Archive for the ‘懲戒事由(各論)’ Category

【弁護士が解説】弁護士が刑事罰を受けるとどうなるか

2025-03-11

【事例】

 弁護士のXさんは、車を運転中に交通事故を起こしてしまいました。

 被害者には相当重いけがが生じてしまい、公判請求の上禁錮刑が言い渡されました。

 この時、弁護士資格はどのようになるのでしょうか。

【解説】

 弁護士法7条1号には、「禁錮以上の刑に処せられた者」が弁護士となる資格を有しない者、つまり欠格事由として定められています。

 そして、弁護士法17条1号により、第7条各号のいずれかに該当した場合には、弁護士名簿の登録を取り消されなければならないとなっています。

 ここで条文は「禁錮以上」と定めているのみです。そのため、執行猶予付き判決か実刑判決かの区別をしていません。つまり、仮に執行猶予付きの判決であったとしても、禁錮以上の刑の言渡しを受けたことになりますから、登録取消事由に該当することになります。

 また、同じく専門職である医師の場合、このような刑罰法令該当自由があったとしても、厚生労働大臣は処分をすることが「できる」と定めており、仮に執行猶予付き判決であったとしても処分がなされない可能性が存在しています。しかし、弁護士法は「取り消さなければならない」と定めており、弁護士会には裁量が認められていません。つまり、執行猶予以上の判決があった場合には、必ず弁護士資格が取り消されるということになってしまします。

 では、罰金刑になった場合はどうでしょうか。この場合、1号の「禁錮以上」には該当していません。そうすると、これだけで直ちに登録取消になるということにはならないと言えます。

 しかし、弁護士の懲戒事由は「職務の内外を問わずその品位を失うべき非行があったとき」とされており、罰金刑であるからといって処分を受けないということにはなりません。ただ、交通事故は過失犯であり、責任非難の程度が故意犯より大きいとは言えませんから、故意犯に比べて処分が重くなるということはないと思われます。対して、飲酒運転や盗撮といった故意犯は、罰金刑であっても業務停止以上の重い処分が予想されますので注意が必要です。

 

 

「業務広告に関する指針」が改正されました

2025-03-04

 弁護士の広告に関しては、「弁護士等の業務広告に関する規程」という規制が存在しています(なお、外国法事務弁護士についても同様の規定がありますが省略します)。

 ただ、この規定は一般的抽象的な規程でもあるので、具体的にどのような場合が規程に該当するのかを開設した「業務広告に関する指針」が公表されています。

 この業務広告に関する指針が、令和7年2月20日付で改正されました、なお、大元の規程自体が改正されたというわけではありませんので、より具体的な場面について注意を促すような形となっています。

1 債務整理事件に関する注意

 債務整理事件については「債務整理事件に関し、「国が認めた借金減額制度」、「国が認めた借金救済制度」等、あたかも破産や民事再生以外に、債務者にとって特別に有利な法的債務整理の制度が存在するとの期待を抱かせる表現を含むもの」(第3 4⑶)というように、明示的に注意がなされるようになりました。

2 国際ロマンス詐欺に関する注意

 国際ロマンス詐欺に関する事件の被害者側事件として、「国際ロマンス詐欺、投資詐欺等の被害回復が容易でなく、被害回復ができないか、ごく少額の回収にとどまることが多いことが弁護士業務上の社会通念として明らかである事件に関し、殊更に高額回収ができた事例のみを紹介する等、依頼すれば高額の回収ができるとの期待を抱かせる表現を含むもの」(同⑸)として、過剰な広告に対する注意が行われています。

 このような、近時問題となっている類型に対応し、弁護士の信用性を確保するためのものとなっています。見込みのないような事件について、あたかも見込みがあるように受任した場合や、見込みがあるかないかわからない依頼者の状態を利用して受任をすることを厳しく禁止するものとなっています。

 弁護士が広告を出す際には、指針の改正に気を配り、十分注意をする必要があります。

【弁護士が解説】弁護士は過剰な請求を行ってもよいか

2025-01-14

【事例】

 X弁護士は、Aから依頼を受け、交通事故不法行為に基づく損害賠償請求訴訟を提起しました。

 事件内容としては、歩行者であるAが交差点内でBが運転する乗用車と接触し、怪我をしたという単純なものです。そこで、Aが原告となり、Bや保険会社を被告として訴訟提起しました。

