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1 処分事由
看護師の国家資格について、処分の理由となる規程は保健師助産師看護師法第14条第1項に定めがあります。
そして同条は「看護師が第九条各号のいずれかに該当するに至つたとき、又は保健師、助産師若しくは看護師としての品位を損するような行為のあつたときは、厚生労働大臣は、次に掲げる処分をすることができる。」としていますので、具体的な定めは同法9条に規定されています。
同法9条の定めは
第九条 次の各号のいずれかに該当する者には、免許を与えないことがある。
一 罰金以上の刑に処せられた者
二 前号に該当する者を除くほか、保健師、助産師、看護師又は准看護師の業務に関し犯罪又は不正の行為があつた者
三 心身の障害により保健師、助産師、看護師又は准看護師の業務を適正に行うことができない者として厚生労働省令で定めるもの
四 麻薬、大麻又はあへんの中毒者①心身の障害により看護師の業務を適正に行うことができない者として厚生労働省令で定めるもの
① 罰金以上の刑に処せられた者
ここでいう「罰金」とは、刑事罰としての罰金を指しています。
たとえば、交通違反を犯し、青色や白色の切符を切られた際に支払う「交通反則金」は罰金ではありません。これに対して赤色の切符(通称赤切符)を切られ、裁判所に出頭して支払うものは「罰金」となります。
また、「罰金以上」と定めがあるだけですので、どのような罪で罰金以上の刑になったかは問われていません。たとえば、交通事故で罰金を支払った場合も、盗撮や痴漢で罰金を支払った場合も、法文上は同じ扱いとなります。
② 前号に該当する者を除くほか、保健師、助産師、看護師又は准看護師の業務に関し犯罪又は不正の行為があつた者
保健師、助産師、看護師又は准看護師の業務に関し犯罪又は不正の行為があった者ですが、まず「犯罪」と「不正の行為」が分けられている通り、必ずしも犯罪だけが対象とされているわけではありません。ですので、犯罪には該当しないけれども不正であるような場合にも処分の対象となり得ます。
また1号と異なり「罰金」のような刑事罰を科せられたことは要件となっていません。そのため、犯罪が成立したけれども情状によって起訴されなかった、いわゆる起訴猶予(不起訴の一種)の場合であっても、処分の対象となる可能性があります。
③ 心身の障害により保健師、助産師、看護師又は准看護師の業務を適正に行うことができない者として厚生労働省令で定めるもの
厚生労働省令である保健師助産師看護師法施行規則第1条によれば、「保健師助産師看護師法(昭和二十三年法律第二百三号。以下「法」という。)第九条第三号の厚生労働省令で定める者は、視覚、聴覚、音声機能若しくは言語機能又は精神の機能の障害により保健師、助産師、看護師又は准看護師の業務を適正に行うに当たつて必要な認知、判断及び意思疎通を適切に行うことができない者とする。」と定めてあります。
具体的にどのような障害であるかどうかは定めがありませんが、同規則1条の2第1項に「厚生労働大臣は、保健師免許、助産師免許又は看護師免許の申請を行つた者が前条に規定する者に該当すると認める場合において、当該者に免許を与えるかどうかを決定するときは、当該者が現に利用している障害を補う手段又は当該者が現に受けている治療等により障害が補われ、又は障害の程度が軽減している状況を考慮しなければならない。」とも定めています。
ですので、「必要な認知、判断および意思疎通を適切に行うことができない」からといって、一律に免許を交付しない(処分の対象とする)というものではないと定められています。
④ 麻薬、大麻又はあへんの中毒者
このような規定は多数あり、麻薬中毒者については措置ができることになっていますが(麻薬及び向精神薬取締法第58条の2以下)、実例はほとんどないと思われます。
2 手続
保健師助産師看護師法第15条第1項によれば、「厚生労働大臣は、前条第一項又は第三項に規定する処分をしようとするときは、あらかじめ医道審議会の意見を聴かなければならない。」と定めています。
ですので、処分に当たっては、厚生労働省の医道審議会にて処分が審議されるという流れとなります。
ところで、看護師の資格に対して何らかの処分を行うことは、その者に対して不利益な処分となります。不利益処分の場合行政手続法が適用されますから、必ず聴聞の手続きが行われます。
保健師助産師看護師法第15条第3項では、「厚生労働大臣は、前条第一項の規定による免許の取消処分をしようとするときは、都道府県知事に対し、当該処分に係る者に対する意見の聴取を行うことを求め、当該意見の聴取をもつて、厚生労働大臣による聴聞に代えることができる。」となっております。
ここで、自らの言い分等を述べることができるような仕組みがありますので、不意打ち的にいきなり処分が出るのではなく、処分を行うためになされる手続きが開始されたことについては必ず連絡が来ます。
3 処分の内容(保健師助産師看護師法第14条第1項)
⑴ 行政指導
未だ処分を行うほどではないような場合には「行政指導(厳重注意)」がなされます。
これはあくまでも注意ですので、資格そのものには影響しません。単なる注意ですが、再び同じようなことをしてしまったような場合には、過去に厳重注意を受けていることは処分を重くする方向で働きます。
⑵ 戒告
戒告も、資格そのものに影響を及ぼさない点には変わりありません。ただ、法定されている処分ですので、単なる指導ではなく行政処分を受けているということになりますが、単に戒告だけであれば看護師業務には影響しないということになります。
ただし、行政指導と異なり、再教育研修(保健師助産師看護師法第15条の2)の対象となりますので、場合によっては研修を受講する必要が生じます。
⑶ 3年以内の業務の停止
