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【弁護士が解説】医療ミスによる法的責任は?刑事・民事責任、医師免許への影響を解説

事案(フィクション)
東京都内の総合病院で勤務する外科医Aは、胆石手術を担当しました。本来は患者Bの画像データを確認すべきところ、別の患者のデータを参照してしまい、
位置を誤認しました。その結果、胆管を損傷させ、Bは重篤な合併症を発症し、長期入院を余儀なくされました。
病院内の調査により、
画像確認を怠ったこと
ダブルチェック体制が機能していなかったこと
が判明しました。
この場合の法的責任を、①刑事責任、②民事責任、③医師免許への影響の順に説明します。
① 刑事上の責任
医師の医療ミスが刑事事件となる場合、問題となる代表的な罪名は 業務上過失致死傷罪(刑法211条)です。
● 業務上過失致傷罪
医師は「業務として医療行為を行う者」にあたります。
本件では、画像の取違えをしてしまい、患者の同一性確認という基本的な義務に違反しています。
その結果、患者に無用な傷害が生じています。
注意義務違反と傷害との間に因果関係があると言えますので、業務上過失致傷罪が成立する可能性が高いと言えます。
法定刑は5年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金ですが、初犯であり、被害者に後遺症が残っていないこと、保険による賠償が見込まれることなどの事情がある場合には、不起訴や罰金で終了することも十分考えられますが、患者が死亡した場合は公判請求になる可能性が高いと思われます。
② 民事上の責任
民事では主に「損害賠償責任」が問題になります。
(1)不法行為責任(民法709条)
医師に過失があり、患者に損害が生じた場合、医師は不法行為責任を負います。
重篤な後遺障害が残れば、数千万円規模の賠償になることもあります。
ただし、多くの医師は保険に入っていると思われますので、その保険により賠償金は賄われます。
(2)病院の責任(使用者責任)
A医師が病院の雇用医師であれば、病院(医療法人等)も 使用者責任(民法715条) を負います。
そのため、実務上は医師個人と病院の両方を訴えることが多くなっています。
なお、国公立の病院などの場合には、国家賠償法1条に基づく責任追及も考えられます。
③ 医師免許への影響
医師免許に関する処分は、医師法に基づき、厚生労働大臣が行います。
(1)行政処分の種類
刑事有罪判決を受けた場合や、医師として品位を損なう場合などには、以下の処分があり得ます。
戒告
3年以内の医業停止
免許取消
の3種類が処分としてありますが、医療過誤についても、明らかな過失に基づく場合や、繰り返し行われた過失など、通常求められる注意が欠けている事案でも、重めの処分とするとされています(医師及び歯科医師に対する行政処分の考え方について)。
(2)刑事責任と行政処分の関係
重要なのは:
刑事責任と行政処分は別個に判断される
刑事で不起訴でも行政処分があり得る
という点です。
【弁護士が解説】医師が診察中に患者に対する不同意わいせつ事件を起こしたらどうなるか?
【弁護士が解説】医師が診察中に不同意わいせつ事件を起こしたらどうなるか?

架空事例:診察中に起きた不同意わいせつ事件
地方都市のクリニックで勤務する内科医A医師(45歳)は、診察のために来院した20代女性患者Bさんに対し、医学的必要性がないにもかかわらず、身体を触る行為を行いました。
Bさんは恐怖で抵抗できず、後日、警察に被害届を提出。捜査の結果、A医師は不同意わいせつ罪で起訴されました。
1.刑事責任:不同意わいせつ罪の刑罰
不同意わいせつ罪とは
不同意わいせつ罪は、2023年の刑法改正により新設された犯罪類型で、相手の同意がない状態でわいせつな行為を行うことを処罰対象としています。従来の「強制わいせつ罪」を見直し、被害者の意思をより重視する形となりました。
法定刑
不同意わいせつ罪の法定刑は以下のとおりです。
6か月以上10年以下の拘禁刑
(※拘禁刑は、従来の懲役刑・禁錮刑を一本化した刑罰類型)
罰金刑は規定されておらず、有罪となれば必ず身体拘束を伴う刑が科される可能性があります。
医師という立場が量刑に与える影響
医師は患者との間に強い信頼関係・権力関係があります。
そのため、
・被害者が抵抗しにくい立場にあった
・医療行為を装って犯行に及んだ
