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【弁護士が解説】組織内弁護士が、自身の組織内で違法な行為が横行していることを発見した場合にはどのように対応すればよいか

【事案】
X社は、インフラ部門で大きな利益を上げ、業界最大手に数えられていた。
しかし、X社内部では、実は不正な取引が行われており、その結果見かけ上利益が大きくなっているような状況であった。X社では、自社の商品をグループ企業に買い注文をさせ、あたかも売買が成立したかのように装いそれを売却したことにしていた。しかし、実際にはグループ内での売買であるため、商品自体は一切動いていなかった。このようなスキームを利用し、需要が増大しているように装って単価を上昇させ、利益を上げるという方法が10年以上にわたって続けられていた。
X社の法務部門にいる弁護士として、このようなスキームを発見した場合にはどのように対応すべきであるか。
【解説】
事案のスキームは、実際にアメリカで行われたエンロン事件を参考に、簡略化したものになります。
そして、このエンロン事件では、会計事務所や顧問法律事務所も粉飾決算に手を貸し、全体で違法なスキームを継続していたことが明らかになりました。担当していた会計事務所は大手の事務所であったものの、この件により信用を失い、最終的には閉鎖されるに至っています。
上記の事案では、これと異なり、社内に弁護士がいるという設定になっています。
近年、弁護士の職域拡大の結果、企業内の弁護士が増加してきました。ただ、企業内の弁護士は、会社に対する義務を負っているのと同時に、弁護士としての義務(倫理)も負っています。
弁護士職務基本規程50条は「官公署又は公私の団体(弁護士法人を除く。以下これらを合わせて「組織」という)において職員若しくは使用人となり、又は取締役、理事その他の役員となっている弁護士(以下「組織内弁護士」という)は、弁護士の使命及び弁護士の本質である自由と独立を自覚し、良心に従って職務を行うように努める。」と定め、同51条は「組織内弁護士は、その担当する職務に関し、その組織に属する者が業務上法令に違反する行為を行い、又は行おうとしていることを知ったときは、その者、自らが所属する部署の長又はその組織の長、取締役会若しくは理事会その他の上級機関に対する説明又は勧告その他のその組織内における適切な措置をとらなければならない。」と定めています。
あくまでも、①担当する職務に関するものに限定され、たまたま知った者は含まないこと②法令に違反する行為を行い又は行おうとしている場合に留まり、行うおそれがある場合を含まないこと③内部での適切な措置を求めるにとどまり、外部通報まで求められていないこと等には注意が必要ですが、それでも、組織の一員であるということを理由に、組織の意向をそのまま受け入れてよいということにはなりません。
ですので、事案のような違法行為に気が付いた弁護士は、法令違反となることを等を説明し、違法行為を行わないよう説得することが必要であると言えます。
【弁護士が解説】医師免許取消処分の取り消し訴訟ではどのようなことが行われるか

【事案の概要】
X医師は、精神科医として、クリニックを開業していた。しかし、X医師が自身の患者である女性ら3名に対し、胸を触るなどのわいせつ行為をしていることが明らかとなり、X医師は第一審の地方裁判所で実刑判決を受けた。しかし、控訴をした結果、X医師には執行猶予が付されることとなり、最終的に執行猶予付きの刑が確定した。
刑が確定したことから、A県の担当者に調査が行われ、医道審議会に意見書が提出された。同意見書には「X医師は、被害者に対して高額な慰謝料を支払い示談も成立しており、その他贖罪寄付もしている。また、今後も医師として患者のために誠心誠意尽くしたいと考えている」との理由から「X医師は、事件後誠意を尽くして対応しているものと認められます」との意見が述べられた。この意味について、担当したA県によれば、医業停止処分に留める意味合いも含めての意見ではあるが、免許取消処分を望まないという意見までは含まれていなかった。
このような状況で、厚生労働大臣は、Xの免許を取り消したため、Xが裁判所に訴えを提起した。
(名古屋地裁平成20年2月28日判決の事案を若干改変したもの)。
【解説】
これから数回にわたり、この事案を元にして、医師免許に対する行政処分の流れや、これに対する争い方を見ていきたいと思います。全体の流れは以下の通りです
・事件から免許取消処分まで(前々回)
・裁判所への訴訟提起(前回)
・裁判所の判断方法、争い方(今回)
・判決後
今回は裁判所の判断方法についてお話しします。
1 行政庁の裁量
行政事件訴訟法では、裁量処分について裁判所が行政処分を取り消すことができる場合について、30条で「行政庁の裁量処分については、裁量権の範囲をこえ又はその濫用があつた場合に限り、裁判所は、その処分を取り消すことができる。」と定めています。
裁量処分とは、処分を行うかどうか、行うとしてどの程度の処分にするかについて行政庁に裁量がある処分を指しています。医師法の場合、7条1項で「医師が第四条各号のいずれかに該当し、又は医師としての品位を損するような行為のあつたときは、厚生労働大臣は、次に掲げる処分をすることができる。」としていますので、医師免許の取消しや業務停止は裁量処分となります。