看護師になるためには厚生労働省の免許を受けなければならず、看護師でなければ「傷病者若しくはじよく婦に対する療養上の世話又は診療の補助」(保健師助産師看護師法第5条)ができません(保健師助産師看護師法31条)。
ですので、業務の停止を受けている間は看護師としての活動ができなくなります。
業務の停止をする期間について法律上の定めはありませんが、数か月から5年程度くらいまでがほとんどだと思われます。
⑷ 免許の取消し
これは、看護師としての資格を取り消す処分です。
ですので、看護師としての資格を失ってしまいますので、再度受験をしなければ免許を得ることができません。
免許取消処分は最も重い処分となりますので、相当悪質な場合に限定されていると思われます。
4 具体的な処分
看護師に対する行政処分は、医道審議会(保健師助産師看護師分科会看護倫理部会)の議事にまとめられ、公表されています。
ですので、どのような事件でどのような処分となるのかがおおよそ分かります。
令和5年11月27日
免許取消 6件
窃盗、常習累犯窃盗1件
有印私文書偽造、同行使、詐欺1件
詐欺1件
覚せい剤取締法違反、麻薬及び向精神薬取締法違反、医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律違反、関税法違反1件
強制わいせつ1件
監禁、強制わいせつ、職業安定法違反、傷害、窃盗1件
業務停止3年 1件
危険運転致傷、道路交通法違反
業務停止2年 1件
過失運転致死、道路交通法違反
業務停止3月 8件
過失運転致死1件
道路交通法違反1件
名誉毀損1件
国際的な協力の下に規制薬物に係る不正故意を助長する行為等の防止を図るための麻薬取締法及び向精神薬取締法等の特例等に関する法律違反1件
業務上過失致死2件
北海道迷惑行為防止条例違反、邸宅侵入1件
公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例違反1件
業務停止2月 3件
運転過失致傷、道路交通法違反1件
道路交通法違反1件
業務上過失傷害1件
当該分科会では、19名が行政処分の対象となりました。
免許取消となっているのは、人を死亡させた罪(保護責任者遺棄致死)や、何度も刑事罰を受けている罪(常習累犯窃盗)や、強制わいせつの罪で、犯罪としても相当悪質性が高いものです。
また、覚せい剤取締法違反、麻薬及び向精神薬取締法違反、医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律違反、関税法違反は、麻薬や覚せい剤の輸入が行われていたような事案であることを示唆し、これも相当に悪質です。
一方、業務停止3月の処分の原因となった行為例にもあるように、単なる交通事故や、痴漢、盗撮の行為(北海道迷惑行為防止条例違反、公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例違反)等については比較的軽い処分がなされる傾向の様です。
なお、当該分科会においては、8名について行政処分(厳重注意)相当とされました。
免許取消 7件
暴力行為等処罰に関する法律違反、暴行1件
準強制わいせつ1件
暴力行為等処罰に関する法律違反、監禁、暴行、準強制わいせつ1件
準強制わいせつ、暴行1件
児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反1件
強制わいせつ、児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反、神奈川県青少年保護育成条例違反1件、看護師の業務に関する犯罪行為1件
業務停止3年 2件
窃盗、詐欺1件
監禁1件
業務停止2年 1件
覚醒剤取締法違反
業務停止6月 1件
過失運転致傷、道路交通法違反
業務停止3月 4件
道路交通法違反4件
戒告 1件
道路交通法違反、道路運送車両法違反、自動車損害賠償保障法違反
当該分科会では、16名が行政処分の対象となりました。
同じ道路交通法違反でも戒告と業務停止のように処分が分かれていることを考えると、おそらくはどのような刑事罰を受けたのかや、被害の程度によって処分が分かれていると思われます。
また、看護師という性質上、薬物法令違反については重い処分が予想されます。
なお、当該分科会では8名が行政処分(厳重注意)相当とされました。
5 考え得る弁護活動
⑴ 刑事処分回避
処分の事由が「罰金以上の刑」となっている以上、まずは不起訴処分となることを目指す必要があります。
被害者のいる犯罪で、事実関係を認めているような場合であれば、被害者との間で示談交渉を行い、お許しいただくことで刑事処罰を回避できる可能性があります。
また、事実無根のような場合には、取調べの対応を行い、刑事処罰を受けないように受け答えを行う必要があります。
示談交渉の場合、示談に至るまでに日数が必要となることが多いですから、いち早く弁護士に依頼し、速やかに示談交渉に着手することが肝要です。
また、取調べ対応を行う場合でも、1通でも供述調書が作成されてしまえば問題となってしまう可能性が高いので、取調べを受ける前から備えておく必要があります。
⑵ 行政手続対応
先ほども述べたように、いきなり処分を受けるのではなく、まずは厚生労働省又は都道府県の担当部局から話を聞かれる機会(聴聞)が存在します。
その中で自身に有利な事情等を挙げていき、処分を回避する必要性があります。
たとえば、仮に刑事事件の最中に被害者との間で示談が成立せず、処分を受けたとしても、その後に被害回復をしているといった事情は、行政手続の中でも有利に働きます。
また、やむを得ずに犯罪に至った事情や、再犯防止に対する対応などについても、証拠化し、提出することが大切です。
このような作業は、行政手続きの処分に対する判断要素に対応して行う必要がありますから、専門的な弁護士に依頼して行う方が効果的な書類作成が期待できます。