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事例
内科医Aは、実際には行っていない検査や処置を電子カルテ上で記録し、健康保険に対して診療報酬を請求していました。
これを2年間継続し、合計で約800万円を不正に受け取っていたところ、保険組合の調査でA医師の行為が発覚し、診療報酬の不正請求問題へと発展しました。
この場合、A医師にはどのような処分が科されるのでしょうか。
(事例はフィクションです。)
医師が犯罪に該当するような行為をした場合、もちろん犯罪ですから刑法上の責任を問われることになります。
しかし、医師免許には欠格事由があり、犯罪行為などの一定の行為をしてしまうと、医師免許に対する行政処分が科されることとなっています。
それでは、それぞれどのような処分となるのかを解説していきます。
① 刑法上の責任
この場合、主に問題となるのは以下のような罪名です。
詐欺罪(刑法246条)
保険者(健康保険組合など)を欺いて診療報酬を受け取る行為は、典型的に詐欺罪に該当します。
なお、直接担当者をだますのではなく、オンライン上で申請するような場合には、電子計算機等使用詐欺罪が成立する可能性があります。
いずれの罪名であっても、10年以下の拘禁刑となっており、罰金刑もないなど重い罪に該当します。
本事例では、継続的かつ高額(800万円)です。一般的に被害額が100万円を超えてくると実刑の可能性が出てきますので、本件は実刑判決の可能性も十分ある重大事案です。
有印私文書偽造罪等(場合による)
診療録やレセプトを意図的に改ざん・作成した場合:
有印私文書偽造・同行使罪(刑法159条・161条)に該当します。
電子カルテの場合でも、電磁的記録不正作出の罪に該当する可能性があるため、いずれにしても犯罪が成立します。
このように、A医師の行為は、刑事上も相当重たい処分が予想されます。
② 医師法上の処分(行政処分)
刑事処分とは別に、厚生労働大臣による行政処分が行われます。根拠は 医師法 です。
主な処分の種類(医師法7条)
戒告
一定期間の医業停止
免許取消し
本事例で想定される処分
不正請求が
・長期間(2年)
・高額(800万円)
・故意性が強い
という事情から、
医業停止または免許取消しが検討されます。
特に詐欺罪で有罪判決(実刑・執行猶予問わず)が確定した場合は、
医道審議会の答申を経て厳しい行政処分(長期停止〜取消し)が予想されます。
実際、医師及び歯科医師の行政処分の考え方によれば
「診療報酬制度は、医療の提供の対価として受ける報酬であり、我が国の医療保険制度において重要な位置を占めており、これを適正に受領することは、医師、歯科医師に求められる職業倫理においても遵守しなければならない基本的なものである。
診療報酬不正請求は、非営利原則に基づいて提供されるべき医療について、医師、歯科医師としての地位を利用し社会保険制度を欺いて私腹を肥やす行為であることから、診療報酬の不正請求等により保険医等の登録の取消処分を受けた医師、歯科医師については、当該健康保険法に基づく行政処分とは別に医師法又は歯科医師法による行政処分を行うこととする。
当該不正行為は、医師、歯科医師に求められる職業倫理の基本を軽視し、国民の信頼を裏切り、国民の財産を不当に取得しようというものであり、我が国の国民皆保険制度の根本に抵触する重大な不正行為である。
したがって、その行政処分の程度は、診療報酬の不正請求により保険医の取消を受けた事案については、当該不正請求を行ったという事実に着目し、不正の額の多寡に関わらず、一定の処分とする。
ただし、特に悪質性の高い事案の場合には、それを考慮した処分の程度とする。
また、健康保険法等の検査を拒否して保険医の取消を受けた事案については、検査拒否という行為が、社会保険制度の下に医療を行う医師、歯科医師に求められる職業倫理から到底許されるべきでないことから、より重い処分を行うこととする。」
とされており、厳しい処分となることが必至です。
③ 両者の関係(重要)
刑事処分と行政処分は別個に行われます。
刑事:裁判所
行政:厚生労働大臣(免許に関する処分)
となっています。これらは別個の手続ですから、たとえ刑事事件が不起訴処分となったとしても、
医師法上の処分を受ける可能性は残るという点は重要です。
④ まとめ
この事例では:
刑法上:詐欺罪 → 拘禁刑(実刑の可能性あり)
医師法上:医業停止または免許取消し
医療制度の信頼を損なうため、極めて重い法的責任が課される行為です。