 ある日、X弁護士は、週刊誌の記事でBの出生にまつわる秘密についての噂が記載された記事を見ました。そこで改めて訴訟記録を確認すると、Bの戸籍や刑事事件記録から見ても、その噂が真実であると確信できるような記載がなされていました。

 そこで、X弁護士は、この事実を秘匿しておく代わりに、赤い本の5倍の慰謝料をBに請求しようと考えています。このようなことは許されるのでしょうか。

【解説】

 弁護士としては、依頼を受けた依頼者の利益を最大化することが基本的な職務となります。金銭を求める賠償訴訟であれば、訴訟自体に特別な意味があるというような場合を除き、基本的には金額が大きくなればなるほど、原告側(請求する側)としては利益が大きくなったと考えられます。

 そうすると、弁護士は1円でも多く獲得する(反対側なら1円でも支払額を少なくする)ことが良いように思われますが、かといってこれに何の制限もないとも言えません。 

 弁護士職務基本規程21条によれば、「弁護士は、良心に従い、依頼者の権利及び正当な利益を実現するように努める。」とされています。また、同20条は「弁護士は、事件の受任及び処理に当たり、自由かつ独立の立場を保持するように努める。」ともされています。そのため、いくら依頼者が希望したからといって、正当な理由なく過剰な請求をすることは基本規程に違反するものと考えられます。

 今回の事例のように、訴訟に全く関係のない点を持ち出し、半ば口封じのためのお金を要求するようなことは、正当な利益の実現とは言えません。特に、交通事故の場合には赤い本等の基準が定まっており、これを大きく逸脱する請求をする限りには、相応の理由が必要となると考えられます。

 そのため、このままX弁護士が5倍もの慰謝料請求をすると、懲戒を受ける可能性が生じます。ですので、このような過剰請求は許されないと考えられます。

【弁護士が解説】控訴審を受任しない場合に依頼者にどこまで説明しなければならないか

2024-12-24

【事例】

 X弁護士は、Aから貸金返還請求訴訟の被告側弁護の依頼を受け、これを受任しました。

 しかし、第一審の地方裁判所ではAは敗訴してしまい、仮執行宣言付きの判決が言い渡されてしまいました。

 これに対してAは納得せず、控訴を申し立てる意向を示しましたが、第一審で敗訴したのはXの弁護活動が原因であると考え、控訴審ではX以外の弁護士を選任すると述べていました。

 そこでXは、「第一審でやり取りした書類は判決文は、全てこのファイルに綴じられています。新しい弁護士さんのところにそれを持って相談に行ってください。」とだけ述べ、それ以上の説明をAに対して行わなかった。

 このXの行為は問題ないだろうか。

【解説】

 第一審で敗訴し、依頼者からクレームをつけられたような場合、弁護士としては苦しい立場に陥ります。また、依頼者が別の弁護士を選任するといったような場合には、なおのこと新しい弁護士に相談してほしいと思うものだと思われます。

 そこで、上記のXの様に、後のことは次の弁護士に聞いてください、という対応になりがちではあります。

 しかし、弁護士職務基本規程44条は「弁護士は、委任の終了に当たり、事件処理の状況又はその結果に関し、必要に応じ法的助言を付して、依頼者に説明しなければならない。」と定めています。単に事件処理の結果を報告するだけではなく、「必要に応じ法的助言を付して」説明しなければなりません。

 主文の勝訴・敗訴だけであれば比較的明白だと思われます。また、控訴の期限についても、直接法廷で判決文を聞いているような場合であれば裁判官が説明をしていますから分かりますが、そうではない場合には一般的には分からないものだと思われます。特に「仮執行宣言」が付されている場合、これがどのような効果を持つか、またこれを回避するためにはどのようにすればよいのかは、民事訴訟法の理解が無ければ困難です。

 そのため、Xとしては、控訴には期限があること、仮執行宣言が付されているので判決が確定しなくても執行されるおそれがあること等をAに対して説明しなければ、規程違反となる可能性があります。

