Archive for the ‘懲戒事由(各論)’ Category

【弁護士が解説】弁護士が依頼者の違法行為を助長、ついにしてしまった場合にどのような処分となるのか

2023-12-27

【事案】

 X弁護士は、Aから、盗まれた自動車の取戻しを依頼された。
 Aから聞くところによれば、ある日Aがコンビニに寄ろうと車を停めた際、何者かによって車が盗まれてしまい、Aが戻ると車はなくなっていたとのことであった。
 Aは、どうやら敵対関係にあるBが怪しいと考えており、実際Bの会社の駐車場に行くとAの車が発見された。
 しかし、AがBに対して車の返還を要請すると、Bは「いや、この車は第三者から買ったものだから、代金も払われないのに返してもらうことはできない」と述べ、返還を拒絶した。
 この翌日Aが再びBの会社に赴くと、車は既になくなっていた。
 このような経緯でX弁護士はAから依頼を受けたが、ある日Aが「先生、車を発見しました。鍵は私が持っています。またBに車を隠されてしまっては大変ですので、この車は私のところに引き上げてきてよいですよね」と連絡してきた。
 このAからの連絡に対し、X弁護士が・・・
①「問題ありません。そのまま引き揚げてください。」と述べた場合
②「私からは何も言えません。ご自身で判断してください。」と述べた場合
③「それはダメです。」と述べた場合
にどのような問題が生じるか、検討していきましょう。

【解説】

 仮に本当にAに所有権があり、法律上はAの返還請求権が認められるような状況であったとしても、現在はBが平穏に占有をしていると考えられる以上、Aの行為は窃盗罪に該当する行為となります(いわゆる自力救済)。
 そうすると、Aの行おうとしている行為は、法律上違法なものであるとの評価を受けることになります。

①の場合
 弁護士職務基本規程第14条では、「弁護士は、詐欺的取引、暴力その他違法若しくは不正な行為を助長し、又はこれらの行為を利用してはならない。」と定められています。
 このような規定が設けられている趣旨は、社会正義を実現するべき弁護士が、違法行為等の助長や利用といった正義に反する行為をするべきではないと考えられているからです。
 今回のケースのような自力救済が違法であることは、弁護士として刑法を学習した者であれば当然理解しているというべきだと考えられます。
 そのため、Aの行為が違法であることは明白であり、これを問題ないとして承認する行為は、まさに違法行為を助長したと評価されることになりますし、場合によっては窃盗の共犯であると評価されかねません。
 このような助言はするべきでないと言えるでしょう。
 ただ、このような分かりやすい違法行為ばかりとは限りません。過失により助言をしてしまう可能性もありますが、このような場合には弁護士法56条1項の品位を失うべき非行になる可能性が生じてしまいます。
②の場合
 次に②の場合です。この場合は積極的に引き揚げを肯定していません。ただし、③と異なって否定もしていないことになります。
 しかし、自動車の取返しを委任されたX弁護士にとって、車が手元にあるということは、その後の交渉や訴訟を進める上で非常に有利になると考えられます。仮にX弁護士が、今後の自身の交渉等を有利にする目的で、Aの違法行為を放置したような場合には、X弁護士は違法行為を利用したということになりますので、やはり職務基本規程14条に違反することになります。
③の場合
 違法行為の追認を求められたような場合には、これをしっかりと拒絶することが必要です。
そして、このような違法行為を求めるような依頼者とは、十分協議の上、委任契約の解除、代理人の辞任等の措置を考える必要があります。
 依頼者が執拗に違法行為を求めるような場合には、弁護士に対する業務妨害として、各単位会の委員会、役員等にご相談されるのもよいと思われます。

 ①②の様に、違法行為の助長を故意にしてしまったような場合には、戒告以上の処分が下る可能性が高いと言えます。
 弁護士が懲戒請求を申し立てられた場合、弁護士は代理人ではなく紛争の当事者となります。代理人として紛争にあたるのと、当事者として紛争にあたるのとでは気持ちもパフォーマンスも大きく変わってくると考えられます。代理人を入れることで、事実をしっかりと整理し、懲戒処分の回避や軽減につながる可能性が上がります。
 懲戒請求手続について詳しく、懲戒請求に対する弁護活動経験が豊富な弁護士への相談を検討している先生方は、是非弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所にお問い合わせください。