・職業倫理に著しく反する
といった点が重く評価され、一般人よりも厳しい量刑(実刑判決)が言い渡される可能性が高いと考えられます。
2.医師免許への影響:行政処分の可能性
医師法による処分の根拠
医師免許については、医師法第7条に基づき、次のような場合に行政処分が行われます。
罰金以上の刑に処せられたとき
医師としての品位を損なう行為があったとき
不同意わいせつ罪は重い性犯罪であり、これに該当することはほぼ確実です。
想定される処分内容
行政処分には主に以下があります。
医師免許取消
一定期間の医業停止(数年程度)
不同意わいせつ事件、とりわけ診察中の犯行である場合は、
患者の信頼を根本から裏切る行為
医療の安全・倫理を著しく損なう
と評価され、免許取消処分となる可能性が極めて高いと考えられます。
※仮に医業停止にとどまった場合でも、処分歴は公表され、事実上医師としての社会的信用は大きく失われます。
3.刑事処分と行政処分は別に行われる
重要な点として、
刑事裁判:裁判所が判断
医師免許の処分:厚生労働大臣(医道審議会)が判断
というように、両者は別個に進行します。
たとえ刑事裁判で執行猶予が付いたとしても、
免許取消という重い行政処分が下されることは十分あり得ます。
4.まとめ:医師による不同意わいせつの重大性
架空事例から分かるとおり、医師が不同意わいせつ事件を起こした場合、
刑事罰:6か月以上10年以下の拘禁刑(実刑の可能性大)
行政処分:医師免許取消または長期の医業停止
社会的影響:職業生命の喪失、社会的信用の崩壊
という極めて深刻な結果を招きます。
医師には高度な専門性だけでなく、患者の尊厳を守る倫理観が強く求められており、それを踏みにじる行為は、法的にも社会的にも厳しく責任を問われるのです。
※本記事は架空の事例に基づく一般的な法解説であり、個別事案についての法的助言ではありません。
医師が罪を犯した場合に、どのような処分がなされるか

全体の制度枠組み・処分の選択肢
まず、前提となる法制度と処分類型、処分対象事由について整理します。
法制度・処分の根拠
- 医師法第7条に、医師に対して行政処分をすることができる旨が定められています。
- 行政処分を行うにあたっては、あらかじめ医道審議会の意見を聴くことが義務づけられており、実務上、審議会(医道分科会)が答申を行った上で厚生労働大臣が処分を決定する形をとっています。
- 行政処分の種類は、(軽い順に)戒告 → 医業停止(3年以内) → 免許取消 の3段階が定められています。
- 処分対象行為(処分事由)は、医師法および医師法の関連条項から次の5類型が想定されます:
1. 心身の障害
2. 麻薬・大麻・あへんなど中毒者であること
3. 罰金以上の刑を受けた者
4. 医事に関し犯罪又は不正の行為をした者
5. 医師としての品位を損なうような行為をした者 - 実務上、最も多く問題となるのは「罰金以上の刑の確定」と「医事に関わる犯罪・不正行為」です。
- 免許取消の後でも、ある条件下で再免許(再交付)申請が可能とされています(ただし許可は裁量的)
罪名・犯罪類型ごとの処分の傾向と留意点
以下に、代表的な犯罪類型を挙げ、それぞれにおいて過去の処分例や傾向・判断要素を示します。
| 犯罪類型 | 刑事処分の例 | 行政処分の傾向 / 判断要素 | 注意点・事例 |
|---|---|---|---|
| 業務上過失致死傷(医療事故型) | 過失致死・過失傷害で罰金・科料・執行猶予付き判決 | 比較的軽視されやすく、医業停止が選ばれることが多い。ただし被害の重大さ、過失の程度、再発防止措置などが重視される。 | 50~100万円程度の罰金刑になるケースでも、医業停止や戒告が科される可能性があるとされる。 |
| 詐欺・背任・横領など経済犯罪 | 詐欺罪、有印私文書偽造・同行使、業務上横領など | 医業停止または免許取消の可能性が高い。特に診療報酬の不正請求は医事に関する不正行為と位置づけられ、重く扱われる。 | 過去に診療報酬不正請求で免許取消となったものがある。 |
| 薬物犯罪(覚せい剤・麻薬など) | 覚せい剤取締法違反、麻薬法違反など | 非常に重く処理される傾向。免許取消または長期医業停止が選ばれる可能性が高い。 | 過去事例でも、医業停止2〜3年、取消処分例の報道あり。 |