裁判所で処分の取り消しをが認められるのは、裁量権の逸脱や濫用があった場合に限られます。なお、処分についての瑕疵が重大であり、瑕疵があることが明白な場合には、処分が無効となります。
2 裁量権の審査
裁判所は、裁量処分について次の通り判断します。
「厚生労働大臣がその裁量権の行使としてした医師免許の取消し又は医業の停止を命ずる処分は,それが社会観念上著しく妥当性を欠いて裁量権を付与した目的を逸脱し又はこれを濫用したと認められる場合でない限り,これを違法ということはできない」(上記名古屋地裁判決)。
あまり具体的なことを言っていないようにも思われますし、要件等が明らかにされているわけではありません。ただ、これまでの裁判例の傾向だと
・考慮すべき事項を考慮せず、考慮すべきでない事項を考慮したような場合
・処分をした前提に事実誤認がある場合
・平等原則が比例原則に反する処分の場合
などに裁量権の逸脱濫用が認められる傾向にあります。
3 争い方
上記の通り、裁判所が処分を違法であると取り消してくれる場合には、一定の類型があります。
ところで、医師、歯科医師の行政処分については、厚生労働省が「医師及び歯科医師に対する行政処分の考え方」というものを公表しています。
ここには、具体的な罪名や類型を挙げつつ、このような場合にはどの程度の処分となるか、処分を加重・軽減する事情が何かということについて記載があります。
この記載は、行政庁が内部的に定めた処分指針にすぎませんので、裁判所を拘束するものではありません。しかし、裁判所としては、この考え方に合致しているか、考え方内の他の処分との間で均衡がとれているかなどを審査しています。そのため、裁判所で争う場合のベースになるような基準ですので、基本的にはこの考え方への該当性や、考慮すべき軽減事項等を主張していくことになります。
マスコミからの取材依頼に弁護士としてはどう対応すべきか

【事例】
X弁護士は、殺人の容疑で逮捕されているAの弁護人に選任され、Aが勾留されているB警察署へ接見に赴いた。
X弁護士が接見を終え、警察署の外に出ると、いきなり多数のマスコミ関係者に囲まれ、「Aの弁護人の先生ですよね。Aはどのようなことを話しているのですか。」と尋ねられた。
Xとしてはどのように対応すればよいであろうか。
【解説】
事件自体が報道されるような大きな事件となると、被疑者、被告人本人の主張についても取材が行われます。また、連日警察署の前には多数のマスコミ関係者が取材のために訪れており、警察署に入るためにはマスコミ関係者の前を通らなければならないような状況になります。
そして、弁護士が接見室から出て警察署の外に出ると、上記の事例のようなやり取りが開始されることになります。
実際、このようなマスコミの取材に回答している弁護士の姿を報道で見ることもあります。ただし、この回答をするにあたっては、様々な面から検討をする必要があります。
1 刑事弁護の面
被疑者の主張について回答をすると、当然これを見た捜査機関側は対策を行ってくるということになります。たとえば、被疑者に完全黙秘を指示してそれが実行されている中で、弁護人がマスコミに回答していては何の意味もありません。
また、回答の内容や姿勢によっては、被害者と示談交渉を行う必要があるような事件で悪影響が出る可能性もあります。
そのため、刑事弁護という観点から見ると、本人の言い分を早期に世間に伝えるという目的がない限り、あまりメリットは大きくないものと思われます。
2 弁護士倫理の面
弁護士には、弁護士法23条により守秘義務が課せられています。本人との接見時のやり取りは、当然この守秘義務の範疇に入りますので、本人に無断でマスコミに回答したような場合には、守秘義務違反となります。実際、無断でマスコミ対応をしたことにより戒告の処分を受けた事例などがあります。
そのため、X弁護士のようにいきなりマスコミから対応を求められた場合には、ひとまずその場では回答せず、次の接見の機会に本人と協議することが適当であると考えられます。
3 本人が希望した場合
それでは、マスコミに自身の言い分を伝えることを本人が希望した場合はどうでしょうか。たしかに、本人が希望していますので、守秘義務違反の問題は生じません。もっとも、事前の打ち合わせにないような事柄を尋ねられた場合に、これを回答することは問題となる可能性があります。
しかし、マスコミに対応することは、守秘義務違反だけではなく、弁護活動の点からも問題が存在しています。回答することが本当に弁護活動上不利にならないかについても併せて検討する必要があります。
【弁護士が解説】相手方代理人が就任している事案で、相手方本人と直接交渉することは許されるのか

【事案】
X弁護士は、Aから自身が所有する賃貸マンションからの住人の退去交渉を依頼された。
このマンションの204号室に住むBは、以前から周りの住人とトラブルを起こし、騒音問題などが生じていたことから、Aとしては退去して欲しいと考えていた。
Aが直接Bのところに行って退去を求めると、Bはこれを拒絶し、その翌週にはY弁護士がBの代理人となった旨の通知がAのところに送られてきた。
このようなわけでAはX弁護士のところに依頼しに来たのだが、AはX弁護士に対して「明日の午前中であればBさんはいつも家にいる時間だから、先生が直接Bさんのところに行って、話をつけてくださいよ」と依頼した。
X弁護士はこれに応じてよいのだろうか?