【弁護士が解説】被害者代理人となればどのような要求でも加害者にしてよいのか

2024-12-17

【事例】

 X弁護士は、不同意わいせつの被害者であるAから事件の依頼を受け、加害者であるB(及びBの代理人弁護士)との示談交渉を行いました。

 Aが被害に遭った内容は、いわゆる電車内の痴漢であり、時間にして10秒程度度の臀部を服の上から触られるというものでした。

 XとAが事前に打ち合わせをしている際、Aからこのようなことを言われました。

 「先生、加害者にはできる限り苦しんでほしいと思います。示談金はできる限り多く支払って欲しいと思うのですが、たとえば3000万円と提示してもらえないでしょうか」

 さて、Xはどのように対応すべきでしょうか。

【解説】

 今回は示談交渉の場面です。

 示談である以上、双方が合意すればどのような合意内容でも問題ないようにも思われます。ただ、あまりにも暴利である、公序良俗に反するといった場合には、示談も契約である以上民法90条により無効となるおそれがあります。

 その前段階として、示談交渉で相手に持ち掛ける金額というのは、いくらでも良いものなのでしょうか。

 弁護士職務基本規程21条では、「弁護士は、良心に従い、依頼者の権利及び正当な利益を実現するように努める。」とされています。ここでは依頼者についても「正当な」利益を追求することが述べられており、単に「依頼者の利益」を追及するわけではないとされています。

 弁護士は依頼者の利益を実現するように活動するものの、依頼者から独立した立場を保持する(規程20条)必要もあるため、何でも依頼者の言うとおりに動いていれば問題ないということにはなりません。

 そこで本事例ですが、Aが被害を受けた不同意わいせつの慰謝料の金額は、おそらく100万円前後になることが予想されます。もちろんAの年齢(学生などであれば増額要素になり得ます)や回数(これまでにもBから同様の事をされているのであれば増額要素になり得ます)によってはこれを上回る金額となることは考えれます。また、今回の事件をきっかけに、Aが同じ電車に乗ることに心理的抵抗感を覚え、転居をしたような場合であれば、転居費用などが賠償の対象となる可能性もあります。

 とはいえ、損害賠償額総額が3000万円となる可能性があるかというと、仮に民事訴訟を提起したとしても認容される可能性は無いに等しい金額だと言えます。

 そのため、Aの言う通り3000万円で示談交渉を開始することは、基本規程21条との関係で問題となる可能性があります。ただし、この「正当」の線引きは極めて微妙なところでもあるので、問題であることが明白な場合(過去の例としては、同じ事件で慰謝料を同一人物から2回受領したなど)を除いては事件化しにくい累計ではないかと思われます。

【弁護士が解説】職務上請求書で取得した相手方の住民票を依頼者に交付してよいか

2024-12-10

【事例】

 X弁護士は、Aから依頼を受けた相続をめぐる事件に関し、調停を申し立てるために他の相続人Bの住民票を職務上請求用紙を用いて取得した。

 そのことをXがAに言うと、Aは「長らく音信不通だったBがどこに住んでいるのか知りたいので、先生その住民票もらえませんか?」と依頼してきた。

 XはAに住民票を交付してよいのだろうか。

【解説】

1 規則について

 弁護士が、弁護士である地位に基づいて住民票等を取得できるのは、戸籍法や住民基本台帳法にその定めが存在するからです。

 ただ、実際に弁護士が住民票等を職務上請求する際には、日弁連が定める規則等に従う必要があります。

 日弁連では「戸籍謄本等請求用紙の使用及び管理に関する規則」を定めています。それ以外に、単位会でも実際の購入方法などを定めた規則が定められている例が多いものと思われます。

 ただ、これらの規則でも、おそらくは取得した戸籍謄本や住民票についてどのような取扱いをするかについては定めがないものと思われます。

2 守秘義務

 戸籍や住民票の記載事項は、本来であれば記載されている者や直系親族などでなければ見ることができないものです。

 そうすると、これらの記載内容を第三者に漏らすことは、弁護士の「守秘義務」の関係で問題があるのではないかという問題が生じます。

 弁護士法23条では、「弁護士(中略)は、その職務上知り得た秘密を保持する権利を有し、義務を負う。」とされており、弁護士職務基本規程23条でも「弁護士は、正当な理由なく、依頼者について職務上知り得た秘密を他に漏らし、又は利用してはならない。」とされています。

