Archive for the ‘懲戒事由(各論)’ Category

弁護士が交通事故を起こすとどのような処分となるか

2025-10-07

 弁護士が交通事故を起こした場合、その事故の内容や責任の程度によっては、弁護士資格に影響を及ぼす可能性があります。ただし、「交通事故を起こした」という事実だけで直ちに弁護士資格を失うわけではありません。以下に、具体的なポイントを解説します。


1. 弁護士資格への直接的な影響

弁護士資格の停止や剥奪は、主に「品位を失う行為」があった場合に問題となります(弁護士法第56条、同法第65条など)。したがって、交通事故においても以下のような事情がある場合は懲戒処分の対象となる可能性があります。

▼ 懲戒処分の対象となり得るケース:

ケース資格への影響
飲酒運転・無免許運転・ひき逃げ等高い確率で懲戒処分(戒告、業務停止、除名など)となる可能性あります。刑事罰も予想されるので、そちらにより資格を喪失する可能性もあります。
人身事故(重過失あり)過失の程度やその後の対応によっては処分対象になり得えますが、過失犯自体ではそれほど処分の可能性が高いとまで言えません。しかし、刑事罰の内容により資格を喪失する可能性があります。
軽微な物損事故(過失小)原則として弁護士資格に影響が出たり、何らかの処分を受ける可能性は低いと思われます。

2. 懲戒処分の種類

懲戒処分は、弁護士会によって行われるもので、以下のような種類があります(弁護士法第56条)。

処分の種類内容
戒告厳重注意に相当。公告はされるが、業務停止にはならない。
業務停止一定期間、弁護士業務の遂行が禁止される。
退会命令当該弁護士会からの強制退会。
除名弁護士としての資格そのものを剥奪。

3. 刑事処分と弁護士資格の関係

交通事故が刑事事件となった場合(例:過失運転致死傷、危険運転致死傷など)、刑事罰の内容も重要です。

  • 拘禁刑以上の刑(執行猶予含む)を受けた場合
    • 弁護士法第7条により、欠格事由に該当し、弁護士資格を喪失します。
    • 執行猶予期間が満了すれば、再度登録の申請は可能。

4. 事故後の対応がカギとなることも

弁護士としての社会的信用や倫理性が問われるため、以下のような対応は資格への影響を左右する可能性があります。

  • 被害者への誠意ある謝罪と補償
  • 事故の事実を隠蔽しない
  • 適切な報告を行う(弁護士会などに必要があれば)

まとめ

交通事故の内容弁護士資格への影響
軽微な物損事故原則として影響なし
人身事故(過失あり)過失の程度と対応によっては処分対象に
飲酒運転・ひき逃げ高確率で懲戒処分、場合によっては資格喪失も
拘禁刑以上の刑欠格事由に該当し、資格喪失

【弁護士が解説】弁護士のマスコミ対応

2025-09-22

1 はじめに

 よく、報道などで刑事事件の弁護人がマスコミの取材に応じている光景を目にします。

 しかし、あのような取材対応に問題は生じないのでしょうか。

2 守秘義務

 弁護士法23条により、弁護士は「職務上知り得た秘密を保持する権利を有し、義務を負う」とされています。これと同じ内容の規定が弁護士職務基本規程23条にも定められています。

 接見室で依頼者(被疑者、被告人)と話した内容は、当然守秘義務の範囲に含まれることとなります。そのため、仮にマスコミ対応を行うとすれば、依頼者とよく相談し、話す内容を決めたうえでなければ、守秘義務違反の問題が生じる可能性があります。

 ところで、この守秘義務の範囲は「依頼者」に限られるのかも問題となります。被疑者・被告人の家族のプライバシーが関係する(たとえば家庭環境など)ことがありうるだけではなく、事件の性質によっては被害者のプライバシーにも影響が出る可能性があります。

 この守秘義務の範囲については争いがあるものの、弁護士法23条では「依頼者」と限定しているものではないので、第三者の秘密も保護の対象であるとの見解が有力です。そのため、事案の内容を話すこと自体も問題となり得る可能性があることに注意が必要です。

3 真実義務

 弁護人がマスコミに伝えた内容は、テレビや新聞で報道される可能性が高いと言えます。仮にそこで弁護士が事実と異なる発言を行ったり、共犯者との口裏合わせになりかねないような発言をした場合には、別途真実義務の問題が生じる可能性があります。