【解説】
現状、Bは代理人としてY弁護士を選任しているようです。通常の法律相談であればAがこれを持参してきており、余程の事情がない限り真実Yが選任されていると考えることになると思われます。
このように、事件の相手方に代理人いる場合には、弁護士は原則直接事件の相手方と交渉することは許されません。
弁護士職務基本規程52条は「弁護士は、相手方に法令上資格を有する代理人が選任されたときは、正当な理由なく、その代理人の承諾を得ないで直接相手方と交渉してはならない。」としています。
Yは弁護士ですので、まさに法令上資格を有する代理人です。このような状況でY弁護士の承諾なくXが交渉を行うようなことは、この規程に違反することになります。
ですので、XはAからの依頼についてはこの規程を理由に断らなければなりません。
今回のようなケースでは、当然依頼を断るべき事案となるのですが、事件によっては相手方に代理人が就任していることに気が付かなかったという場合もあり得ると思われます。通常の相手方であれば、自分で代理人を選任していることを告げると思われますが、仮に途中で発覚したような場合には、その時点で交渉を止め、相手方から聞いた代理人に対して連絡を行うべきであると思われます。
反対に、代理人が選任されており、代理人に何度も連絡をしたにもかかわらず、代理人が一向に返答をしないような場合もあり得ると思われます。このような場合、代理人が返答をしないことは、相手方本人にとっても不利益となりかねないものですし、そもそも相手方代理人の行動自体が事件放置として懲戒の対象になりかねない行動となっています。このような場合には「正当な理由」があると評価され、直接の連絡、交渉が許される場合が生じると考えられています。
弁護士が懲戒請求を申し立てられた場合、弁護士は代理人ではなく紛争の当事者となります。代理人として紛争にあたるのと、当事者として紛争にあたるのとでは気持ちもパフォーマンスも大きく変わってくると考えられます。代理人を入れることで、事実をしっかりと整理し、懲戒処分の回避や軽減につながる可能性が上がります。
懲戒請求手続について詳しく、懲戒請求に対する弁護活動経験が豊富な弁護士への相談を検討している先生方は、是非弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所にお問い合わせください。
弁護士報酬について、不当に高額と評価されるのはどのような場合であるのか

【事例】
X弁護士は、Aから貸付金の返還を求める訴訟の依頼を受け、委任契約書を作成した。
Aが返還を求めたい金額が100万円だったとして
①着手金10万円、成功報酬は回収金額の16%
②着手金20万円、成功報酬は回収金額の32%
③着手金30万円、成功報酬は回収金額の48%
④着手金10万円、成功報酬は回収金額の3%+69万円
という報酬での契約をした場合(実費、日当等は考慮しない)、何か問題が生じるでしょうか。
【弁護士報酬の規律】
2003年に弁護士法が改正されるまでは、弁護士法上、弁護士会の会則として弁護士報酬等を定めなければならないとされていました。このとき定められていた会則がいわゆる「旧報酬規程」と呼ばれているものです。
①のケースで記載している金額は、この旧報酬規程に従った金額となります。経済的利益が300万円以下の事件の場合には、着手金はその8%とされているのですが、最低金額は10万円ということになっていたので、このケースでは着手金は10万円となります。
そして、成功報酬は経済的利益の16%とされていましたので、この点もそのままです。
旧報酬規程自体は撤廃され、現在の弁護士報酬は自由化されています。しかし、現状でも旧報酬規程のままの金額を用いている弁護士は相当数おられるのではないかと思われます。
現在、弁護士報酬に関する規律を定めているのは、弁護士職務基本規程24条となります。そこでは、「弁護士は、経済的利益、事案の難易、時間及び労力その他の事情に照らし、適正かつ妥当な弁護士報酬を提示しなければならない」と定めているのみで、具体的な金額は記載していません。
しかし、だからと言っていくらでも問題にならないというわけではなく、不当に高額な弁護士報酬を請求したような場合には、懲戒の対象となる可能性があります。
ひとまず、①は旧報酬規程に従った金額となります。基本的にはこの金額で問題になることは多くないようです。