 特に弁護士職務基本規程では「依頼者について」という文言がある関係で、弁護士法23条の主義ヒムについても、今回のBのような「第三者」については守秘義務の対象外ではないのではないかとの解釈も成り立ちうるところです。しかし、日弁連綱紀委員会では「守秘義務の対象・範囲は、依頼者はもとより第三者の秘密やプライバシーにも及ぶことでは当然とされている」と判断しており、第三者の秘密も守秘義務の対象であると考えられています。

 今回のBの住民票についても、通常であれば他人が見られるようなものではないため、秘密に該当します。そのため、職務上請求で取得したBの住民票をAに交付することは守秘義務違反に該当する可能性があります。特に、B以外の家族の名前などが同じ住民票に記載されている場合、違反となる可能性は一層高まります。

 もっとも、調停申立書には当然Bの住所を記載します。そのため、調停申立書の写し等をBに交付すると、Bの住所をAに知られることになります。このことの是非も当然問題となります。

 これまでのAの言動などからして、仮にBの住所を教えてしまうと、Aが直接押しかけたり郵便を送るなどして問題が生じる可能性があると感じられるのであれば、住所をマスキングするなどして交付したほうが安全であると言えます。

 少なくとも、今回のケースで取得した住民票そのものを交付することは極めて危険であり、差し控えるべきであると言えます。

 

【弁護士が解説】マスコミの取材に応じることは許されるか?

2024-11-12

【事例】

 X弁護士は、ある刑事事件の国選弁護人に選任され、第1回公判に弁護人として出席した。

 裁判が終わった後、法廷を出たところで、記者の腕章をつけた人物から声をかけられた。

 「○○新聞の△△です。被告人であるAさんは、事件について今どのようなお話をされているのでしょうか」

 さて、この問いかけに答えてよいのであろうか。

【解説】

 社会的に耳目を集める刑事事件等の場合には、法廷で記者の方が傍聴されている場合があります。もちろん傍聴自体は権利ですし、傍聴した内容を記事にすることも、裁判の公開という原則からは問題ありません(ただし、被害者保護やプライバシーの観点からの制約はあり得ます)。

 ただ、中には公判終了後に裁判所の廊下で、弁護士が記者から話しかけられるということもあります。そのとき、弁護士はどのように対応する必要があるのでしょうか。

 弁護士法23条弁護士職務基本規程23条で、秘密保持義務、いわゆる守秘義務が定められています。文言は少し異なりますが、要するに事件処理の過程で知り得た情報を理由なく漏らしてはならないというものです。

 上記のようなマスコミからの取材は、被告人の今の声を求めるものですから、当然「秘密」に該当します。そのため、本人からの了解があれば回答することができますが、そのような場合以外は回答すべきではありません。在宅事件であれば、本人が横にいるのでその場で協議できないわけではありませんが、身柄事件の場合にはすぐに本人と話すことはできません。マスコミが来そうな事件であれば、予め本人と対応を協議しておくことも1つの方法だと思われます。

 また、事件の内容によっては、本人の言い分をマスコミを通じて世間に知らせることも有効になるかもしれません。そのような類型の事件である場合には、記者会見を設定するなどして、積極的にマスコミを利用することも考えられる手段です。ただし、これも本人の同意が必要です。

 それでは、その直前の公判で明らかになった(かつ争いもない)事実について、確認の意味で再び尋ねられた場合(たとえば、「○○という事件で、本人はお認めなんですよね」と聞かれた場合)に回答することは問題ないのでしょうか。一見すると、直前の公判で公開されている出来事ですので、「秘密」に当たるような事柄ではないように思えます。確かにそうとも言えるのですが、公判で裁判官に対して認めるのと、記者に認めるのでは、その意味合いが異なるように思われます。少なくとも公判では何らかの応答をしなければならないのに対し、記者に対しては応答しなかったからといって問題があるわけではありません。その意味で、仮に公になった事実であったとしてもそれをそのまま記者に話していいとは言い切れないように思われます。

