Archive for the ‘懲戒事由(総論)’ Category

懲戒事由(品位を失うべき非行)

2023-03-09

1 品位を失うべき非行

 弁護士法第56条第1項に定める懲戒事由のうち、最後のものが「職務の内外を問わずその品位を失うべき非行」です。
 この「品位を失うべき非行」については、それより前に記載されている「この法律・会則違反、信用秩序侵害」も含み、懲戒に値するべき非行を取り出す概念であると考えられていますが、具体的にどのような行為が品位を失うべき非行に該当するかは、個別具体的事案に応じた判断をするほかないと考えられています。

2 職務の内外

 「職務の内外を問わず」とされているので、弁護士としての業務上の事由だけでなく、私生活上の事由を理由として懲戒を受ける場合があります。
 飲酒運転などの犯罪行為はもちろんですが、不貞行為等も問題となり得るところです。

3 品位を失うべき非行の例

 この「品位を失うべき非行」は、最初に記載した通り、「懲戒に値るする非行」を取り出す概念です。また、「法律・会則違反」などについても、全ての弁護士法違反、全ての会則違反が懲戒の対象となるのではなく、それらのうち懲戒に値するものだけが懲戒となるとされていますから、多くの懲戒事例で「会則・法律違反」などと並んで「品位を失うべき非行」が列挙されています。
 これまでに問題となった例では、国選弁護人が被告人から国選弁護人報酬以外の報酬等の支払いを受けたような場合や、訴訟委任状を無断で作成行使したような事例などがあります。
 ここで、品位を失う行為が問題となった裁判例の文面を見てみましょう(東京高判昭和47年10月23日 上記国選弁護人の事例)。
「国選弁護人は、被告人の請求または職権により弁護士の中から裁判所または裁判長が選任して被告人のために附するものであり(刑事訴訟法第三六条・第三七条・第三八条第一項)、右弁護人に対しては、旅費・日当・宿泊料及び報酬が国費をもって支給される(同法第三八条第二項)のであるから、国選弁護人が選任された被告事件の弁護活動につき国から支給される右報酬等以外に、被告人その他何人からでも報酬等の支払を受けることは弁護士が基本的人権を擁護し社会正義を実現することをその使命とし(弁護士法第一条)、弁護士となる資格は法律をもって定められていることに鑑み非難に値する行為というべきであり、弁護士法第五六条第一項にいう弁護士の品位を失うべき非行に該当するものと解すべきである。」
 この事案では、当事者の主張に寄れば当時は国選弁護人の報酬に含まれていなかったと思われる保釈請求に関する手続きの報酬とされるものを受け取った事案であり、原告の弁護士はその旨を主張していましたが、それを理由に職務の範囲外であると主張することはできないと述べています。
 

懲戒事由(信用・秩序侵害)

2023-02-09

1 信用・秩序違反

 懲戒事由の3つ目は、「所属弁護士会の秩序又は信用を害し」たような場合です。
これについては、そもそも具体的な要件などが記載されていないため、実質的な価値判断を行う必要があります。
 また、実際の処分例でも、会則違反や、品位を失うべき非行があった結果、会の信用を毀損したというような形で、他の懲戒事由とあわせて記載されることがあります。
 たとえば、東京高判昭和53年6月26日の事件では、業務停止中に弁護士業務を行ったことが問題となりました。業務停止中は、弁護士業務を行うことは当然できず、これは法令・会則違反に当たる行為になります。このような事件で、裁判所は
「原告〔対象弁護士〕の行為は、所属弁護士会から一年八月の業務停止の懲戒処分に付されながら、右業務停止期間中に刑事弁護人として弁護士の業務を行ったというものである。業務停止の懲戒処分は、一定期間弁護士の業務に従事してはならない旨を命ずるものであって、この懲戒の告知を受けた弁護士は、その告知によって直ちに当該期間中弁護士としての一切の職務行為を行うことができないこととなるにもかかわらず、原告は、この処分に違反して弁護士業務を行ったものであり、所属弁護士会の統制に服さず、これによって弁護士会の秩序を乱した責任は、決して軽くない。」と判示しており、法令会則違反によって、弁護士会の秩序が乱れるというような論旨を記載しています。

