Archive for the ‘懲戒事由(各論)’ Category
【弁護士が解説】過去の依頼者から事件を受任できるか?

【事例】
X弁護士は、Aが起こした不同意わいせつ事件の弁護を引き受け、その事件は執行猶予付き判決で確定しました。
Aが身体拘束を受けている間、X弁護士はAの妻Bに対して接見内容の報告などを行っていたのですが、その中でBから、Aと離婚したいというような話を聞いていました。
Aの刑事事件が終了した後、Bが事務所を訪ねてきて、BとAの離婚の代理人となることを求めてきました。
X弁護士はこのような事件を受任して問題ないのでしょうか?
【解説】
弁護士が受任できない事件(職務を行い得ない事件)は、弁護士法25条及び弁護士職務基本規程27条、28条で定められています。
一般的に利益相反と呼ばれている規定ですが、典型的なものとして双方代理のような類型が定められています。双方の代理人に同時に就任することは、他方から見ればもう一方の有利にことを解決しようとしているのではないかという疑いが生じかねないことから、禁止されています。
それでは、今回の事例はどうでしょうか。Aの不同意わいせつ事件と、Bの離婚事件は、それ自体まったく別の事件であり、双方の処理が結論に影響する可能性は低そうにも思えます。また、刑事事件のほうはすでに終了しているため、今更離婚事件でどのような結論が出ようとも、刑事裁判の結論が変わることは考え難いところです。そうすると、このような事件は受任しても問題ないように思えます。実際、過去の依頼者を相手とする事件を受任してはいけないという決まりは基本的にはありません(過去の事件関係者の事件を受任してはいけないというものは、弁護士法25条4、5号のようなものがあります)。
しかし、Aの立場から見るとどうでしょうか。確かに結論はすでに決まっているところではあるのですが、不信感を覚える可能性は高いです。また、Aの裁判では、認め事件である場合情状証人を申請することが考えられるのですが、Bの離婚意向を理由にXがこれを申請していなかった場合、まったく結論に影響がなかったとまで言えるかどうかには疑問があるところです。
法的には受任することが問題ないとしても、あとから不信感を覚えられるような場合には、弁護士として受任を差し控えるほうが良いようにも思われます。この事例では、Aの事件とBの事件の間隔がどのくらい空いているかを明示していませんが、この期間が近ければ近いほど、Aの不信感は大きくなるといえます。あらぬ疑いをかけられる可能性を避けるためにも、よほどの事情がない限り回避するべき事件ではないかと思われます。
弁護士による横領事件

昨今、弁護士による横領事件に関する報道が相次いでいます。
成年後見人等に選任された弁護士が、被後見人の財産を横領するといった事件ほか、損害賠償金等で預かり口に振り込まれた金銭を横領するという事案が典型的です。
このような行為は、弁護士が自らの職務として預かっているお金を横領するものですから、業務上横領罪(刑法第253条)該当し、刑事罰の対象となります。
それだけではなく、業務上の横領行為は、弁護士として懲戒処分を受ける対象でもあります。
しかし、弁護士法第17条1号の規定により、拘禁刑以上の刑に処せられた場合には、弁護士としての登録が取り消されることとなっています。
業務上横領罪には罰金刑の定めがありませんので、有罪判決を受けるということは拘禁刑以上の刑に処せられることを意味します。そのため、刑事事件が先行している事件では、対象弁護士に有罪判決が出ることで、自動的に弁護士としての登録が取り消され(ただし判決の確定が必要)、そのことによって弁護士会による弁護士としての処分がなされないという状況になります。実際、懲戒委員会は、同一の事由について刑事訴訟が継続する間は、懲戒の手続を中止できることとなっています(弁護士法第68条)。
そのため、各弁護士会が、弁護士の横領事件で処分を公表しているものは、①刑事事件より先に弁護士会の処分が出された場合か②刑事事件化しなかったor刑事事件化しても不起訴処分で終結した事件に限られるということになります。
近年、弁護士による横領被害を減らすため、様々な取り組みが行われています。例えば、弁護士が後見人になる際の保険などがあげられます。
また、従来は懲戒処分が出されてから事案を公表していたところ、複数人にまたがる財産上の被害があることにかんがみ、懲戒手続きを開始した段階で公表するような仕組みとなっています。
