して日弁連に登録の請求をする必要があります。
そのため、全ての弁護士は①どこかの単位会に入会し②日弁連の名簿に登録される必要があります。
この結果というわけではないですが、弁護士会の「会費」と呼ばれるものには、日弁連等の会費と単位会の会費の2種類があることになります。
この会費支払いの根拠となっているものですが、日弁連については「日本弁護士連合会会則」第95条で「弁護士である会員は、本会の会費として月額一万二百円を、所属弁護士会を経て、本会に納めなければならない。」とされており、会則上会費の支払いが義務となっています。また日弁連ではこのほかに特別会費(会則95条の3)についての規定があり、こちらも支払いが義務となっています。
これに対し、単位会の会費については、各単位会の会則により支払いが義務付けられているところです。
弁護士には、「所属弁護士会及び日本弁護士連合会の会則を守らなければならない」(弁護士法22条)という義務があります。会則により会費の支払いが義務付けられている以上、会費を支払わないという行為は会則違反行為となります。
そのため、弁護士法56条の懲戒事由としての「会則違反」に該当し、何からの懲戒を受けるということになってしまいます。
ただ、会費の滞納をしたからと言ってすぐに懲戒処分を受けるわけではありません。日弁連の会則上は6か月以上の会費の滞納があった場合に懲戒することができると定めています(会則97条)。
実際に懲戒事例として公告されているようなものは、それなりの期間の滞納があったり、未納が繰り返されている事案の他、手続の最中に会費を支払わなかった例が目立ちます。
そのため、会費滞納の事案におけるもっとも最良の行為は、速やかに未納分の会費を支払うということになります。
それでも金銭的にどうしても会費が支払えない等という場合には、やむを得ず処分を受けるということになります。
処分の内容は滞納している金額(月数)によるところですが、何回も未納で処分を受けていたり、未納金が大きくなるような場合には、退会命令の処分となってしまいます。
弁護士として活動を継続するためには速やかに納付することが必要です。
【最後に】
弁護士が懲戒請求を受けた場合、弁護士は代理人ではなく紛争の当事者となります。代理人として紛争にあたるのはいつもどおり出来たとしても、当事者として紛争にあたる場合には思った通りの活動が出来ないということはあり得ます。代理人を入れることで、事実をしっかりと整理し、懲戒処分の回避や軽減につながる可能性が上がります。
加えて、勤務弁護士について懲戒請求を受けた場合に、実際に懲戒処分がなされれば事務所全体の評判に関わる可能性があります。当該勤務弁護士について解雇・業務委託契約解除をしたとしても悪影響が払拭できない可能性もあります。
勤務弁護士が懲戒請求を受けている場合も含めて、懲戒請求手続について詳しく、懲戒請求に対する弁護活動経験が豊富な弁護士への相談を検討している先生方は、是非弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所にお問い合わせください。
【弁護士が解説】弁護士が委任契約を行う際、意思能力の点で注意しなければならない点があるか
【事例】
X弁護士は、ある高齢の女性Aから、親族間の財産争いについて相談を受けました。
Aが話すところによると、自身の長女Bとある土地をめぐってトラブルになっており、Aは自分の所有権を主張しているものの、Bは自身の夫の所有権を主張しているとのことでした。
ただ、最終的にAが死亡すると、相続人はBだけということもあり、いずれはBのものになる土地でもありました。
それでもAとしては、自身が生きている間に子どもと争いになることは望んでおらず、何とか穏当に解決できないかということでXのところに相談に来たのでした。
これを聞いたXは、自身が代理人となってBと交渉することを提案し、Aとの間で委任契約書を作成し、Aの代理人として土地所有権の主張を行いました。
