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【はじめに】
弁護士職務基本規程第35条では、「弁護士は、事件を受任した時は、速やかに着手し、遅滞なく処理しなければならない。」とされ、依頼された事件については速やかに着手し遅滞なく処理することを義務としています。この義務の違反が一般には事件放置などと言われており、品位を害したとも評価されることで懲戒処分の対象となることがあります。
それでは、依頼者から事件放置によって懲戒請求をされたとき、懲戒請求をほのめかされたときはどう対応すれば良いのでしょうか?
架空の事例を基に解説していきます。
【事例】
Aさんは、登録10年程度の弁護士であり、個人の交通事故などの民事事件のほか、破産の申立なども扱っており、主に過去の依頼者などからの紹介とインターネット広告などを集客手段としていた。
あるとき、インターネットのポータルサイト経由で個人の依頼者Bから自己破産の案件を受任し、着手金等を含む弁護士費用のための預り金計50万円を受領したが、受任から1年6か月にわたって破産手続きの申立てをしなかった。
依頼者Bは、事件放置であるとして、A弁護士の所属する単位会に懲戒請求を行った。
(事例は、フィクションであり、実在の弁護士、依頼者、その他個人、会社、団体とは一切関係ありません。)
【対応方法】
まず、事件に「速やかに着手」しなかったとして事件放置といえるかどうかについては、事件を放置した期間、及び事件着手するための必要な準備がどのようなものであったかによると考えられます。
「解説 弁護士職務規程 第3版」によれば、「弁護士の着手に先行して、依頼者によって必要な調査等の事前準備が整わない場合は、事件の着手にあたる行為が遅延したとしても、直ちに本条に違反するとはいえない。」とあります。一律に何年着手しなかったからと言って懲戒処分の対象になるものではありません。
ただし、同書では、「この場合は、依頼者に対し、その依頼者がなすべき調査について、できるだけ速やかに事前準備できるように適切な助言・指示をしておくべきである。そして、弁護士の側では、条件さえ整えば速やかに着手できる準備を整えておくべきである。」としています。
本件についていえば、事件を受任したことを失念していたために速やかな着手が出来なかった場合などは懲戒処分を受ける可能性が非常に高いと言わざるを得ません。また、精神疾患の発症などによって着手できないような場合でも、精神疾患はあくまで弁護士側の事情であり、依頼者には関係ないことであるため、その理由だけでは懲戒処分を免れない可能性は高いと言えます。
しかしながら、事件の事案からどのような事前準備が必要であり、実際にその事前準備がどのように進行していたのか、事前準備が素早く行えるようにするためにどういったアドバイスをしていたのか、弁護士の側では速やかに着手出来るようにどのような準備を行っていたのか説明が出来るようにすれば、懲戒処分の回避や軽減につながる可能性があります。
なお、事件に着手できない理由について依頼者に虚偽の説明を行っていたような場合は、別途事件についての報告義務違反であるとして懲戒処分が重くなる方向になると考えられます。事件に着手できなかった理由について依頼者にどのような説明を行ったか、別途検討しておく必要もあります。
【最後に】
弁護士が懲戒請求を申し立てられた場合、弁護士は代理人ではなく紛争の当事者となります。代理人として紛争にあたるのと、当事者として紛争にあたるのとでは気持ちもパフォーマンスも大きく変わってくると考えられます。代理人を入れることで、事実をしっかりと整理し、懲戒処分の回避や軽減につながる可能性が上がります。
懲戒請求手続について詳しく、懲戒請求に対する弁護活動経験が豊富な弁護士への相談を検討している先生方は、是非弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所にお問い合わせください。