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1 処分事由
医師の国家資格について、処分の理由となる規程は、医師法第7条第1項に定めがあります。
そして同条は、「医師が第4条各号のいずれかに該当し、又は医師としての品位を損するような行為のあつたときは、厚生労働大臣は、次に掲げる処分をすることができる。」としていますので、具体的な定めは同法第4条にも規定されています。
同法第4条の定めは、次のとおりです。
第四条 次の各号のいずれかに該当する者には、免許を与えないことがある。
一 心身の障害により医師の業務を適正に行うことができない者として厚生労働省令で定めるもの
二 麻薬、大麻又はあへんの中毒者
三 罰金以上の刑に処せられた者
四 前号に該当する者を除くほか、医事に関し犯罪又は不正の行為のあつた者
① 心身の障害により医師の業務を適正に行うことができない者として厚生労働省令で定めるもの
これについての厚生労働省令である医師法施行規則第1条によれば、「医師法(昭和二十三年法律第二百一号。以下「法」という。)第四条第一号の厚生労働省令で定める者は、視覚、聴覚、音声機能若しくは言語機能又は精神の機能の障害により医師の業務を適正に行うに当たって必要な認知、判断及び意思疎通を適切に行うことができない者とする。」と定めてあります。
具体的にどのような障害であるかどうかは定めがありませんが、同規則1条の2に「厚生労働大臣は、医師免許の申請を行った者が前条に規定する者に該当すると認める場合において、当該者に免許を与えるかどうかを決定するときは、当該者が現に利用している障害を補う手段又は当該者が現に受けている治療等により障害が補われ、又は障害の程度が軽減している状況を考慮しなければならない。」とも定めています。
したがって、「必要な認知、判断及び意思疎通を適切に行うことができない」からといって、一律に免許を交付しない(処分の対象とする)というものではないと言えます。
② 麻薬、大麻又はあへんの中毒者
このような規定は多数あり、麻薬中毒者については措置ができることになっていますが(麻薬及び向精神薬取締法第58条の2以下)、実例はほとんどないと思われます。
③ 罰金以上の刑に処せられた者
ここでいう「罰金」とは、刑事罰としての罰金を指しています。
たとえば、交通違反を犯し、青色や白色の切符を切られた際に支払う「交通反則金」は罰金ではありません。これに対して赤色の切符(通称赤切符)を切られ、裁判所に出頭して支払うものは「罰金」となります。
また、「罰金以上」と定めがあるだけですので、どのような罪で罰金以上の刑になったかは問われていません。たとえば、交通事故で罰金を支払った場合も、盗撮や痴漢で罰金を支払った場合も、法文上は同じ扱いとなります(但し、後述の基準が異なります)。
④ 前号に該当する者を除くほか、医事に関し犯罪又は不正の行為のあつた者
医師の業務に関し犯罪又は不正の行為があった者ですが、まず、「犯罪」と「不正の行為」が分けられているとおり、必ずしも犯罪だけが対象とされているわけではありません。したがって、犯罪には該当しないけれども不正であるような場合にも処分の対象となり得ます。
また1号と異なり「罰金」のような刑事罰を科せられたことは要件となっていません。そのため、犯罪が成立したけれども情状によって起訴されなかった、いわゆる起訴猶予(不起訴の一種)の場合であっても、処分の対象となる可能性があります。
2 手続
医師に対する処分は厚生労働大臣が行うことになっていますが、医師法第7条3項で、「厚生労働大臣は、前二項に規定する処分をするに当たっては、あらかじめ、医道審議会の意見を聴かなければならない。」と定められています。厚生労働大臣は、この医道審議会の答申を受けて処分を決定します。
医師の資格に対して何らかの処分を行うことは、その者に対して不利益な処分となります。不利益処分の場合、行政手続法が適用され、必ず聴聞(ないし意見の聴取)または弁明の機会の付与(ないし弁明の聴取)の手続きが行われます。
