Archive for the ‘医師免許’ Category

【弁護士が解説】医師の資格と交通事件の関係

2025-02-18

【事例】

 医師であるAさんは、プライベートで車を運転中・・・

①飲酒運転をして現行犯逮捕されてしまいました

②交通事故を起こし、被害者が全治1週間のけがをしました

③交通事故を起こし、被害者が亡くなりました

それぞれの場合、Aさんの医師免許にはどのような影響があるのでしょうか。

【解説】

1 医師の資格の欠格事由

 医師法7条は、「医師が第四条各号のいずれかに該当し、又は医師としての品位を損するような行為のあつたときは、厚生労働大臣は、次に掲げる処分をすることができる。」としています。そこで、4条を見ると、「三 罰金以上の刑に処せられた者」と書かれています。

 そのため、医師免許を保有している者が、罰金以上の刑(これは、医業に関する罪で罰金以上の刑を受けた場合に限りません)を受けた場合には、医師免許取消や医業停止の処分を受ける可能性があります。

2 各事例の検討

①飲酒運転のケース

 飲酒運転の場合、多くは現行犯逮捕されています。逮捕している事件の場合、警察は報道機関に逮捕者の氏名等を伝えることが一般的(ニュースでよく見る情報は、このように伝えられています)です。医師等であれば報道されてしまう可能性も極めて高いと言えるので、医師免許以前の問題として、報道により職を失う可能性が高いと言えます。

 問題の医師免許ですが、飲酒運転の初犯であれば、酒酔い運転(アルコールの数値に限らず、まともに運転できていないような状態です)でなければ、略式罰金として罰金刑になることが多いと言えます。道路交通法違反での罰金ですので、必ずしも医師免許の処分を受けるケースが多いとは言えません。しかし、そもそも報道等をされてしまうと、厚生労働省や都道府県管轄部局も事件を認知しますから、「医師としての品位を損するような行為」として処分を受ける可能性は十分あります。

②交通事故のケース

 過失による交通事故は、どうしても回避できない場合があります。もちろん、全く回避不可能というようなケースであれば、過失犯として罪に問われることはありませんが、よそ見のようなケースではやはり過失運転致傷の罪が成立します。

 とはいえ、全治1週間程度であれば、不起訴処分となり、前科がつかないケースも多いと言えます。前科がつかなければ、担当部局に事故のことが伝わることは多くないので、医師免許の処分がないこともほとんどだろうと思われます。

③交通死亡事故のケース

 とはいえ、死亡事故となると、それなりに大きく報道されることもあります。過失犯であれば逮捕されないことも十分ありますが、それほど簡単に不起訴になるわけではありません。

 実際、過失運転致死で、被害者に特に落ち度がないようなケースであれば、公判請求(正式な裁判を行うこと。テレビで見るような裁判です)となる場合が多いと言えます。

 そうすると、医師であっても罰金以上の刑(多くの場合は禁錮刑です)となってしまいます。

 ただ、事故である以上、医師の資質の問題性とは関連が低いことが多いと言えます。そのため、厚生労働省が示している考え方においても、戒告処分とされています。

 いずれにしても、道路交通法違反や交通事故を起こしてしまった場合、速やかに弁護士に相談し、今後の見通しや、取り得る策を講じたうえで、医師免許への影響を最大限小さくする必要があります。まずは弁護士にご相談ください。

【弁護士が解説】精神保健指定医の取消しはどのような場合に生じるのか

2024-12-31

1 精神保健指定医について

 精神保健指定医とは、精神保健及び精神障害者福祉に関する法律18条に定めがあるもので、指定されると措置入院を行うべきかどうかの判断などができることとなっています。

 精神保健指定医になるためには、厚生労働大臣あてに申請を行って指定を受ける必要がありますが、①5年以上診断又は治療に従事した経験を有すること②3年以上精神障害の診断又は治療に従事した経験を有すること③厚生労働大臣が定める精神障害につき厚生労働大臣が定める程度の診断又は治療に従事した経験を有すること④厚生労働大臣の登録を受けた者が厚生労働省令で定めるところにより行う研修の過程終了していることを満たしたうえで、指定医の職務を行うの必要な知識及び技能を有すると認められるものが大臣により指定されます。