これに対しBから「XはAから弁護士費用をだまし取っている」という懲戒請求が出されました。X弁護士としてはどうすればよいのでしょうか。
【解説】
親子間の財産争い自体は、それほど珍しいものではなくなりました。特に、子どものうち、親に味方する子どもと、争う子どもに別れるということもよくあります。
このような場合に、争っている子どもの側から、親側代理人弁護士に対して懲戒請求がなされることがあります。
その際よくなされる主張が「自身の親(委任契約者)は認知症であるから、委任契約を締結できるはずがない」という主張です。
ただ、成年後見人がいるなら当然後見人との間で契約する必要がありますが、成年後見制度を利用していない状況で、認知症であるから直ちに弁護活動を依頼できないということになってしまうと、その方の防御権を極めて制約してしまうことになります。
反対に、だからと言って自由に契約することを許してしまうと、委任契約の内容を全く理解できていないような場合であっても問題がないということになってしまい、依頼者保護の観点から適当ではありません。
最終的には弁護士の判断で契約するかどうかを決定することになりますが、その際ポイントとなるのは以下のような点です。
①まず、相談時の話の内容として、話の筋や内容に問題がないかです。もちろん過去のことを話すような場合に時系列が前後してしまうことは誰でもあるところですが、全く脈絡のない話が続いたり、およそ信じがたいような話がなされているような場合には意思能力を疑う必要があります。
②次に、どのような場所で相談を受けるかです。法律事務所の方に来てもらえるような場合や、役所などの窓口で相談をする場合はよいですが、相談者の体調面などから病院、施設で相談を受けるような場合は注意が必要となります。
③最後に、実際に認知症の診断がなされているかも問題となります。もちろん、人によっては知られたくない情報であるため、直接的に聞き出すことは困難な面はあります。ただ、周囲の人(味方となる親族)に聴取したり、本人の要介護度などを参考にすると判断能力について参考にすべき情報が得られることがあります。
【最後に】
弁護士が懲戒請求を受けた場合、弁護士は代理人ではなく紛争の当事者となります。代理人として紛争にあたるのはいつもどおり出来たとしても、当事者として紛争にあたる場合には思った通りの活動が出来ないということはあり得ます。代理人を入れることで、事実をしっかりと整理し、懲戒処分の回避や軽減につながる可能性が上がります。
加えて、勤務弁護士について懲戒請求を受けた場合に、実際に懲戒処分がなされれば事務所全体の評判に関わる可能性があります。当該勤務弁護士について解雇・業務委託契約解除をしたとしても悪影響が払拭できない可能性もあります。
勤務弁護士が懲戒請求を受けている場合も含めて、懲戒請求手続について詳しく、懲戒請求に対する弁護活動経験が豊富な弁護士への相談を検討している先生方は、是非弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所にお問い合わせください。
係争権利の譲り受け
1 係争権利の譲受の禁止
弁護士法第28条は、「弁護士は、係争権利を譲り受けることができない。」としています。
これは、弁護士が事件に介入することで利益を上げることが、弁護士としての品位を失い、格子柄性を害すると考えられたからです。
そして、本条に違反した行為については、2年以下の懲役又は300万円以下の罰金という刑事罰が科されています。
2 係争権利
係争権利としてどのようなものが対象となるかについては学説が分かれています。
1つ目は、現に訴訟、調停等紛争処理機関に係属中の権利であるとする考え方であり、もう一つはそれに限らず紛争中の全ての権利を指すとする考え方です。
裁判例には前者の説が多く、大審院時代の裁判例では「係争権利とは訴訟の目的と為りたる権利にして現に其訴訟中に係るものを指称し権利実行の為めに申立てられたる競売の目的と為りたるものは訴訟の目的物に非さる」と判断し、競売物件を譲り受けても違法ではないとしました。