| 性犯罪・わいせつ行為 | 強制わいせつ、準強制わいせつ、性交同意年齢違反等 | 医師としての品位・信頼性に直結するため、免許取消になる可能性が高い。ただし事実関係、刑罰の重さ、示談・反省の度合いなどが判断に影響する。 | |
| 交通事故・道路交通法違反 | 過失運転致死傷、危険運転、無免許運転など | 比較的軽い処分が選ばれることも多く、戒告や医業停止(数月~1年程度) という選択肢が多く採られる。 | |
| 名誉毀損・侮辱・軽犯罪 | 名誉毀損罪、侮辱罪、公然わいせつ等 | 軽微な処分(戒告、短期間の医業停止)が選ばれる可能性がある。 | |
| 無罪・不起訴・起訴猶予の場合 | 刑罰が確定しない | 処分が回避される可能性が高い。ただし、刑事処分確定に至らなくても、医道審議会が「医事に関する不正・品位を損する行為」ありと判断すれば、戒告など軽度処分を科す可能性がある。 |
判断要素・処分を左右する事情
上記の表だけでは処分を予測するには不十分であり、実際には以下のような要素が処分の重軽を決めるうえで重要になります。
- 刑事処分(量刑・刑の種類・猶予・執行猶予)
罰金のみか拘禁刑か、実刑か猶予付きか、といった点は重視される。行政処分は、刑事判決を基本的な判断基準とする傾向が強いといえます。 - 罪責・悪質性・故意性/過失性
故意・反復性があるもの、被害が広範または重大なものは重く処断されやすい。 - 被害の実情・被害者の存在・被害回復の有無
被害者がいる場合、示談成立・賠償の有無・被害回復措置などが情状として考慮される。 - 反省・更生可能性
事後対応、謝罪、信頼回復の取り組み、再発防止策なども考慮され得る。 - 職務関連性
医師としての権限・信頼を悪用した犯罪(たとえば診療場面での性的暴行、無免許医療行為、薬物投与など)は特に重く判断される。 - 前科・再犯性
過去に行政処分歴があるか、再犯の可能性が高いか、なども考慮される。 - 社会的影響・報道状況
社会的な波紋や被害者・市民からの批判・信頼への影響なども、処分判断に間接的に影響を与える可能性がある。
免許取消後の再免許(再交付)制度
免許取消になれば医師としての活動は停止しますが、必ずしも「永久に資格を失う」というわけではなく、一定条件の下で再免許申請が可能とされています。
- 医師法第7条2項および歯科医師法に、取消の理由となった事項に該当しなくなったとき、かつその他の事情が整えば再免許を与えることができる旨の規定がある。
- 再免許を許すかどうかは、処分庁(厚生労働大臣側)に広い裁量があるとされています。
まとめ・留意点
- 医師が犯罪をした場合、その処分は刑事手続とは別個の行政手続で判断され、医道審議会の答申を経て厚生労働大臣が処分を下すのが標準的な流れです。
- 罪名ごとの「決まった処分」は存在せず、刑事処分・罪状・被害状況・医師としての職務関連性・反省等の情状を総合的に勘案して判断されます。
- 性犯罪や薬物犯罪、診療報酬詐欺など、医師の社会的地位や医療制度そのものへの影響が大きい犯罪は、重い処分(免許取消)になる可能性が高い傾向があります。
- 不起訴・無罪・起訴猶予などで刑事処分が確定しない場合も、行政処分を回避できる可能性は高くなりますが、必ず予防できるわけではありません(特に「品位を損なう行為」の判断余地があります)。
- 免許取消後でも再免許申請の道は開かれており、一定の要件と待機期間(5年など)を満たせば、再交付が認められる可能性があります。
【弁護士が解説】医師が刑事事件を起こすとどうなるのか
医師が刑事事件を起こしてしまった場合、その内容によっては医師免許の停止や取消しといった行政処分を受けることがあります。ここでは、法律的な根拠、処分の種類、具体的な事例を交えて解説します。
1. 医師免許に関する法律的枠組み
■ 医師法第4条(欠格事由)
医師免許の交付を受けられない人について定めています。すでに免許を持っている医師でも、以下に該当すれば免許の取り消しの対象になります。
特に重要なのが以下の項目です:
- 罰金以上の刑に処せられた者(執行猶予を含む)で、医師として不適切と判断される場合。
2. 行政処分の種類
犯罪を犯した医師には、厚生労働省が以下のような行政処分を行います。
| 種類 | 内容 |
|---|---|
| 免許取消 | 医師としての資格を完全に失う |
| 業務停止 | 一定期間、診療行為を行えない(3年以内) |
| 戒告 | 注意であり、免許や業務には影響なし |
3. 医師が犯罪を犯した場合の処分基準(概要)
