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事例
東京都内の総合病院に勤務する看護師Aさんが、自身の不眠症状を改善する目的で、医師の許可なく睡眠薬の処方箋を偽造し、薬局で薬を受け取りました。
後日、薬局からの照会により発覚し、警察に通報されました。
(事例はフィクションです。)
① 刑事上の責任(刑罰)
この場合、主に次の犯罪が成立する可能性があります。
有印私文書偽造等罪(刑法第159条)
Aさんは、医師に成りすまし、医師名義の処方箋を作成していますから、有印私文書偽造罪が成立します。
なお、「有印」とは、「他人の印章等を使用して」行うことを指すとされていますが、処方箋の医師名の横には医師の印が押されていると思われますので、この罪が成立します。
有印私文書行使罪(刑法第161条)
この偽造文書を行使した場合には、有印私文書行使罪が成立します。薬局に提出する行為は、まさに行使と言えます。
詐欺罪(刑法第246条)
このような偽の処方箋を用いて医薬品を薬局から購入した場合、「もし本当のことを(偽造されていること)を薬局が知っていたら、薬を提供しなかった」
と言えることから、薬を詐取したとして詐欺罪に問われる可能性があります。
なお、Aさんはもちろん対価として薬の代金を支払っているはずで、これ自体は正当な金額だと思われます。たとえ正当な対価を支払っていたとしても、
本当のことを知っていれば売らなかったというような場合には、詐欺罪が成立しうると言えます。
仮にこれらのすべてについてAさんが罪に問われたとしても、初犯であれば実刑判決となる可能性はそれほど高くありません。
しかし、Aさんが過去にも同じようなことをしている場合や、初犯であっても詐取した薬剤の量が多い場合、自己使用目的ではなく転売目的である場合等には実刑の可能性が否定できなくなってきます。
② 看護師資格への影響
看護師の資格は、保健師助産師看護師法に基づいて管理されています。
看護師については、罰金以上の刑となった場合や、看護師として品位を損するような行為があったときに処分を受ける可能性があります
(保健師助産師看護師法14条)
■ 行政処分の流れ(罰金以上の刑を受けた場合)
まず刑事事件が確定する必要があります。現に裁判中の場合には、罰金以上の刑を理由に処分を受けることはありませんし、第一審が終了しても控訴した場合には刑が確定していない状態になるので処分を受けません。ただし、看護師として品位を損する行為かどうかは、刑の確定とは関係ない事情となりますので、こちらを理由として処分を受ける可能性があります。
法律上、厚生労働省による調査が行われることになっています。しかし、実際には都道府県知事(もっと言うと、都道府県の担当部局の職員)による聴聞が行われることがほとんどです(同15条3項)。
都道府県において聞き取りが行われ、その意見が厚生労働省に提出されることで、実際に医道審議会での審議が行われることになります。
最終的な処分については、医道審議会の意見を聞いたうえで、厚生労働大臣が決定する(准看護師の場合には、准看護師試験委員の意見を聞いて都道府県知事が決定する)ことになっています。
■ 想定される行政処分
処分の重さは事案の悪質性によります。ただ、「保健師助産師看護師に対する行政処分の考え方」が公表されており、ここで一応の目安が記載されています。
処方箋の偽造については直接的には定められていませんが、職務上の立場を利用して犯罪を行ったような場合には重い処分とすることが明記されていますので、
今回のAさんの事例でも免許取消しや業務停止といった重い処分が考えられます。
■ 免許取消の場合
一度免許を取り消されると、基本的には5年程度免許が取得できなくなります(取り消しとなった事由にもよります)。
③ 勤務先での処分
病院からは以下の懲戒処分が想定されます。
懲戒解雇
諭旨解雇
停職
医療機関では信用失墜行為は重大視されるため、懲戒解雇の可能性が高いです。
④ まとめ(本事例の場合)
この架空事例では:
刑事責任:有罪(執行猶予付き懲役の可能性)
職場:懲戒解雇の可能性大
看護師免許:業務停止〜取消の可能性