非弁提携②

2023-12-21

1 弁護士職務基本規程上の非弁提携

 弁護士職務基本規程第11条は、「弁護士は、弁護士法第72条から第74条までの規定に違反する者又はこれらの規定に違反すると疑うに足りる相当な理由のある者から依頼者の紹介を受け、これらの者を利用し、又はこれらの者に自己の名義を利用させてはならない」としています。
 弁護士法第27条の規定と規定ぶりが異なりますので、異なる点に絞ってみていきたいと思います。

2 「疑うに足りる相当な理由のある者」

 弁護士法では、弁護士付72条から74条までの規定に違反する者との提携が禁止されていました。
しかし、弁護士職務基本規程では、仮に違反していると認定できないような場合であっても、そのようなことが十分疑われるような場合でも、そのような者とは提携すべきでないとして、提携禁止の対象が拡大されています。

3 依頼者の紹介

 依頼者の紹介を受けるという文言は、弁護士法27条の「事件の周旋」と同様に解釈してよいと思われます。

4 これらの者を利用し

 「利用し」とは、非弁活動を行うものを用いて事件を集めたり事件処理をさせることを指すと考えられます。
 たとえば、一定の法律上の悩みを抱えた人を支援する団体に対して弁護士が委託料等を支払い、その見返りに団体から相談者のあっせんを受けるというような場合であっても、本条に違反することになります。

【弁護士が解説】被疑者・被告人から頻繁に接見要請があった場合、このすべてに応じなかったことは品位を失う非行として懲戒事由となるか

2023-12-05

【はじめに】

 弁護士の懲戒事例は、もちろん刑事事件でも起こる可能性があります。国選弁護の事件では、私選弁護の事件と違って被疑者被告人との人的なつながりももともと薄く、事前に法律相談をした上で依頼を受けているわけでもありませんし、被疑者被告人との信頼を築きにくい場合もあります。
 さらに、国選弁護人の解任事由は刑事訴訟法第38条の3による事由に限られているほか、それさえも簡単には認められません。
 一方、私選弁護にしても、国選弁護よりも高いお金を自分たちで支払っているということで、弁護活動への不満は募りやすくなってくる面があるでしょう
 今回は、国選弁護の接見について不満が出て懲戒請求に至った事例を想定して解説します。

【事例】

 A弁護士は、登録2年程度の弁護士であり、法律事務所に勤務しています。勤務している法律事務所は、個人の交通事故などの民事事件のほか、破産の申立なども扱っており、主に過去の依頼者などからの紹介とインターネット広告などを集客手段としています。代表者は、登録20年程度の弁護士Bです。
 あるとき、A弁護士は被疑者Cの被疑者国選弁護を受任しました。事件自体は認め事件であり、事実関係に関する争いは特にありませんでした。
 被疑者段階で、Cは頻繁に接見要請を出してきましたが、全ての要請に答えられたわけではなく、結局3日くらいに一度の頻度で接見に行っていました。A弁護士としては、全ての接見要請に応えられるわけではないことを説明しており、弁護活動中にCから不満を言われることはありませんでした。
 被告人国選では、被告人質問と証拠意見確認のために2回ほど接見に行き、打合せ自体は問題なくできました。
 判決も執行猶予付きの懲役判決となり、被告人は無事釈放されたのですが、接見が満足に行われなかったとして、A弁護士はCから懲戒請求をされました。
 接見に際してメモは取っていましたが、録音を取っていたわけではありませんでした。
(事例は、フィクションであり、実在の弁護士、依頼者、その他個人、会社、団体とは一切関係ありません。)

【対応方法】

 弁護士が被疑者被告人に十分な接見をしなかったということでの懲戒処分事例は存在しています。目立つのは被疑者国選段階から判決まで全く接見をしなかったような事例ですが、懲戒処分がされるかどうかは程度の問題と考えられるので、全く接見に行っていないわけではなくとも懲戒処分がなされる可能性はあります。
 関係すると思われる規定は以下です。

