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医師・看護師・薬剤師等の処分とはどのようなものか?
【事例】
Aさんは、車を運転している最中、交通事故を起こしてしまいました。
今後Aさんにはどのような処分が待っているのでしょうか。
【解説】
事故を起こしてしまったAさんには、この後様々な機関からの呼び出し、事情聴取、処分が出されます。それぞれについてどのような違いがあるのかを検討します。
0 大前提
これから、様々な処分について説明していきます。ただ、その前提として1つ重要な問題があります。
それは、「それぞれの世界は、独立した世界である」ということです。この後説明しますが、刑事の世界と民事の世界は別の世界ですし、一致することも多いですが、刑事の世界と民事の世界の認定が同じでなければならないという決まりはありません。ですので、それぞれが別々に来てしまうことも十分あり得ます。
1 運転免許について
まずはなじみ深い運転免許の処分について考えていきます。ここで当てはまることが、基本的にはそのままあてはまります。
⑴点数
交通違反をすると、点数が引かれます。この点数がたまると免許が取り消されたり、停止されたりすることからも分かるように、これは「都道府県公安委員会」という役所が個人(免許の名義人)に対しておこなう「行政処分」です。
なお、免許センターに行けば警察官の服装をした方がいますが、⑵で出てくる警察官とは似ているようで違う存在です。
⑵刑事罰
交通事故を起こし、相手方が負傷すると過失運転致傷罪という犯罪が成立しえます。
警察は事件を捜査し、捜査を終えると「検察庁」という役所に送ります。
そして、検察官が起訴するか不起訴にするかを決定し、起訴されると裁判を受けることになります。
起訴後、裁判官が判決を下すことになりますが、罰金、執行猶予付き懲役・禁錮等、刑事罰を受けると、いわゆる前科がつくことになります。
これがいわゆる「刑事事件」です。
⑶賠償責任
事故で被害者がけがをしたり、相手の車がへこんだような場合には、賠償をする義務があります。
ただ、現在ではほとんどの方が任意保険に入られ、賠償については保険で対応されていると思われます。
この、金銭での賠償等についてのやり取りが「民事事件」です。⑴⑵との違いは、役所が登場せず、個人と個人でのやり取り(ただし保険会社が代理する)になるという点にあります。
⑷まとめ
以上の様に、1つの事故で「行政」「刑事」「民事」の3つの問題が発生します。これを念頭に置いて、今度は免許の方を検討します。
2 資格について
それでは、交通事故を起こしたとして、資格はどうなるのでしょうか。医師、歯科医師、看護師、薬剤師などは基本的には同じですので、ここからは医師を例に解説します。
⑴行政処分
医師などの資格は、基本的には厚生労働大臣から与えられた免許という形をとっています。
反対に、医師の資格を奪うときも、厚生労働大臣による処分という形式をとります。
医師法7条
医師が第四条各号のいずれかに該当し、又は医師としての品位を損するような行為のあつたときは、厚生労働大臣は、次に掲げる処分をすることができる。
一 戒告
二 三年以内の医業の停止
三 免許の取消し
このように、医師に対して、医師という資格自体を左右する処分を与えることができるのは厚生労働大臣に限定されており、これは「行政処分」ということになります。
⑵雇用関係
医師などのうち、多くの方はいずれかの医療機関に雇用されていると思われます。
そうすると、交通事故を起こしたことにより、医師免許自体に関わらず、職場を追われる可能性があります。
ただ、これがどのような事件となるかは、現在どのような医療機関に勤務しているかにより異なります。
たとえば、市民病院のような国立・公立の病院の場合、任命権者が市長などの首長になっていることがあります。そうすると、反対にクビ(免職と呼びます)にする場合も首長がクビにすることになりますから、「役所」が対立当事者として登場するので、「行政処分」となります。
これに対して、民間の病院に勤務している場合、理事長・院長であってもあくまでも「民間人」ですから、こちらは個人と個人の間の問題となりますので「民事事件」になります。
3 事件の種類
このように、民事、刑事、行政と様々な種類の手続きが登場するケースがあります。
この場合、それぞれの事件ごとに、手続のルールが異なり、結論が異なる場合もあります。
そのため、争うことを検討されるような場合には、予め専門家に相談し、何をどのように争えるのか検討しておくことが肝要です。
懲戒とは
1 懲戒とは
弁護士に対する懲戒とは、各弁護士会または日本弁護士連合会が、所属する会員弁護士又は弁護士法人
に対して行う処分を指します。