 たとえば、弁護士が後に裁判員を誘導する目的で、本来被告人が話していない内容を話したり、事実と異なることを発言したような場合には、真実義務違反となる可能性があります。

 また、未発見の共犯者がいる場合に、その共犯者の罪証隠滅を手助けするような場合も問題です。真実義務違反だけであれば懲戒の問題で留まりますが、場合によっては犯人隠避に該当する危険性もあります。

 

4 最後に

 弁護士として、マスコミから対応を求められることは少なくありません。

 まず第一には依頼者本人の意向を確認することが必要ですが、それ以外にも注意すべき点が存在します。弁護士としてマスコミ対応を求められた際には、他の弁護士に相談するなどして慎重に検討する必要があります。

双方代理をすることは許されるか

2025-08-26

🔹架空の事例:不動産売買トラブル

登場人物:

  • 売主Aさん:築30年の中古住宅を売りたい
  • 買主Bさん:その家を購入したい
  • 弁護士X先生:法律事務所に勤める弁護士

📌事例の経緯:

AさんとBさんは、不動産業者を通じて知り合い、売買価格3,000万円で合意しました。契約書を作成するにあたり、両者は共通の知人である弁護士Xに相談します。

X先生は、「中立な立場で契約書を作成する」と提案し、AさんとBさんの双方から正式に依頼を受けて、契約書を作成しました。

ところが、契約締結後にトラブルが発生します。


⚠️トラブル発生:

買主Bさんが入居後、建物に重大な雨漏りの欠陥があることが判明。Bさんは「契約時に説明がなかった。売主Aは瑕疵担保責任(契約不適合責任)を負うべきだ」として損害賠償を請求したいと言います。

一方、Aさんは「そんな話は知らなかったし、契約書にも『現状有姿で引き渡す』と書いてあるから責任はない」と主張。

両者はそれぞれ弁護士Xに相談しますが……

【解説】

 双方の代理となることは、民法でも無権代理行為となるようになっています。ただ、民法108条1項では「本人があらかじめ許諾した行為」については双方代理も可としています。

 しかし、これは弁護士倫理上問題ないのでしょうか。

 弁護士法25条は「弁護士は、次に掲げる事件については、その職務を行つてはならない。ただし、第三号及び第九号に掲げる事件については、受任している事件の依頼者が同意した場合は、この限りでない。
一 相手方の協議を受けて賛助し、又はその依頼を承諾した事件

(中略)」

と定めています。

 第1号は、正に双方代理となるような場面を規定しています。しかし、25条但書で、1号は除外されていません。つまり、1号のような場面では、仮に相手方が同意をしていたとしても、弁護士法上は受任できないということになります。

 弁護士法25条違反の私法行為の効力については別論、弁護士として架空の事例のような場面で受任をすることは、たとえ双方の同意があったとしても認められません。

 双方代理に例外があることは民法上学習しますので、ついつい受任できるかのような気持ちになりますが、実際には認められませんから、注意が必要です。

利益相反とは

2025-07-15

利益相反とは

 利益相反とは、弁護士職務基本規程第27条などで禁止されている、弁護士が受任を禁じられている状況を指します。

弁護士は、次の各号のいずれかに該当する事件については、その職務を行ってはならない。ただし、第3号に掲げる事件については、受任している事件の依頼者が同意した場合は、この限りでない。

  1. 相手方の協議を受けて賛助し、又はその依頼を承諾した事件
  2. 相手方の協議を受けた事件で、その協議の程度及び方法が信頼関係に基づくと認められるもの
  3. 受任している事件の相手方からの依頼による他の事件
  4. 公務員として職務上取り扱った事件
  5. 仲裁、調停、和解斡旋その他の裁判外紛争解決手続機関の手続実施者として取り扱った事件

このような事件は、弁護士として受任をすることができません。

利益相反が禁止される理由

  1. 公正な業務の遂行のため
    弁護士が一方の利益に偏ると、法的判断や主張が歪められる可能性があります。
  2. 依頼者の信頼保持
    弁護士には高度な守秘義務と忠実義務があります。利益相反はこれに反する行為です。
  3. 訴訟・交渉の適正性確保
    利害が対立する両者を代理するのは、訴訟制度の根幹を揺るがしかねません。