しかし、示談交渉事件などで、あまりにも短期間にかつ非常に高額な金額での示談交渉がまとまった場合、かけた時間に対して弁護士報酬が非常に高額となってしまいます。このような場合、仮に旧報酬規程に従った金額であったとしても、不当に高額であるとの評価を受ける可能性があります。
②の金額は旧報酬規程の2倍の金額、③の金額は旧報酬規程の3倍の金額、④の規定は旧報酬規程の中で経済的利益が旧報酬規程の中で経済的利益が3000万円を超え3億円以下のときを参考にしたものです。
仮にX弁護士が完全に勝訴し、かつ金銭も回収できたと考えた場合、②の件は着手金20万円、成功報酬32万円で合計52万円となります。つまりAは勝利したとしてもほぼ半分が消えていくということになります。
同じように計算すると、③のケースでは78万円、④のケースでは82万円が弁護士費用(実費日当は除く)となります。
③④のケースが不当に高額と評価されることについてはおそらく争いがないと思われます。
②のケースについては、必ず不当の評価を受けるとまでは言えない可能性があります。事案の難易度や、事件処理の程度によってはやむを得ない場合も存在すると思われます。
ただ、②③④のケースに共通する問題として、果たして依頼者であるAに対して、契約締結時に正しい説明がなされたのかどうかという点です。③④のような場合には、仮に勝訴したとしても自分の手元にはほとんど残りません。今回は考慮しませんでしたが、実費日当を考慮するとマイナスになる危険性すら生じてきます。このような契約を締結するとは通常考え難い面がありますから、このような契約があること自体、弁護士が契約締結時に十分な説明をしなかった可能性を推認させてしまいます。
ですので、契約締結時には、最終的に終了したときにどれくらい手元に残るのかということについても、十分に説明をした上で依頼者には検討してもらう必要があります。
【弁護士が解説】委任契約書を作成せず事件処理を行った場合、弁護士職務基本規程に違反するのはどのようなケースか

【事案】
A弁護士は、法律相談できたXから、お金を貸した相手が返さないという相談を受けた。
A弁護士はその中で、内容証明郵便を送付してお金を取り立ててみる方法や、支払督促、民事訴訟などの方法で返済を求めることができるという説明をしました。
Xはその場でA弁護士に委任をしましたが、この際A弁護士は委任契約書を作成しませんでした。
このとき、Xが委任した事項が
①内容証明郵便の文面を作成するのみで、文章の発出元はX自身とされている場合
②内容証明郵便を作成し、A弁護士がXの代理人という形で文頭に記載されている場合
③民事訴訟の委任を受けた場合
のいずれかであった場合、委任契約書を作成しなかったことが問題とならないか検討していきます。
【規程】
委任契約書の作成については、弁護士職務基本規程30条に定めがあります。
1 弁護士は、事件を受任するに当たり、弁護士報酬に関する事項を含む委任契約書を作成しなければならない。だだし、委任契約書を作成することに困難な事由があるときは、その事由が止んだ後、これを作成する。
2 前項の規定にかかわらず、受任する事件が、法律相談、簡易な書面の作成又は顧問契約その他継続的な契約に基づくものであるときその他合理的な理由があるときは、委任契約書の作成を要しない。
弁護士職務基本規程は平成16年11月に定められましたが、それより前の平成16年2月に制定された「弁護士の報酬に関する規程」5条2項、3項にも同様の定めがありました。
この規程によれば、原則は委任契約書を作成する必要があります。委任契約書を作成しなくてよいのは2項に定めがある例外的な場合に限られます。また、2項に定めのあるような例外的な場合であっても、委任契約書の作成が禁止されるわけではありませんから、法律相談のような明確な場合はさておき、後から委任契約書作成義務違反の指摘を受けないため、念のため作成しておくということも有効であろうと思います。
【事案の検討】
それではA弁護士が委任契約書を作成しなかったことが問題とならないか検討していきます。
①のように、内容証明郵便の文面だけ作成するような行為については、「簡易な書面の作成」となる可能性が高いと思われます。ただ、簡易な書面の作成について委任契約書の作成が不要とされているのは、その場で仕事が完了し、弁護士報酬の支払いも済んでしまうような場合であるからとされています
(解説 弁護士職務基本規程第3版 109頁)。
そうすると、たとえ①のような場合であっても、何度もやり取りを行い、文面案を作成していくような場合には、委任契約書が必要ないとまでは断言できなくなってきます。