厚生労働省は、犯罪の種類や内容、反省の有無などを考慮して処分を決定します。たとえば:
- 医療に関連する事件や、重大犯罪(傷害致死、不正手術など) → 免許取消の可能性が高い
- 性犯罪、児童ポルノ等の重大な倫理違反 → 免許取消または長期の業務停止
- 交通事故(酒気帯び・ひき逃げ) → 内容により戒告もありうるが、ひき逃げであれば業務停止
- 軽微な窃盗や暴行(示談成立済み) → 戒告、あるいは処分なしのケースも
4. 実際の事例
直近に行われた医道審議会では以下のような事例がありました。
- 免許取消・・・・・・・・・1件(強制わいせつ致傷1件)
- 医業停止2年・・・・・・・1件(麻薬及び向精神薬取締法違反1件)
- 医業停止1年6月・・・・・1件(過失運転致傷、道路交通法違反1件)
- 医業停止6月・・・・・・・2件(公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例違反(兵庫県)1件、児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反1件)
- 医業停止3月・・・・・・・2件(公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例違反(兵庫県)1件、青森県迷惑行為等防止条例違反1件)
- 医業停止2月・・・・・・・1件(医師法違反1件)
- 戒告・・・・・・・・・・・4件(1.過失運転致傷2.過失運転致傷1件、過失運転致傷、道路交通法違反1件、傷害1件、不正競争防止法違反1件)
医師が処分されるプロセスについて

医師が処分を受ける場合、どのような流れで処分を受けるのでしょうか。
流れ
1. 不適切行為の発覚
- 医師が患者に対して重大な過失や犯罪行為(例:診療ミス、わいせつ行為、詐欺、薬物犯罪など)を行った場合、行政機関や警察、医療機関、患者などから情報が寄せられます。
- 重大な場合には、刑事事件として起訴され、有罪判決が確定することもあります。
2. 厚生労働省による調査
厚生労働省は、医師の行為が医師法第4条(欠格事由)や第7条(免許の取消し・停止)に該当するか調査します。
しかし、実際には厚生労働省が調査をするわけではありません。都道府県の医務を主管する課が聞き取り等の調査を行い、文書を作成して厚生労働省にあげるという形をとっています。
3. 医道審議会への付議
- 調査結果をもとに、厚生労働大臣が医道審議会に諮問します。
- 医道審議会は、処分の対象となる医師の行為が医道に反するかどうか、そして処分の種類・期間(医業停止の有無・期間など)を審議します。
医道審議会の役割
医道審議会とは?
- 厚生労働省に設置された審議会で、医師や歯科医師の処分に関する意見を述べる機関です。
- 法律(医師法第7条)に基づき設置されており、構成員には医師、看護師、学識経験者などが含まれます。
主な役割
- 医師や歯科医師が行った不適切行為に対する行政処分(免許取消し、業務停止、戒告)の内容を審議・答申します。
- 処分が適切であるかを、公正・中立的な立場から検討します。
- 必要に応じて本人から意見を聴取する「弁明の機会」も設けられます(ただし、実際には都道府県担当職員に対して弁明を行います)
厚生労働大臣の処分決定と通知
- 医道審議会の答申を受け、厚生労働大臣が最終的な処分を決定します。
- 医業停止の場合、一定期間(例:3か月、6か月、1年など)、医療行為を行うことが禁止されます。
様々な懲戒について
このサイトでは様々な「懲戒」を扱っていますが、その意味合いは文脈によって様々です。
そこで、ここでは「懲戒」という言葉について分類しておこうと思います。
①民間企業における「懲戒」
民間企業で仕事をしているうえで、「懲戒処分」と受けることがあります。
これは企業の労働者への監督権の一環として、懲戒権として認められているものになります。
停職、減給などの様々な処分がありますが、これは労働問題の一環としてなされるものであり、争う場合には労働審判、民事訴訟などで争うことになります。
②公務員の懲戒
公務員も労働者ですが、「懲戒処分」を受けることがあります。
これは地方公務員法、国家公務員法といった公務員に関係する法律により定められているものであり、行政処分の一環として行われるものです。これを争う場合には、人事院、公平委員会等の行政機関に不服申し立てを行った後、行政訴訟を提起することになります。
