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弁護士法人の懲戒②
1 弁護士法人への懲戒
⑴退会命令
弁護士法57条2項3号によると、退会命令ができるのは、当該弁護士会の地域内に従たる法律事務所のみを有する弁護士法人に対するものに限るとされています。そのため、従たる法律事務所だけは退会させることが可能です。
これに対し、主たる法律事務所については、退会命令を出すことができません。これは、弁護士法人については自然人である弁護士と異なり、入会審査の手続きが存在せず、弁護士法人が設立されると、その登記した所在地に対応する弁護士会に入会することになると考えられていることから、退会命令を仮に出したとしても、弁護士法人の所在地を移転さえさせてしまえば別の弁護士会に入会してしまうため、退会命令の実効性がないとされているからです。
⑵除名
反対に、弁護士法人を除名できるのは、当該地域内に主たる法律事務所を有する弁護士会のみです。
弁護士法人に対する除名は、弁護士法人を一方的に解散させる効果を有します。そのため、弁護士法人自体は清算手続に入ることになりますが、所属する弁護士の弁護士としての身分には影響しません。
2 法律事務所の移転禁止等
弁護士法人は、特定の弁護士会の地域内にあるすべての法律事務所について業務停止の懲戒処分を受けたときは、その期間中、その地域において法律事務所を設け、移転することはできません。このようなことを許せば、新しく隣に事務所を設置することができてしまい、業務停止の潜脱となるからです。
また、退会命令を受けた場合には、3年間その地域内に法律事務所を設置することができなくなります。
先述の通り、弁護士法人には入会審査がなく、登記をすれば直ちにその弁護士会に登録した状態になりますので、退会命令後すぐ法律事務所を設置できてしまいます。このようなことが起きないよう、3年間は事務所を設置できないこととしています。
懲戒委員会③
1 除斥・忌避・回避
訴訟法上、裁判官には除斥、忌避の制度があり、そうでなくとも裁判官自らが回避することもあります。
これに対して、弁護士法上は、懲戒委員会の委員について除斥、忌避、会費の制度は定められていません。
しかし、懲戒委員会は、裁判と同様、弁護士の身分を剥奪する重要な委員会ですから、中立性がないような委員が評議、議決に加わるべきではありません。そのため、多くの単位会では会則等に除斥、忌避、回避に関する規定が置かれています。
なお、本来除斥されるべき委員が、そのまま評議、議決に加わった状態でなされた懲戒をする旨の議決については、会則に違反する状態でなされた議決ということができますので、無効と判断される可能性があります。
2 部会制度
懲戒委員会では、事案の審査を行うため、部会を設置することができます(弁護士法66条の5)。
このような部会の設置を認めるのは、毎回委員会を開くために多数の委員を参集することとなれば、多数の事案を処理しなければならない単位会での議事が困難になると考えられたからです。
そのため、少人数の部会を設置し、部会で審査した事案については部会の議決をもって委員会の議決とすることができるようにされています(弁護士法第6条の5第5項)。
ただし、懲戒委員会は、身内びいきにならないよう、外部の委員を選任することとされている関係で、この部会にも裁判官・検察官・弁護士・学識経験者の各種類の委員が少なくとも1名はいるようにしなければなりません。
弁護士法人の懲戒①
1 弁護士法人の懲戒
弁護士法人は、弁護士同様弁護士会に所属をしており、弁護士会による監督を受ける存在です。
そのため、所属弁護士とは別に弁護士法人自体についても懲戒を行うことが可能となっています(弁護士法30条の2以下)。
もちろん、弁護士法人に所属する弁護士自体に懲戒処分を出すことも可能ですが、仮に弁護士法人自体に懲戒ができないとすれば、所属弁護士を入れ替えるだけで業務を継続できることになってしまい、組織的に行われた非違行為等に対応できなくなる可能性があります。ですので、弁護士法は弁護士だけではなく弁護士法人にも懲戒処分を行うことができるようにしています。