具体例

 それでは、具体的にどのような場合で問題となるのでしょうか。

 たとえば、夫婦のうち夫から離婚についての相談を受けたあと、妻の代理人になるということは、典型的な利益相反です。しかし、さすがに弁護士がこのような事件を受任することは、よほどのことがない限りないものといえます。

 それでは次の例はどうでしょうか。

 X弁護士は、長い間A社と取引があり、その代表であるBとも懇意にしていた。A社の社内法務についての相談もたびたび受けており、それについて回答をしていた。あるとき、A社の中で代替わりがあり、Bは半ば追い出されるような形になってしまった。そこで、XはBを代理してA社を相手に株主総会決議取消の訴えを提起した。

 Xの目線から見れば、長年付き合いがあるのはB個人であるように思われます。しかし、その実質はA社のために行うものであり、法律上はA社に対して助言を行っているということになります。ですので、事後そのA社を訴えるようなことは、利益相反に該当する可能性があります。

 このように、弁護士でもよく気を付けておかなければ問題となる可能性があります。

 利益相反に該当しないかどうかのチェックを十分に行う必要があります。

守秘義務違反について

2025-07-08

■ 弁護士の守秘義務とは

弁護士は、業務上知り得た秘密を守る義務(守秘義務)を負っています。これは弁護士法第23条および弁護士職務基本規程第23条に基づくもので、依頼者との信頼関係を基礎とした職業倫理の根幹です。


■ 守秘義務違反の懲戒処分の種類

守秘義務違反をした場合、以下のような懲戒処分を受ける可能性があります。

退会命令や除名の処分に至るケースはほとんどないものと思われます。

  1. 戒告:最も軽い処分。
  2. 業務停止:一定期間(1か月~2年)弁護士業務を停止。

■ 綱紀・懲戒委員会が重視する点

守秘義務違反に対して、以下の要素が処分の重さに影響します。たとえば以下のように考えられます。

重視される要素内容
漏洩した情報の内容プライバシーや名誉に関わる重要情報かどうか
漏洩の態様故意か過失か、継続的か単発か
漏洩の相手第三者か、利害関係者か
被害の有無・程度実害があったか、社会的信用が損なわれたか
再発防止措置や反省の有無自主的な謝罪や再発防止策が取られているか

■ まとめ

弁護士の守秘義務違反は、単なるミスではなく、職業倫理に対する重大な違反とされます。実際の懲戒事例では、故意性や被害の有無、情報の重要性などが処分の重さを左右しており、最悪の場合は

預り金規程の改正について

2025-07-01

昨今、弁護士による金銭の横領事案のニュースが相次いでいます。

預り金の横領は、それ自体当然業務上横領罪となりますので、刑事事件となります。

弁護士会では、このような横領行為を未然に防ぐため、弁護士の預り金に対する監督を強化しています。

この一環で出来上がった規定が、「預り金等の取扱いに関する規程」です。

この規定は2013年に制定され、その後2017年に改正されました。

そして、2025年6月の定時総会で再び改正されることとなりました。

①自己名義の預り金口座の開設義務

 原則として、自己名義の預り金口座を開設する義務が明記されました。

 基本的にはこれまでも当然と考えられていたことを明示したのみですが、反対に弁護士法人や共同事務所の場合についての例外規定が設けられることとなりました。

 また、他人名義の口座を自己の預り口として利用する場合には、名義人と連名で届出をする必要があります。

②弁護会による照会の発動端緒等の改正

 弁護士会による預り金口の調査を開始する端緒として、預り金に関する苦情が1回でもあった場合には、調査をできることとしています。

 これまでは、3か月で3回あった場合に限定されていましたが、1回あっただけでも調査の対象となります。

③通帳の写しや原本の提示義務

 これまでは通帳については写しを提示すればよいものと考える余地がありました。

 しかし、これを厳格化し、原本を提示する義務を明示しています。

④公表制度の新設

 懲戒に至る前に、預り金口の照会について回答しない場合や、通帳原本を提示しないような場合に、弁護士会が公表できる措置が新設されました。

 懲戒前ですが、対象弁護士に弁明の機会が付与されたのということで、公表されています。

【弁護士が解説】弁護士が作成する書面にはどのような注意が必要か

2025-04-22

【事例】

 X弁護士は、Aから不貞行為を原因とする損害賠償請求の依頼を受任しました。

 Aの夫であるBは、職場の同僚であるCと不倫関係にあり、AとしてCに対して損害賠償請求を行いたいと考えているようでした。

 ただ、いきなり訴訟というのも、ということで、まずはCの住所地に内容証明郵便をそうふすることとなりました。

 その文面を作成している途中、AからX弁護士に対して次のような依頼がありました。A曰く、できる限りCに対してプレッシャーを与えるような文章を作成して欲しいということのようで、Cへの文面に「泥棒猫」というような言葉を入れて欲しいようでした。

