
社会福祉士が刑事事件を起こした場合、その影響は単なる刑罰にとどまらず、民事上の責任や行政処分(資格への影響)など、多角的な局面に及びます。
架空の事例を設定し、それぞれの局面でどのような処分が発生するかを解説します。
このページの目次
1 事例
【事例:福祉施設内における利用者への傷害事件】
特別養護老人ホームに勤務する社会福祉士のAさん(35歳)は、施設内において、日頃から介護方針を巡りトラブルになっていた高齢の利用者B氏に対し、感情を暴発させて突き飛ばし、全治2週間の打撲を負わせた。その場にいた他の職員の通報により、A氏は駆けつけた警察官に傷害の容疑で現行犯逮捕された。
2 刑事上の処分(刑事責任)
刑事事件は、国家が、罪を犯した者に対して科す刑罰です。国家(警察、検察)対 A氏の構図となります。
- 罪名と罰条:
A氏の行為は刑法第204条の傷害罪に該当します。法定刑は「15年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金」です。 - 手続きの流れと処分見込み:
逮捕後、検察庁に送致され、勾留(身柄拘束)を経て、検察官が起訴か不起訴かを判断します。 - 初犯で、被害が全治2週間と比較的軽微であり、B氏側との示談が成立した場合:
不起訴処分(起訴猶予)や、裁判を開かない簡易な手続きである略式命令(罰金刑)となる可能性が高いです。 - 示談が成立せず、過去にも同様のトラブルがある場合:
公判請求(正式な裁判)となり、拘禁刑の判決を受けることになりますが、実刑となるかどうかは、過去に同じような事件を起こして執行猶予中ではないか、被害者のけがの程度がどれほど重篤かなどで決まります。
3. 民事上の処分(民事責任)
民事責任は、被害者が被った不利益(損害)を金銭的に賠償・補填する責任です。B氏(およびその家族)対 A氏(および施設)の構図となります。
- 不法行為責任(刑法上の犯罪とは別):
A氏は、故意にB氏の身体を傷つけたため、民法第709条に基づき不法行為による損害賠償責任を負います。 - 賠償すべき損害の内訳:
積極損害: B氏の治療費、通院費など。
消極損害: 万が一、この怪我によりB氏の身体機能が低下し、追加の介護費用が必要になった場合の費用など。
慰謝料: 身体的・精神的苦痛に対する対価(傷害慰謝料)。 - 施設側の連帯責任(使用者責任):
A氏は業務中に事件を起こしているため、被害者B氏はA氏個人だけでなく、雇用主である福祉施設に対しても民法第715条の使用者責任(損害賠償)を追及できます。
施設がB氏に賠償金を支払った場合、施設からA氏に対して返金を求める(求償権の行使)ことになります。
なお、これ以外に債務不履行に基づく損害賠償請求も考えられます。施設入居の契約上、施設側は入居者の安全に配慮する義務があり、この義務に違反していると言えるからです。
4. 行政上の処分(行政責任・資格への影響)
行政処分は、社会福祉士の「資格」そのものに対する処分です。厚生労働大臣によって判断されます。
社会福祉士及び介護福祉士法に基づき、刑事罰の重さによって処分が連動します。
- 欠格事由への該当(同法第3条):
社会福祉士及び介護福祉士法3条の欠格事由に該当する場合には、社会福祉士の登録が取り消されます(同32条)。
また、欠格事由に当たる場合には、厚生労働大臣は「その登録を取り消さなければならない」となっており、大臣に裁量はありません。
つまり、欠格事由に該当すると必ず取り消されるということになります。
特別な法律違反の場合を除き、一般的な法律に関しては、拘禁刑以上の刑に該当した場合に欠格事由となることが定められています。
本件でも、裁判を受けるような事態になると、登録取り消しになる可能性が極めて高いと言えます。
5. その他の処分(懲戒処分など)
上記3つに加えて、勤務先である福祉施設から労働法上の処分を受けます。
就業規則の懲戒規定に基づき、基本的には「職場内における利用者への暴力」かつ「逮捕・報道」を伴うものであるため、最も重い「懲戒解雇(即時解雇)」となるケースが一般的です。