③医師・看護師の懲戒
医師や看護師に対しても懲戒処分がなされることがあります。
その前に、医師や看護師でも、民間病院や公立病院に勤務している場合があります。この場合、医師や看護師も労働者ですから、①②で見たいような懲戒処分が別途発生する可能性があります。
ここで問題にする医師や看護師に対する「懲戒」は、それらの資格に対する処分です。
罰金以上の刑を受けた場合などには、医師や看護師は何らかの懲戒処分を受けることがあります。これは、厚生労働大臣が個人に対して科すものであり、業務停止などの処分を行うことになっています。
これらの処分は、厚生労働省の医道審議会で検討されるのですが、一時的には都道府県の担当部局が聴き取り等を行います。そのため、都道府県⇒医道審議会と上がって、最終的に厚生労働大臣による処分が行われることになります。
そのため、これらの処分を争う場合にも行政訴訟を提起することになります。
④弁護士に対する懲戒
弁護士に対する懲戒処分は、これらの懲戒処分とは異なります。
まず、申立が認められています。何人でも弁護士に対して懲戒をするよう申し出ることができます。医師に対する懲戒をするように厚生労働大臣に申立てることはできませんので、これは大きな違いです。
次に、処分の第一次的な判断は各弁護士会及び日本弁護士連合会によってなされるというところにあります。たとえば、医師による処分は厚生労働大臣によってなされますが、これに対して不服の訴えを提起する場合には、地方裁判所に訴訟提起することになりますしかし、弁護士会の処分に不服がある場合には日本弁護士連合会に不服申立てをし、その処分にも不服がある場合には東京高等裁判所に訴えを提起することになっています。日弁連が第一審的な役割を果たすことになっています。
弁護士に対する懲戒処分は、いずれにしても資格に対するものになっています。また、官報に公告されることになっているので、必ず氏名などが公になります。公務員に対する処分も公表されていますが、氏名などまで公表されている例は多くなく、この点でも異なります。
【弁護士が解説】医師の資格と交通事件の関係

【事例】
医師であるAさんは、プライベートで車を運転中・・・
①飲酒運転をして現行犯逮捕されてしまいました
②交通事故を起こし、被害者が全治1週間のけがをしました
③交通事故を起こし、被害者が亡くなりました
それぞれの場合、Aさんの医師免許にはどのような影響があるのでしょうか。
【解説】
1 医師の資格の欠格事由
医師法7条は、「医師が第四条各号のいずれかに該当し、又は医師としての品位を損するような行為のあつたときは、厚生労働大臣は、次に掲げる処分をすることができる。」としています。そこで、4条を見ると、「三 罰金以上の刑に処せられた者」と書かれています。
そのため、医師免許を保有している者が、罰金以上の刑(これは、医業に関する罪で罰金以上の刑を受けた場合に限りません)を受けた場合には、医師免許取消や医業停止の処分を受ける可能性があります。
2 各事例の検討
①飲酒運転のケース
飲酒運転の場合、多くは現行犯逮捕されています。逮捕している事件の場合、警察は報道機関に逮捕者の氏名等を伝えることが一般的(ニュースでよく見る情報は、このように伝えられています)です。医師等であれば報道されてしまう可能性も極めて高いと言えるので、医師免許以前の問題として、報道により職を失う可能性が高いと言えます。
問題の医師免許ですが、飲酒運転の初犯であれば、酒酔い運転(アルコールの数値に限らず、まともに運転できていないような状態です)でなければ、略式罰金として罰金刑になることが多いと言えます。道路交通法違反での罰金ですので、必ずしも医師免許の処分を受けるケースが多いとは言えません。しかし、そもそも報道等をされてしまうと、厚生労働省や都道府県管轄部局も事件を認知しますから、「医師としての品位を損するような行為」として処分を受ける可能性は十分あります。
②交通事故のケース
過失による交通事故は、どうしても回避できない場合があります。もちろん、全く回避不可能というようなケースであれば、過失犯として罪に問われることはありませんが、よそ見のようなケースではやはり過失運転致傷の罪が成立します。
とはいえ、全治1週間程度であれば、不起訴処分となり、前科がつかないケースも多いと言えます。前科がつかなければ、担当部局に事故のことが伝わることは多くないので、医師免許の処分がないこともほとんどだろうと思われます。