2 精神保健指定医の取消し

 反対に、同法律には精神保健医の指定が取り消される場合も定められています。

 同法19条の2は

1 指定医がその医師免許を取り消され、又は期間を定めて医業の停止を命ぜられたときは、厚生労働 大臣は、その指定を取り消さなければならない。
2 指定医がこの法律若しくはこの法律に基づく命令に違反したとき又はその職務に関し著しく不当な行為を行つたときその他指定医として著しく不適当と認められるときは、厚生労働大臣は、その指定を取り消し、又は期間を定めてその職務の停止を命ずることができる。

 としています。

 1項は医師免許自体が取り消されたり医業停止を受けた場合ですが、この場合には当然医師としての業務を行うことができなくなりますので、精神保健指定も取り消されます。 

 2項は①精神保健及び精神傷害者福祉に関する法律か法律に基づく命令に違反したとき②職務に関し著しく不正な行為を行ったときというような指定医として著しく不適当と認められるときに指定が取り消されることがあるという規程です。1項と異なり、2項の「著しく不適当」な場合には指定が必ず取り消されるわけではありません。

 ただ、「指定医として著しく不適当」というのは、基準としてあいまいであり、どのような場合に不適当とされるのかは必ずしも明確ではありません。ただ、新規申請については厚生労働省が資料を公表しています。この中で、ケースレポートについて不正があったケースについて大量取消しを行った旨が記載されています。申請の際の記載やケースレポートについて不実の記載をした場合などは、指定が取り消される(指定を受けられない)ことが予想されます。

 反対に、指定医としての具体的な活動について、たとえば身体拘束時間が長すぎるとの理由で国家賠償請求を起こされ、それに敗訴したような場合まで「著しく不適当」となるかは明らかではありません。というのも、具体的な個々の医療行為の適否については、医師はその時点で明らかになっていることからしか判断できないのに対し、裁判は後からゆっくりとこれを判断しますから、仮に敗訴しても必ずしも医師の行為がすべて「著しく不適当」とまでは言えないものと思われます。

【裁判例紹介】医師免許に対する取消処分の考慮要素(東京地判平成27年3月27日判決)

2024-11-26

【事案の概要】

 医師であるXは、不正に作成した診療報酬明細書を提出して診療報酬を詐取したとして、詐欺の罪で起訴されました。

 Xはこれを争ったものの、裁判所は有罪の判決を言い渡し、この有罪判決について厚生労働省に情報提供がなされ、医師免許が取り消されました。

 この取消処分について、取り消しを求めてXが訴えを起こしたのが本事案です。

【裁判所の判断】

1 裁量審査について

 医師法7条2項は,医師が「罰金以上の刑に処せられた者」(同法4条3号)に該当するときは,厚生労働大臣は,その免許を取消し,又は一定の期間を定めて医業の停止を命ずることができる旨定めているところ,この規定は,医師が同法4条3号の規定に該当することから,医師として品位を欠き人格的に適格性を有しないものと認められる場合には医師の資格を剥奪し,そうまでいえないとしても,医師としての品位を損ない,あるいは医師の職業倫理に違背したものと認められる場合には一定期間医業の停止を命じ反省を促すべきものとし,これによって医療等の業務が適正に行われることを期するものであると解される。

 したがって,医師が医師法4条3号の規定に該当する場合に,医師免許を取り消し,又は医業の停止を命ずるかどうか,医業の停止を命ずるとしてその期間をどの程度にするかということは,当該刑事罰の対象となった行為の種類,性質,違法性の程度,動機,目的,影響のほか,当該医師の性格,処分歴,反省の程度等の諸般の事情を考慮し,同法7条2項の規定の趣旨に照らして判断すべきものであるところ,その判断は,同条4項の規定に基づき医道審議会の意見を聴く前提のもとで,医師免許の免許権者である厚生労働大臣の合理的な裁量に委ねられているものと解するのが相当である。