弁護士職務基本規程
(刑事弁護の心構え)
第四十六条 弁護士は、被疑者及び被告人の防御権が保障されていることにかんがみ、その権利及び利益を擁護するため、最善の弁護活動に努める。
(接見の確保と身体拘束からの解放)
第四十七条 弁護士は、身体の拘束を受けている被疑者及び被告人について、必要な接見の機会の確保及び身体拘束からの解放に努める。

弁護士法 
(懲戒事由及び懲戒権者)
第五十六条 第1項 弁護士及び弁護士法人は、この法律(弁護士・外国法事務弁護士共同法人の社員又は使用人である弁護士及び外国法事務弁護士法人の使用人である弁護士にあつては、この法律又は外国弁護士による法律事務の取扱い等に関する法律)又は所属弁護士会若しくは日本弁護士連合会の会則に違反し、所属弁護士会の秩序又は信用を害し、その他職務の内外を問わずその品位を失うべき非行があつたときは、懲戒を受ける。

 最善の弁護に努めていない、必要な接見の機会の確保が出来ていない、と判断されれば何らかの懲戒処分を受けることになります。
 事例のようなケースでは、実際の接見の頻度、接見要請についての説明内容、実際に弁護していた事案の内容、予想された裁判の進行についての説明内容を示していき、規程違反、弁護士法違反の認定がなされない様に対応していく必要があるでしょう。
 その他にも、接見中の細かい言動などについてC側から主張が出る可能性もあるので、出来る限り事前に対処していくと良いでしょう。

【最後に】

 弁護士が懲戒請求を申し立てられた場合、弁護士は代理人ではなく紛争の当事者となります。代理人として紛争にあたるのと、当事者として紛争にあたるのとでは気持ちもパフォーマンスも大きく変わってくると考えられます。代理人を入れることで、事実をしっかりと整理し、懲戒処分の回避や軽減につながる可能性が上がります。
 加えて、勤務弁護士の国選弁護についての懲戒処分であったとしても、事務所全体の評判に関わる可能性もあり、当該勤務弁護士について解雇・業務委託契約解除をしたとしても悪影響が払拭できない可能性があります。
 勤務弁護士が懲戒請求を受けている場合も含めて、懲戒請求手続について詳しく、懲戒請求に対する弁護活動経験が豊富な弁護士への相談を検討している先生方は、是非弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所にお問い合わせください。

係争権利の譲り受けが問題となった事案

2023-11-30

1 事案の概要

 BはCとの間で、Cが実施する事業について、Bにとって必要な経費をCが負担し、Cがその経費をBに送金して支払う旨の契約を締結した。
 A弁護士は、Bから上記契約に基づく債権の回収を依頼され、Cに対して訴訟の提起を行うこととしたが、その前にBからその権利を譲り受けた、A弁護士がこのようなことをした理由は、Bが日本国内に登記した支店や営業所を持たない外国法人であったため、民事訴訟法上の訴訟手続の困難を回避するためであった。
 譲り受け後、A弁護士は自ら原告となりCに対して本案訴訟を行い、債権を保全するため仮差押えを行った。
(最決平成21年8月12日の事案)

2 判旨

 債権の管理又は回収の委託を受けた弁護士が,その手段として本案訴訟の提起や保全命令の申立てをするために当該債権を譲り受ける行為は,他人間の法的紛争に介入し,司法機関を利用して不当な利益を追求することを目的として行われたなど,公序良俗に反するような事情があれば格別,仮にこれが弁護士法28条に違反するものであったとしても,直ちにその私法上の効力が否定されるものではない(最高裁昭和46年(オ)第819号同49年11月7日第一小法廷判決・裁判集民事113号137頁参照)。そして,前記事実関係によれば,弁護士である抗告人は,本件債権の管理又は回収を行うための手段として本案訴訟の提起や本件申立てをするために本件債権を譲り受けたものであるが,原審の確定した事実のみをもって,本件債権の譲受けが公序良俗に反するということもできない。

