Archive for the ‘その他の手続き’ Category
広告規程が問題となった事例
1 国際ロマンス詐欺案件を取り扱う弁護士業務広告の注意点
東京弁護士会(https://www.toben.or.jp/know/iinkai/hibenteikei/news/post_7.html)
千葉県弁護士会(https://www.chiba-ben.or.jp/news/2023/000727.html)
等において、一部の弁護士業務広告に対する注意が呼びかけられています。
今回は、弁護士の業務広告について検討をします。
2 業務広告についての規制
弁護士の業務広告については、弁護士職務基本規程第9条に「弁護士は、広告又は宣伝するときは、虚偽又は誤導にわたる情報を提供してはならない。」「弁護士は、品位を損なう広告又は宣伝をしてはならない」と定めています。
かつては弁護士の業務広告は原則禁止とされていましたが、2000年にこれが自由となったことに伴い、業務広告への制限がなされるようになりました。
この職務基本規程第9条は、あくまでも総論的なものを定めるのみですが、より具体的には「弁護士等の業務広告に関する規程」が定めれており、この中で具体的な禁止事項が規定されています。
また、この規程には「業務広告に関する指針」が別途定められており、規程の解釈がより具体的なものとして示されています。
3 弁護士等の業務広告に関する規定
それでは、実際に禁止されている広告とはどのようなものでしょうか。
⑴禁止されている広告
規定3条により禁止されている広告は以下の通りです(例として記載しているのは指針に記載されているものです)。
①事実に合致していない広告(例:虚偽の表示、実態が伴わない団体又は組織の表示)
②誤導又は誤認のおそれのある広告(例:交通事故の損害賠償事件の件数を損害賠償事件取扱件数に含めて延べ件数を表示し、あたかも損害賠償事件全般に習熟しているかのような印象を与える表現、弁護士報酬についての曖昧活不正確な表現)
③誇大又は過度な期待を抱かせる広告(例:「たちどころに解決します」)
④困惑させ、又は過度な不安をあおる広告(例:「今すぐ請求しないとあなたの過払金は失われます」)
⑤特定の弁護士、弁護士法人、外国法事務弁護士、外国法事務弁護士法人若しくは弁護士・外国法事務弁護士共同法人又はこれらの事務所と比較した広告(例:「○○事務所より豊富なスタッフ」)
⑥法令又は本会若しくは所属弁護士会の会則若しくは会規に違反する広告(例:非弁提携をうたうもの)
⑦弁護士等の品位又は信用を損なうおそれのある広告(例:違法行為若しくは脱法行為を助長し、又はもみ消しを示唆する表現)
⑵表示できない事項
規程第4条では、広告中に表示することが禁止されているものがあります。
①訴訟の勝訴率(3条2号に違反するものの例として)
②顧問先又は依頼者。ただし、顧問先又は依頼者の書面による同意がある場合を除く。
③受任中の事件。ただし、依頼者の書面による同意がある場合及び依頼者が特定されず、かつ、依頼者の利益を損なうおそれがない場合を除く。
④過去に取り扱い、又は関与した事件。ただし、依頼者の書面による同意がある場合及び広く一般に知られている事件又は依頼者が特定されない場合で、かつ、依頼者の利益を損なうおそれがない場合を除く。(以上3項は守秘義務との関係で問題となる)
4 まとめ
このように、弁護士の業務広告には種々の規制があり、これらの規定が日弁連の会規として定められている以上、広告規程違反は会規違反として懲戒の事由となる場合があります。
利益相反が問題となった事例①
1 事案の概要
西暦P年、A社はY弁護士と委任契約を締結し、民事再生手続きの申立て等の委任をした。
同年、Y弁護士はA社に対する再生手続開始の申立てを行い、その際にはB社をスポンサーとして再生手続きを進めることとしていた。
その後、A社に対する再生手続は開始されたが、B社がスポンサーを降りてしまったため、同手続きは廃止されてしまった。
そしてA社について破産手続開始決定がなされ、その破産管財人にX弁護士が選任された。
P+1年、管財人であるX弁護士は、B社を被告として否認権行使訴訟等を提起したところB社はY弁護士を訴訟代人として選任した。
この選任行為に対し、X弁護士が弁護士法第25条1号を理由としてY弁護士を訴訟行為から排除するよう裁判所に申し立てを行った。
