Archive for the ‘その他の手続き’ Category

「業務広告に関する指針」が改正されました

2025-03-04

 弁護士の広告に関しては、「弁護士等の業務広告に関する規程」という規制が存在しています(なお、外国法事務弁護士についても同様の規定がありますが省略します)。

 ただ、この規定は一般的抽象的な規程でもあるので、具体的にどのような場合が規程に該当するのかを開設した「業務広告に関する指針」が公表されています。

 この業務広告に関する指針が、令和7年2月20日付で改正されました、なお、大元の規程自体が改正されたというわけではありませんので、より具体的な場面について注意を促すような形となっています。

1 債務整理事件に関する注意

 債務整理事件については「債務整理事件に関し、「国が認めた借金減額制度」、「国が認めた借金救済制度」等、あたかも破産や民事再生以外に、債務者にとって特別に有利な法的債務整理の制度が存在するとの期待を抱かせる表現を含むもの」(第3 4⑶)というように、明示的に注意がなされるようになりました。

2 国際ロマンス詐欺に関する注意

 国際ロマンス詐欺に関する事件の被害者側事件として、「国際ロマンス詐欺、投資詐欺等の被害回復が容易でなく、被害回復ができないか、ごく少額の回収にとどまることが多いことが弁護士業務上の社会通念として明らかである事件に関し、殊更に高額回収ができた事例のみを紹介する等、依頼すれば高額の回収ができるとの期待を抱かせる表現を含むもの」(同⑸)として、過剰な広告に対する注意が行われています。

 このような、近時問題となっている類型に対応し、弁護士の信用性を確保するためのものとなっています。見込みのないような事件について、あたかも見込みがあるように受任した場合や、見込みがあるかないかわからない依頼者の状態を利用して受任をすることを厳しく禁止するものとなっています。

 弁護士が広告を出す際には、指針の改正に気を配り、十分注意をする必要があります。

【弁護士が解説】公務員が刑事罰を受けるとどうなるか

2025-02-25

【事例】

 X市の職員であるAさんは、ある日

①電車内で盗撮をし、逮捕されてしまいました。

②通勤途中に車で事故を起こし、被害者が亡くなってしまいました。

Aさんにはどのような処分がなされるのでしょうか。

【解説】

1 公務員の欠格事由

 地方公務員であるAさんの身分関係については、地方公務員法が適用されることになります。また、自治体ごとに条例や基準がありますので、具体的な処分については自治体によって異なる形になるのですが、個々では法律の範囲内で解説をしたいと思います。

 地方公務員法16条では、職員となることができない場合として「禁錮以上の刑に処せられ、その執行を終わるまで又はその執行を受けることがなくなるまでの者」と定められています。「その執行を受けることがなくなるまで」というのは、いわゆる執行猶予中の期間を想定していただければよいと思います。そのため、仮に執行猶予付き判決であっても、公務員の場合には「職員となれない」=免職となってしまいます。

2 具体的な手続

①盗撮のケース

 盗撮の場合、現行犯的な形であっても逮捕されることが多いと言えます。そして、逮捕されてしまうと、公務員の場合ほぼ確実に新聞等で報道されてしまいます。

 刑事罰が出るよりも先に、報道等で問題となり、職場内での手続が開始されていきます。

 とはいえ、公務員に対する処分は、行政手続の一種となりますので、法律上の規定にのっとって進められることになります。民間企業との異なり、どれほど悪質であってもいきなり免職になるというわけではないということです。

 盗撮は、初犯であれば略式罰金となることが多いタイプの犯罪です。そのため、「禁錮以上」の刑ではないことから、刑事罰を理由に免職となることはありません。また、起訴と処分が同日であることも多い手続きですので、後から述べる起訴休職という必ずしもなるわけではありません。

 多くの自治体を見ると、停職数か月となるケースが多いようです。

 ところで、被害者の方と示談できた場合、刑事事件については不起訴処分(=罰を受けない)となることもあります。このとき、公務員としてはどのような処分になるのでしょうか。

 既にみたように、報道等されることが多く、自治体の信用を失墜させていますから、仮に刑事罰が不起訴処分であっても、公務員としては何らかの処分(停職処分等)となる可能性は高いと思われます。ですので、刑事事件が解決したからといって、それで終わりというわけにはいきません。