②の場合は、もはや形式上AがXの代理をしていると見えますので、委任契約が不要となるような簡易なものではないと言えます。
条文上は「合理的な理由があるとき」は契約書の作成を要しないとされていますが、親族など深い関係にあるからなどというようなものは理由にならないと考えられます。
③の場合は当然委任契約書の作成が必要となります。ただ、「委任契約書を作成することに困難な事由があるとき」は、直ちに作成せず、事由が止んだ後に作成することが許されています。この「困難な事由」がいかなる場合に該当するのかという問題については、明確な解釈などは公表されていません。
たとえば、最初に法律相談に来た際には法的な問題点が見えてこず、依頼者としては何らかの解決に向けて弁護士に依頼はしたいけれど・・・という事態は生じ得ます。この場合、1回目の法律相談時には事件の全体像が見えない関係で、報酬等が定められず、契約書は作成できないという場合も考えられます。
このような場合に委任契約書を作成せず事件処理をすることが「困難な事由」に該当するかどうかについて確定的な判断があるわけではないですが、少なくとも法律相談料として毎回支払いを受けるとか、仮に対外的なことをしなければならないような場合にはその点に限って委任契約書を作成するなど、回避する方法は十分あると思われます。そのため、徒に契約書を作成せず、相談を継続していくようなことは危険であると考えられます。
いずれにしても、委任契約書作成の義務があるケースで、これを作成しなかった場合には弁護士職務基本規程違反となります。そして基本規程違反は懲戒事由となりますので、何らかの懲戒処分を受けることになります。これまで委任契約書不作成で処分を受けているケースは、報酬や説明義務の点などほかの問題と一緒に併せて処分を受けていることがほとんどです。そのため、委任契約書不作成のみでどのような処分を受けるかは一概に評価できませんが、弁護士としての基本的な義務に属するものであると考えられますので、戒告の処分は十分あり得るところです。
【弁護士が解説】相手方から弁護活動を依頼された場合にはどのような点に注意しなければいけないか

【事案】
A弁護士は、BからCを相手方とする不法行為に基づく損害賠償請求(交通事故)事件を受任しました。
A弁護士はCに連絡を取り、示談交渉を行いました。
その後、今度はCからAに連絡があり、C自身の離婚事件をA弁護士に受けてもらえないかと言われました。
このとき
①まだBC間の損害賠償事件が終結していなかった場合
②Bとの間の委任契約は別の形(別件刑事事件等)で存続していたが、BC間の示談交渉は既に終結し、示談が締結されていて、Cに対する事件が終結していた場合
③既にBとの委任契約は終了していた場合
で何か対応方法に違いがあるのでしょうか。検討していきたいと思います。
【利益相反】
弁護士として一般の方と示談交渉等をしており、特にその示談交渉が円満に解決したような場合には、相手方当事者から事件の依頼の勧誘を受けることはそ う珍しいことではありません。
しかし、自身の依頼者と相手方当事者では、利害対立があることが通常であり、利益相反をしていることになります。
ですので、このような依頼を無制限に受けてしまうと、誰の味方であるのかという根本的な点に不信感を生じさせる危険性があります。
そのため、弁護士法及び弁護士職務基本規程では、「職務を行い得ない事件」を定めています。通常これを「利益相反」と呼んでおり、利益相反がある場合には受任をしてはならないことになっています。
まず、今回直接的に問題となりそうな弁護士法25条3号(職務基本規程27条3号も同じ)を見てみましょう。
弁護士法25条
弁護士は、次に掲げる事件については、その職務を行つてはならない。ただし、第三号及び第九号に掲げる事件については、受任している事件の依頼者が同意した場合は、この限りでない。
三 受任している事件の相手方からの依頼による他の事件
弁護士法25条3号は、受任している事件の相手方からの依頼については、「他の事件」であっても原則職務を行うことを禁じています。ただ、他の利益相反規定と異なり、この3号については但書によって「受任している事件の依頼者が同意した場合」には受任が認められています。
A弁護士の例でいえば、①はまさにこの3号が問題になります。ですので、依頼者であるBの同意があれば受任できることとなります。