(最高裁平成29年10月5日決定の事案)
2 裁判所の判断
(1)原審の判断
原々審はX弁護士の主張を容れて、Y弁護士を排除したが、これに対してY弁護士が抗告した。
原審は、破産管財人が提起した訴えの相手方の訴訟代理人である弁護士が過去に破産者から上記訴えに係る請求に関連する法律事務等の委任を受けていたとしても、破産管財人が独立した権限に基づいて財産の管理処分権を行使することなどに照らすと、上記弁護士の訴訟行為は弁護士法25条1号にいう「相手方の・・・依頼を承諾した事件」に当たらないとして、原々決定を取消した。
(2)最高裁判所の判断
最高裁判所は以下の通り判断し、Y弁護士の行為を訴訟から排除した。
「A社は,破産手続開始の決定を受ける前に,相手方Yとの間で,本件委任契約を締結していたのであるから,相手方Yは,A社の依頼を承諾して,A社の業務及び財産の状況を把握して事業の維持と再生に向けて手続を主導し,債権の管理や財産の不当な流出の防止等についてA社を指導すべき立場にあったものである。そして,本件訴訟における主たる請求の内容は,相手方YがA社から委任を受けていた間に発生したとされるA社のB社に対する各債権を行使して金員の支払を求めるもの(中略)である。したがって,本件訴訟がA社の債権の管理や財産の不当な流出の防止等に関するものであることは明らかである。
また,本件訴訟においてB社と対立する当事者はA社の各破産管財人であるXであるのに対し,本件各委任契約の依頼者はA社であるが,破産手続開始の決定により,破産者の財産に対する管理処分権が破産管財人に帰属することになることからすると,本件において弁護士法25条1号違反の有無を検討するに当たっては,破産者であるA社とその破産管財人とは同視されるべきである。
そうすると,本件訴訟は,相手方Yにとって,同号により職務を行ってはならないとされる「相手方の・・・依頼を承諾した事件」に当たるというべきである。」
(3)解説
原審と最高裁の判断を分けた点は、破産管財人と破産者の関係でした。
原審はこの関係について「破産管財人による否認権の行使は(中略)破産法によって否認の権限が付与されている趣旨に従い、破産者の意思等とは無関係に行われるものであることや、破産管財人が破産者に属していた財産の管理処分権を行使するのも、破産者の代理人等としてではなく、独立した権限に基づいて総債権者の利益のためにするものであることに照らすと、破産管財人による請求の相手方(B社)の訴訟代理人である弁護士Yが、過去に破産者から上記請求に関連する法律事務等の委任を受けていたとしても、同弁護士らによる上記請求に係る訴訟行為をもって、弁護士法25条1号にいう「相手方の協議を受けて賛助し、又はその依頼を承諾した事件」に係る職務行為と同視することはできないとしていました。
これに対して最高裁は両方を同視されるべきとしています。
Y弁護士が事案を受任した経緯には理解できるところがあるないわけではないですが、少なくともA社とB社は実質的に利害対立する立場にあったので、最高裁の決定の趣旨を踏まえれば、受任を差し控えるべき事案であったということができます。
国選弁護人の辞任
1 事例
刑事事件第1審において、国選弁護人に選任された弁護士が裁判所に辞任届を提出し、そのまま公判に出廷しなかった。しかし、その状況で裁判所は実質的に審理を継続した。
この点について、控訴審において①弁護人辞任届を提出しているに裁判所が解任しなかったのは違法である②公判に弁護士が出廷していないのに実質的な審理を行ったのは訴訟手続きの法令違反であるという主張が控訴審弁護人からなされた。
(東京高判昭和50年3月27日の事案)
2 裁判所の判断
①について
「現行制度の下においては、裁判所によって選任せられた国選弁護人は、裁判所の解任行為によらなければ、原則としてその地位が消滅することはなく、また正当な理由がなければ辞任の申出をすることができないものであって(弁護士法二四条参照)、しかもその正当理由の有無の判断は、選解任権を有する裁判所がすべきものと解せられる。」としており、裁判所が解任をするまでは国選弁護人の地位は残るほか、解任するかどうかについても裁判所が判断する旨を述べました。
②について