②交通死亡事故のケース

 死亡事故は、被害者が亡くなられているため大きな事件ではあるものの、故意に起こしているわけではない点で、①のケースよりも悪質性が低いとみられるかもしれません。

 しかし、死亡事故の場合には、被害者に落ち度があるようなケースでもない限り、初犯であっても公判請求(正式な裁判。罰金より重い刑が求刑される)されることが高い事件です。公務員が起訴されると、地方公務員法28条2項2号により、休職となります(これを「起訴休職」と呼びます)。

 そして、裁判を受けた結果、執行猶予付きの判決となってしまうと、これは「禁錮」刑となるため、欠格事由に該当し、免職となります。

 このように、交通事故であっても、略式罰金を超える処分となってしまうと、失職することになります。

 以上のように、公務員の身分は、刑事事件との関係で不安定な地位におかれてしまいます。何らかの事件を起こしてしまった場合には、職を守るためにもまずは弁護士にご相談ください。

 

【弁護士が解説】公認会計士に対する処分はどのようなものがあるか

2025-01-07

1 公認会計士の登録

 公認会計士を名乗るためには、日本公認会計士協会の名簿に登録される必要があります。

 日本公認会計士協会は、公認会計士法43条1個に基づき設立される法人であり、形式的には民間団体ということになります。

 そして、公認会計士の登録を行うかどうかは日本公認会計士協会の資格審査会が審査をするものとされています。

2 公認会計士の登録の抹消

 また、登録した公認会計士の登録を抹消することも日本公認会計士協会の責務です。登録が取り消される事由として法律に記載されているもの(公認会計士法21条)のうち

1 その業務を廃止したとき

2 死亡したとき

3 欠格事由に該当するに至ったとき

の3つの場合は、公認会計士協会は必ず登録を抹消するものとされています。

 次に

4 不正の手段により登録を受けたとき

5 心身の故障により公認会計士の業務を行わせることがその適性を欠くおそれがあるとき

6 内閣府令で定める期間以上の期間にわたり研修を受けていないとき

7 2年以上継続して所在が不明であるとき

は、公認会計士協会は登録を抹消することができると定められています。

3 公認会計士に対する懲戒処分

 登録の抹消と異なり、公認会計士に対する懲戒処分も定められています(公認会計士法29条以下)。

 まず、登録の抹消との最大の違いは、こちらは「内閣総理大臣」が処分を行うことになっている点です。

 また、登録の取消しや業務停止以外に「戒告」の処分も定められています。

 そして、これらの懲戒処分を受ける事由は、法30条が「虚偽又は不当の証明」をした場合を定め、法31条がそれ以外の公認会計士法違反等の一般の懲戒事由を定めています。

 公認会計士が故意に、虚偽、錯誤又は脱漏のある財務処理を虚偽、錯誤及び脱漏が無いものと証明した場合などは、公認会計士の信用性の根幹にかかわるため、2年以内の業務停止か登録の抹消の処分が選択されることになっています。このように、公認会計士の職務そのものに関連する違反に対しては、身分の剥奪を伴うような非常に厳しい処分が予定されています。

4 対応方法

 公認会計士に対する内閣総理大臣の処分は、聴聞を行う行政処分に該当します(公認会計士法32条4項)。そのため、処分の前に必ず自身の意見を述べる機会が与えられています。ここで不利にならないよう、法的に適切な意見を述べる必要性が極めて高いです。

 そのためには、処分対応に経験がある弁護士を選任し、手続きに備える必要があります。

【弁護士が解説】刑事事件を起こすと介護福祉士の国家資格はどうなるのか

2024-10-22

【事例】

 介護福祉士であるAさんは、ある日通勤途中、自動車で交通事故を起こしてしまいました。

 幸い被害者の方は全治2週間程度のけがではあったものの、警察の方からは事件を検察庁に送ると言われました。

 Aさんはどのような刑事罰を受け、それによって介護福祉士の資格はどうなるのでしょうか。

【解説】

1 交通事故の刑事罰

⑴交通事故による処分の種類

 Aさんは交通事故を起こしてしまいましたが、事故の場合、色々な処分がなされます。

 1つ目は、運転免許の点数です。けがの程度や運転態様にもよるのですが、免許の点数が引かれる場合があります。そして、注意しなければならないのは、点数を引かれたからといって刑事罰を受けないというわけではないところです。よく似た制度に「反則金」というものがありますが、反則金で処理されるようなものの場合は、反則金を払えば刑事罰を受けなくて済むような仕組みになっています。しかし、点数と刑事罰は全く別のものですので、点数を引かれ、刑事罰を受ける場合があります。