 そうすると,厚生労働大臣がその裁量権の行使としてした医師免許を取り消す処分は,それが社会通念上著しく妥当性を欠いて裁量権を付与した目的を逸脱し,これを濫用したと認められる場合でない限り,その裁量権の範囲内にあるものとして,違法とならないものというべきである(最高裁判所昭和61年(行ツ)第90号同63年7月1日第二小法廷判決・裁判集民事154号261頁参照)。

2 裁量の逸脱濫用があるか

 本件において,原告は,診療報酬の不正請求に係る詐欺で実刑判決を受け,前記認定事実(9)で見たとおり,判決において,犯行動機,常習性,被害額,医師に対する信用や医療保険制度に対する国民の信頼に与えた影響,反省の態度が見られないこと等を指摘され,刑事責任を軽くみることはできないと厳しい評価を受けていた(本件の証拠によれば,この評価を改めるべき事情があるとはいえない。)のであるから,医道審議会医道分科会が,原告に対する処分として医師免許取消しが相当である旨答申したことは,上記考え方に照らしても不合理とはいえないところである。

【解説】

 医師免許に対する処分は医師法7条に定めがありますが、たとえ罰金以上の刑を受けたとしても、処分をすることが「できる」と定められているにすぎません。つまり、たとえ実刑の判決を受けたとしても、それだけで直ちに医師免許が取り消されるとは限らないということになります。これに対し、弁護士法17条は「日本弁護士連合会は、次に掲げる場合においては、弁護士名簿の登録を取り消さなければならない。」としており、一定の事由があれば必ず登録が取り消されることになっています。

 このように、処分をするかどうかについて行政庁に判断がゆだねられているようなものを、「裁量処分」と呼んでいます。

 裁量処分については、行政事件訴訟法30条により、裁量権行使に逸脱・濫用があった場合のみ取消されることになっていますので、上記の裁判例のような判決文になります。

 その上で、裁量権の逸脱濫用になるかどうかを、上記の裁判例では「当該刑事罰の対象となった行為の種類,性質,違法性の程度,動機,目的,影響のほか,当該医師の性格,処分歴,反省の程度等」といった要素から検討するとしています。この考慮要素は、条文ではありませんし、あくまでも東京地方裁判所の一裁判部が示した判断ですから、後の裁判で拘束されるようなものではありません。ただ、一般的なことを言っている部分ではありますし、内容自体も穏当なことを述べているだけですから、後に裁判を起こす場合などは、この部分に沿って事実を主張していくことが効果的であろうと思われます。

 今回の事案は、診療報酬の詐取によって実刑判決を受けたことが取消しの原因でした。同じ詐欺でも、診療報酬の詐取は他のものよりも重く判断される傾向にありますので、実刑判決でなかったとしても免許取消になる可能性があります。そのため、早期の被害弁償等をして、できる限り刑事罰を回避できないかを検討することが医師免許を守るための最優先となります。

医師・看護師・薬剤師等の処分とはどのようなものか?

2024-07-23

【事例】

Aさんは、車を運転している最中、交通事故を起こしてしまいました。

今後Aさんにはどのような処分が待っているのでしょうか。

【解説】

事故を起こしてしまったAさんには、この後様々な機関からの呼び出し、事情聴取、処分が出されます。それぞれについてどのような違いがあるのかを検討します。

0 大前提

 これから、様々な処分について説明していきます。ただ、その前提として1つ重要な問題があります。

 それは、「それぞれの世界は、独立した世界である」ということです。この後説明しますが、刑事の世界と民事の世界は別の世界ですし、一致することも多いですが、刑事の世界と民事の世界の認定が同じでなければならないという決まりはありません。ですので、それぞれが別々に来てしまうことも十分あり得ます。

1 運転免許について

 まずはなじみ深い運転免許の処分について考えていきます。ここで当てはまることが、基本的にはそのままあてはまります。

⑴点数

 交通違反をすると、点数が引かれます。この点数がたまると免許が取り消されたり、停止されたりすることからも分かるように、これは「都道府県公安委員会」という役所が個人(免許の名義人)に対しておこなう「行政処分」です。