③交通死亡事故のケース
とはいえ、死亡事故となると、それなりに大きく報道されることもあります。過失犯であれば逮捕されないことも十分ありますが、それほど簡単に不起訴になるわけではありません。
実際、過失運転致死で、被害者に特に落ち度がないようなケースであれば、公判請求(正式な裁判を行うこと。テレビで見るような裁判です)となる場合が多いと言えます。
そうすると、医師であっても罰金以上の刑(多くの場合は禁錮刑です)となってしまいます。
ただ、事故である以上、医師の資質の問題性とは関連が低いことが多いと言えます。そのため、厚生労働省が示している考え方においても、戒告処分とされています。
いずれにしても、道路交通法違反や交通事故を起こしてしまった場合、速やかに弁護士に相談し、今後の見通しや、取り得る策を講じたうえで、医師免許への影響を最大限小さくする必要があります。まずは弁護士にご相談ください。
【弁護士が解説】精神保健指定医の取消しはどのような場合に生じるのか

1 精神保健指定医について
精神保健指定医とは、精神保健及び精神障害者福祉に関する法律18条に定めがあるもので、指定されると措置入院を行うべきかどうかの判断などができることとなっています。
精神保健指定医になるためには、厚生労働大臣あてに申請を行って指定を受ける必要がありますが、①5年以上診断又は治療に従事した経験を有すること②3年以上精神障害の診断又は治療に従事した経験を有すること③厚生労働大臣が定める精神障害につき厚生労働大臣が定める程度の診断又は治療に従事した経験を有すること④厚生労働大臣の登録を受けた者が厚生労働省令で定めるところにより行う研修の過程終了していることを満たしたうえで、指定医の職務を行うの必要な知識及び技能を有すると認められるものが大臣により指定されます。
2 精神保健指定医の取消し
反対に、同法律には精神保健医の指定が取り消される場合も定められています。
同法19条の2は
1 指定医がその医師免許を取り消され、又は期間を定めて医業の停止を命ぜられたときは、厚生労働 大臣は、その指定を取り消さなければならない。
2 指定医がこの法律若しくはこの法律に基づく命令に違反したとき又はその職務に関し著しく不当な行為を行つたときその他指定医として著しく不適当と認められるときは、厚生労働大臣は、その指定を取り消し、又は期間を定めてその職務の停止を命ずることができる。
としています。
1項は医師免許自体が取り消されたり医業停止を受けた場合ですが、この場合には当然医師としての業務を行うことができなくなりますので、精神保健指定も取り消されます。
2項は①精神保健及び精神傷害者福祉に関する法律か法律に基づく命令に違反したとき②職務に関し著しく不正な行為を行ったときというような指定医として著しく不適当と認められるときに指定が取り消されることがあるという規程です。1項と異なり、2項の「著しく不適当」な場合には指定が必ず取り消されるわけではありません。
ただ、「指定医として著しく不適当」というのは、基準としてあいまいであり、どのような場合に不適当とされるのかは必ずしも明確ではありません。ただ、新規申請については厚生労働省が資料を公表しています。この中で、ケースレポートについて不正があったケースについて大量取消しを行った旨が記載されています。申請の際の記載やケースレポートについて不実の記載をした場合などは、指定が取り消される(指定を受けられない)ことが予想されます。
反対に、指定医としての具体的な活動について、たとえば身体拘束時間が長すぎるとの理由で国家賠償請求を起こされ、それに敗訴したような場合まで「著しく不適当」となるかは明らかではありません。というのも、具体的な個々の医療行為の適否については、医師はその時点で明らかになっていることからしか判断できないのに対し、裁判は後からゆっくりとこれを判断しますから、仮に敗訴しても必ずしも医師の行為がすべて「著しく不適当」とまでは言えないものと思われます。
【裁判例紹介】医師免許に対する取消処分の考慮要素(東京地判平成27年3月27日判決)

【事案の概要】
医師であるXは、不正に作成した診療報酬明細書を提出して診療報酬を詐取したとして、詐欺の罪で起訴されました。
Xはこれを争ったものの、裁判所は有罪の判決を言い渡し、この有罪判決について厚生労働省に情報提供がなされ、医師免許が取り消されました。