 2つ目は刑事処分です。警察が検察庁に事件を送り、検察官が起訴をして有罪となると、何らかの刑事罰を受けることになります。刑事罰とは、死刑、無期・有期の懲役・禁錮、罰金、拘留、科料のいずれかを指していて、いわゆる「前科」に該当するようなものを指します。繰り返しになりますが、点数と刑事処分は別物ですので、両方が来る場合も珍しくありません。

⑵交通事故の刑事罰

 事故により、人にけがをさせた場合には、その事故の態様次第ではありますが、過失運転致傷罪が成立します。

 過失運転致傷罪は、7年以下の懲役・禁錮又は100万円以下の罰金が定められている罪です。ただ、人が死亡した場合の「過失運転致死」と同じ条文・法定刑が定められていますので、現実的に7年の懲役・禁錮になるということはあまり想定されていません。

 一般的に交通事故で人にけがをさせた場合、骨折以上(おおよそ全治1ヶ月程度)のけがをさせた場合には、何らかの処罰を受ける可能性が高いと言えます。反対に、極めて軽微なけが(全治3日など)であった場合には、起訴猶予処分となることも多いようです。ただ、同じ程度のけがであっても事故態様や、不注意の内容、被害者の行動によって処分は左右されますので、必ずしもけがの程度だけで処分が決まっているわけではありません。また、被害者の方と示談をすることによって不起訴処分となることもありますから、事故を起こしたからといってすべてが処罰をされているわけではありません。

 次回ご説明しますが、国家資格の多くは、刑事罰を受けたことを理由として処分の事由を定めています。そのため、国家資格に影響を与えないようにするためには、まずは刑事罰を受けない=不起訴処分となることを優先して考える必要があります。交通事故を起こしてしまった場合には、被害者の方との示談等をいち早く検討する必要があります。

【弁護士が解説】薬剤師が交通事故を起こすとどのような処分が待っているか②

2024-10-01

【事例】

 薬剤師の資格を持ち、ある病院で勤務しているAさんは、ある日通勤途中、自家用車を運転している際に前方の車に追突してしまいました。

 Aさんはすぐに110番と119番をしたのですが、前方の車に乗っていたBさんが全治1週間程度のけがをしてしまったようでう。

 Bさんが診断書を出したことにより、Aさんに対する過失運転致傷罪の捜査が開始しました。

 このあとAさんにはどのような処分が待っているのでしょうか。

【解説】

 前回に引き続き、今回は薬剤師免許に対する行政処分について解説していきます。

 まず、薬剤師法8条により、行政処分は免許の取消し・3年以内の業務停止・戒告の3種類と定められています。ですので、処分を受ける場合にはこのいずれかの処分となります。

 ただ、仮に薬剤師が刑事罰を受けた場合であっても、薬剤師法8条が「薬剤師が、第五条各号のいずれかに該当し、又は薬剤師としての品位を損するような行為のあつたときは、厚生労働大臣は、次に掲げる処分をすることができる。」と定めており、必ず処分をされるわけではありません。たとえば、弁護士法7条は「次に掲げる者は、第四条、第五条及び前条の規定にかかわらず、弁護士となる資格を有しない。一 禁錮以上の刑に処せられた者」としており、禁錮以上の刑(執行猶予付きも含む)を受けてしまうと、どのような理由であれ弁護士となる資格を喪失することになっていますので、違いが分かるのではないかと思います。

 次にどのような手続で処分を行うかです。薬剤師法8条を見ると「厚生労働大臣は・・・・」となっています。ですので、最終的な処分は厚生労働大臣名でなされます。このことは薬剤師免許が厚生労働大臣名であることの裏返しです。

 ただ、実際には厚生労働大臣が個人で決めているわけではありません。厚生労働省内に医道審議会という審議会が設置されており、そのなかの「薬剤師分科会薬剤師倫理部会」により答申がなされ、それに従って厚生労働大臣が処分をするということになっています。たとえば、直近であれば、準強制わいせつ未遂と傷害罪を起こした薬剤師に関して免許取消となっています。

 とはいえ、この医道審議会も東京で開かれているだけですから、全国にいる薬剤師に聞き取りを行えるわけではありません。そのため、薬剤師法8条5項により、都道府県知事が聞き取りを行い、これを厚生労働大臣が行ったことに代えることとされています。しかし、都道府県知事が聞き取りをしているわけではなく、実際には都道府県の担当部局がこれを行うということになっています。

 ですので、個々の薬剤師の方には、都道府県の医政担当部局から呼び出しがあり、そこで聴聞という手続きが開かれ、その内容が知事→医道審議会→大臣と上がっていくという仕組みになっています。