このような懲戒制度が置かれている目的は、弁護士会等の指導監督により、各弁護士や弁護士法人に対する国民の信頼を確保し、弁護士法1条に記載されている基本的人権の擁護や社会正義の実現といった使命を全うさせるためであるということができます。
また、このような懲戒権限を弁護士会等が所管することとなっているのは、行政機関や裁判所と対峙する弁護士という資格の性格に鑑み、弁護士自治の観点から弁護士の団体である弁護士会に委ねることとなったとされています。
2 懲戒の種類
弁護士(以下は自然人たる弁護士を念頭に記載します)に対する懲戒は、以下の4種類です(弁護士57条1項)。
①戒告
②2年以内の業務停止
③退会命令
④除名
これらのうち度の内容の処分となるかは、弁護士会に設置された懲戒委員会において審議され、決定されます。
もっとも重い除名処分となると、弁護士となる資格自体喪失するものですから、弁護士として職務を行うことができないだけでなく、行政書士になることもできなくなる(行政書士法2条2号は「弁護士となる資格を有する者」が行政書士となる資格を有するとする)ことになります。
そのため、懲戒の内容如何では、弁護士の職務に大きな影響を与えることとなります。
3 懲戒の結果
弁護士が懲戒を受け、それが確定した場合には、確定した内容に従って弁護士に処分が与えられます。
戒告であれば弁護士たる資格に影響が出るわけではありませんが、業務停止以上となればその期間弁護士としての職務を行うことができなくなります。
また、弁護士がこれらの処分を受けた場合には、そのことが官報によって公告される(弁護士法64条の6第3項)のほか、日本弁護士連合会が発刊している雑誌『自由と正義』に懲戒の事実が記載されることとなっています。
そして、弁護士会に対して当該弁護士の過去の懲戒処分歴の開示請求があった場合には、これを開示することとなっていますので、将来の依頼者に対しても懲戒歴を知られてしまう可能性があります。
このように、懲戒を受けてしまうことは、弁護士としての職務に大きな影響を与えてしまうものですから、懲戒手続きが開始されてしまったような場合には慎重に対応する必要があります。
弁護士資格と懲戒制度
1 弁護士資格
弁護士となるためには、日本弁護士連合会に備えてある弁護士名簿に登録されなければなりません(弁護士法8条)。
そして、この弁護士名簿に登録されるためには、以下のいずれかの要件を満たす必要があります。
①司法修習生の修習を終えた場合(弁護士法4条)
②特例の要件を満たし、一定の研修を修了したと認定された場合(弁護士法5条)
③最高裁判所裁判官であった場合
このうち②の特例には、司法修習生となる資格(司法試験合格)を得た後、一定期間法律に関係のある役所(内閣法制局など)や法律学の教授を務めた場合のほか、検察庁に検察事務官として入庁し、特例検事となって5年以上経過した場合などが定められています。
なお、かつては司法修習生となる資格を持たなくても、法律学の教授等を一定期間務めたような場合でも弁護士となる資格を得ることができましたが、現在はそのような規定はありません。
また、①②③のいずれの要件で弁護士となる資格を得たとしても、弁護士名簿に登録されてしまえば、すべて同じ弁護士となります。
弁護士へのなり方によって職務が制限されるようなことはありません。
2 弁護士自治
いわゆる「士業」と呼ばれる職業は複数あります。弁護士のほかに、司法書士、行政書士、公認会計士、税理士など、国家資格が定められている職業は複数存在します。
しかし、弁護士とその他の士業で異なるとされている点が「弁護士自治」と呼ばれるものです。
たとえば、司法書士に対して処分を行うのは「法務大臣」となっています(司法書士法47条)。また、行政書士は「都道府県知事」(行政書士法14条)、公認会計士は金融庁に設置された「公認会計士・監査審査会」が処分を行うこととなっています。
このように、他の士業では行政機関が監督官庁とされています。
これに対し、弁護士に対する処分を行うのは各弁護士会・日本弁護士連合会という弁護士の組織が行うこととされています。
弁護士はときとして裁判所・検察庁や各種行政機関と対立することがあります。そのようなときに、当該組織に監督権限を握られているような状況となれば、十分対抗できない可能性があります。
そのため、弁護士については監督官庁を置かず、弁護士会自らが会員である弁護士に対して処分を行うという法制度が採用されました。
3 懲戒制度
このような弁護士自治を確保するため、弁護士法では、弁護士会・日本弁護士連合会自らが行う弁護士の懲戒に関する規定が定められることとなりました。
たとえば、弁護士だけで弁護士に対する懲戒を判断しないよう、裁判官、検察官、学識経験者(大学の法学部の教授など)が懲戒の判断に関わるようになっています。
弁護士会による懲戒制度が、弁護士という職業の特徴ということができます。