この取消処分について、取り消しを求めてXが訴えを起こしたのが本事案です。
【裁判所の判断】
1 裁量審査について
医師法7条2項は,医師が「罰金以上の刑に処せられた者」(同法4条3号)に該当するときは,厚生労働大臣は,その免許を取消し,又は一定の期間を定めて医業の停止を命ずることができる旨定めているところ,この規定は,医師が同法4条3号の規定に該当することから,医師として品位を欠き人格的に適格性を有しないものと認められる場合には医師の資格を剥奪し,そうまでいえないとしても,医師としての品位を損ない,あるいは医師の職業倫理に違背したものと認められる場合には一定期間医業の停止を命じ反省を促すべきものとし,これによって医療等の業務が適正に行われることを期するものであると解される。
したがって,医師が医師法4条3号の規定に該当する場合に,医師免許を取り消し,又は医業の停止を命ずるかどうか,医業の停止を命ずるとしてその期間をどの程度にするかということは,当該刑事罰の対象となった行為の種類,性質,違法性の程度,動機,目的,影響のほか,当該医師の性格,処分歴,反省の程度等の諸般の事情を考慮し,同法7条2項の規定の趣旨に照らして判断すべきものであるところ,その判断は,同条4項の規定に基づき医道審議会の意見を聴く前提のもとで,医師免許の免許権者である厚生労働大臣の合理的な裁量に委ねられているものと解するのが相当である。
そうすると,厚生労働大臣がその裁量権の行使としてした医師免許を取り消す処分は,それが社会通念上著しく妥当性を欠いて裁量権を付与した目的を逸脱し,これを濫用したと認められる場合でない限り,その裁量権の範囲内にあるものとして,違法とならないものというべきである(最高裁判所昭和61年(行ツ)第90号同63年7月1日第二小法廷判決・裁判集民事154号261頁参照)。
2 裁量の逸脱濫用があるか
本件において,原告は,診療報酬の不正請求に係る詐欺で実刑判決を受け,前記認定事実(9)で見たとおり,判決において,犯行動機,常習性,被害額,医師に対する信用や医療保険制度に対する国民の信頼に与えた影響,反省の態度が見られないこと等を指摘され,刑事責任を軽くみることはできないと厳しい評価を受けていた(本件の証拠によれば,この評価を改めるべき事情があるとはいえない。)のであるから,医道審議会医道分科会が,原告に対する処分として医師免許取消しが相当である旨答申したことは,上記考え方に照らしても不合理とはいえないところである。
【解説】
医師免許に対する処分は医師法7条に定めがありますが、たとえ罰金以上の刑を受けたとしても、処分をすることが「できる」と定められているにすぎません。つまり、たとえ実刑の判決を受けたとしても、それだけで直ちに医師免許が取り消されるとは限らないということになります。これに対し、弁護士法17条は「日本弁護士連合会は、次に掲げる場合においては、弁護士名簿の登録を取り消さなければならない。」としており、一定の事由があれば必ず登録が取り消されることになっています。
このように、処分をするかどうかについて行政庁に判断がゆだねられているようなものを、「裁量処分」と呼んでいます。
裁量処分については、行政事件訴訟法30条により、裁量権行使に逸脱・濫用があった場合のみ取消されることになっていますので、上記の裁判例のような判決文になります。
その上で、裁量権の逸脱濫用になるかどうかを、上記の裁判例では「当該刑事罰の対象となった行為の種類,性質,違法性の程度,動機,目的,影響のほか,当該医師の性格,処分歴,反省の程度等」といった要素から検討するとしています。この考慮要素は、条文ではありませんし、あくまでも東京地方裁判所の一裁判部が示した判断ですから、後の裁判で拘束されるようなものではありません。ただ、一般的なことを言っている部分ではありますし、内容自体も穏当なことを述べているだけですから、後に裁判を起こす場合などは、この部分に沿って事実を主張していくことが効果的であろうと思われます。
今回の事案は、診療報酬の詐取によって実刑判決を受けたことが取消しの原因でした。同じ詐欺でも、診療報酬の詐取は他のものよりも重く判断される傾向にありますので、実刑判決でなかったとしても免許取消になる可能性があります。そのため、早期の被害弁償等をして、できる限り刑事罰を回避できないかを検討することが医師免許を守るための最優先となります。
医師・看護師・薬剤師等の処分とはどのようなものか?