 今回のような交通事故の場合、どのような処分となるかは「行政処分の考え方」が事前に公表されています。過失運転致傷については、基本的には戒告の取扱いにするとされています(⑹ア)。ただ、情状が軽ければ処分がなされないこともあり得ると思われますし、反対に飲酒運転や危険運転、ひき逃げといった重い場合には処分がより重い処分となることが予想されます。

 処分の軽減を図るためには、最初の都道府県への聞き取りへの対応が必須です。むしろ、ここでしか話を聞かれませんので、都道府県での対応が鍵となります。有利な処分を得るためには、まずは刑事事件でより軽い処分を得て、それをもって都道府県の聞き取りに臨む必要がありますので、刑事の段階から処分を目標に示談交渉等を行う必要があります。これらの交渉には難しい点もありますので、まずは弁護士にご相談ください。

【弁護士が解説】薬剤師が交通事故を起こすとどのような処分がなされるのか①

2024-09-24

【事例】

 薬剤師の資格を持ち、ある病院で勤務しているAさんは、ある日通勤途中、自家用車を運転している際に前方の車に追突してしまいました。

 Aさんはすぐに110番と119番をしたのですが、前方の車に乗っていたBさんが全治1週間程度のけがをしてしまったようでう。

 Bさんが診断書を出したことにより、Aさんに対する過失運転致傷罪の捜査が開始しました。

 このあとAさんにはどのような処分が待っているのでしょうか。

【解説】

 Aさんは交通事故を起こしてしまいました。このような場合、Aさんにはいろいろな方面から処分がなされます。今回は、どのようなところから何を言われるのかを概観します。

1 刑事

 まずは刑事事件です。これは警察が捜査し、その後検察庁に送検され、最終的には懲役・禁錮・罰金といった刑罰を受けるような手続きです。ただし、検察庁が「今回限りは処罰しません」という風に決定した場合には、いわゆる「起訴猶予」となります。

 交通事故の場合には、過失運転致傷罪が成立するかが問題となります。

 刑事事件では、警察官・検察官とやり取りをすることになります。後から述べる「免許」の手続きでも警察官が出てきますが違う部門の警察官ですし、免許の手続きは免許センターで行われることが多いのに対し、刑事事件で対応する警察官は事故現場を管轄する警察署の警察官となります。

2 民事事件

 次に民事事件です。

⑴損害賠償

 交通事故を起こした以上、民法709条自動車損害賠償保障法3条に基づき、加害者は被害者に対して賠償をする義務が生じます。これを「損害賠償」等と呼んでおり、治療費や慰謝料の支払いなどを行います。

 ただし、多くの場合は任意保険に入られていると思いますので、そのような場合には保険会社が代わりに賠償をしてくれることになっています。もし任意保険に入っていない場合でも、自賠責保険は強制加入ですから、人身事故に関する損害については、一定額までは自賠責保険会社が対応してくれることになっています。

⑵雇用関係

 仮にAさんが民間病院に勤務している場合、勤務先の法人等から交通事故を起こしたことにより何らかの処分を受ける可能性があります。戒告や訓告、けん責、減給、停職、解雇など、処分の種類は様々です。処分の内容については、各法人により異なりますので、就業規則を確認する必要があります。仮にこの処分に不服がある場合には、労働審判や民事訴訟といった法的手段により争うことになりますが、これも民事事件に分類されます。

3 行政事件

 最後に行政事件です。

⑴雇用関係

 仮にAさんが公立病院に勤務している場合、先ほどの民間病院とは異なる場合があります。

 Aさんが公務員の地位を有している場合には、Aさんの労働者の地位に対する処分は「行政処分」となります。

 地方公務員の場合、その処分は地方公務員法27,28条で定められています。「降任、免職、休職、降給」と法定されており、それ以外の処分は許されていません。なお、所属によっては「文書注意」や「所属長注意」というような注意がなされることもありますが、これは法律の定める処分ではなく、あくまでも内部的なものということになります。

⑵運転免許に対する処分

 交通事故を起こした場合、運転免許の点数が引かれることになります。また、事故態様や累積の点数次第では、免許停止や免許取消の処分を受ける場合もあります。

 これらの処分は、各都道府県の公安委員会が行います。運転免許証の右下には各公安委員会の印が押してありますが、反対に処分を行うのも公安委員会となります。ただ、実際には運転免許センターに呼び出され、センターの警察官により対応されるため、実質的には警察官により免許の処理もされているように見えます。

