このページの目次
【事例】
X弁護士は、ある高齢の女性Aから、親族間の財産争いについて相談を受けました。
Aが話すところによると、自身の長女Bとある土地をめぐってトラブルになっており、Aは自分の所有権を主張しているものの、Bは自身の夫の所有権を主張しているとのことでした。
ただ、最終的にAが死亡すると、相続人はBだけということもあり、いずれはBのものになる土地でもありました。
それでもAとしては、自身が生きている間に子どもと争いになることは望んでおらず、何とか穏当に解決できないかということでXのところに相談に来たのでした。
これを聞いたXは、自身が代理人となってBと交渉することを提案し、Aとの間で委任契約書を作成し、Aの代理人として土地所有権の主張を行いました。
これに対しBから「XはAから弁護士費用をだまし取っている」という懲戒請求が出されました。X弁護士としてはどうすればよいのでしょうか。
【解説】
親子間の財産争い自体は、それほど珍しいものではなくなりました。特に、子どものうち、親に味方する子どもと、争う子どもに別れるということもよくあります。
このような場合に、争っている子どもの側から、親側代理人弁護士に対して懲戒請求がなされることがあります。
その際よくなされる主張が「自身の親(委任契約者)は認知症であるから、委任契約を締結できるはずがない」という主張です。
ただ、成年後見人がいるなら当然後見人との間で契約する必要がありますが、成年後見制度を利用していない状況で、認知症であるから直ちに弁護活動を依頼できないということになってしまうと、その方の防御権を極めて制約してしまうことになります。
反対に、だからと言って自由に契約することを許してしまうと、委任契約の内容を全く理解できていないような場合であっても問題がないということになってしまい、依頼者保護の観点から適当ではありません。
最終的には弁護士の判断で契約するかどうかを決定することになりますが、その際ポイントとなるのは以下のような点です。
①まず、相談時の話の内容として、話の筋や内容に問題がないかです。もちろん過去のことを話すような場合に時系列が前後してしまうことは誰でもあるところですが、全く脈絡のない話が続いたり、およそ信じがたいような話がなされているような場合には意思能力を疑う必要があります。
②次に、どのような場所で相談を受けるかです。法律事務所の方に来てもらえるような場合や、役所などの窓口で相談をする場合はよいですが、相談者の体調面などから病院、施設で相談を受けるような場合は注意が必要となります。
③最後に、実際に認知症の診断がなされているかも問題となります。もちろん、人によっては知られたくない情報であるため、直接的に聞き出すことは困難な面はあります。ただ、周囲の人(味方となる親族)に聴取したり、本人の要介護度などを参考にすると判断能力について参考にすべき情報が得られることがあります。
【最後に】
弁護士が懲戒請求を受けた場合、弁護士は代理人ではなく紛争の当事者となります。代理人として紛争にあたるのはいつもどおり出来たとしても、当事者として紛争にあたる場合には思った通りの活動が出来ないということはあり得ます。代理人を入れることで、事実をしっかりと整理し、懲戒処分の回避や軽減につながる可能性が上がります。
加えて、勤務弁護士について懲戒請求を受けた場合に、実際に懲戒処分がなされれば事務所全体の評判に関わる可能性があります。当該勤務弁護士について解雇・業務委託契約解除をしたとしても悪影響が払拭できない可能性もあります。
勤務弁護士が懲戒請求を受けている場合も含めて、懲戒請求手続について詳しく、懲戒請求に対する弁護活動経験が豊富な弁護士への相談を検討している先生方は、是非弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所にお問い合わせください。