利益相反が問題となった事例①

1 事案の概要

 西暦P年、A社はY弁護士と委任契約を締結し、民事再生手続きの申立て等の委任をした。
 同年、Y弁護士はA社に対する再生手続開始の申立てを行い、その際にはB社をスポンサーとして再生手続きを進めることとしていた。
 その後、A社に対する再生手続は開始されたが、B社がスポンサーを降りてしまったため、同手続きは廃止されてしまった。
 そしてA社について破産手続開始決定がなされ、その破産管財人にX弁護士が選任された。
 P+1年、管財人であるX弁護士は、B社を被告として否認権行使訴訟等を提起したところB社はY弁護士を訴訟代人として選任した。
 この選任行為に対し、X弁護士が弁護士法第25条1号を理由としてY弁護士を訴訟行為から排除するよう裁判所に申し立てを行った。
(最高裁平成29年10月5日決定の事案)

2 裁判所の判断

(1)原審の判断
 原々審はX弁護士の主張を容れて、Y弁護士を排除したが、これに対してY弁護士が抗告した。
 原審は、破産管財人が提起した訴えの相手方の訴訟代理人である弁護士が過去に破産者から上記訴えに係る請求に関連する法律事務等の委任を受けていたとしても、破産管財人が独立した権限に基づいて財産の管理処分権を行使することなどに照らすと、上記弁護士の訴訟行為は弁護士法25条1号にいう「相手方の・・・依頼を承諾した事件」に当たらないとして、原々決定を取消した。
(2)最高裁判所の判断
 最高裁判所は以下の通り判断し、Y弁護士の行為を訴訟から排除した。
「A社は,破産手続開始の決定を受ける前に,相手方Yとの間で,本件委任契約を締結していたのであるから,相手方Yは,A社の依頼を承諾して,A社の業務及び財産の状況を把握して事業の維持と再生に向けて手続を主導し,債権の管理や財産の不当な流出の防止等についてA社を指導すべき立場にあったものである。そして,本件訴訟における主たる請求の内容は,相手方YがA社から委任を受けていた間に発生したとされるA社のB社に対する各債権を行使して金員の支払を求めるもの(中略)である。したがって,本件訴訟がA社の債権の管理や財産の不当な流出の防止等に関するものであることは明らかである。
 また,本件訴訟においてB社と対立する当事者はA社の各破産管財人であるXであるのに対し,本件各委任契約の依頼者はA社であるが,破産手続開始の決定により,破産者の財産に対する管理処分権が破産管財人に帰属することになることからすると,本件において弁護士法25条1号違反の有無を検討するに当たっては,破産者であるA社とその破産管財人とは同視されるべきである。
 そうすると,本件訴訟は,相手方Yにとって,同号により職務を行ってはならないとされる「相手方の・・・依頼を承諾した事件」に当たるというべきである。」
(3)解説
 原審と最高裁の判断を分けた点は、破産管財人と破産者の関係でした。
 原審はこの関係について「破産管財人による否認権の行使は(中略)破産法によって否認の権限が付与されている趣旨に従い、破産者の意思等とは無関係に行われるものであることや、破産管財人が破産者に属していた財産の管理処分権を行使するのも、破産者の代理人等としてではなく、独立した権限に基づいて総債権者の利益のためにするものであることに照らすと、破産管財人による請求の相手方(B社)の訴訟代理人である弁護士Yが、過去に破産者から上記請求に関連する法律事務等の委任を受けていたとしても、同弁護士らによる上記請求に係る訴訟行為をもって、弁護士法25条1号にいう「相手方の協議を受けて賛助し、又はその依頼を承諾した事件」に係る職務行為と同視することはできないとしていました。
 これに対して最高裁は両方を同視されるべきとしています。
 Y弁護士が事案を受任した経緯には理解できるところがあるないわけではないですが、少なくともA社とB社は実質的に利害対立する立場にあったので、最高裁の決定の趣旨を踏まえれば、受任を差し控えるべき事案であったということができます。

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