3 解説

 原審は、「抗告人が本件債権を譲り受けた当時,本件負担金の支払を求める訴訟等は係属していなかったから,本件債権の譲受けが,弁護士法28条に違反する行為であるとはいえない。しかし,弁護士の品位の保持や職務の公正な執行を担保するために弁護士が係争権利を譲り受けることを禁止した同条の趣旨に照らせば,本件負担金の支払を求める訴訟等が係属していなかったとしても,本案訴訟の提起や保全命令の申立てをすることを目的としてされた弁護士による本件債権の譲受けは,特段の事情がない限り,その私法上の効力が否定されるものというべきであり,本件債権の譲受けは無効であって,抗告人が本件債権を有しているとはいえない。」という理由で効力を否定していましたが、最高裁はこれを覆し、弁護士法28条違反(ないしこれに類する事態)だけでは直ちに民法90条に反するものではない旨を判示し、高裁に事件を差し戻しました。
 なお、この最高裁決定には宮川裁判官の補足意見があり、その中ではこのような事態が民法90条に違反しないとしても、懲戒事由たる「品位を失うべき非行」には該当しうることが述べられています。

事件放置を行った場合にどのような懲戒処分を受ける可能性があるのかについて弁護士が解説

2023-11-17

【はじめに】

 弁護士職務基本規程第35条では、「弁護士は、事件を受任した時は、速やかに着手し、遅滞なく処理しなければならない。」とされ、依頼された事件については速やかに着手し遅滞なく処理することを義務としています。この義務の違反が一般には事件放置などと言われており、品位を害したとも評価されることで懲戒処分の対象となることがあります。
 それでは、依頼者から事件放置によって懲戒請求をされたとき、懲戒請求をほのめかされたときはどう対応すれば良いのでしょうか?
 架空の事例を基に解説していきます。

【事例】

 Aさんは、登録10年程度の弁護士であり、個人の交通事故などの民事事件のほか、破産の申立なども扱っており、主に過去の依頼者などからの紹介とインターネット広告などを集客手段としていた。
 あるとき、インターネットのポータルサイト経由で個人の依頼者Bから自己破産の案件を受任し、着手金等を含む弁護士費用のための預り金計50万円を受領したが、受任から1年6か月にわたって破産手続きの申立てをしなかった。
 依頼者Bは、事件放置であるとして、A弁護士の所属する単位会に懲戒請求を行った。
(事例は、フィクションであり、実在の弁護士、依頼者、その他個人、会社、団体とは一切関係ありません。)

【対応方法】

 まず、事件に「速やかに着手」しなかったとして事件放置といえるかどうかについては、事件を放置した期間、及び事件着手するための必要な準備がどのようなものであったかによると考えられます。
「解説 弁護士職務規程 第3版」によれば、「弁護士の着手に先行して、依頼者によって必要な調査等の事前準備が整わない場合は、事件の着手にあたる行為が遅延したとしても、直ちに本条に違反するとはいえない。」とあります。一律に何年着手しなかったからと言って懲戒処分の対象になるものではありません。
 ただし、同書では、「この場合は、依頼者に対し、その依頼者がなすべき調査について、できるだけ速やかに事前準備できるように適切な助言・指示をしておくべきである。そして、弁護士の側では、条件さえ整えば速やかに着手できる準備を整えておくべきである。」としています。
 本件についていえば、事件を受任したことを失念していたために速やかな着手が出来なかった場合などは懲戒処分を受ける可能性が非常に高いと言わざるを得ません。また、精神疾患の発症などによって着手できないような場合でも、精神疾患はあくまで弁護士側の事情であり、依頼者には関係ないことであるため、その理由だけでは懲戒処分を免れない可能性は高いと言えます。
 しかしながら、事件の事案からどのような事前準備が必要であり、実際にその事前準備がどのように進行していたのか、事前準備が素早く行えるようにするためにどういったアドバイスをしていたのか、弁護士の側では速やかに着手出来るようにどのような準備を行っていたのか説明が出来るようにすれば、懲戒処分の回避や軽減につながる可能性があります。
 なお、事件に着手できない理由について依頼者に虚偽の説明を行っていたような場合は、別途事件についての報告義務違反であるとして懲戒処分が重くなる方向になると考えられます。事件に着手できなかった理由について依頼者にどのような説明を行ったか、別途検討しておく必要もあります。