 マスコミからの対応依頼があった場合には、一旦持ち帰り、本人と協議をしてから回答する方が妥当のように思われます。

【弁護士が解説】不当であると分かりながら訴訟提起をすることに何か問題はないか

2024-10-15

【事例】

 X弁護士は、Aから、ある不動産の明け渡しに関する相談を受け、Bに対して訴訟提起を行った。

 しかし、この訴訟でXが主張した法的な構成は、第一審でも第二審でも認められず、Aは敗訴しました。

 この結果に納得できなかったAは、Xに対して再び訴訟提起をすることを求めました。ただ、X弁護士としては、既に主張できる法的構成は1回目の裁判で主張してしまっており、今さら新たな法的構成を考えたとしても無理筋なものであると考えていました。既判力のことを考えると、どうしても訴訟提起は難しそうです。

 このとき、X弁護士が訴訟提起をすることに問題はないでしょうか。

【解説】

 弁護士は、不当な事件を受任することはできません(弁護士職務基本規程31条)。

 今回のように、不当訴訟と思われるものを引き受けることは、この規程に違反する可能性があります。ただ、だからといって裁判を受ける権利がある以上、代理人になることが一律に否定されるものではありません。

 裁判例で、弁護士の訴訟提起行為が不法行為を構成する場合は、「一般に代理人を通じてした訴や控訴の提起が違法であって依頼者たる本人が相手方に対し不法行為の責を負わなければならない場合であっても、代理人は常に必ずしも本人と同一の責を負うべきものと解することはできない。すなわち、代理人の行為について、これが相手方に対する不法行為となるためには、単に本人の訴等の提起が違法であって本人について不法行為が成立するというだけでは足りず、訴等の提起が違法であることを知りながら敢えてこれに積極的に関与し、又は相手方に対し特別の害意を持ち本人の違法な訴等の提起に乗じてこれに加担するとか、訴等の提起が違法であることを容易に知り得るのに漫然とこれを看過して訴訟活動に及ぶなど、代理人としての行動がそれ自体として本人の行為とは別箇の不法行為と評価し得る場合に限られるものと解すべきである。」(東京高判昭和54年7月16日)とされています。そのため、単に不当訴訟だと認識しながら訴訟提起するだけでは足りないと考えられていますので、弁護士としてはそこまで心配する必要はありません。

 不法行為上の責任を負う場合よりも、懲戒請求を受ける場合の方がより厳格な場合に限定されます。そのため、懲戒請求を受けるのは、被告に損害を与える目的が明白な場合や、それにより弁護士が利益を得る場合など極限的な場合に限られると考えられます。

 もっとも、原告(依頼者)側が敗訴に納得するかという問題も再びあります。弁護士は結果を装って受任することが禁止されているので、原告には敗訴の可能性を十分告知した上で受任しなければなりません。

【弁護士が解説】身代わり犯人の主張がなされた場合にはどうするべきか

2024-10-08

【事例】

 X弁護士は、Aさんの国選弁護人に選任されたため、勾留されている警察署に接見に行きました。

 Aさんと接見すると、次のようなことを言われました。

 「先生、実はこの事件はBが真犯人です。私は全く無関係で、現場にもいなかったのですが、世話になっているBから、何とかここだけ身代わりになってくれといわれたんです。私も身代わりになることを承諾したので、出頭して逮捕されたんですけど、このまま手続きを進めて欲しいと考えています。」

 X弁護士として、どのような対応をすることが適当でしょうか。

【解説】

 弁護人として接見をしていると、時々このような主張に出会うことがあります。ここまで丸々身代わりになっているというケースはそれほどないとしても、部分的に身代わりになるようなことをしていることはあります。

 このとき、弁護人としては、まず無実の事件で有罪判決を受けることは適切でないこと等を伝え、思いとどまるよう説得するべきです。しかし、仮説得に応じなかった場合にはどのようにすればよいでしょうか。

 私選弁護人の場合、弁護活動を継続できないということを理由に辞任することが考えられます。しかし、国選弁護人の場合には、自由に辞任することはできず(刑事訴訟法38条の3)、かといってこの内容を裁判所に報告することは守秘義務違反となりますので、裁判所に辞任を求めることもできません。