横領事案では、戒告処分は基本的に考えにくく、業務停止以上の厳しい処分が予想されます。そうすると、再び弁護士として活動することは困難です。
弁護士として、経済的に厳しい状態になった場合には、周囲に相談するなどの方法をとり、弁護士として懲戒処分を受けないように心がけましょう。
【弁護士が解説】職務上請求書の使用に関する問題

戸籍法、住民基本台帳法の定めにより、弁護士には戸籍謄本、住民票の写しを取得する権利が付与されています。
実務上は、統一書式を利用して請求することになっていますが、その使用には大きな制約があります。
それでは、以下のようなことは許されるでしょうか。
【事例】
X弁護士は、依頼者Aからの依頼で、債務者の住所を特定するため、職務上請求を行った。この債務者は居所を転々としており、債権者Aは居所をつかめないで困っている状態であった。
最新の住民票写しを取得できたXは、その写しをAに交付した。
【解説】
そもそも、戸籍や住民票の記載内容は、みだりに第三者に知られることのない情報であり、プライバシーに関する事項であるといえます。
そのため、たとえ第三者(依頼者以外)の情報であっても、弁護士は弁護士法により守秘義務を負っているものと考えられます。このようなプライバシー事項が記載されている住民票の写しを交付することは、守秘義務違反となる可能性があります。
X弁護士が、Aの代理人となって債権回収を行う場合、必ずしもAに債務者の住所を知らせる必要性があるわけではないのですが、Aの場合、債権回収という目的があるため、A自身でも住民票の写しを取得できる可能性がないわけではありません。このように、A自身が取得できるような場合には、たとえ交付したとしても守秘義務違反の問題は生じません。
しかし、Xが弁護士として職務上請求書で取得することと、Aが自分で窓口に行って請求することでは、取得のしやすさに差があるものと思われます。この差を解消するため、ただ取得することのみ目的に(X自身が債権回収を行わない)Xが職務上請求書を使用することは、目的外使用となる可能性があるので注意が必要です。
このような守秘義務違反の問題以外にも、DV防止法の支援措置がある場合や、依頼者が外部にさらに拡散するリスクがあるような場合には一層の注意が必要です。このような危険な場合には、そもそも弁護士として依頼者に写しを交付しないことが求められると思われます。
弁護士が交通事故を起こすとどのような処分となるか

弁護士が交通事故を起こした場合、その事故の内容や責任の程度によっては、弁護士資格に影響を及ぼす可能性があります。ただし、「交通事故を起こした」という事実だけで直ちに弁護士資格を失うわけではありません。以下に、具体的なポイントを解説します。
1. 弁護士資格への直接的な影響
弁護士資格の停止や剥奪は、主に「品位を失う行為」があった場合に問題となります(弁護士法第56条、同法第65条など)。したがって、交通事故においても以下のような事情がある場合は懲戒処分の対象となる可能性があります。
▼ 懲戒処分の対象となり得るケース:
| ケース | 資格への影響 |
|---|---|
| 飲酒運転・無免許運転・ひき逃げ等 | 高い確率で懲戒処分(戒告、業務停止、除名など)となる可能性あります。刑事罰も予想されるので、そちらにより資格を喪失する可能性もあります。 |
| 人身事故(重過失あり) | 過失の程度やその後の対応によっては処分対象になり得えますが、過失犯自体ではそれほど処分の可能性が高いとまで言えません。しかし、刑事罰の内容により資格を喪失する可能性があります。 |
| 軽微な物損事故(過失小) | 原則として弁護士資格に影響が出たり、何らかの処分を受ける可能性は低いと思われます。 |
2. 懲戒処分の種類
懲戒処分は、弁護士会によって行われるもので、以下のような種類があります(弁護士法第56条)。
| 処分の種類 | 内容 |
|---|---|
| 戒告 | 厳重注意に相当。公告はされるが、業務停止にはならない。 |
| 業務停止 | 一定期間、弁護士業務の遂行が禁止される。 |
| 退会命令 | 当該弁護士会からの強制退会。 |
| 除名 | 弁護士としての資格そのものを剥奪。 |
3. 刑事処分と弁護士資格の関係
交通事故が刑事事件となった場合(例:過失運転致死傷、危険運転致死傷など)、刑事罰の内容も重要です。
- 拘禁刑以上の刑(執行猶予含む)を受けた場合:
- 弁護士法第7条により、欠格事由に該当し、弁護士資格を喪失します。
- 執行猶予期間が満了すれば、再度登録の申請は可能。