先ほど述べた通り、本条違反の行為には刑事罰が科せられる以上、罪刑法定主義を前提に検討しなければならないため、より制限的に解釈する方が妥当であろうと思われます。
3 譲り受け
条文上の譲り受けには、有償無償の区別がありませんでの、いずれの場合でも本条に該当すると思われます。
また、売買、交換、贈与等の法形式も問われていませんので、いずれの形式であるかも問題となりません。
ただ、弁護士が、別の者を代理して係争権利を譲り受けた場合、双方代理の問題が生じる可能性はありますが、このような場合には本条に該当しないと思われます。
4 本条違反の行為
弁護士法28条に違反してなされた行為は、公序良俗に違反するような事情があれば無効となりますが、そうでなければ直ちに効力を否定されるものではないとされています。
【弁護士が解説】事件の相手方に対する言動で懲戒請求を受けるのか
【はじめに】
弁護士として民事訴訟、刑事訴訟、その他対手方との交渉事をやっていれば、事件の相手方や、関係者、裁判官、検察官等に対して様々な思いを持つことがあるでしょう。自分の中で思っているだけであり、実際の行動や言葉に出ることがなければ、弁護士懲戒の問題になることは通常考えられません。
しかし、もし実際に相手方や関係者に対して何らかの行為に出てしまった場合や、自分の思っていることをそのまま言ってしまったような場合には、品位を欠く言動をしたと言うことで懲戒処分の対象になってしまう可能性があります。
今回は、相手方に対して発した言葉が原因で懲戒請求をされた場合をモデルにして、解説していきたいと思います。
【事例】
A弁護士は、登録4年程度の弁護士であり、法律事務所に勤務しています。勤務している法律事務所は、交通事故や債務整理のほか、私選の刑事弁護などもある勝っています。
A弁護士は、登録4年程度ということで、民事事件、刑事事件共に様々な種類の事件を経験し、自分でも「一通りの事件をやってきたな」という認識でいました。依頼人との関係で何かクレームが出るというようなこともなく、書面の起案など普段の仕事に関しても事務所内からの評判は良かったようでした。そのため、A弁護士は、「自分もなかなか成長した。それにしても、周りの弁護士はなかなか仕事が出来ない人が多い。自分の事務所以外の弁護士と来たら期日は守らないし書面もスカスカだ。よくそれで依頼人から弁護士報酬を領収できるものだ。自分事務所の弁護士にしたって、自分より全然働かないくせして自分とそう変わらない給料をもらっている。全く不公平なものだ」等と普段から考えるようになっていました。
ある日の法廷で、A弁護士は、弁護士登録をしてから30年ほど経った相手方代理人Bから、「貴職の主張はなかなか法的構成が見えてこない。やはり君のバッジの色がまだ金ピカみたいだし、経験が浅いみたいだね」というようなことを言われました。
それに対してA弁護士は、「どこに目付けてんだクソジジイ。純金バッジだ。そんなことも見抜けねえから証拠もスカスカだし敗訴同然の和解勧奨をされるんだ。」と言ったところで、裁判官が「それくらいで」とA弁護士に対して注意をしました。その後もA弁護士は、「何だお前は。弁護士バッジが酸化して真っ黒になっているから偉いとでもいうのか?そんなものは登録して1年の新人だって家にあるもので作れる。お前はカネがないから真っ黒の弁護士バッジでがんばってるんじゃねえのか?」と続けました。法廷には傍聴人の姿はありませんでした。
後日、A弁護士は相手方のB弁護士から懲戒請求をされました。
なお、A弁護士が言う通り、A弁護士は実際に純金バッジの貸与を受けています。また、当該訴訟で相手方代理人B弁護士は、ほとんど敗訴といえるような和解勧奨を受けています。
(事例は、フィクションであり、実在の弁護士、依頼者、その他個人、会社、団体とは一切関係ありません。)
【対応方法】
このように訴訟活動の当否とは直接関係がない弁護士の言動に関する事案では、基本的に全く同じ言動で懲戒を受けることはありません。
しかし、懲戒処分を受ける可能性が高いか低いかを判断するに当たって、ある程度共通する判断要素があるように考えられます。