2 懲戒事由
弁護士法人に対する懲戒事由は、弁護士に対するものと同じです。
⑴戒告
これについては全く自然人たる弁護士と同じです。
⑵業務停止
弁護士法人は、主たる法律事務所と従たる法律事務所を有している場合があります。
この場合、従たる法律事務所を監督する弁護士会は、その従たる法律事務所のみを業務停止にすることが可能です。
これに対し、主たる法律事務所を監督する弁護士会は、その弁護士法人自体に対する監督権限を有していますから、主たる法律事務所だけではなく、他の管轄区域にある従たる法律事務所の業務の停止も命ずることが可能です。
弁護士法人が業務停止の処分を受けた場合でも、そこの所属する社員弁護士や使用人弁護士自体は、弁護士としての業務停止を受けたものではありませんから、個人として弁護士業務を行うことは可能です。
この点については「被懲戒弁護士法人の業務停止期間中における業務規制等について弁護士会及び日本弁護士連合会の採るべき措置に関する基準」(平成13年12月20日理事会議決)があります。弁護士法人自体が業務停止となった場合、基準第2第1項16号ロによると「被懲戒弁護士法人の社員等は、被懲戒弁護士法人が第一号又は第二号の規定により解除すべき、又は解除した法律事件等を、自己の業務として引き継いで受任することができない。」とされていますので、個人として受けていた業務は継続できるものの、事務所として受任した事件については、これを個人に引き継いで受任することはできないとされています。
懲戒委員会の独立性が問題となった事案
1 事案の概要
A弁護士は、B弁護士会に所属する弁護士であるが、B弁護士会ではA弁護士に対して1年間の業務停止とする処分が決定した。
これに対してA弁護士が日弁連に審査請求したところ、日弁連は不服を入れ、処分を戒告に変更した。
ただ、この戒告処分に対してA弁護士が東京高裁に対して取消訴訟を提起した。
取消訴訟の中でA弁護士が主張したのは、B弁護士会懲戒委員会が開かれた際、そこに本件懲戒請求の請求者でもあるB弁護士会会長が出席し、意見を述べるなどしたことが、委員会の公正を疑わせるのではないかという点である。
(東京高判昭和42年8月7日の事案)
2 裁判所の判断
懲戒は弁護士にとつて刑罰にも比すべき重大なことがらであつて、その審理、判断に特に公正が要求されることはいうまでもないところであり、法は、弁護士会が所属弁護士を懲戒するには必ず懲戒委員会の議決に基づくことを要求し(弁護士法五六条二項)、弁護士会長その他の理事者に裁量の余地を与えず、かつ、右懲戒委員会は、その委員に弁護士のほか裁判官、検察官および学識経験者を加えてこれを組織すべきものとし、その弁護士委員も弁護士会の総会の決議に基づくべきものとして(同法六九条、五二条三項)、つとめて理事者の影響から独立した機関としている。こうした法の趣旨にかんがみると、懲戒委員会における具体的事件の審査に、理事者が故なく出席して意見を述べることは、当該審査の公正を疑わしめるものとして、許されないものと解するのが相当であり、その点において、B弁護士会の懲戒委員会が本件事案についてした審査手続にはかしがあるものといわねばならない。
しかし、その点については、原告の異議申立に基づき、被告の懲戒委員会においてさらに事案の実体につき適法公正な審査を遂げ、その議決に基づき、被告はB弁護士会のした業務停止一年の懲戒処分を重きに失するものとして取消し、懲戒として最も軽い戒告処分に変更しているのであるから、ほかに特段の事由がない限り、B弁護士会の懲戒委員会における右審査手続のかしは、これをもつて被告のした本件懲戒処分を取消すべき事由とするに足りないものと解する。
3 解説
懲戒委員会は、弁護士の身分を剥奪する可能性のある重要な委員会であるため、この委員会は弁護士会と独立している必要があると考えられました。