2 弁護士法第12条

 弁護士の登録・登録換えに関し、心身に故障があるなどの理由のほか、「弁護士会の秩序若しくは信用を害するおそれがある者」の請求について、単位会はその進達の拒絶をすることができるとされています。
 これは、懲戒請求の事由の規定と同様で、予め弁護士会に入会することを防ぐ規定ですが、具体的な定めはありません。
 これに関連して、東京高判昭和53年2月21日の事例では、過去に横領事件を起こしたこと(この横領は、弁護士としてではなく、政治家として起こしている)を理由として入会を拒絶した大阪弁護士会・日弁連の判断を否定しています。
 その裁判では「原告〔弁護士〕の右犯罪事実のうち、その多くを占める詐欺、横領の事実は、いずれも政治家としての地位に関連して行なわれたものであるが、原告がその後政治家たることを断念し自粛自戒の生活を送つて来た事実は、成立に争いのない乙第一号証、原告本人の供述並びに弁論の全趣旨によつて認めることができ、これに右各判決確定後における時間の経過など諸般の事情を総合して勘案すると、右の各犯罪事実から、直ちに被告の主張するように、一般弁護士及び弁護士会の信用を害する虞れありと認定するには躊躇を感ぜざるを得ない。なお、乙第一四号証の一、二によると、原告は前示確定判決により大阪弁護士会を退会した後の昭和四一年八月二九日●●の依頼を受けて答弁書を作成しその手数料金三万円及び賃料供託金として金八、八〇〇円の交付を受けて、弁護士に非ずして弁護士業務を行なつた事実を認めることができるけれども、右乙号証によれば原告はその後右行為を反省してその金員も返還し、大阪弁護士会においても告発を猶予してこれを不問に付した事実を認めることができるから、右の事実によつて前叙認定を覆えすに足らず、他に原告の弁護士名簿登録によつて一般弁護士及び弁護士会の信用を害する虞れがあるとの事実を認めるに足りる証拠はない。」としました。

懲戒事由(会則違反)

2023-01-12

1 会則違反

 懲戒事由の2つ目は「所属弁護士会若しくは日本弁護士連合会の会則に違反し」た場合です。
 この条文では「会則」と定められていますが、日弁連の会則第29条で「会則、会規、規則」
の遵守義務が定められていますから、「会則」という形式以外の物違反も対象となります。

2 実質的判断

 しかし、これは弁護士会にあるあらゆる会則等の違反が懲戒事由となってしまいます。会則の中には
単なる手続きを定めただけのものや、訓示規定にすぎないようなものも含まれています。
 このようなものに対する違反まですべて懲戒事由となるのは不適当であると思われますので、実際には会則等に対する違反のうち、懲戒をするに値する違反のみが対象となると思われます。

3 会則違反の代表例

 会則違反のうち最も多いのは会費の滞納です。
 日弁連の会則97条では、6か月以上の会費滞納が懲戒事由であると記載されています。
 このほか、各単位会でも会費の納入義務が決められており、単位会の会費の滞納も会則違反となりえます。
 会費の滞納によりどのような懲戒を受けるかについては、滞納した期間やその後に納付したか否かによって異なると思われますが、2年以上の会費滞納などでは退会命令を受けているケースも多く見受けられます。
 会費滞納以外の会則違反としては、業務停止中の弁護士活動が挙げられます。懲戒の処分として業務停止を受けた場合には、その期間は弁護士としての活動を行うことができなくなります。懲戒の内容としての業務停止処分は弁護士法に規定がありますが、具体的に業務停止期間にどのようなことができなくなるか(又はどのようなことをしなければならないか)は会則などに定めがあります。
 ですので、業務停止期間の弁護士活動は会則違反として懲戒の事由となります。