関係すると思われる規定は以下です。
弁護士職務基本規程
(名誉と信用)
第六条 弁護士は、名誉を重んじ、信用を維持するとともに、廉潔を保持し、常に品位を高めるように努める。
弁護士法
(懲戒事由及び懲戒権者)
第五十六条 第1項 弁護士及び弁護士法人は、この法律(弁護士・外国法事務弁護士共同法人の社員又は使用人である弁護士及び外国法事務弁護士法人の使用人である弁護士にあつては、この法律又は外国弁護士による法律事務の取扱い等に関する法律)又は所属弁護士会若しくは日本弁護士連合会の会則に違反し、所属弁護士会の秩序又は信用を害し、その他職務の内外を問わずその品位を失うべき非行があつたときは、懲戒を受ける。
訴訟活動等にあたって必要性がない言動での弁護士懲戒の事例は複数ありますが、懲戒処分がなされている事例で共通しているのは、相手方が特に何もしておらず、相手方に全く落ち度がないような事例です。特に、相手方から侮辱的言動を受けていないのに上記のような言動を行った場合や、唐突に上記のA弁護士のような言動を行った場合は懲戒処分を受けやすいと考えられます。また、相手方から「懲戒請求をせざるを得ないかも知れない」と言われたのに侮辱的言動を続けた場合も懲戒処分の可能性が高まりやすいと考えられます。
また、周囲の状況も考慮されている可能性が高いです。法廷で傍聴人が一定数いるような場合や、裁判長からの注意や訴訟指揮が有ったような場合で侮辱的言動を行い、懲戒処分を受けている事例が散見されます。
特に訴訟活動等にあたって必要性がない言動での懲戒請求を受けた場合は、当該言動が行われた経緯や、状況についての主張をよく検討することが、懲戒処分を受ける可能性を下げる上で重要となってくると考えられます。
【最後に】
弁護士が懲戒請求を受けた場合、弁護士は代理人ではなく紛争の当事者となります。代理人として紛争にあたるのはいつもどおり出来たとしても、当事者として紛争にあたる場合には思った通りの活動が出来ないということはあり得ます。代理人を入れることで、事実をしっかりと整理し、懲戒処分の回避や軽減につながる可能性が上がります。
加えて、勤務弁護士について懲戒請求を受けた場合に、実際に懲戒処分がなされれば事務所全体の評判に関わる可能性があります。当該勤務弁護士について解雇・業務委託契約解除をしたとしても悪影響が払拭できない可能性もあります。
勤務弁護士が懲戒請求を受けている場合も含めて、懲戒請求手続について詳しく、懲戒請求に対する弁護活動経験が豊富な弁護士への相談を検討している先生方は、是非弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所にお問い合わせください。
【弁護士が解説】弁護士が依頼者の違法行為を助長、ついにしてしまった場合にどのような処分となるのか
【事案】
X弁護士は、Aから、盗まれた自動車の取戻しを依頼された。
Aから聞くところによれば、ある日Aがコンビニに寄ろうと車を停めた際、何者かによって車が盗まれてしまい、Aが戻ると車はなくなっていたとのことであった。
Aは、どうやら敵対関係にあるBが怪しいと考えており、実際Bの会社の駐車場に行くとAの車が発見された。
しかし、AがBに対して車の返還を要請すると、Bは「いや、この車は第三者から買ったものだから、代金も払われないのに返してもらうことはできない」と述べ、返還を拒絶した。
この翌日Aが再びBの会社に赴くと、車は既になくなっていた。
このような経緯でX弁護士はAから依頼を受けたが、ある日Aが「先生、車を発見しました。鍵は私が持っています。またBに車を隠されてしまっては大変ですので、この車は私のところに引き上げてきてよいですよね」と連絡してきた。
このAからの連絡に対し、X弁護士が・・・
①「問題ありません。そのまま引き揚げてください。」と述べた場合
②「私からは何も言えません。ご自身で判断してください。」と述べた場合
③「それはダメです。」と述べた場合
にどのような問題が生じるか、検討していきましょう。
【解説】
