【弁護士が解説】弁護士報酬を請求する際にトラブルとなった場合にはどのように対応すればよいか

【はじめに】

 弁護士として事件を受任し、時間と労力をかけて、なんとか当初の見立て通りの結果が出たとします。仮に弁護活動の結果自体は満足のいくものであったとしても、法的紛争が起こっているからこそ弁護士にお金を払って依頼するのであり、事件が終了したのであれば弁護士にお金を払いたくないと考えてしまうのはある意味合理的なのかもしれません。したがって、事件終了時にトラブルになる可能性が高い問題の一つとして、報酬に関する問題が出てきます。
 今回は、弁護士報酬に関してトラブルになった事例を一つ取り上げて、弁護士報酬トラブルでの懲戒請求について説明します。

【事例】

 X弁護士は、登録15年程度の弁護士であり、個人事業主として法律事務所を経営していた。あるとき、依頼者男性Yから、相手方女性Zとの離婚調停、審判、裁判を受任した。離婚、財産分与、親権に関する結果についての成功報酬額は委任契約書に記載されていた。経済的利益の計算方法は法律事務所の基準による旨を説明しており、当該基準は法律事務所のホームページにも記載されていた。X弁護士の見通し説明としては、離婚を防ぐこと、子の親権をYとすることは困難であるものの、Zの不貞等の関係やZ側の財産分与に関する主張との関係で、財産分与についてはZ側の請求額から一定程度が減額される可能性があるとのことであった。着手金は、受任の時点でYからXに支払われた。
 受任から約3年後、結局審判を経てYとZは正式に離婚することとなり、子の親権者はZとされたものの、YがZに支払わなければならない金額としてはZの請求額よりも1000万円程度減額された。  弁護士報酬は、着手金、成功報酬、日当を合わせると合計400万円程度となった。X弁護士から依頼者Yに上記報酬を請求したところ、Yから、財産分与については一定の結果が出たものの自分としては親権を獲得したいというのが一番の希望であって、事件解決にも時間がかかっているので報酬には不満であること、弁護士報酬についても説明が十分になかったこと、他の弁護士事務所よりも弁護士報酬が高いので弁護士報酬を払いたくないと言った不満が出た。これに対し、X弁護士は料金は契約書通りであるので必ず支払ってもらう旨Yに伝え、それから3か月ほどYに内容証明等で督促をし続けたがYは一向にZが上記弁護士報酬と着手金の差額を支払おうとしなかった。そのため、XはZに対し、弁護士報酬の合計を350万円とする旨の提案をしたが、Yはそれにも応じなかった。やむなく、Xは所属弁護士会に対して紛議調停を申し立てたところ、それに腹を立てたYがXを懲戒するよう、Xが所属する弁護士会に懲戒請求を行った。
(事例は、フィクションであり、実在の弁護士、依頼者、その他個人、会社、団体とは一切関係ありません。)

【対応方法】

 弁護士として仕事をしていると、事件が終わったところになってこのように元依頼人から報酬についての不満を出されることがあるかと思います。このような場合に実際に懲戒処分がされる事案については、ある程度共通した事情があると考えられます。

 本件に関係しそうな規定は以下です。

弁護士職務基本規程
(名誉と信用)
(弁護士報酬)
第二十四条 弁護士は経済的利益事案の難易時間及び労力その他の事情に照らして 適正かつ妥当な弁護士報酬を提示しなければならない。

弁護士法 
(懲戒事由及び懲戒権者)
第五十六条 第1項 弁護士及び弁護士法人は、この法律(弁護士・外国法事務弁護士共同法人の社員又は使用人である弁護士及び外国法事務弁護士法人の使用人である弁護士にあつては、この法律又は外国弁護士による法律事務の取扱い等に関する法律)又は所属弁護士会若しくは日本弁護士連合会の会則に違反し、所属弁護士会の秩序又は信用を害し、その他職務の内外を問わずその品位を失うべき非行があつたときは、懲戒を受ける。

 本記事を作成するために調べた限りだと、弁護士報酬が単に他の事務所よりも高いからといってそれだけで懲戒処分がなされる事案は多くないように思われます。懲戒処分がなされるような事案は、契約の際の説明に大きな不備があるとか、あまりにも相手方に配慮がない請求の仕方を行っている等の要素が目立っているように思います。本件について考えると、弁護士報酬や計算基準については契約書に記載されていますが、経済的利益の計算基準についてはX弁護士の法律事務所基準によるとし、実際にホームページに記載があるとはいえ、契約の際に具体的には説明を行っていません。この点については、「基準」の予測可能性がどの程度あるか、「基準」について依頼者が疑義を申し立てることが有ったかどうかが問題になりそうです。
 また、弁護活動が完全に成功したわけではないところで契約書通りの請求を行っていますが、依頼人によってはそのような請求をとらえて懲戒請求において主張してくる可能性があります。弁護士報酬の説明状況等について具体的に説明出来るようにしておくことで、実際に懲戒処分を避けることができる可能性が上がるでしょう。
 最後に、X弁護士側から紛議調停を申し立てた点ですが、具体的な交渉状況を説明し、これがやむを得なかったことを説明する必要があります。

【最後に】

 上に挙げた事例とは異なり、弁護活動に際して契約書を作成せずに弁護活動に入り、弁護士報酬を請求して懲戒される、というパターンは非常に典型的なパターンといえます。上に挙げた事例では、契約書もありますし、依頼者に対して相当な説明をした、という主張は比較的しやすいかも知れません。しかし、懲戒処分は厳密な証拠裁判主義にのっとって行われる民事・刑事裁判とは異なりますので、懲戒対応の経験やノウハウを持つ弁護士が代理に入ることで、納得のいかない処分を回避出来る可能性は上昇すると考えられます。
 加えて、勤務弁護士が懲戒処分を受ければ、当該勤務弁護士について解雇・業務委託契約解除をしたとしても法律事務所への悪影響が生じるのを防げない可能性があります。
 勤務弁護士が懲戒請求を受けている場合も含めて、懲戒請求手続のノウハウを持つ弁護士への相談を検討している先生方は、是非弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所にお問い合わせください。

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