4. 事故後の対応がカギとなることも
弁護士としての社会的信用や倫理性が問われるため、以下のような対応は資格への影響を左右する可能性があります。
- 被害者への誠意ある謝罪と補償
- 事故の事実を隠蔽しない
- 適切な報告を行う(弁護士会などに必要があれば)
まとめ
| 交通事故の内容 | 弁護士資格への影響 |
|---|---|
| 軽微な物損事故 | 原則として影響なし |
| 人身事故(過失あり) | 過失の程度と対応によっては処分対象に |
| 飲酒運転・ひき逃げ | 高確率で懲戒処分、場合によっては資格喪失も |
| 拘禁刑以上の刑 | 欠格事由に該当し、資格喪失 |
【弁護士が解説】弁護士のマスコミ対応
1 はじめに
よく、報道などで刑事事件の弁護人がマスコミの取材に応じている光景を目にします。
しかし、あのような取材対応に問題は生じないのでしょうか。
2 守秘義務
弁護士法23条により、弁護士は「職務上知り得た秘密を保持する権利を有し、義務を負う」とされています。これと同じ内容の規定が弁護士職務基本規程23条にも定められています。
接見室で依頼者(被疑者、被告人)と話した内容は、当然守秘義務の範囲に含まれることとなります。そのため、仮にマスコミ対応を行うとすれば、依頼者とよく相談し、話す内容を決めたうえでなければ、守秘義務違反の問題が生じる可能性があります。
ところで、この守秘義務の範囲は「依頼者」に限られるのかも問題となります。被疑者・被告人の家族のプライバシーが関係する(たとえば家庭環境など)ことがありうるだけではなく、事件の性質によっては被害者のプライバシーにも影響が出る可能性があります。
この守秘義務の範囲については争いがあるものの、弁護士法23条では「依頼者」と限定しているものではないので、第三者の秘密も保護の対象であるとの見解が有力です。そのため、事案の内容を話すこと自体も問題となり得る可能性があることに注意が必要です。
3 真実義務
弁護人がマスコミに伝えた内容は、テレビや新聞で報道される可能性が高いと言えます。仮にそこで弁護士が事実と異なる発言を行ったり、共犯者との口裏合わせになりかねないような発言をした場合には、別途真実義務の問題が生じる可能性があります。
たとえば、弁護士が後に裁判員を誘導する目的で、本来被告人が話していない内容を話したり、事実と異なることを発言したような場合には、真実義務違反となる可能性があります。
また、未発見の共犯者がいる場合に、その共犯者の罪証隠滅を手助けするような場合も問題です。真実義務違反だけであれば懲戒の問題で留まりますが、場合によっては犯人隠避に該当する危険性もあります。
4 最後に
弁護士として、マスコミから対応を求められることは少なくありません。
まず第一には依頼者本人の意向を確認することが必要ですが、それ以外にも注意すべき点が存在します。弁護士としてマスコミ対応を求められた際には、他の弁護士に相談するなどして慎重に検討する必要があります。
双方代理をすることは許されるか
🔹架空の事例:不動産売買トラブル
登場人物:
- 売主Aさん:築30年の中古住宅を売りたい
- 買主Bさん:その家を購入したい
- 弁護士X先生:法律事務所に勤める弁護士
📌事例の経緯:
AさんとBさんは、不動産業者を通じて知り合い、売買価格3,000万円で合意しました。契約書を作成するにあたり、両者は共通の知人である弁護士Xに相談します。
X先生は、「中立な立場で契約書を作成する」と提案し、AさんとBさんの双方から正式に依頼を受けて、契約書を作成しました。
ところが、契約締結後にトラブルが発生します。
⚠️トラブル発生:
買主Bさんが入居後、建物に重大な雨漏りの欠陥があることが判明。Bさんは「契約時に説明がなかった。売主Aは瑕疵担保責任(契約不適合責任)を負うべきだ」として損害賠償を請求したいと言います。
一方、Aさんは「そんな話は知らなかったし、契約書にも『現状有姿で引き渡す』と書いてあるから責任はない」と主張。
両者はそれぞれ弁護士Xに相談しますが……
【解説】
双方の代理となることは、民法でも無権代理行為となるようになっています。ただ、民法108条1項では「本人があらかじめ許諾した行為」については双方代理も可としています。
しかし、これは弁護士倫理上問題ないのでしょうか。
弁護士法25条は「弁護士は、次に掲げる事件については、その職務を行つてはならない。ただし、第三号及び第九号に掲げる事件については、受任している事件の依頼者が同意した場合は、この限りでない。