仮に本当にAに所有権があり、法律上はAの返還請求権が認められるような状況であったとしても、現在はBが平穏に占有をしていると考えられる以上、Aの行為は窃盗罪に該当する行為となります(いわゆる自力救済)。
そうすると、Aの行おうとしている行為は、法律上違法なものであるとの評価を受けることになります。
①の場合
弁護士職務基本規程第14条では、「弁護士は、詐欺的取引、暴力その他違法若しくは不正な行為を助長し、又はこれらの行為を利用してはならない。」と定められています。
このような規定が設けられている趣旨は、社会正義を実現するべき弁護士が、違法行為等の助長や利用といった正義に反する行為をするべきではないと考えられているからです。
今回のケースのような自力救済が違法であることは、弁護士として刑法を学習した者であれば当然理解しているというべきだと考えられます。
そのため、Aの行為が違法であることは明白であり、これを問題ないとして承認する行為は、まさに違法行為を助長したと評価されることになりますし、場合によっては窃盗の共犯であると評価されかねません。
このような助言はするべきでないと言えるでしょう。
ただ、このような分かりやすい違法行為ばかりとは限りません。過失により助言をしてしまう可能性もありますが、このような場合には弁護士法56条1項の品位を失うべき非行になる可能性が生じてしまいます。
②の場合
次に②の場合です。この場合は積極的に引き揚げを肯定していません。ただし、③と異なって否定もしていないことになります。
しかし、自動車の取返しを委任されたX弁護士にとって、車が手元にあるということは、その後の交渉や訴訟を進める上で非常に有利になると考えられます。仮にX弁護士が、今後の自身の交渉等を有利にする目的で、Aの違法行為を放置したような場合には、X弁護士は違法行為を利用したということになりますので、やはり職務基本規程14条に違反することになります。
③の場合
違法行為の追認を求められたような場合には、これをしっかりと拒絶することが必要です。
そして、このような違法行為を求めるような依頼者とは、十分協議の上、委任契約の解除、代理人の辞任等の措置を考える必要があります。
依頼者が執拗に違法行為を求めるような場合には、弁護士に対する業務妨害として、各単位会の委員会、役員等にご相談されるのもよいと思われます。
①②の様に、違法行為の助長を故意にしてしまったような場合には、戒告以上の処分が下る可能性が高いと言えます。
弁護士が懲戒請求を申し立てられた場合、弁護士は代理人ではなく紛争の当事者となります。代理人として紛争にあたるのと、当事者として紛争にあたるのとでは気持ちもパフォーマンスも大きく変わってくると考えられます。代理人を入れることで、事実をしっかりと整理し、懲戒処分の回避や軽減につながる可能性が上がります。
懲戒請求手続について詳しく、懲戒請求に対する弁護活動経験が豊富な弁護士への相談を検討している先生方は、是非弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所にお問い合わせください。
非弁提携②
1 弁護士職務基本規程上の非弁提携
弁護士職務基本規程第11条は、「弁護士は、弁護士法第72条から第74条までの規定に違反する者又はこれらの規定に違反すると疑うに足りる相当な理由のある者から依頼者の紹介を受け、これらの者を利用し、又はこれらの者に自己の名義を利用させてはならない」としています。
弁護士法第27条の規定と規定ぶりが異なりますので、異なる点に絞ってみていきたいと思います。
2 「疑うに足りる相当な理由のある者」
弁護士法では、弁護士付72条から74条までの規定に違反する者との提携が禁止されていました。
しかし、弁護士職務基本規程では、仮に違反していると認定できないような場合であっても、そのようなことが十分疑われるような場合でも、そのような者とは提携すべきでないとして、提携禁止の対象が拡大されています。
3 依頼者の紹介
