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1 取消訴訟
⑴対象となる事件
取消訴訟の対象となる事件は
- 弁護士会の懲戒の処分ついて、日弁連の審査請求が却下若しくは棄却された場合
- 日弁連から懲戒を受けた場合
です。
そのため、弁護士を懲戒しない旨が日弁連等で決定した場合、その懲戒しないという決定に対して取消訴訟を提起することはできないことになります。
⑵審査請求前置
単位会が行った懲戒処分については、日弁連の採決に対してのみ訴えを提起できることとなっており、審査請求前置主義を採用しています。
⑶主訴権者
訴えを提起できるのは処分を受けた弁護士・弁護士法人に限られます。
懲戒請求者は原告となれません。弁護士の懲戒処分は、あくまでも単位会・日弁連が行う処分であり、懲戒請求者に与えられた懲戒請求権、異議申立権などはあくまでも公益的見地から認められているだけであるからです。
⑷被告
被告は日弁連に限られます。単位会が行った懲戒の処分については、日弁連の採決のみが訴えの対象となり(弁護士法第61条2項)、単位会の処分が訴訟の対象とならないからです。
⑸出訴期間
出訴期間については、通常の行政事件訴訟法第14条の通り、裁決・処分があったことを知った日から6か月以内または裁決・処分の日から1年以内です。
⑹管轄
この取消訴訟は、東京高等裁判所の専属管轄となります(弁護士法第61条1項)。
日弁選の懲戒委員会が、準司法的機関ということで、公正取引委員会による裁決等と同様に、第1審が高等裁判所とされています。
⑺執行停止
これについても、通常の行政処分と同様、訴えの提起だけでは処分の効力は停止しません。
行政事件訴訟法に基づく執行停止等の申立てをする必要があります。
2 審理
審理の方法は、通常の行政事件訴訟法による方法です。
そのため、裁判所が判断するのは、単位会・日弁連によってなされた懲戒の処分が「全く事実の基礎を欠くか、又は社会通念上著しく妥当性を書き、裁量権の範囲を超え又は裁量権を濫用してされたと認められる場合」であるかどうかです。
単位会・日弁連に裁量権の逸脱濫用があった場合のみ処分が違法となると考えられます。
また、処分の違法性についての立証責任については、弁護士の懲戒が制裁的な処分であることから、原則として日弁連が処分の適法性について立証責任を負うと考えられます。
3 判決
訴え却下、請求棄却の判決がなされた場合には、対象弁護士(法人)としては、上告を行うかということになり、その点は通常の訴訟と同様です。
反対に、請求認容の判決があった場合、裁判所は日弁連の裁決・処分を取り消すだけとなります。
「原告弁護士を懲戒しない」という判決が下されるのではなく、審査請求却下・棄却の裁決が取り消されるか、日弁連の懲戒処分が取り消されるにすぎません。
そのため、請求認容の判決が出た場合には、日弁連は、再度、裁判所の判断の趣旨に従い(行政事件訴訟法第33条)、対象弁護士に対する審査請求の判断、処分を行わなければなりません。