4 弁護士職務基本規程違反

 現在、弁護士倫理の中核として、弁護士職務基本規程があります。この弁護士職務基本規程は、かつて「弁護士倫理」として日弁連総会決議等で議決されたものでしたが、平成16年に会規として定められることになりました。
 ですので、現在「弁護士職務基本規程」違反は、会規違反ということになりますので、弁護士法が定める懲戒事由に文言上は当たることになります。
 しかし、すでに2で見たように、実質的な判断が行われることになっていますから、弁護士職務基本規程に違反したからといって、その違反すべてが対象となるのではなく、実質的に懲戒に値する程度の違反のみが懲戒の対象となります。

懲戒事由(法律違反)

2022-12-08

1 法律違反

 懲戒事由の1つ目は、「この法律・・・に違反し」たことです。
 この法律は「弁護士法」を指していますので、ほかの法律違反した場合には
「品位を失うべき非行」というところが問題となります(例えば飲酒運転など)。
 なお、弁護士法の中には罰則が定められているものがあります。
 これらの違反の場合には刑事罰を受けることになる場合がありますが、刑事罰を受けたからと言って懲戒が免除されるという物ではありません。

2 弁護士法違反の代表例

 弁護士法中、弁護士の義務を定めた項目は主に第4章(20条~30条)や第73条です。
具体的には
・二重事務所の禁止(弁護士法第20条)
・守秘義務違反(弁護士法第23条)
・利益相反事件(弁護士法第25条)
・非弁提携の禁止(弁護士法27条)
・係争権利の譲受の禁止(弁護士法第28条)
・依頼不承諾の通知(弁護士法第29条)
・譲受権利の実行の禁止(弁護士法第73条)
などが問題となります。

3 弁護士法違反で懲戒される場合

 しかし、以前にも説明した通り、この「法律違反」という要件は、「品位を失う非行」の例示的な列挙であると考えられていますから、法律に違反しているからといって直ちに懲戒されるというわけではありません。
 具体的な事案の内容や、その後の対応などを考慮し、当該法律違反が実質的に懲戒をするに値するほどのものであるかどうかが検討されると考えられます

懲戒事由について

2022-11-10

1 懲戒の事由

 弁護士又は弁護士法人が懲戒を受ける場合、その懲戒の理由となる懲戒事由については、
弁護士法第56条第1項に定めがあります。
 弁護士法が定めているのは
①この法律〔弁護士法〕又は所属弁護士会若しくは日本弁護士連合会の会則に違反
②所属弁護士会の秩序又は信用を害し
③その他職務の内外を問わずその品位を失うべき非行があったとき
です。
 このうち、①②と③の関係が問題となります。

2 各要件の関係

 1つの考え方は、①②③は全て並列の関係であり、③は特に抽象的に要件を定めたものであるという考え方です。
 もう1つの考え方は、①②は③の例示であり、懲戒事由は「品位を失うべき非行」であると考え、法律・会則違反などもその一部であると考える考え方です。
 通常「その他職務の内外を問わず」とされている際の「その他」の解釈は、「その他」の前後にあるものが並列的な関係であるとされています。このような文言の趣旨からすれば、①②と③は並列的関係ということになりそうです。
 しかし、仮に①②③が並列的関係とすると、所属弁護士会の会則違反はただちに懲戒事由ということになりかねないように思われます。弁護士会の会則の中には、重要なものから手続きの細則を定めるようなものまで、様々な会則が存在していますが、それらの違反を一律に懲戒事由とするのは硬直的であるとも考えらえます。
 そのため、実際の委員会等の判断においては、懲戒事由に該当するかどうかの判断を形式的な審査に留まらず、実質的に懲戒をするに値するかを判断しているものと思われます。このような考え方は、後者の考え方に親和的であると言えます。

3 弁護士職務基本規程違反について

 現在の「弁護士倫理」の中核をなすものは、「弁護士職務基本規程」です。
 この規程は、日本弁護士連合会の会則に該当しますから、職務基本規程に違反した場合には、「日本弁護士連合会の会則に違反」していることになります。
 しかし、2で説明した通り、現在の実務上の考え方では、会則違反を直ちに懲戒事由とするのではなく、会則違反のなかでどのような会則に違反したかや、その違反の程度など実質的な側面を審査して、懲戒するかどうかを判断していると思われます。
 そのため、弁護士職務基本規程に違反したからといって、その違反の内容次第ではただちに懲戒となるとは限りません。

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