 なお、免許センターに行けば警察官の服装をした方がいますが、⑵で出てくる警察官とは似ているようで違う存在です。

⑵刑事罰

 交通事故を起こし、相手方が負傷すると過失運転致傷罪という犯罪が成立しえます。

 警察は事件を捜査し、捜査を終えると「検察庁」という役所に送ります。

 そして、検察官が起訴するか不起訴にするかを決定し、起訴されると裁判を受けることになります。

 起訴後、裁判官が判決を下すことになりますが、罰金、執行猶予付き懲役・禁錮等、刑事罰を受けると、いわゆる前科がつくことになります。

 これがいわゆる「刑事事件」です。

⑶賠償責任

 事故で被害者がけがをしたり、相手の車がへこんだような場合には、賠償をする義務があります。

 ただ、現在ではほとんどの方が任意保険に入られ、賠償については保険で対応されていると思われます。

 この、金銭での賠償等についてのやり取りが「民事事件」です。⑴⑵との違いは、役所が登場せず、個人と個人でのやり取り(ただし保険会社が代理する)になるという点にあります。

⑷まとめ

 以上の様に、1つの事故で「行政」「刑事」「民事」の3つの問題が発生します。これを念頭に置いて、今度は免許の方を検討します。

2 資格について

 それでは、交通事故を起こしたとして、資格はどうなるのでしょうか。医師、歯科医師、看護師、薬剤師などは基本的には同じですので、ここからは医師を例に解説します。

⑴行政処分

 医師などの資格は、基本的には厚生労働大臣から与えられた免許という形をとっています。

 反対に、医師の資格を奪うときも、厚生労働大臣による処分という形式をとります。

医師法7条

医師が第四条各号のいずれかに該当し、又は医師としての品位を損するような行為のあつたときは、厚生労働大臣は、次に掲げる処分をすることができる。

 戒告

 三年以内の医業の停止

 免許の取消し

 このように、医師に対して、医師という資格自体を左右する処分を与えることができるのは厚生労働大臣に限定されており、これは「行政処分」ということになります。

⑵雇用関係

 医師などのうち、多くの方はいずれかの医療機関に雇用されていると思われます。

 そうすると、交通事故を起こしたことにより、医師免許自体に関わらず、職場を追われる可能性があります。

 ただ、これがどのような事件となるかは、現在どのような医療機関に勤務しているかにより異なります。

 たとえば、市民病院のような国立・公立の病院の場合、任命権者が市長などの首長になっていることがあります。そうすると、反対にクビ(免職と呼びます)にする場合も首長がクビにすることになりますから、「役所」が対立当事者として登場するので、「行政処分」となります。

 これに対して、民間の病院に勤務している場合、理事長・院長であってもあくまでも「民間人」ですから、こちらは個人と個人の間の問題となりますので「民事事件」になります。

3 事件の種類

 このように、民事、刑事、行政と様々な種類の手続きが登場するケースがあります。

 この場合、それぞれの事件ごとに、手続のルールが異なり、結論が異なる場合もあります。

 そのため、争うことを検討されるような場合には、予め専門家に相談し、何をどのように争えるのか検討しておくことが肝要です。

【弁護士が解説】医師免許の取消処分に対する取消訴訟第一審後にどのようなことができるか

2024-07-02

【事案の概要】

 X医師は、精神科医として、クリニックを開業していた。しかし、X医師が自身の患者である女性ら3名に対し、胸を触るなどのわいせつ行為をしていることが明らかとなり、X医師は第一審の地方裁判所で実刑判決を受けた。しかし、控訴をした結果、X医師には執行猶予が付されることとなり、最終的に執行猶予付きの刑が確定した。