ただ②はより難しい状況です。BとCの間の事件は終了していますので、その意味ではCは「受任している事件の相手方」ではなくなっているとも言えます。しかし、Bとの委任契約は継続中ですから、Bは現在も依頼者であると言えます。仮にこの状況でA弁護士がCからの事件を受任した場合、Bは自己の事件(BC間の損害賠償事件)についてもCに有利に解決されたのではないかと相当の疑念を持つことが自然であると言えます。ですので、受任を差し控えるか、①と同様Bの了解を得ていた方が好ましいと考えられます。
③は、すでに委任契約が終了していますので、条文上はCは「受任している事件の相手方」には全く当たりません。そのため、自由に受任できるということになります。ただ、②で指摘した事情は当てはまりますので、Bとの委任契約終了から間がないのであれば、Bの同意を得ていた方が後のトラブル回避につながると考えられます。
【守秘義務】
しかし、このBの同意を得るためには、もう1つ考えなければならないことがあります。
Bから同意を得る以上、自身がCのどのような事件を受任するのかについて、Bに説明をする必要があります。これは、Cに対する守秘義務との関係で問題が生じます。
もちろん、Bに対しては、Cが同意をした範囲でしか話すことはできません。ただ、今回のような離婚事件の場合、Cの資力に影響が生じる可能性もあります。これは、B自身がCに対する債権者となる損害賠償請求事件を受けていた場合、BC間の交渉に影響を与えかねない事情となります。
Bからの同意はもちろん真意に基づく同意でなければなりませんので、錯誤等意思表示に瑕疵があるようなものであってはいけないと考えられます。そのため、Cから受任しようとする事件が、直接的にも間接的にもBC間の事件に影響を与えてしまうような場合で、その内容をBに説明できないような場合には、そもそも同意を取り付けることはできない(同意をしたとしても問題がある同意である)ということになりますから、最初から受任を差し控えるべきであると考えられます。
問題が生じてしまった後では、いかにこの事態を収拾するかがポイントとなります。(元)依頼者の方との間の話し合いが必要となった場合などには、第三者を介して話し合った方が冷静な話し合いが可能になります。
また、懲戒請求を受けてしまった場合には、これに対応する必要もあります。このような場合には、経験豊富なあいち刑事事件総合法律事務所にご相談ください。懲戒請求の流れや、弁護方針等についてお答えします。
【弁護士が解説】外部へ郵便物を郵送する際、守秘義務違反とならないようにするためにはどのような点に注意すればよいか
【共通設定】
A弁護士は、窃盗罪で逮捕されたXの国選弁護人として選任され、留置先であるB警察署へ
接見に赴きました。
面会したXから、自身の両親に連絡を取って欲しい旨を告げられましたが、Xは両親の連絡先を知らず、元々Xが暮らしていた住所しかわからない状況でした。
そこで、A弁護士は、郵便を用いて両親へ連絡を取ることとしました。
このとき
事例1
A弁護士は、普通の官製はがきの通信面に「私は息子さんの国選弁護人となりました。息子さんの件でお話ししたいので、事務所までご連絡ください」と記載した。
事例2
A弁護士は、茶封筒の中に、事例1と同じ内容を記載した手紙を同封した。そして、Xが指示する郵送先へ郵送したが、Xの実家は既に転居しており、実家には別の第三者が居住していた。そのため、郵便物は第三者によって開封された。
事例3
A弁護士は、茶封筒の中に、事例1と同じ内容を記載した手紙を同封した。そして、Xが支持する郵送先に郵送し、そこは確かにXの実家であった。しかし、手紙はXの兄弟が受領し、郵便物は兄弟が開封した。
これらの事例で、A弁護士の行動には問題がないか、検討していきたいと思います。
(事例は架空のものです)
【守秘義務】
弁護士法第23条及び弁護士職務基本規程第23条では、秘密の保持が義務付けられています。
これは、信頼関係を基礎に置く弁護士の職務上、最も基本的な義務と考えられており、守秘義務違反は最も注意をしなければいけない点となります。
ただ、弁護士の守秘義務には例外もあり、一番大きな例外が「本人の同意がある場合」と考えられます。なお、ここでの「本人」は、秘密の対象となる本人と考えられます。たとえば、依頼者の相手方の秘密については、依頼者及び相手方双方の同意があった場合のみ守秘義務が解除されると考えられます。