 はたしてこのような文言を入れてもよいのでしょうか。

【解説】

 弁護士職務基本規程6条では「弁護士は、名誉を重んじ、信用を維持するとともに、廉潔を保持し、常に品位を高めるように努める。」とされています。

 他方で、同22条には「弁護士は、委任の趣旨に関する依頼者の意思を尊重して職務を行うも
のとする。」ともされており、依頼者の意思の尊重も要求されています。

 そうすると、たとえば品位を損なうようなことを依頼者が依頼してきた場合、それは許されるのかどうかということが問題となります。

 この点について、規程20条は「弁護士は、事件の受任及び処理に当たり、自由かつ独立の立場を保持するように努める。」としています。これは、弁護士の職務の専門性から、事件処理に裁量があることを表しており、全て依頼者の指示通りにしなければならないということまでを義務付けているわけではないことを表しています。

 今回の様に、明らかに不当な文言を書面に記載することは、その必要性(たとえば、何らかの文章の引用等の場合)がない限り、弁護士として依頼者の指示に従うべきではないと考えられます。仮に依頼者の意向通りに書面を作成し、相手方から懲戒請求を受けた場合、依頼者の指示であることは違法性を阻却するものではないと思われますので、依頼者に対しては上記のような立場を説明し、できる範囲があることを説明する必要があります。

 ただ、たとえば「あなたは不貞行為をしました」というような文言についても、厳密に言えば言い分はA本人の証言しかなく、客観的な証拠が伴っていない可能性もあります(Bが自白している場合には、それで足りるとも考えられますあ)。このような場合に、断定的なような表現を使うことの是非も問題となり得ますが、これは記載をしなければ損害賠償請求自体が認められる(不貞行為があったか無かったかわからないけれども請求、ということになるとそのような請求自体も法的に適切ではなく、懲戒事由となる可能性があります)余地がないため、このような表現はやむを得ないと思われます。

【弁護士が解説】弁護士が刑事罰を受けるとどうなるか

2025-03-11

【事例】

 弁護士のXさんは、車を運転中に交通事故を起こしてしまいました。

 被害者には相当重いけがが生じてしまい、公判請求の上禁錮刑が言い渡されました。

 この時、弁護士資格はどのようになるのでしょうか。

【解説】

 弁護士法7条1号には、「禁錮以上の刑に処せられた者」が弁護士となる資格を有しない者、つまり欠格事由として定められています。

 そして、弁護士法17条1号により、第7条各号のいずれかに該当した場合には、弁護士名簿の登録を取り消されなければならないとなっています。

 ここで条文は「禁錮以上」と定めているのみです。そのため、執行猶予付き判決か実刑判決かの区別をしていません。つまり、仮に執行猶予付きの判決であったとしても、禁錮以上の刑の言渡しを受けたことになりますから、登録取消事由に該当することになります。

 また、同じく専門職である医師の場合、このような刑罰法令該当自由があったとしても、厚生労働大臣は処分をすることが「できる」と定めており、仮に執行猶予付き判決であったとしても処分がなされない可能性が存在しています。しかし、弁護士法は「取り消さなければならない」と定めており、弁護士会には裁量が認められていません。つまり、執行猶予以上の判決があった場合には、必ず弁護士資格が取り消されるということになってしまします。

 では、罰金刑になった場合はどうでしょうか。この場合、1号の「禁錮以上」には該当していません。そうすると、これだけで直ちに登録取消になるということにはならないと言えます。

 しかし、弁護士の懲戒事由は「職務の内外を問わずその品位を失うべき非行があったとき」とされており、罰金刑であるからといって処分を受けないということにはなりません。ただ、交通事故は過失犯であり、責任非難の程度が故意犯より大きいとは言えませんから、故意犯に比べて処分が重くなるということはないと思われます。対して、飲酒運転や盗撮といった故意犯は、罰金刑であっても業務停止以上の重い処分が予想されますので注意が必要です。