一 相手方の協議を受けて賛助し、又はその依頼を承諾した事件
(中略)」
と定めています。
第1号は、正に双方代理となるような場面を規定しています。しかし、25条但書で、1号は除外されていません。つまり、1号のような場面では、仮に相手方が同意をしていたとしても、弁護士法上は受任できないということになります。
弁護士法25条違反の私法行為の効力については別論、弁護士として架空の事例のような場面で受任をすることは、たとえ双方の同意があったとしても認められません。
双方代理に例外があることは民法上学習しますので、ついつい受任できるかのような気持ちになりますが、実際には認められませんから、注意が必要です。
利益相反とは
利益相反とは
利益相反とは、弁護士職務基本規程第27条などで禁止されている、弁護士が受任を禁じられている状況を指します。
弁護士は、次の各号のいずれかに該当する事件については、その職務を行ってはならない。ただし、第3号に掲げる事件については、受任している事件の依頼者が同意した場合は、この限りでない。
- 相手方の協議を受けて賛助し、又はその依頼を承諾した事件
- 相手方の協議を受けた事件で、その協議の程度及び方法が信頼関係に基づくと認められるもの
- 受任している事件の相手方からの依頼による他の事件
- 公務員として職務上取り扱った事件
- 仲裁、調停、和解斡旋その他の裁判外紛争解決手続機関の手続実施者として取り扱った事件
このような事件は、弁護士として受任をすることができません。
利益相反が禁止される理由
- 公正な業務の遂行のため
弁護士が一方の利益に偏ると、法的判断や主張が歪められる可能性があります。 - 依頼者の信頼保持
弁護士には高度な守秘義務と忠実義務があります。利益相反はこれに反する行為です。 - 訴訟・交渉の適正性確保
利害が対立する両者を代理するのは、訴訟制度の根幹を揺るがしかねません。
具体例
それでは、具体的にどのような場合で問題となるのでしょうか。
たとえば、夫婦のうち夫から離婚についての相談を受けたあと、妻の代理人になるということは、典型的な利益相反です。しかし、さすがに弁護士がこのような事件を受任することは、よほどのことがない限りないものといえます。
それでは次の例はどうでしょうか。
X弁護士は、長い間A社と取引があり、その代表であるBとも懇意にしていた。A社の社内法務についての相談もたびたび受けており、それについて回答をしていた。あるとき、A社の中で代替わりがあり、Bは半ば追い出されるような形になってしまった。そこで、XはBを代理してA社を相手に株主総会決議取消の訴えを提起した。
Xの目線から見れば、長年付き合いがあるのはB個人であるように思われます。しかし、その実質はA社のために行うものであり、法律上はA社に対して助言を行っているということになります。ですので、事後そのA社を訴えるようなことは、利益相反に該当する可能性があります。
このように、弁護士でもよく気を付けておかなければ問題となる可能性があります。
利益相反に該当しないかどうかのチェックを十分に行う必要があります。
守秘義務違反について

■ 弁護士の守秘義務とは
弁護士は、業務上知り得た秘密を守る義務(守秘義務)を負っています。これは弁護士法第23条および弁護士職務基本規程第23条に基づくもので、依頼者との信頼関係を基礎とした職業倫理の根幹です。
■ 守秘義務違反の懲戒処分の種類
守秘義務違反をした場合、以下のような懲戒処分を受ける可能性があります。
退会命令や除名の処分に至るケースはほとんどないものと思われます。
- 戒告:最も軽い処分。
- 業務停止:一定期間(1か月~2年)弁護士業務を停止。
■ 綱紀・懲戒委員会が重視する点
守秘義務違反に対して、以下の要素が処分の重さに影響します。たとえば以下のように考えられます。
| 重視される要素 | 内容 |
|---|---|
| 漏洩した情報の内容 | プライバシーや名誉に関わる重要情報かどうか |
| 漏洩の態様 | 故意か過失か、継続的か単発か |
| 漏洩の相手 | 第三者か、利害関係者か |
| 被害の有無・程度 | 実害があったか、社会的信用が損なわれたか |
| 再発防止措置や反省の有無 | 自主的な謝罪や再発防止策が取られているか |
■ まとめ
弁護士の守秘義務違反は、単なるミスではなく、職業倫理に対する重大な違反とされます。実際の懲戒事例では、故意性や被害の有無、情報の重要性などが処分の重さを左右しており、最悪の場合は
預り金規程の改正について