【最後に】

 弁護士が懲戒請求を申し立てられた場合、弁護士は代理人ではなく紛争の当事者となります。代理人として紛争にあたるのと、当事者として紛争にあたるのとでは気持ちもパフォーマンスも大きく変わってくると考えられます。代理人を入れることで、事実をしっかりと整理し、懲戒処分の回避や軽減につながる可能性が上がります。
 懲戒請求手続について詳しく、懲戒請求に対する弁護活動経験が豊富な弁護士への相談を検討している先生方は、是非弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所にお問い合わせください。

非弁提携②

2023-11-16

1 弁護士法上の非弁提携の禁止

 弁護士法27条は、「弁護士は、第七十二条乃至第七十四条の規定に違反する者から事件の周旋を受け、又はこれらの者に自己の名義を利用させてはならない。」とし非弁提携の禁止を定めています。
 弁護士職務基本規程11条の規定とは若干異なりますので、今回は弁護士法の規定を見ていきます。

2 事件の周旋

 ここでの事件の周旋の意味については、「弁護士法第七十二条にいわゆる訴訟事件の代理の周旋とは申込を受けて訴訟事件の当事者と訴訟代理人との間に介在し、両者間における委任関係成立のための便宜をはかり、其の成立を容易ならしめる行為を指称し、必ずしも委任関係成立の現場にあつて直接之に関与介入するの要はない」(名古屋高金沢支判昭和34年2月19日)とされています。
そのため、弁護士から仲介を依頼した場合も、反対に仲介業者(非弁)から依頼者をあっせんされた場合のいずれも含まれることになります。

3 自己名義の利用

 自己の名義を利用させるとは、「弁護士○○」という肩書付きの名称を利用させた場合だけではなく、「○○」という個人名のみの利用でも含まれるほか、「◇◇法律事務所」という事務所名を利用させた場合も含まれる。ただ、これは弁護士が自らの意思で利用させた場合に限られるので、勝手に弁護士名を利用されていたような場合には本条違反とはなりません。
 名義の利用については有償無償を問わず、利用をさせたこと自体が問題となります。

4 本条違反の行為

 弁護士が行った非弁提携行為については、当該弁護士を罰せば足りることから、他に問題が無ければその行為自体は有効であると考えられます。

5 示談代行

 交通事故を起こした場合に、保険会社が示談を代行しているように見えることがあります。
 ただ、保険会社は、保険契約により自ら被害者に対して賠償をする義務がありますので、他人の事務ではなく自己の事務として被害者との間で示談交渉を行っています。そのため、弁護士法72条の問題は生じません。
 これに対し、物損事故調査員(いわゆるアジャスター)が示談の代行を行う場合、物損事故調査員が保険会社の社員でなければ、弁護士法72条の問題が生じかねない事態となります。
 この点については日本損害保険協会と日弁連の間で折衝が行われ、あくまでも物損事故調査員は
(保険会社側の)弁護士の補助者ととして業務を行っているという立場が確認され、その細則が定められるに至りました。

非弁提携①

2023-10-19

1 非弁提携

 弁護士法27条は、「弁護士は、第72条乃至第74条の規定に違反する者から事件の周旋を受け、又はこれらの者に自己の名義を利用させてはならない。」としています。
 また、弁護士職務基本規程第11条は「弁護士は、弁護士法第72条から第74条までの規定に違反する者又はこれらの規定に違反すると疑うに足りる相当な理由のある者から依頼者の照会を受け、これらの者を利用し、又はこれらの者に自己の名義を利用させてはならない。」としています。