そのため、弁護士会の会長が懲戒委員会に出席して発言した場合、委員の意見が会長の意見に引っ張られる可能性も否定できず、このようなことを行うことは、懲戒委員会の独立性を害することと考えられました。
実際、法律上は明文の規定はありませんが、弁護士会の役員、常議員が、懲戒委員会の委員を兼任することは不適切である旨の日弁連の通知等が存在し、これに基づいて委員は選任されるようになっています。
懲戒委員会②
1 懲戒委員会の委員
懲戒委員会の委員の定数は4名以上であることは定められていますが、それ以上に何人選任するかについては会則で委ねることとされています(弁護士法66条)。
また、懲戒委員会の委員は弁護士、裁判官、検察官及び学識経験者の中から弁護士会の会長が委嘱するとされています。このうち裁判官・検察官については出身母体である裁判所・検察庁の長の推薦に基づき、弁護士委員については弁護士会の総会で決定することが定められています(弁護士法66条の2第1、2項)。学識経験者については特に定めがありませんが、多くの場合は近隣の大学の法学部の教授などが選ばれているようです。
委員の任期は2年とされており、懲戒委員会の職務を行うにあたっては、委員は法令により公務を従事する職員とみなされています(3、4項)。
2 予備委員
懲戒委員会の委員は、その選任方法が法定されており、弁護委員については総会を開く必要があるなど大掛かりであることから、委員が欠けた場合にすぐに補充することができません。
そのため、委員については予め予備委員を選任することとされています(弁護士法66条の4)。そして、たとえば裁判官出身の委員が除斥、忌避等で欠けることになった場合には、同じく裁判官出身の予備委員が代理してその職務を行うということなっています。
3 懲戒委員会の運営
懲戒委員会の委員長は、委員の互選により決定することとされていますので(弁護士法第66条の3)、どの出身母体の委員が委員長になると決まっているわけではありません。
先述の通り、委員の職務は公務とみなされることになっていますので、懲戒委員会の委員が作成する文書については公文書となりますし、超過委員会の委員の職務を妨害した場合には公務執行妨害罪が成立します。
懲戒委員会の定足数について法律上の定めはありませんが、半数以上の出席が必要であると会則で定められている例があります。ただし、この半数の中に、法律上定められている裁判官・検察官・弁護士・学識経験者の4種類の委員が必ず存在しなければならないかについては見解が定まっていません。検察官委員が欠席であったとしても、裁判官委員や学識経験者委員が出席していれば、懲戒委員会の外部性は担保されているとも言えますし、外部委員が1名しかいない場合に、その1名が出席しなければ議事が滞るというのでは問題が多いですから、必ずしも4種類の委員すべてがいなければならないとまでは考えられていないようです。
懲戒処分を受けた者がした行為の効力
1 業務停止以上の処分を受けた場合
業務停止、退会命令、除名の処分を受けた場合、業務停止中はその期間弁護士の業務を行うことができなくなりますし、退会命令、除名の処分を受けた場合には効力発生後からは弁護士登録がなされていない状態となりますから、当然弁護士としての業務を行うことはできなくなります。
そのため、このような弁護士としての業務が行えない状態になっている期間に弁護士としての業務を行った場合、これが弁護士法上違法なものであることは明らかだと思われますが、それ以外(たとえば民事訴訟や刑事訴訟など)の場面ではどのように扱うべきかが問題となります。
2 民事訴訟における行為の効力
民事訴訟の代理人として、弁護士たる業務を行えない者がなした行為は、訴訟法上どのように解釈されるべきでしょうか。
民事訴訟法上は、一定の例外は存在するものの、弁護士代理の原則が存在します(民事訴訟法54条1項)。これを厳格に解釈すると、弁護士ではない者が代理して行った訴訟行為は、一切無効なものであると考えることになります。