依頼者の紹介を受けるという文言は、弁護士法27条の「事件の周旋」と同様に解釈してよいと思われます。
4 これらの者を利用し
「利用し」とは、非弁活動を行うものを用いて事件を集めたり事件処理をさせることを指すと考えられます。
たとえば、一定の法律上の悩みを抱えた人を支援する団体に対して弁護士が委託料等を支払い、その見返りに団体から相談者のあっせんを受けるというような場合であっても、本条に違反することになります。
【弁護士が解説】被疑者・被告人から頻繁に接見要請があった場合、このすべてに応じなかったことは品位を失う非行として懲戒事由となるか
【はじめに】
弁護士の懲戒事例は、もちろん刑事事件でも起こる可能性があります。国選弁護の事件では、私選弁護の事件と違って被疑者被告人との人的なつながりももともと薄く、事前に法律相談をした上で依頼を受けているわけでもありませんし、被疑者被告人との信頼を築きにくい場合もあります。
さらに、国選弁護人の解任事由は刑事訴訟法第38条の3による事由に限られているほか、それさえも簡単には認められません。
一方、私選弁護にしても、国選弁護よりも高いお金を自分たちで支払っているということで、弁護活動への不満は募りやすくなってくる面があるでしょう
今回は、国選弁護の接見について不満が出て懲戒請求に至った事例を想定して解説します。
【事例】
A弁護士は、登録2年程度の弁護士であり、法律事務所に勤務しています。勤務している法律事務所は、個人の交通事故などの民事事件のほか、破産の申立なども扱っており、主に過去の依頼者などからの紹介とインターネット広告などを集客手段としています。代表者は、登録20年程度の弁護士Bです。
あるとき、A弁護士は被疑者Cの被疑者国選弁護を受任しました。事件自体は認め事件であり、事実関係に関する争いは特にありませんでした。
被疑者段階で、Cは頻繁に接見要請を出してきましたが、全ての要請に答えられたわけではなく、結局3日くらいに一度の頻度で接見に行っていました。A弁護士としては、全ての接見要請に応えられるわけではないことを説明しており、弁護活動中にCから不満を言われることはありませんでした。
被告人国選では、被告人質問と証拠意見確認のために2回ほど接見に行き、打合せ自体は問題なくできました。
判決も執行猶予付きの懲役判決となり、被告人は無事釈放されたのですが、接見が満足に行われなかったとして、A弁護士はCから懲戒請求をされました。
接見に際してメモは取っていましたが、録音を取っていたわけではありませんでした。
(事例は、フィクションであり、実在の弁護士、依頼者、その他個人、会社、団体とは一切関係ありません。)
【対応方法】
弁護士が被疑者被告人に十分な接見をしなかったということでの懲戒処分事例は存在しています。目立つのは被疑者国選段階から判決まで全く接見をしなかったような事例ですが、懲戒処分がされるかどうかは程度の問題と考えられるので、全く接見に行っていないわけではなくとも懲戒処分がなされる可能性はあります。
関係すると思われる規定は以下です。
弁護士職務基本規程
(刑事弁護の心構え)
第四十六条 弁護士は、被疑者及び被告人の防御権が保障されていることにかんがみ、その権利及び利益を擁護するため、最善の弁護活動に努める。
(接見の確保と身体拘束からの解放)
第四十七条 弁護士は、身体の拘束を受けている被疑者及び被告人について、必要な接見の機会の確保及び身体拘束からの解放に努める。
弁護士法
(懲戒事由及び懲戒権者)
第五十六条 第1項 弁護士及び弁護士法人は、この法律(弁護士・外国法事務弁護士共同法人の社員又は使用人である弁護士及び外国法事務弁護士法人の使用人である弁護士にあつては、この法律又は外国弁護士による法律事務の取扱い等に関する法律)又は所属弁護士会若しくは日本弁護士連合会の会則に違反し、所属弁護士会の秩序又は信用を害し、その他職務の内外を問わずその品位を失うべき非行があつたときは、懲戒を受ける。
最善の弁護に努めていない、必要な接見の機会の確保が出来ていない、と判断されれば何らかの懲戒処分を受けることになります。