今回の事例で、A弁護士はXから「両親に連絡を取って欲しい」と言われています。このようなやり取りがある以上はXが勾留されていることなどについては、両親に対しては守秘義務が解除されていると考えてよいように思われます。もっとも、事件内容をどこまで詳細に話してよいかなどについては、本人とよく相談の上考える必要があります。
ただ、あくまでも両親に対して守秘義務が解除されているにすぎませんので、両親以外については守秘義務は解除されていないことになります。
【事例の検討】
⑴事例1
事例1の問題点は官製はがきを用いた点です。はがきは封書よりも郵便料金が安くなる半面、はがきの通信面は誰からでも容易に閲覧が可能となってしまいます。実際に郵便配達を行う郵便職員から見えることはもちろんのこと、ポストなどに投函された後も場合によっては第三者から閲読可能な状況になる可能性が否定できません。
郵便職員については、郵便法8条2項により秘密保持義務がありますのでここからさらに外部へ広がるという可能性は高いものではありませんが、それでも郵便職員に対して内容を知られること自体が問題であると言えます。
今回、A弁護士は自身が「国選弁護人」に選任されたことを記載しています。この内容と、はがきに記載されている内容から考えれば、宛名の人物の子どもが何らかの刑事事件を起こしたことは容易に明らかになります。刑事事件を起こしたことは一般に知られたくないことでしょうから、守秘義務の対象となる秘密であるというべきです。
そのため、このようは秘密に該当する事項をはがきに記載することは、守秘義務違反として何らかの処分を受ける可能性がある事項ということになります。
⑵事例2
事例2の問題は、A弁護士が実家の住所の所在を確認せず郵送したところにあります。
Xが両親の連絡先を知らないということは、実家と疎遠になっていることは予想できたようにも思われます。ただ、本人から言われた住所を逐一確認しなければ郵送できない(たとえば戸籍の附票や住民票を職務上請求しなければ郵送できないと考えること)とするのは、現実的ではないようにも思われます。
ただ、A弁護士からすれば、正確性の担保がない住所である以上、郵送する際には慎重に行う方が望ましかったと考えられます。これに対し、Xから指示された住所が勾留状記載の住所であれば、捜査機関が特定した住所であるということになりますから、それに従って郵送することに合理性があると考えられます。
A弁護士とすれば、たとえば簡易書留などの方法で送り、対面での受け取りが必要となる手段を講じるとか、最初の手紙の中身を「お伝えしたいことがありますのでご連絡ください」程度とし、事案の推測がなどができないようにしておくなどの対策が考えられたと思われます。
⑶事例3
事例3の問題は、思った通りに郵送がなされたものの、郵送先で第三者が開封してしまったという点にあります。
とはいえ、Xの兄弟が実家にいること自体は全く不自然ではないため、両親以外の親族が開封してしまう可能性は否定しきれません。また、上述のように簡易書留で郵送した場合であっても、兄弟であれば受けることができてしまいます。
そのため、このような事態を回避するためには、郵便そのものを本人限定受取郵便という形で郵送することが考えられます。ただ、この方法で郵送した場合には、受け取りに手間がかかる場合があることもありますので、保管期限内容に郵便が受け取られない可能性があること、郵送費が高額となることが問題となります。
ですので、1つの方法としては内容を具体的に書かず「ご連絡ください」とだけ記載して郵送することも考えられます。ただ、昨今弁護士の名をかたった特殊詐欺も横行していますので、このような手紙に不自然さを覚える方がおられる可能性も否定できません。
このような事情もありますので、本人と十分協議を重ねたうえで、同居の親族への守秘義務解除について予め検討しておくことが必要であると思われます。そして、メリットデメリットを伝えたうえで、最終的には本人にどのような連絡先を取るか決定してもらうことが重要であろうと思われます。
利益相反が問題となった事例⑤
1 事案の概要
X弁護士は、A社と顧問契約を締結していた。
A社の親会社であるB社が、C社及びその役員を相手方として損害賠償請求訴訟を
締結した。
X弁護士はこのC社らの代理人として選任された。
これに気が付いたA社が、Xに対して説明を要求したものの、Xが問題ないと回答したため、結局顧問契約は解除され、A社が懲戒請求を行った。
懲戒請求自体は①単位会の綱紀委員会は審査不相当②日弁連綱紀委員会も棄却③日弁連綱紀審査会も懲戒審査相当の議決を行わなかったため、X弁護士は懲戒されなかった。