しかし、これを厳密に考えすぎると、それまでに訴訟が進行し、相手方や裁判所が対応してきた訴訟行為も含めて一切無効という解釈になり、手続の安定性を害することになってしまいます。
そのため、弁護士たる業務を行えない者を訴訟から排除しなければならないことには異論はないものの、これまでに行ってきた訴訟行為を有効と判断するかについては解釈が分かれています。
この点について、最判昭和42年9月27日では、その代理人が弁護したる資格を喪失している状態(業務停止中)を看過してなされた訴訟行為について、直ちに無効になるものでない旨判示されました。この事例は、業務停止中の訴訟行為であったため、期間が経過すれば再び弁護士に戻る者ということになりますので、除名や退会命令の場合に同様の判断を行うことができるかどうかは判然としません。ただ、最高裁は、手続の安定性確保のため、上記のような結論を採用しました。
3 刑事訴訟
憲法37条により、被告人には弁護人を依頼する権利が与えられています。このような弁護人の地位は相当公益性が高く、弁護士資格が当然の前提となるように思われます。
そのため、たとえ業務停止中であっても、弁護士業務が行えない状態でなされた訴訟行為等については無効であると考えるべきですし、被告人の追認も同様であると思われます。
なお、被疑者については弁護人選任権が憲法上付与されているわけではありませんが、憲法31条に基づき刑事訴訟法が制定されていると考えられますので、同様に理解してよいのではないかと思われます。
4 訴訟外の行為
除名、退会命令を受けた元弁護士が弁護士同様有償で法律上の業務を行うことは、弁護士法72条に違反することになります。そして、この弁護士法72条は、公益性の高い規定であると考えられますので、弁護士法72条に違反してなされた行為については民法90条により無効となる可能性があります。
反対に、業務停止中の弁護士が代理して行った訴訟外の行為については、あくまでも業務停止中には弁護士たる資格を喪失するわけではないので、そのような代理行為は懲戒事由とはなるものの、弁護士法72条に違反するものではありません。しかし、国民を非弁護士から保護するという弁護士法72条の規定の趣旨からすると、懲戒の処分により業務を停止された弁護士に代理行為を行わせるのは適当ではないと思われますので、このような場合にも無効となる可能性はあるように思われます。
懲戒委員会①
1 懲戒委員会
弁護士会が、当該単位会に所属する弁護士又は弁護士法人を懲戒する場合には、弁護士会の懲戒委員会による議決に基づく必要があります(弁護士法第58条5項)。
弁護士法は、弁護士(弁護士法人)を懲戒するかどうかについて、会長の独断や弁護士会の総会等の意思決定機関ではなく、懲戒委員会に判断させることにしていますので、この懲戒委員会は独立性を保つ必要があります。
そのため、法の明文はないものの、懲戒委員会の弁護士委員としては、会長副会長等の役員、常議員会の常議員、綱紀委員会の委員と兼職することは適当でないと考えられています(日弁連会長通知等)。
2 懲戒委員会の設置等
弁護士法65条1項により、懲戒委員会は日弁連及び単位会に設置されることとされています。綱紀委員会と共に弁護士法上設置することが定められている委員会ですので、「弁護士法上委員会」などと整理している単位会も存在します。その他弁護士会には人権擁護委員会や刑事弁護委員会なども設置されていますが、これらの委員会は会則等で設置されることとなっているものですので、綱紀・懲戒委員会は設置根拠からしても全く別のものということになります。
懲戒委員会は「その置かれた弁護士会又は日本弁護士連合会の求めにより、その所属の弁護士又は弁護士法人の懲戒に関して必要な審査をする。」(弁護士法65条2項)とされており、懲戒に関して必要な審査をすることがその任務となっています。
ここでの「必要な審査」とは、綱紀委員会が懲戒委員会に付することを相当と議決した事件の審査を指していますので、懲戒委員会が独自で事件を立件するということは想定されていません。