 

 

「業務広告に関する指針」が改正されました

2025-03-04

 弁護士の広告に関しては、「弁護士等の業務広告に関する規程」という規制が存在しています(なお、外国法事務弁護士についても同様の規定がありますが省略します)。

 ただ、この規定は一般的抽象的な規程でもあるので、具体的にどのような場合が規程に該当するのかを開設した「業務広告に関する指針」が公表されています。

 この業務広告に関する指針が、令和7年2月20日付で改正されました、なお、大元の規程自体が改正されたというわけではありませんので、より具体的な場面について注意を促すような形となっています。

1 債務整理事件に関する注意

 債務整理事件については「債務整理事件に関し、「国が認めた借金減額制度」、「国が認めた借金救済制度」等、あたかも破産や民事再生以外に、債務者にとって特別に有利な法的債務整理の制度が存在するとの期待を抱かせる表現を含むもの」(第3 4⑶)というように、明示的に注意がなされるようになりました。

2 国際ロマンス詐欺に関する注意

 国際ロマンス詐欺に関する事件の被害者側事件として、「国際ロマンス詐欺、投資詐欺等の被害回復が容易でなく、被害回復ができないか、ごく少額の回収にとどまることが多いことが弁護士業務上の社会通念として明らかである事件に関し、殊更に高額回収ができた事例のみを紹介する等、依頼すれば高額の回収ができるとの期待を抱かせる表現を含むもの」(同⑸)として、過剰な広告に対する注意が行われています。

 このような、近時問題となっている類型に対応し、弁護士の信用性を確保するためのものとなっています。見込みのないような事件について、あたかも見込みがあるように受任した場合や、見込みがあるかないかわからない依頼者の状態を利用して受任をすることを厳しく禁止するものとなっています。

 弁護士が広告を出す際には、指針の改正に気を配り、十分注意をする必要があります。

【弁護士が解説】弁護士は過剰な請求を行ってもよいか

2025-01-14

【事例】

 X弁護士は、Aから依頼を受け、交通事故不法行為に基づく損害賠償請求訴訟を提起しました。

 事件内容としては、歩行者であるAが交差点内でBが運転する乗用車と接触し、怪我をしたという単純なものです。そこで、Aが原告となり、Bや保険会社を被告として訴訟提起しました。

 ある日、X弁護士は、週刊誌の記事でBの出生にまつわる秘密についての噂が記載された記事を見ました。そこで改めて訴訟記録を確認すると、Bの戸籍や刑事事件記録から見ても、その噂が真実であると確信できるような記載がなされていました。

 そこで、X弁護士は、この事実を秘匿しておく代わりに、赤い本の5倍の慰謝料をBに請求しようと考えています。このようなことは許されるのでしょうか。

【解説】

 弁護士としては、依頼を受けた依頼者の利益を最大化することが基本的な職務となります。金銭を求める賠償訴訟であれば、訴訟自体に特別な意味があるというような場合を除き、基本的には金額が大きくなればなるほど、原告側(請求する側)としては利益が大きくなったと考えられます。

 そうすると、弁護士は1円でも多く獲得する(反対側なら1円でも支払額を少なくする)ことが良いように思われますが、かといってこれに何の制限もないとも言えません。 

 弁護士職務基本規程21条によれば、「弁護士は、良心に従い、依頼者の権利及び正当な利益を実現するように努める。」とされています。また、同20条は「弁護士は、事件の受任及び処理に当たり、自由かつ独立の立場を保持するように努める。」ともされています。そのため、いくら依頼者が希望したからといって、正当な理由なく過剰な請求をすることは基本規程に違反するものと考えられます。

 今回の事例のように、訴訟に全く関係のない点を持ち出し、半ば口封じのためのお金を要求するようなことは、正当な利益の実現とは言えません。特に、交通事故の場合には赤い本等の基準が定まっており、これを大きく逸脱する請求をする限りには、相応の理由が必要となると考えられます。

 そのため、このままX弁護士が5倍もの慰謝料請求をすると、懲戒を受ける可能性が生じます。ですので、このような過剰請求は許されないと考えられます。

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