 それでは、X弁護士のように国選弁護人を継続することになった場合には、どのように対応すればよいでしょうか。

 これについて定まった見解はなく、『解説 弁護士職務基本規程(第三版)』にも複数の考え方が示されています(同書15頁)。

 国選弁護人であり、辞任できる状態ではない以上、弁護人は何らかの弁護活動をしなければなりません。たとえば、冒頭手続きでの罪状認否は、弁護人・被告人に陳述の機会を与えれば足りると考えられていますので、弁護人が陳述しなかったとしても手続きは進みます。また、証拠意見は本来被告人固有の権利ですので、弁護人ではなく被告人がすべて同意してしまえば、それで足ります。このように、裁判の場に弁護人がいるものの、弁護人が一切の弁護活動を行わないということも不可能ではないかもしれません。ただ、この手続きは通常の弁護活動ではありませんし、裁判官・検察官から見ても極めて疑問があります(間違いなく理由を問われるでしょう)。また、本当は無罪であるにもかかわらず情状弁護を行うのかという問題も生じ得ますが、仮に情状弁護を行った場合、情状証人に有罪であることを前提に尋問をすることも躊躇われるところです。

 反対に、被告人の意思決定を重視し、被告人の主張の通り弁護活動を行うことも考えられます。この場合、弁護人は偽犯人を作り出しており、真犯人の罪を免れさせていることになりますので、犯人隠避罪が成立しないかどうかの問題が生じます。実際には、正当事由があると判断される可能性もありますが、そのような確定的判断が示されたことはなく、先行きは見通せません。

 どのような選択をとるにしろ、身代わり犯人の問題が登場した際には、弁護人には難しい選択が迫られます。このような問題が生じた場合、最終的に自分の身を守るため、できる限り自身の行った判断を形に残すような行動を意識すべきです。たとえば、被告人とのやり取りを録音しておくとか、決めた内容を書面に残すなど、あとから「本当は・・・」と言われるようなことがないよう、弁護活動をする必要があります。

 

【弁護士が解説】弁護士費用の未精算はどのような問題を生じさせるか

2024-08-20

【事例】

 X弁護士は、Aさんから交通事故損害賠償事件(被害者側)の依頼を受け、保険会社との交渉に当たり、保険会社から保険金を受領しました。

 X弁護士がAさんから依頼を受けた当初、Aさんが被害者であることは明らかであり、それなりまとまった金額を受領できることが予想されたことから、委任契約締結時にはX弁護士は費用を貰わず、保険会社から取得出来た金額に対する一定の割合を報酬として差し引き、残った金額をAさんに渡すという契約を締結していました。

 X弁護士は、保険会社との示談交渉が完了し、保険金の受領が終了したにもかかわらず、Aさんに保険金の一部の支払いをしないままでいました。このようなことはどのような問題を生じさせるでしょうか。

【解説】

 「自由と正義」の末尾に、懲戒の事例が掲載されていますが、事案のように預かったお金を返金しないというケースは度々登場します。

 弁護士職務基本規程45条によれば、「弁護士は、委任の終了に当たり、委任契約に従い、金銭を清算した上、預り金及び預り品を遅滞なく返還しなければならない。」とされています。保険会社からの保険金は、依頼者のために第三者あら預かったお金ですから、預り金に該当し、終了時に速やかに返金する必要があります。

 事例のケースのように、保険金や遺産等のまとまったお金を返金しなかった場合、業務停止などの重い処分も十分予想されます。そのため、速やかに返金をする必要があります。

 ところで、仮に返金できない何らかの事情が発生した場合はどうでしょうか。たとえば、依頼者から「今、妻と離婚しそうで、このまま自分の口座に保険金が流れ込んでしまうと、この保険金も遺産分割の対象となってしまう可能性がある。そのため、先生がしばらく預かっておいてください」等と言われた場合には、どうすればよいでしょうか。

 この依頼者の述べている内容が法的に正確かどうかは別として、返金ができない事情(病気や行方不明など)がない以上、仮に依頼者側に事情があったとしても規程上は返金すべきでしょう。

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