事例のようなケースでは、実際の接見の頻度、接見要請についての説明内容、実際に弁護していた事案の内容、予想された裁判の進行についての説明内容を示していき、規程違反、弁護士法違反の認定がなされない様に対応していく必要があるでしょう。
その他にも、接見中の細かい言動などについてC側から主張が出る可能性もあるので、出来る限り事前に対処していくと良いでしょう。
【最後に】
弁護士が懲戒請求を申し立てられた場合、弁護士は代理人ではなく紛争の当事者となります。代理人として紛争にあたるのと、当事者として紛争にあたるのとでは気持ちもパフォーマンスも大きく変わってくると考えられます。代理人を入れることで、事実をしっかりと整理し、懲戒処分の回避や軽減につながる可能性が上がります。
加えて、勤務弁護士の国選弁護についての懲戒処分であったとしても、事務所全体の評判に関わる可能性もあり、当該勤務弁護士について解雇・業務委託契約解除をしたとしても悪影響が払拭できない可能性があります。
勤務弁護士が懲戒請求を受けている場合も含めて、懲戒請求手続について詳しく、懲戒請求に対する弁護活動経験が豊富な弁護士への相談を検討している先生方は、是非弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所にお問い合わせください。
係争権利の譲り受けが問題となった事案
1 事案の概要
BはCとの間で、Cが実施する事業について、Bにとって必要な経費をCが負担し、Cがその経費をBに送金して支払う旨の契約を締結した。
A弁護士は、Bから上記契約に基づく債権の回収を依頼され、Cに対して訴訟の提起を行うこととしたが、その前にBからその権利を譲り受けた、A弁護士がこのようなことをした理由は、Bが日本国内に登記した支店や営業所を持たない外国法人であったため、民事訴訟法上の訴訟手続の困難を回避するためであった。
譲り受け後、A弁護士は自ら原告となりCに対して本案訴訟を行い、債権を保全するため仮差押えを行った。
(最決平成21年8月12日の事案)
2 判旨
債権の管理又は回収の委託を受けた弁護士が,その手段として本案訴訟の提起や保全命令の申立てをするために当該債権を譲り受ける行為は,他人間の法的紛争に介入し,司法機関を利用して不当な利益を追求することを目的として行われたなど,公序良俗に反するような事情があれば格別,仮にこれが弁護士法28条に違反するものであったとしても,直ちにその私法上の効力が否定されるものではない(最高裁昭和46年(オ)第819号同49年11月7日第一小法廷判決・裁判集民事113号137頁参照)。そして,前記事実関係によれば,弁護士である抗告人は,本件債権の管理又は回収を行うための手段として本案訴訟の提起や本件申立てをするために本件債権を譲り受けたものであるが,原審の確定した事実のみをもって,本件債権の譲受けが公序良俗に反するということもできない。
3 解説
原審は、「抗告人が本件債権を譲り受けた当時,本件負担金の支払を求める訴訟等は係属していなかったから,本件債権の譲受けが,弁護士法28条に違反する行為であるとはいえない。しかし,弁護士の品位の保持や職務の公正な執行を担保するために弁護士が係争権利を譲り受けることを禁止した同条の趣旨に照らせば,本件負担金の支払を求める訴訟等が係属していなかったとしても,本案訴訟の提起や保全命令の申立てをすることを目的としてされた弁護士による本件債権の譲受けは,特段の事情がない限り,その私法上の効力が否定されるものというべきであり,本件債権の譲受けは無効であって,抗告人が本件債権を有しているとはいえない。」という理由で効力を否定していましたが、最高裁はこれを覆し、弁護士法28条違反(ないしこれに類する事態)だけでは直ちに民法90条に反するものではない旨を判示し、高裁に事件を差し戻しました。
なお、この最高裁決定には宮川裁判官の補足意見があり、その中ではこのような事態が民法90条に違反しないとしても、懲戒事由たる「品位を失うべき非行」には該当しうることが述べられています。