「前記国選弁護人らの辞任の申出に正当な理由が認められないとしてこれを解任しなかった原審の措置に、所論のような違法があると認めることはできない。また国選弁護人が辞任届を提出し、出廷しなかったのは、被告人らの責に帰すべき事由によるもので、それによって生ずる不利益は被告人らがみずから甘受せざるを得ないものとして、弁護人不出廷のまま実質審理を行ない判決するに至った原審の措置は、必要的弁護事件でない本件においては、やむをえなかったものというほかはない。すなわち、被告人らが、原審のとったグループ別審理方式をはじめその他の公判運営上の措置を不満として、そのような形態による裁判の進行をあくまで阻止しようとして、国選弁護人らを辞任せざるを得ない状況に追い込み、その結果弁護人らが出廷しなくなったとしても、それは被告人らがみずから望んだところと言わざるをえない。したがって、このような事情の下において、原審が弁護人不出廷のままで審理判決したからといって、被告人の弁護人依頼権の保障を無視した措置があるということはできない。」
として、被告人らの責めに帰すべき事由により弁護人が出廷しないような場合には、弁護人不出頭を理由として公判を継続したとしても違法はない旨判示しました。
3 解説
弁護士法第24条にある通り、弁護士は正当な理由がなければ官公署から委嘱を受けた事項を辞任できないとなされています。
国選弁護人も裁判所から依頼を受けた事項であるため、正当な理由がなければ辞任できません。
そして、国選弁護人については、刑事訴訟法にその解任事由が定めてある通り、裁判所が解任をすることとなっています。そのため、弁護人の一方的意思表示のみでは辞任できないということになります。
ただ、弁護人が辞任を申し出、それに相応の理由がある場合には、刑事訴訟法第38条1項に記載の事由が当てはまるようになることが多いと思われますから、解任となる可能性はあると思われます。
紛議調停手続
1 紛議調停手続とは
弁護士法第41条は、『弁護士会は、弁護士の職務又は弁護士法人の業務に関する紛議につき、弁護士、弁護士法人又は当事者その他関係人の請求により調停をすることができる』と定めています。
また、弁護士職務基本規程第26条は『弁護士は、依頼者との信頼関係を保持し紛議が生じないように努め、紛議が生じたときは、所属弁護士会の紛議調停で解決するよう努める』とされています。
紛議調停手続とは、弁護士法第41条に定める調停手続きのことを指していますが、法・基本規程は具体的な手続きに関する規定を置いておらず、実際の手続きは各単位会の会則等で定められています。
2 紛議調停手続の請求者
弁護士法第41条に記載の通り、紛議調停手続は「弁護士・弁護士法人・当事者・その他関係人」が請求できるとされています。
懲戒請求が「何人」でも可能であることとは異なり、請求の主体が限定されています。
また、職務基本規程第26条に記載の通り、弁護士と依頼者の間で紛議が生じたときは、弁護士はこの調停手続で解決するよう努めることが求められています。この規定の趣旨からすると、弁護士はいきなり依頼者に対して訴訟提起を行うのではなく、まずは調停によることを求められる(但し、訴訟提起をしたからといって訴訟が不適法になるものではない)ということになります。
3 紛議調停の対象
どのような問題が紛議調停手続の対象となるかについては、弁護士法に規定があり、「弁護士の職務又は弁護士法人の業務に関する」ものが対象とされています。
弁護士費用等の金銭に関する問題だけでなく、預かった書類の帰属や、事務処理についての責任など、広く弁護士の職務等に含まれるものが対象と考えられますが、弁護士の私的な問題(たとえば、弁護士が不倫関係にあった場合に、その不倫相手からの請求等)は対象にならないと考えられます。
4 手続
手続としては、調停の手続きとなるため、当事者に強制力等はなく、最終的に合意ができなければ調停不成立となります。
しかし、職務基本規程第26条がある関係で、調停を申し立てられた弁護士が調停に出頭しないことを繰り返すような場合には、それ自体懲戒事由となる可能性があります。
また、紛議調停手続は、いわば懲戒請求の前段階(法律・規則上調停を先行させなければいけない決まりはありませんが、調停不成立の場合懲戒請求をされるおそれは上がると思われます)とも言えますから、この手続きの中で和解を成立させることには大きな意味があると言えます。