弁護士法人の懲戒

1 弁護士法人の懲戒

弁護士個人だけではなく、弁護士法人が懲戒を受ける場合もあります。

基本的には個人が懲戒を受ける場合と内容・手続きは変わらないのですが、弁護士法人の場合、複数個所に事務所がある場合がありますので、そのような場合が問題となります。

2 弁護士個人と法人の関係

懲戒の手続きは、弁護士法人に対するものと所属弁護士個人のものと、別個に取り扱われます。そのため、弁護士法人に対してのみ懲戒請求がなされた場合、その所属する弁護士個人に対しては、懲戒手続は進行しません。

ですから、弁護士法人のみが懲戒請求を受けていた場合であれば、所属する弁護士個人は、登録換などを行うことは可能です。

3 従たる法律事務所の懲戒手続

従たる法律事務所しか所在しない弁護士会が弁護士法人に対して行う懲戒については、地域内の従たる法律事務所に係る事由についてのみ行うことができます(弁護士法第56条3項)。

たとえば、名古屋に主たる法律事務所があり、大阪に従たる法律事務所がある場合、大阪弁護士会が弁護士法人に対して懲戒手続を行う場合には、その事由は大阪の事務所のものに限るということになります。

ですので、主たる法律事務所が所属する弁護士会は、主たる法律事務所に限らず、従たる法律事務所に関する事由についても懲戒することが可能ということになります。

弁護士法は、弁護士法人については、主たる法律事務所が所属する弁護士会に、法人全体の監督権限を与えていますので、このような規定となっています。

4 懲戒の種類

弁護士法人に対してなされる懲戒の種類は

  1. 戒告
  2. 2年以内の弁護士法人の業務の停止又はその法律事務所の業務の停止
  3. 退会命令
  4. 除名

です。

それぞれの内容は弁護士個人に対する「懲戒処分を紹介するページ」をご覧ください。

ただし、個人に対する場合と異なる点があります。

まず、業務停止については、弁護士法人全体に対する業務停止と、個々の法律事務所に対する業務停止の2種類があります。

従たる事務所のみがある弁護士会は、その弁護士会に所属している事務所(従たる事務所)のみの業務停止しか命じることはできません。

反対に、主たる法律事務所がある弁護士会は、全ての事務所の業務停止(弁護士法人全体に対する業務停止)をすることもできますし、一部の事務所の身の業務停止も可能です。

次に、退会命令を出せるのは、地域内に従たる法律事務所がある弁護士会のみです。

弁護士法人には入会審査がなく、登記によって主たる法律事務所を動かすことができますから、主たる法律事務所に退会命令を出したとしても、事務所の場所を移転させるだけで済んでしまいますから、実効性がありません。

そのため、退会命令は従たる法律事務所がある弁護士会のみが弁護士法人に命じることができることとなっています。

なお、退会命令が出されたとしても、弁護士法人そのものは存続します。

最後に、除名ができるのは主たる法律事務所がある弁護士会のみです。

従たる法律事務所のみがある弁護士会は、退会命令しか出せず、弁護士法人の除名はできません。除名は、弁護士法人そのものを一方的に解散させる規定ですから、最終的な監督権限を有する、主たる弁護士法人が所属する弁護士会にのみ認められた権限となります。

5 弁護士法人に対する懲戒手続の効果

弁護士法第62条2項以下で、懲戒の手続に付された弁護士法人は、その手続きが結了するまでに法律事務所移転・廃止を行い、弁護士会内に事務所を有しないこととなっても、退会をしないこととなっています。

また、東京都の場合、3つ弁護士会がありますが、懲戒手続が行われている間は、異なる弁護士会(たとえば、東京弁護士会から第1東京弁護士会など)に移動することはできません。

これらの規定は、弁護士法人が、事務所を移転などすることにより、懲戒手続を免れることを防止するための規定です。

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