国選弁護人の辞任

1 事例

 刑事事件第1審において、国選弁護人に選任された弁護士が裁判所に辞任届を提出し、そのまま公判に出廷しなかった。しかし、その状況で裁判所は実質的に審理を継続した。
 この点について、控訴審において①弁護人辞任届を提出しているに裁判所が解任しなかったのは違法である②公判に弁護士が出廷していないのに実質的な審理を行ったのは訴訟手続きの法令違反であるという主張が控訴審弁護人からなされた。
(東京高判昭和50年3月27日の事案)

2 裁判所の判断

①について

 「現行制度の下においては、裁判所によって選任せられた国選弁護人は、裁判所の解任行為によらなければ、原則としてその地位が消滅することはなく、また正当な理由がなければ辞任の申出をすることができないものであって(弁護士法二四条参照)、しかもその正当理由の有無の判断は、選解任権を有する裁判所がすべきものと解せられる。」としており、裁判所が解任をするまでは国選弁護人の地位は残るほか、解任するかどうかについても裁判所が判断する旨を述べました。

②について

「前記国選弁護人らの辞任の申出に正当な理由が認められないとしてこれを解任しなかった原審の措置に、所論のような違法があると認めることはできない。また国選弁護人が辞任届を提出し、出廷しなかったのは、被告人らの責に帰すべき事由によるもので、それによって生ずる不利益は被告人らがみずから甘受せざるを得ないものとして、弁護人不出廷のまま実質審理を行ない判決するに至った原審の措置は、必要的弁護事件でない本件においては、やむをえなかったものというほかはない。すなわち、被告人らが、原審のとったグループ別審理方式をはじめその他の公判運営上の措置を不満として、そのような形態による裁判の進行をあくまで阻止しようとして、国選弁護人らを辞任せざるを得ない状況に追い込み、その結果弁護人らが出廷しなくなったとしても、それは被告人らがみずから望んだところと言わざるをえない。したがって、このような事情の下において、原審が弁護人不出廷のままで審理判決したからといって、被告人の弁護人依頼権の保障を無視した措置があるということはできない。」
として、被告人らの責めに帰すべき事由により弁護人が出廷しないような場合には、弁護人不出頭を理由として公判を継続したとしても違法はない旨判示しました。

3 解説

 弁護士法第24条にある通り、弁護士は正当な理由がなければ官公署から委嘱を受けた事項を辞任できないとなされています。
 国選弁護人も裁判所から依頼を受けた事項であるため、正当な理由がなければ辞任できません。
 そして、国選弁護人については、刑事訴訟法にその解任事由が定めてある通り、裁判所が解任をすることとなっています。そのため、弁護人の一方的意思表示のみでは辞任できないということになります。
 ただ、弁護人が辞任を申し出、それに相応の理由がある場合には、刑事訴訟法第38条1項に記載の事由が当てはまるようになることが多いと思われますから、解任となる可能性はあると思われます。

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