昨今、弁護士による金銭の横領事案のニュースが相次いでいます。
預り金の横領は、それ自体当然業務上横領罪となりますので、刑事事件となります。
弁護士会では、このような横領行為を未然に防ぐため、弁護士の預り金に対する監督を強化しています。
この一環で出来上がった規定が、「預り金等の取扱いに関する規程」です。
この規定は2013年に制定され、その後2017年に改正されました。
そして、2025年6月の定時総会で再び改正されることとなりました。
①自己名義の預り金口座の開設義務
原則として、自己名義の預り金口座を開設する義務が明記されました。
基本的にはこれまでも当然と考えられていたことを明示したのみですが、反対に弁護士法人や共同事務所の場合についての例外規定が設けられることとなりました。
また、他人名義の口座を自己の預り口として利用する場合には、名義人と連名で届出をする必要があります。
②弁護会による照会の発動端緒等の改正
弁護士会による預り金口の調査を開始する端緒として、預り金に関する苦情が1回でもあった場合には、調査をできることとしています。
これまでは、3か月で3回あった場合に限定されていましたが、1回あっただけでも調査の対象となります。
③通帳の写しや原本の提示義務
これまでは通帳については写しを提示すればよいものと考える余地がありました。
しかし、これを厳格化し、原本を提示する義務を明示しています。
④公表制度の新設
懲戒に至る前に、預り金口の照会について回答しない場合や、通帳原本を提示しないような場合に、弁護士会が公表できる措置が新設されました。
懲戒前ですが、対象弁護士に弁明の機会が付与されたのということで、公表されています。
【弁護士が解説】弁護士が作成する書面にはどのような注意が必要か

【事例】
X弁護士は、Aから不貞行為を原因とする損害賠償請求の依頼を受任しました。
Aの夫であるBは、職場の同僚であるCと不倫関係にあり、AとしてCに対して損害賠償請求を行いたいと考えているようでした。
ただ、いきなり訴訟というのも、ということで、まずはCの住所地に内容証明郵便をそうふすることとなりました。
その文面を作成している途中、AからX弁護士に対して次のような依頼がありました。A曰く、できる限りCに対してプレッシャーを与えるような文章を作成して欲しいということのようで、Cへの文面に「泥棒猫」というような言葉を入れて欲しいようでした。
はたしてこのような文言を入れてもよいのでしょうか。
【解説】
弁護士職務基本規程6条では「弁護士は、名誉を重んじ、信用を維持するとともに、廉潔を保持し、常に品位を高めるように努める。」とされています。
他方で、同22条には「弁護士は、委任の趣旨に関する依頼者の意思を尊重して職務を行うも
のとする。」ともされており、依頼者の意思の尊重も要求されています。
そうすると、たとえば品位を損なうようなことを依頼者が依頼してきた場合、それは許されるのかどうかということが問題となります。
この点について、規程20条は「弁護士は、事件の受任及び処理に当たり、自由かつ独立の立場を保持するように努める。」としています。これは、弁護士の職務の専門性から、事件処理に裁量があることを表しており、全て依頼者の指示通りにしなければならないということまでを義務付けているわけではないことを表しています。
今回の様に、明らかに不当な文言を書面に記載することは、その必要性(たとえば、何らかの文章の引用等の場合)がない限り、弁護士として依頼者の指示に従うべきではないと考えられます。仮に依頼者の意向通りに書面を作成し、相手方から懲戒請求を受けた場合、依頼者の指示であることは違法性を阻却するものではないと思われますので、依頼者に対しては上記のような立場を説明し、できる範囲があることを説明する必要があります。
ただ、たとえば「あなたは不貞行為をしました」というような文言についても、厳密に言えば言い分はA本人の証言しかなく、客観的な証拠が伴っていない可能性もあります(Bが自白している場合には、それで足りるとも考えられますあ)。このような場合に、断定的なような表現を使うことの是非も問題となり得ますが、これは記載をしなければ損害賠償請求自体が認められる(不貞行為があったか無かったかわからないけれども請求、ということになるとそのような請求自体も法的に適切ではなく、懲戒事由となる可能性があります)余地がないため、このような表現はやむを得ないと思われます。
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