 刑が確定したことから、A県の担当者に調査が行われ、医道審議会に意見書が提出された。同意見書には「X医師は、被害者に対して高額な慰謝料を支払い示談も成立しており、その他贖罪寄付もしている。また、今後も医師として患者のために誠心誠意尽くしたいと考えている」との理由から「X医師は、事件後誠意を尽くして対応しているものと認められます」との意見が述べられた。この意味について、担当したA県によれば、医業停止処分に留める意味合いも含めての意見ではあるが、免許取消処分を望まないという意見までは含まれていなかった。

 このような状況で、厚生労働大臣は、Xの免許を取り消したため、Xが裁判所に訴えを提起した。

(名古屋地裁平成20年2月28日判決の事案を若干改変したもの)。

【解説】

 これから数回にわたり、この事案を元にして、医師免許に対する行政処分の流れや、これに対する争い方を見ていきたいと思います。全体の流れは以下の通りです

・事件から免許取消処分まで

・裁判所への訴訟提起(前々回)

・裁判所の判断方法、争い方(前回)

・判決後(今回)

今回は裁判所の判断が出た後についてお話しします。

1 請求認容の場合

 訴訟を提起した原告の請求が認められた場合、医師免許を取り消した処分は取り消されることになります。この判決に控訴、上告ができることはつぎの2と同じです。

 しかし、勝訴の原因が事実誤認以外であった場合、行政庁が処分をすることは認められても、重すぎるという理由で取り消されていることになります。

 このような場合であれば、別途より軽い処分に変更し、再度処分を行うということが可能です。

2 請求棄却、却下の場合

 原告の請求が認められなかった場合、日本の司法制度は三審制を採用していますから、あと2回裁判官の判断を仰ぐことができます。

 第一審の裁判が行われるのは、全国に50カ所(47都道府県の県庁所在地+函館、釧路、旭川)ある地方裁判所ですが、この地方裁判所の判断については、高等裁判所に「控訴」することができます。控訴審は全国に本庁8カ所(札幌、仙台、東京、名古屋、大阪、高松、広島、福岡)、支部6カ所(秋田、金沢、岡山、松江、宮崎、那覇)ある高等裁判所に係属し、3人の裁判官により判断がなされます。ただし、日本の裁判のルールでは、改めて高等裁判所の裁判官が判断するというよりは、第一審の地方裁判所の書類を全て高等裁判所が引き継ぎ、その上で判断するという形になります。

 高等裁判所の判断については、「上告」ができます。この上告は、日本に1カ所しかない最高裁判所に対して再考を求めるものです。最高裁判所は全部で15人の裁判官がいますが、15人全員で開く大法廷事件と、5人1組で合計3つある小法廷事件(第1、2,3小法廷があります)があります。通常の事件は小法廷で判断されますが、憲法上の重大な要素を含む場合などには大法廷で判断されることもあります。なお、最高裁判所が、高裁の判断を変更しない場合には特に何もなく上告棄却の処理がなされますが、高裁の判断を変更する可能性がある場合には、事前に弁論期日が開かれ、最高裁判所で直接手続きが行われるという慣習があります(刑事の一部事件などは除きます)。

3 裁判確定後

 控訴、上告ができる期限が経過すると、裁判が確定します。確定すると、請求認容判決の場合には当然に処分が取り消されますし、請求棄却の場合には処分が確定します。この場合、同じ理由でもう一度裁判を起こすことは双方ともできません。ですので、確定してしまうともう裁判で争うことができませんから、控訴・上告期間内に必ず手続きを行う必要があります。2週間とそれほど長い期間ではありませんので、ご注意ください。

【弁護士が解説】医師免許に対する処分についてどのような対応が可能であるか

2024-06-18

【事案の概要】

 X医師は、精神科医として、クリニックを開業していた。しかし、X医師が自身の患者である女性ら3名に対し、胸を触るなどのわいせつ行為をしていることが明らかとなり、X医師は第一審の地方裁判所で実刑判決を受けた。しかし、控訴をした結果、X医師には執行猶予が付されることとなり、最終的に執行猶予付きの刑が確定した。