ここで、自らの言い分等を述べることができるような仕組みがありますので、不意打ち的にいきなり処分が出るのではなく、処分を行うためになされる手続きが開始されたことについては必ず連絡が来ます。
なお、医道審議会は、医師らに対する行政処分について、「医師、歯科医師の行政処分は、公正、公平に行われなければならないことから、処分対象となるに至った行為の事実、経緯、過ちの軽重等を正確に判断する必要がある。そのため、処分内容の決定にあたっては、司法における刑事処分の量刑や刑の執行が猶予されたか否かといった判決内容を参考にすることを基本とし、その上で、医師、歯科医師に求められる倫理に反する行為と判断される場合は、これを考慮して厳しく判断することとする。」としています。
3 処分の内容
⑴ 戒告
違法・不当行為を戒める処分です。医師としての活動を制限されることはありませんが、「再教育研修」(医師法第7条の2)を命じられる可能性があります。
⑵ 業務停止
業務停止期間中は一切の医師業務ができなくなります。停止期間中に医業を行うことは、刑事罰の対象になります。
この場合にも、「再教育研修」が命じられる可能性があります。
⑶ 免許の取消し
これは、医師としての資格を取り消す処分です。
一定の要件を満たせば再び免許を与えられる可能性はありますが(医師法第7条2項)、そのハードルは相当高いものとなっています。
免許取消処分は最も重い処分となりますので、相当悪質な場合に限定されていると思われます。
4 具体的な処分例
2024年2月7日の医道審議会医道分科会で公表されている医師に対する行政処分をいくつか抜粋すると
医業停止3年・建造物侵入及び山梨県迷惑行為防止条例違反、建造物侵入、福岡県
迷惑行為防止条例違反
・強制わいせつ(3件)
・公電磁的記録不正作出、不正作出公電磁的記録供用、詐欺
医業停止1年6月 住居侵入及び迷惑防止条例違反
医業停止1年・迷惑防止条例違反
・第三者供賄
医業停止4月 道路交通法違反
戒告 傷害
この審議会で最も重かった医業停止3年になった事案は、強制わいせつなどの悪質性が高い事案を起こした医師のほか、迷惑防止条例違反(盗撮が予想されます)を繰り返した医師だと思われます。
単なる傷害のみの場合は、戒告に留まっていますが、迷惑防止条例違反などの悪質性が高いものは1件のみでも数か月の医業停止となっていることが窺われます。
5 考え得る弁護活動
⑴ 刑事処分回避
処分の事由の一つに「罰金以上の刑」とある以上、まずは不起訴処分となることを目指す必要があります。
被害者のいる犯罪で、事実関係を認めているような場合であれば、被害者との間で示談交渉を行い、お許しいただくことで刑事処罰を回避できる可能性があります。
また、事実無根のような場合には、取調べの対応を行い、刑事処罰を受けないように受け答えを行う必要があります。
示談交渉の場合、日数が必要となることが多いですから、いち早く弁護士に依頼し、速やかに示談交渉に着手することが肝要です。
また、取調べ対応を行う場合でも、1通でも供述調書が作成されてしまえば問題となってしまう可能性が高いので、取調べを受ける前から備えておく必要があります。
⑵ 行政手続対応
先ほども述べたように、いきなり処分を受けるのではなく、行政庁から話を聞かれる機会(聴聞・意見の聴取・弁明の機会の付与・弁明の聴取)が存在します。
その中で自身に有利な事情等を挙げていき、処分を回避する必要性があります。
たとえば、仮に刑事事件の最中に被害者との間で示談が成立せず、処分を受けたとしても、その後に被害回復をしているといった事情は、行政手続の中でも有利に働きます。
また、やむを得ずに犯罪に至った事情や、再犯防止に対する対応などについても、証拠化し、提出することが大切です。
このような作業は、行政手続きの処分に対する判断要素に対応して行う必要がありますから、専門的な弁護士に依頼して行う方が効果的な書類作成が期待できます。