最終的に懲戒委員会で事案の審査を行い、懲戒をするべきか否か、懲戒するとすれば除名、退会命令、業務停止、戒告のいずれの処分が妥当であるのかを決定することとなります。
3 権限
懲戒委員会は、「審査に関し必要があるときは、対象弁護士等、懲戒請求者、関係人及び官公署その他に対して陳述、説明又は資料の提出を求めることができる。」(弁護士法67条3項)というように、対象弁護士等に説明などを求めることができます。
対象弁護士は、弁護士である以上綱紀・懲戒の手続きに協力する義務を負っていますので(日弁連会則第72条)、これに応じなかった場合に罰則等の手段はありませんし、これを説明や回答等を強制する法的手段はありませんが、応じなかったことそれ自体が会則違反であるということを理由に懲戒事由となる場合があります。
綱紀委員会④
1 綱紀委員会の議決
綱紀委員会は、調査が終了をすると議決を行います。
この議決については、部会が編成されている単位会では、部会内で議決を行い、それを委員会全体の議決とすることが認められています。
そして、綱紀委員会の議決には以下の3種類があります。
⑴懲戒委員会に事案の審査を求めることが相当である
調査の結果、懲戒事由の存在が一応認定された場合に、事案を懲戒委員会に審査させる旨の議決を行います。
この議決を受けた弁護士会は、議決内容に拘束されますので必ず事案を懲戒委員会に付さなければなりません。
⑵懲戒委員会に事案の審査を求めないことを相当とする
結論として懲戒委員会に事案の審査を求めない場合には、このような議決がなされます。
ただ、事案を懲戒委員会の審査に付さないとしても①そもそも懲戒事由が存在しない場合②懲戒事由に該当し得る事実は存在するが、事案の軽重等を判断して懲戒すべきでないことが明らかである場合③懲戒審査が不適法な場合など、様々な場合が存在します。
⑶対象弁護士の死亡、資格喪失等による終了
対象弁護士が生存し、事案が付されている単位会に所属していることは当然の前提となります。
そのため、調査の途中に対象弁護士が無くなった場合や、別の理由により弁護士資格を喪失したような場合には、調査を継続することができません。
当然調査継続ができないということになるのですが、手続きの終了を明確にするため、このような議決がなされます。
2 議決後
議決がなされると、この議決に弁護士会は拘束されます。
綱紀委員会の議決は、常議員会や総会によっても変更することができません。
ですので、懲戒委員会に事案の審査を求めるのが相当であるとの結論がなされた場合には、弁護士会は必ず事案を懲戒委員会に付さなければなりませんし、反対に懲戒委員会に事案の審査を求めないという結論が出された場合には、事案を懲戒委員会に付すことはできず、懲戒しない旨の結論を出さなければなりません。
3 不服申立て
事案を懲戒委員会に付する議決に対しては、対象弁護士は不服申し立てを行うことはできません。不服の内容は懲戒委員会で主張すべきであると考えられるからです。
反対に、事案を懲戒委員会に付さないという議決については、懲戒請求者は日弁連の綱紀委員会に不服申し立てを行うことができます。
綱紀委員会③
1 綱紀委員会の調査事項
綱紀委員会が調査をする事項は以下のようなものです。
①当事者
懲戒請求者が存在するか(何人でも請求可能なので、特に個人の資格等は必要ないが、架空人による請求は認められない)、対象弁護士が現に単位会に所属する弁護士であるかどうかなど、当事者性の判断を行います。
②懲戒事由の存否
最も大きな調査事項は、懲戒事由たる事実が存在するか、またその事実が存在したとしてそれが懲戒事由たる非行に値するかという点です。
ここで、懲戒請求書等に記載されていない事実であって、懲戒に値するような事実が存在した場合が問題となります。この点については、綱紀委員会による立件が認められていないことに鑑みると、仮にこのような事実を発見したからといて、これを調査し、議決することは許されないと考えられています(ただし、この事実を弁護士会に報告し、弁護士会が会立件することは許されると思われます)。反対に、懲戒請求書等に記載されている事実については、全てについて議決を要するとされています。