 刑が確定したことから、A県の担当者に調査が行われ、医道審議会に意見書が提出された。同意見書には「X医師は、被害者に対して高額な慰謝料を支払い示談も成立しており、その他贖罪寄付もしている。また、今後も医師として患者のために誠心誠意尽くしたいと考えている」との理由から「X医師は、事件後誠意を尽くして対応しているものと認められます」との意見が述べられた。この意味について、担当したA県によれば、医業停止処分に留める意味合いも含めての意見ではあるが、免許取消処分を望まないという意見までは含まれていなかった。

 このような状況で、厚生労働大臣は、Xの免許を取り消したため、Xが裁判所に訴えを提起した。

(名古屋地裁平成20年2月28日判決の事案を若干改変したもの)。

【解説】

 これから数回にわたり、この事案を元にして、医師免許に対する行政処分の流れや、これに対する争い方を見ていきたいと思います。全体の流れは以下の通りです

・事件から免許取消処分まで(前回)

・裁判所への訴訟提起(今回)

・裁判所の判断方法、争い方

・判決後

今回は処分が出た後の争い方について解説します。

1 行政不服審査

 医師免許に対する処分は、厚生労働大臣という行政庁が一方的に行う処分ですので、法律学の世界では「行政処分」と呼ばれています。

 行政処分はあくまでも行政庁の判断により行われた処分ですので、これについて不服の申立てを行うことができます。

 この申立てには大きく分けると①行政庁内部で再考を求める方法と②裁判所に訴える方法に大別されます。

 ①の行政庁内部で再考を求める方法については、行政不服審査法という法律が存在し、同法の規定に基づいて審査を受けることになります。行政不服審査法に基づく場合には、行政庁内部で再度処分について検討するため、裁判よりも早く手続きが進行すると言われていることや、違法かどうかでだけではなく妥当かどうかの判断も受けられるなどメリットがあるとも言われています。ただ、どうしても内部での再考となるので、外部性のある判断ではないですから、疑念は残ります。

2 裁判

 もう一つの方法は、裁判をすることです。裁判所に対して訴えを起こし、処分の取り消しを求めます。

 裁判所での裁判の手続きには、大きく分けると①民事②刑事③家事④行政と4種類あり、このうち医師免許に対して争う手段については行政事件訴訟法という法律で定めがあります。

 行政庁の処分を争う行政事件訴訟は、普段ニュースなどで目にする刑事事件や民事事件とは異なるルールが適用されることになっていますが、多くの部分は民事訴訟法という民事事件のルールが適用されることになっています。

 裁判所での行政事件は、それなりに長期化する傾向にあることや、裁判所が限定されていること(裁判所本庁でしか訴えられない)等の問題はありますが、裁判所という行政機関とは別の機関での判断を受けることができます。

3 どちらの手続きをとるべきか

 どちらの手続きをとるかはケースにより異なりますし、両方の手続きをとることも許されています。

 ただ、いずれにしても最終的には裁判となる可能性が相当程度ありますから、将来の裁判に向けて活動をしていく必要があります。

【弁護士が解説】医師が刑事罰を受けた際に、医師免許に対する行政処分は裁判所でどのように判断されたのか

2024-06-11

【事案の概要】

 X医師は、精神科医として、クリニックを開業していた。しかし、X医師が自身の患者である女性ら3名に対し、胸を触るなどのわいせつ行為をしていることが明らかとなり、X医師は第一審の地方裁判所で実刑判決を受けた。しかし、控訴をした結果、X医師には執行猶予が付されることとなり、最終的に執行猶予付きの刑が確定した。

 刑が確定したことから、A県の担当者に調査が行われ、医道審議会に意見書が提出された。同意見書には「X医師は、被害者に対して高額な慰謝料を支払い示談も成立しており、その他贖罪寄付もしている。また、今後も医師として患者のために誠心誠意尽くしたいと考えている」との理由から「X医師は、事件後誠意を尽くして対応しているものと認められます」との意見が述べられた。この意味について、担当したA県によれば、医業停止処分に留める意味合いも含めての意見ではあるが、免許取消処分を望まないという意見までは含まれていなかった。