2 弁護士法72条から74条

 弁護士法72条は、非弁護士の法律事務の取り扱いを禁止しており、「弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。ただし、この法律又は他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。」としています。
 弁護士法73条は、譲り受けた権利の実行を業とすることを禁止しており、「何人も、他人の権利を譲り受けて、訴訟、調停、和解その他の手段によつて、その権利の実行をすることを業とすることができない。」としています。
 弁護士法74条は、非弁護士が弁護士を標榜すること等を禁止しており、「1弁護士又は弁護士法人でない者は、弁護士又は法律事務所の標示又は記載をしてはならない。2 弁護士又は弁護士法人でない者は、利益を得る目的で、法律相談その他法律事務を取り扱う旨の標示又は記載をしてはならない。 3 弁護士法人でない者は、その名称中に弁護士法人又はこれに類似する名称を用いてはならない。」としています。
 いずれの規定も、非弁護士が弁護士業務を行うことを禁止し、また国民が弁護士でない者に法律事務を依頼して問題が生じることを未然に防ぐ規定であるということができます。

汚職行為の禁止

2023-09-14

1 汚職行為の禁止
 

 弁護士法第26条は、「弁護士は、受任している事件に関し相手方から利益を受け、又はこれを要求し、若しくは約束してはならない。」と定めています。
 この条文は、弁護士の汚職行為の禁止を定めるものです。
 そして、他の条文と共に懲戒事由となりうることは当然なのですが、弁護士法第76条の規定により、本条違反の行為については3年以下の懲役刑が定められ、刑事罰が科せられることとなっています。なお、贈収賄の罪と異なり、贈賄罪に該当する規程はありません。

2 「受任している事件」

 受任している事件は、現に受任している事件を指し、過去に受任していた事件などは含まれません。
 ただ、本条に違反していなくても、過去に受任していた事件の相手方からの利益供与が、弁護士の品位を失うものとして懲戒事由に該当する可能性は否定されません。

3 相手方

 他の条文と同じように、事件の直接の相手方に限らず、実質的に利害が対立する者を指します。

4 利益

 ここでの「利益」は、賄賂罪と同じく、「人の需要若しくは欲望を満たすに足りる一切の利益」を指します。
 現金はもちろん、飲食や地位なども含まれます。
 また、現金の場合、謝礼のようなものに限られず、実費日当のようなものであっても対象となります。

5 26条違反の行為

 この条文に違反してなされた法律行為、訴訟行為であっても、法的安定性の観点からして有効であると考えられています。

利益相反⑤

2023-08-17

1 弁護士職務基本規程第27条

 弁護士法第25条により職務を行うことが禁止されている事件とほとんど同様の規定が、弁護士職務基本規程第27条に定められています。
 基本規程第27条の5号の範囲が「仲裁、調停、和解あっせんその他の裁判外紛争解決手続機関」という風に、弁護士法上の「仲裁」より拡大されているところはありますが、それ以外は違いがありません。
 これに対し、弁護士職務基本規程第28条は、弁護士法に記載のない「職務を行い得ない事件」となります。

2 弁護士職務基本規程第28条

①1号
 1号で禁止されているのは、事件の相手方が弁護士自身の親族であるような事件です。
このような事件の場合には、依頼者の利益を害する危険性があると言えます。
②2号
 2号で禁止されているのは「受任している他の事件の依頼者又は継続的な法律事務の提供を約しているものを相手方とする事件」です。
 弁護士法第25条第3号で禁止されているのは「受任している事件の相手方からの依頼」による事件だけですが、弁護士が受任している事件の依頼者等を相手方とする事件についても、弁護士がその者との関係を理由に新しい依頼者の利益を害する場合もありうるため、このような事件の受任は禁止されています。
③3号
 3号で禁止されているのは「依頼者の利益と他の依頼者の利益が相反する事件」です。
 たとえば、1人の債務者に対して、2人以上の債権者から債権回収の依頼を受ける場合が問題となります。この債務者に資力が十分あるような事案であれば問題は生じませんが、回収の見込みが不明瞭であるような場合には、片方の債権を回収してしまうと、もう片方の債権が回収不能となってしまう可能性があります。
 このような場合、弁護士の公平性に疑念を持たれかねないということで、職務を行うことが禁止されています。
④4号
 4号で禁止されているのは「依頼者の利益と自己の経済的利益が相反する事件」です。ここでの「自己」は弁護士を指していますので、弁護士と依頼者の利益が相反するような場合を指します。
たとえば、弁護士自身が株式を保有する企業に対する株主代表訴訟などはこれに該当する可能性があります。
⑤禁止の例外
 これらの禁止についてはいずれも例外があり、1、4号については依頼者が同意した場合2号については依頼者及び相手方が、3号については双方の依頼者が同意をした場合には、禁止が解除されることとなっています。