【事例】
Aさんは、車を運転している最中、交通事故を起こしてしまいました。
今後Aさんにはどのような処分が待っているのでしょうか。
【解説】
事故を起こしてしまったAさんには、この後様々な機関からの呼び出し、事情聴取、処分が出されます。それぞれについてどのような違いがあるのかを検討します。
0 大前提
これから、様々な処分について説明していきます。ただ、その前提として1つ重要な問題があります。
それは、「それぞれの世界は、独立した世界である」ということです。この後説明しますが、刑事の世界と民事の世界は別の世界ですし、一致することも多いですが、刑事の世界と民事の世界の認定が同じでなければならないという決まりはありません。ですので、それぞれが別々に来てしまうことも十分あり得ます。
1 運転免許について
まずはなじみ深い運転免許の処分について考えていきます。ここで当てはまることが、基本的にはそのままあてはまります。
⑴点数
交通違反をすると、点数が引かれます。この点数がたまると免許が取り消されたり、停止されたりすることからも分かるように、これは「都道府県公安委員会」という役所が個人(免許の名義人)に対しておこなう「行政処分」です。
なお、免許センターに行けば警察官の服装をした方がいますが、⑵で出てくる警察官とは似ているようで違う存在です。
⑵刑事罰
交通事故を起こし、相手方が負傷すると過失運転致傷罪という犯罪が成立しえます。
警察は事件を捜査し、捜査を終えると「検察庁」という役所に送ります。
そして、検察官が起訴するか不起訴にするかを決定し、起訴されると裁判を受けることになります。
起訴後、裁判官が判決を下すことになりますが、罰金、執行猶予付き懲役・禁錮等、刑事罰を受けると、いわゆる前科がつくことになります。
これがいわゆる「刑事事件」です。
⑶賠償責任
事故で被害者がけがをしたり、相手の車がへこんだような場合には、賠償をする義務があります。
ただ、現在ではほとんどの方が任意保険に入られ、賠償については保険で対応されていると思われます。
この、金銭での賠償等についてのやり取りが「民事事件」です。⑴⑵との違いは、役所が登場せず、個人と個人でのやり取り(ただし保険会社が代理する)になるという点にあります。
⑷まとめ
以上の様に、1つの事故で「行政」「刑事」「民事」の3つの問題が発生します。これを念頭に置いて、今度は免許の方を検討します。
2 資格について
それでは、交通事故を起こしたとして、資格はどうなるのでしょうか。医師、歯科医師、看護師、薬剤師などは基本的には同じですので、ここからは医師を例に解説します。
⑴行政処分
医師などの資格は、基本的には厚生労働大臣から与えられた免許という形をとっています。
反対に、医師の資格を奪うときも、厚生労働大臣による処分という形式をとります。
医師法7条
医師が第四条各号のいずれかに該当し、又は医師としての品位を損するような行為のあつたときは、厚生労働大臣は、次に掲げる処分をすることができる。
一 戒告
二 三年以内の医業の停止
三 免許の取消し
このように、医師に対して、医師という資格自体を左右する処分を与えることができるのは厚生労働大臣に限定されており、これは「行政処分」ということになります。
⑵雇用関係
医師などのうち、多くの方はいずれかの医療機関に雇用されていると思われます。
そうすると、交通事故を起こしたことにより、医師免許自体に関わらず、職場を追われる可能性があります。
ただ、これがどのような事件となるかは、現在どのような医療機関に勤務しているかにより異なります。
たとえば、市民病院のような国立・公立の病院の場合、任命権者が市長などの首長になっていることがあります。そうすると、反対にクビ(免職と呼びます)にする場合も首長がクビにすることになりますから、「役所」が対立当事者として登場するので、「行政処分」となります。
これに対して、民間の病院に勤務している場合、理事長・院長であってもあくまでも「民間人」ですから、こちらは個人と個人の間の問題となりますので「民事事件」になります。
3 事件の種類
このように、民事、刑事、行政と様々な種類の手続きが登場するケースがあります。
この場合、それぞれの事件ごとに、手続のルールが異なり、結論が異なる場合もあります。
そのため、争うことを検討されるような場合には、予め専門家に相談し、何をどのように争えるのか検討しておくことが肝要です。
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