 このような状況で、厚生労働大臣は、Xの免許を取り消したため、Xが裁判所に訴えを提起した。

(名古屋地裁平成20年2月28日判決の事案を若干改変したもの)。

【解説】

 これから数回にわたり、この事案を元にして、医師免許に対する行政処分の流れや、これに対する争い方を見ていきたいと思います。全体の流れは以下の通りです

・事件から免許取消処分まで(今回)

・裁判所への訴訟提起

・裁判所の判断方法、争い方

・判決後

 まずは処分が出るまでの流れを確認したいと思います。

1 どのようにして厚生労働省は事件を知るのか

 今回のX医師の場合、刑事事件で有罪判決を受け、その刑が確定しました。

 医師法7条1項、4条3号(以下、医師法は法令名を省略します)によれば、「罰金以上の刑に処せられた者」については、行政処分の対象となることがあります。

 しかし、そもそも厚生労働大臣(厚生労働省)は、医師が罰金以上の刑を受けたかどうかをどのように知るのでしょうか。

 これについては厚生労働省のホームページに記載があります(https://www.mhlw.go.jp/houdou/2004/02/h0224-1.html)。

 これによると、厚生労働省は、刑事事件の手続きを行う検察庁に対し、医師や歯科医師が罰金以上の刑が含まれる事件で起訴(公判請求と略式命令請求は両方「起訴」を意味します)した場合、起訴状の内容である事件の概要や、裁判の結果の提供を求めています。

 医師や歯科医師である以上、自身の職業が捜査機関に発覚しないということは考え難く、起訴されてしまうと、道路交通法違反事件のスピード違反のような軽微なもの以外は全て厚生労働省に伝わり、手続きが開始されてしまうことになります。

 それ以外にも、医師が逮捕されたような場合には報道がなされる可能性が極めて高いと言えますから、このような報道も情報源にしているものと思われます。

2 手続の開始

 事件が厚生労働省の知るところとなると、手続きが開始されます。

 最終的には厚生労働大臣が処分を行い(7条1項柱書)、処分をするにあたっては医道審議会の意見を聞くこととなっています(7条3項)。

 とはいえ、医道審議会は東京に存在する会議体であり、個々の医師への聞き取りを行うとなると大変です。そのため、7条4項で、都道府県知事に対して意見の聴取を行うこととしており、その意見聴取をもって厚生労働大臣の聴聞に代えることとされています。

 そのため、医師に対して実際の聞き取りを行うのは都道府県知事であり、しかも実際には知事が聞き取るのではなく、都道府県で医師の免許を管理する部局(医療、健康等の文言が入っている局)の担当者による聞き取りが行われます。

 この聴き取りが行われた後、担当者が庁内での決済をとって、意見書を医道審議会に提出をするという流れになります。

3 聴取手続き

 この都道府県の担当者による聞き取りには、行政手続法3章第2節の規定の適用があります(7条5項)。

 行政手続法3章第2節には、不利益な処分を科す場合の聴聞の方法についてのルールが定められています。

 具体的には、①代理人を選任できること(行政手続法16条)②行政庁が保管する資料の閲覧ができること(同18条)③処分対象者が陳述書や証拠を提出できること(同21条)④聴聞期日が開かれた場合には調書や報告書が作成されること(同24条)などのルールが定められています。

 ここで行政庁が考えている処分のポイントを探るためには、資料の閲覧等を行い、問題になりそうなところを予め把握することが重要です。

4 医道審議会

 意見書が提出されると、医道審議会で議決がなされ、実質的にはその結論に従って厚生労働大臣が処分をするということになります。

 医師が行政処分を受ける前には、都道府県担当部局からの聞き取りが必ず先行します。最終的に訴訟を行うにしても、この段階でどのようなポイントが問題となるのかを把握しておく必要性が高いと言えます。最終的な局面に備え、早くから代理人を選任し、手続きを行っていくことが重要です。

 

keyboard_arrow_up

0120631881 問い合わせバナー 秘密厳守の無料相談