【弁護士が解説】刑事弁護活動中に被疑者・被告人から依頼をされた場合にはどのように対応すればよいか

【事例】

 X弁護士は、窃盗で逮捕、勾留中のAの弁護人です。

 ある日、X弁護士が接見に行くと、Aから次のようなことを言われました。X弁護士としてはどのように対応するとよいでしょうか(各設定は独立です)。

①Aから、「実は自分は真犯人ではなく、本当の犯人はBなのだが、Bには義理もあるし、今後もあるから自分が犯人だということで裁判を受けたいと思う」と言われた場合

②Aから、「示談金が必要になるのだが、身寄りもないし、自分の持っているキャッシュカードを先生に渡して、暗証番号も伝えるので、それで示談金を引き出してきて欲しい」と言われた場合

③Aから、「自宅に猫がいるので、猫に毎日餌やりに行って欲しい。」と言われた場合

④現行犯逮捕の事案であり、証拠上もAが犯人であると考えるのが合理的な事件であるが、Aから

犯人性を否認して争って欲しいと言われた場合

⑤保護観察付執行猶予中のAから、再度の執行猶予を付けて欲しいと言われた場合

【解説】

 身体拘束中の被疑者、被告人からは様々な依頼を受けることがあります。ご家族など第三者の協力が期待できるような状況であれば協力をしてもらうことになりますが、そうでない場合には弁護人がある程度までは対応することとなります。それではどこまで弁護人が対応するべきなのか、また対応してはいけないと考えられるのはどのようなことなのか、事例ごとに検討していきます。なお、今回は国選であるか私選であるかを明記していません。私選であれば最終的に進退窮まれば辞任をするという方法がありますが、国選弁護人の場合にはそうもいきません。国選弁護人でこのような問題に直面した場合、メーリングリストや単位会の刑事弁護委員会に相談するなど、かならず1人で対応しないようにすることが肝要です。

①いわゆる身代わり犯人の問題です。身代わり犯人を立てること自体、犯人隠避罪に該当するものですので、まずはその点について本人に十分に説明する必要があります。ただ、それでもなお考えが変わらないような場合に、どのような弁護活動をするべきかが問題となります。これについては『解説 弁護士職務基本規程』15頁に詳しい説明がありますが、①私選の場合辞任する②認否をせず情状弁護のみする③被疑者、被告人の意向通りに弁護活動をするという考え方があります。③の場合は弁護士自身も犯人隠避罪の共犯となるわけですが、これについては正当業務行為として違法性阻却されると考えることになります。ただ、③の説を採用した裁判例があるわけではないので、本当に違法性阻却をされるのかは明らかではないところです。また、③の線で進め、仮に被害者と示談交渉をするようなことがあった場合、被害者に対する詐欺になりかねません。そうすると、③でどこまで弁護活動ができるのかということも考えものですから、できる限り本人の説得に努める方が良いと思われます。

②現金の引き出しもよく問題となります。認めている事件の場合には示談交渉が中心となり、特に身体拘束事件では早期に示談をすることが必要です。また、被害者の側からしても本当に支払いを受けられるのかという点が不安ですので、示談書交付時に同時に支払う方が好ましいとも言えます。しかし、協力者が外にいなければ、どうしても拘束中に現金を用意することができません。このとき、弁護人が本人のキャッシュカードを使うかどうかについては、弁護士によって考え方が様々だと思われます。少なくとも使用するとしても、引き出し前と引き出し後の通帳記帳を行い、引き出し行為についての同意などを書証化したうえで行うべきであり、口頭での合意のみで行うことは控えるべきです。

③①②はまだ弁護活動に関する悩みでしたが、③は直接弁護活動に関係することではありません。このような場合、だれか世話をしてくれる第三者を探すなどして、弁護人が直接餌やりを行うということは断るということも考えられます。また、弁護士が被疑者被告人の自宅に1人で入ること自体、後にトラブルになる可能性もあります。ですので、弁護士としては避けたいところではありますが、反面生き物のことですので、無碍にできないところもあります。これについてもどこまでやるかは弁護士それぞれですが、上述のようにトラブルの可能性もありますから、記録に残したうえで対応するべきであるとは言えます。

④弁護士から見て、主張が不合理であり争いようのないと感じられる事件はあると思います。ただ、これについては、弁護士は本人の主張を前提に弁護活動をすべきであると考えられますので、たとえ無理だと思ったとしても本人の意向通りに犯人性否認をするべきです。ただ、やみくもに否認をするのではなく、本人と証拠を検討する中で、厳しい主張となるという心証を伝えることは、信頼関係を害さない範囲であれば問題ないと思われます。

⑤④と異なり、こちらは法律上不可能であるという話です。保護観察付執行猶予中に再度の執行猶予を付することはできませんので、本人の意向はどうしても叶えられません。窃盗罪であれば罰金刑の主張をすることができるのでその方向性で本人を説得することができると思いますが、詐欺のように罰金刑のない罪名の場合には、そのような方向も取れません。ひとまずは本人に法律上の制度を説明し、それでも納得しなかった場合にどのような方向性をとるかが問題となります①法律を無視したうえで主張する②刑法の規定を憲法違反であると主張し、違憲無効であると述べたうえで主張する③寛大な処罰を求めるとする、など考えられるところです。ただ、①の場合には法律精通義務違反になっているように見えるところでもありますので、後から本人からこの点を指摘される可能性もあります。ひとまず②の主張をするか③も本人の意向に含まれると考えて主張するかというところですので、よく本人と協議のうえで弁論をする必要があります。

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