③情状
懲戒事由となるとは、単なる法令・会則違反等ではなく、「懲戒に値するほどの」法令・会則違反等です。
そのため、懲戒事由該当事実だけではなく、その情状等についても調査の対象となると考えられています。
また、この情状には、事実発生時の事情だけではなく、事後的な事実(たとえば、懲戒請求後に請求者との間で和解が成立したような場合など)も含めて考慮できると考えられています。
④除斥期間
弁護士法第63条には「懲戒の事由があつたときから三年を経過したときは、懲戒の手続を開始することができない。」と定められています。この「3年」の性質は除斥期間と考えられていますので、問題は「懲戒の事由があったとき」という、除斥期間の始期がいつの時点であるのかということになります。
単発の行為であれば、その行為が終了したときを基準に考えればよいので、それほど問題は生じません。
これに対し、高額な弁護士報酬を受領し、それを返還していないというような事案の場合、「報酬受領時」を始期とするのか、返還未了を理由に非行は継続していると考えるのかが問題となります。このような事例の場合に、過去の裁判例では基本的には報酬受領時を基準とすると考えられました。
綱紀委員会②
1 綱紀委員会の手続
綱紀委員会でどのような手続を行うか(調査方法をとるか)ということについて、具体的な方法等は弁護士法に定められておらず、その方法は各単位会が会則で定めることとなっています(弁護士法第33条第2項第8号の規定)。
そのため、「綱紀委員会での手続」といっても、その内容は単位会毎に異なり得るものですので、以下の記載はあくまでも一般的な手続というものに留まります。
2 手続の流れ
①事件の配点
懲戒請求がなされた場合や、会立件がなされた場合、事件は綱紀委員会に係属します。
大きな単位会であれば、部会を構成していますので、具体的には特定の部会に事件が配点されることになります。
②対象弁護士への通知
事件が配点されると、対象弁護士に通知がなされます。具体的には、懲戒請求があったことだけではなく、答弁書を提出するよう求められます。
綱紀委員会は、弁護士法第70条の7により、「綱紀委員会は、調査又は審査に関し必要があるときは、対象弁護士等、懲戒請求者、関係人及び官公署その他に対して陳述、説明又は資料の提出を求めることができる。」とされていますので、その一環として対象弁護士に対して答弁書の提出を求めます。
また、答弁書と同時にまたは答弁書提出後、綱紀委員会から資料の提出を求められることもあります。 この根拠も、上述の弁護士法第70条の7です。
なお、日弁連会則第72条により「弁護士及び弁護士法人は、会規で定めるところにより懲戒の手続への協力を求められたときは、正当な理由がない限り、これに応じなければならない」と定められています。そのため、綱紀委員会からの答弁書提出や、資料の提出の求めに対して従わなかった場合には、日弁連の会則違反として別途懲戒事由を構成することとなります。
③事情聴取
対象弁護士からの答弁書を踏まえ、事件の争点が一応明らかになると、今度は対象弁護士、懲戒請求者らを呼び、事情聴取を行います。
この回数は通常1回程度のことが多いですが、懲戒請求者から追加の主張等がなされると、複数回にわたることもあります。
④議決
最終的にこれらの調査の結果を元に議決を行い、その内容は対象弁護士に通知されます。
3 手続の公開性
綱紀委員会の議事や議決については非公開とされてます。これは委員らの自由な意見表明を保証するためです。そのため、綱紀委員会の議事録自体も非公開とされ、閲覧、謄写は許されていません。
これに対し、調査期日の調書や提出書類等については、対象弁護士に対しては、手続き保障の観点から、閲覧謄写を許すべきであると考えられていますが、懲戒請求者に対してどのような措置をとるかは、綱紀委員会の裁量に任されていると考えられています。