2 日弁連綱紀審査会の議決
(単位会、日弁連綱紀委員会の結論を是認したうえで)
なお、Aの顧問弁護士であるXがB社を相手方とする事件を受任したことについては、B社によるA社の株式保有がほぼ100%であること、何よりもA社の社名にB社の略称が冠されていることからすると、両者は経済的社会的に一体とみなされる存在であり、問題があると言わざるを得ない。
しかし、現行の基本規程28条2号が「相手方」とのみ規定され、「経済的社会的に一体の存在」をも含むものとされていない以上は、Xに懲戒処分を行うことは相当と認められない。日弁連綱紀委員会第2部会の議決書で指摘されている通り、今後同規定の改正が強く望まれるものである。
3 解説
本件は、冒頭に記載した通り弁護士には懲戒話されませんでした。
しかし、親会社のほとんど100%子会社である会社の顧問をしながら、親会社の相手方の訴訟を担当するということは、弁護士の公正性に疑念を生じさせるものと思われます。
現時点で基本規程の改正等はなされていませんが、本来はこのような受任は回避するべきものと思われます。
利益相反が問題となった事例④
1 事案の概要
X弁護士は、生前Aと共に遺言の作成を行った。その遺言の内容は、Xが遺言執行者になることの他、Aの財産を全てBに相続させる旨が記載されていた。
なお、BはXの息子の妻であり、息子はXより先に死亡していたため、AはBを養子としていた。
また、Aにはほかの相続人のとして、Aの娘Cらの他、AとBの間の子ども(代襲相続人)が存在した。
Aが死亡した後、その財産全てをBが相続することとなったが、これに対してCが遺留分減殺の請求を行った。
Cが家庭裁判所に対し、Bを相手方として遺留分減殺請求調停を申し立てると、Bの代理人としてXが就任した。
このXが訴訟行為を行うことについて、①遺言執行者という立場と②特定の相続人の代理人という立場が、利益相反とならないかが問題となった。
(東京高判平成15年4月24日の事例)
2 判旨
遺言執行者は、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の権利義務を有し(民法一〇一二条)、遺言執行者がある場合には、相続人は、相続財産の処分その他遺言の執行を妨げるべき行為をすることができない(同一〇一三条)。すなわち、遺言執行者がある場合には、相続財産の管理処分権は遺言執行者にゆだねられ、遺言執行者は善良なる管理者の注意をもって、その事務を処理しなければならない。したがって、遺言執行者の上記のような地位・権限からすれば、遺言執行者は、特定の相続人ないし受遺者の立場に偏することなく、中立的立場でその任務を遂行することが期待されているのであり、遺言執行者が弁護士である場合に、当該相続財産を巡る相続人間の紛争について、特定の相続人の代理人となって訴訟活動をするようなことは、その任務の遂行の中立公正を疑わせるものであるから、厳に慎まなければならない。弁護士倫理二六条二号は、弁護士が職務を行い得ない事件として、「受任している事件と利害相反する事件」を掲げているが、弁護士である遺言執行者が、当該相続財産を巡る相続人間の紛争につき特定の相続人の代理人となることは、中立的立場であるべき遺言執行者の任務と相反するものであるから、受任している事件(遺言執行事務)と利害相反する事件を受任したものとして、上記規定に違反するといわなければならない。
3 解説
遺言執行者をめぐる利益相反の問題については、多数の懲戒事例、裁判例があり、その判断については事例ごとの判断となります。
上記のような判旨と異なり、遺言の内容によっては「遺言執行者と遺留分減殺請求調停事件の申立人である相続人との間に職務基本規程57条にいう利益相反の関係が存するかについては、具体的事案に即して実質的に判断すべきところ、本件公正証書遺言では、その内容からして遺言執行者に裁量の余地はなく、遺言執行者の職務に同規定57条が適用または類推適用されるとしても、本件では弁護士である遺言執行者と懲戒瀬給者を含む各相続人との間に実質的に見て利益相反の関係は認められない」とした例(日弁連懲戒委員会平成22年5月10日議決)もあり、遺言の実質的な内容についても判断が変わる旨が示唆されています。
上記の東京高裁の事例では、平成22年議決のような視点なく、利益相反に該当する旨が認定されて今うので、このような危険性が存在することは常に意識をしておかなければなりません。