利益相反④

2023-07-20

1 利益相反

 弁護士法第25条は、弁護士が職務を行い得ない事件を定めています。
 同様に、弁護士職務基本規程第27条、28条も職務を行い得ない事件を定めています。
前回に引き続き、この職務を行い得ない事件を解説していきます。

2 弁護士法人の社員についての規定

 弁護士法第25条6~9号は、弁護士法人の社員に関する規定です(弁護士・外国法事務弁護士協同法人についても同様です)。

六 弁護士法人(第三十条の二第一項に規定する弁護士法人をいう。以下この条において同じ。)若しくは弁護士・外国法事務弁護士共同法人(外国弁護士による法律事務の取扱い等に関する法律(昭和六十一年法律第六十六号)第二条第六号に規定する弁護士・外国法事務弁護士共同法人をいう。以下同じ。)の社員若しくは使用人である弁護士又は外国法事務弁護士法人(同条第五号に規定する外国法事務弁護士法人をいう。以下この条において同じ。)の使用人である弁護士としてその業務に従事していた期間内に、当該弁護士法人、当該弁護士・外国法事務弁護士共同法人又は当該外国法事務弁護士法人が相手方の協議を受けて賛助し、又はその依頼を承諾した事件であつて、自らこれに関与したもの
七 弁護士法人若しくは弁護士・外国法事務弁護士共同法人の社員若しくは使用人である弁護士又は外国法事務弁護士法人の使用人である弁護士としてその業務に従事していた期間内に、当該弁護士法人、当該弁護士・外国法事務弁護士共同法人又は当該外国法事務弁護士法人が相手方の協議を受けた事件で、その協議の程度及び方法が信頼関係に基づくと認められるものであつて、自らこれに関与したもの
八 弁護士法人若しくは弁護士・外国法事務弁護士共同法人の社員若しくは使用人又は外国法事務弁護士法人の使用人である場合に、当該弁護士法人、当該弁護士・外国法事務弁護士共同法人又は当該外国法事務弁護士法人が相手方から受任している事件
九 弁護士法人若しくは弁護士・外国法事務弁護士共同法人の社員若しくは使用人又は外国法事務弁護士法人の使用人である場合に、当該弁護士法人、当該弁護士・外国法事務弁護士共同法人又は当該外国法事務弁護士法人が受任している事件(当該弁護士が自ら関与しているものに限る。)の相手方からの依頼による他の事件

 6号は、ある弁護士法人に属していた弁護士が、その期間中に事件の相手方から協議を受けて賛助等しており、かつそれに当該弁護士が関与していた場合です。これは実質的に25条1号と同じ状況であるため禁止されているのですが、反対に弁護士法人として賛助等していたとしても、当該弁護士が関与をしていなければ1号と同じ状況にありませんから、この場合は職務を行うことを禁止されません。
 7号も、25条2号と同じような場合を定めています。
 この6・7号は、現在その弁護士法人に属している場合だけなく、その弁護士法人を退職後も禁止されるものです。
 8号は、6・7号と異なり、自らがその事件に関与しているか否かを問わず、現に属している弁護士法人が相手方から受任している事件について職務を行うことを禁止しています。これは正に公平性に疑念を持たれる状況だからです。ただし、自らが関与していなければ、6・7号の規定に抵触するわけではないので、弁護士法人を退社後であれば受任等が可能になります。
 9号は、25条3号と同様の規定ですが、これについては8号と異なり、自らが関与している事件の相手方からの依頼だけ禁じられており、同じ弁護士法人で受任していても、自らが関与をしていない事件の相手方からの依頼であれば禁止をする規定ではありません。また、3号と同様、依頼者の同意があれば禁止の対象ではないと考えられます。

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