⑶薬剤師免許に対する処分

 最後に、薬剤師の国家資格について解説します。

 薬剤師の国家資格は、一定の理由があると取り消されるなどの処分を受けることとなっています。

 薬剤師法8条がその処分を決めており、取消し、業務停止、戒告の3つの処分が定められています。

 薬剤師に対する処分は、法文上厚生労働大臣が処分をすることになっていますが、薬剤師本人の聞き取りを行うのは都道府県の担当部局です(薬剤師法8条5項)。そのため、呼び出しは都道府県からくることになります。

4 まとめ

 これまで見てきたように、1つの交通事故を起こすだけで、多数の部門から呼び出し・聞き取り・処分がなされることになります。

 このような多方面からの要求に、これまで法律と無縁であった方が対応することは困難だと思われます。

 事故を起こしてしまった場合、まずは弁護士に相談し、どのように対応することが適切か、方針を考えましょう。次回は薬剤師免許についての手続きを解説します。

看護師の懲戒事由にはどのようなものがあるのか

2024-08-27

【事例】

 看護師であるAさんは、帰宅途中に車を運転している際、誤って赤信号を見落とし、横断歩道上の歩行者を跳ね飛ばしてしまいました。

 慌てたAさんは、その場で停車することなく、そのまま帰宅してしまい、後日捜査を遂げた警察官により逮捕されてしまいました。

 Aさんの看護師資格はどのようになってしまうのでしょうか。

【解説】

 保健師助産師看護師法14条1項によると、「保健師、助産師若しくは看護師が第九条各号のいずれかに該当するに至つたとき、又は保健師、助産師若しくは看護師としての品位を損するような行為のあつたときは、厚生労働大臣は、次に掲げる処分をすることができる。」としています。そこで9条を見ると、

 罰金以上の刑に処せられた者

 前号に該当する者を除くほか、保健師、助産師、看護師又は准看護師の業務に関し犯罪又は不正の行為があつた者

 心身の障害により保健師、助産師、看護師又は准看護師の業務を適正に行うことができない者として厚生労働省令で定めるもの

 麻薬、大麻又はあへんの中毒者

が懲戒事由とされています。

 刑事罰の場合、1号により「罰金以上の刑」であれば、何らかの処分を受ける可能性が生じることになります。

 それでは、今回のAさんの行為の刑事罰を考えてみましょう。

 Aさんがしてしまった行為は、いわゆるひき逃げです。ひき逃げは、それ自体が道路交通法違反の罪となりますが、被害者がけがをしていた場合には過失運転致傷罪という別の犯罪が成立するほか、ひき逃げの罪の法定刑も格段に重くなってしまいます。

 最終的にAさんに与えられる刑罰は、被害者のけがの程度によるものの、仮に軽いけがであったとしても執行猶予付きの判決となり、罰金刑ではおさまらない可能性が高いと思われます。

 ところで、看護師等の行政処分については、予め基準が公表されています(こちら。)

 この基準は作られた年度の関係で、交通事故は「業務上過失致死傷」となっています。ただ、その内容を読むと、ひき逃げの場合厳しく責任を問われると述べる等、交通事故それ自体について触れているものではありません。確かに、事故は起こそうと思って起こしているわけではなく、だれしも起こしてしまう可能性があるものですから、事故だけを理由として重い処分をすることは躊躇われます。実際、単なる事故ではそれほど処分されていないようです。しかし、ひき逃げ事案となると、各段に処分が重くなってしまいます。

 事故を起こした場合、まずは通報することが、最終的に資格を守るためにも必要です。交通事故だけであれば、被害者の方と示談交渉を行い、示談が成立すれば不起訴処分となる可能性があります。ですので、事故を起こした場合には、速やかに保険会社や弁護士に相談を行うことが必要です。

【弁護士が解説】依頼者との紛争についてはどのように対応すべきか?

2024-07-30

【事例】

 X弁護士は、Aさんから、貸金返還請求訴訟を起こされたとの相談を受けました。

 Aさんが持ってきた訴状や証拠書類を見ると、Aさんが金銭を借りたことは比較的明らかなようでした。また、Aさんに尋ねると、現金を借りたことは事実であり、現在まで返金していないと述べました。

 このような事案であったため、X弁護士は、Aさんに対して、「この事件は、争うと負けてしまう可能性が高いので、分割払いの合意などができないか和解を目指していくのがよいのではないか」と述べ、この説明に納得したAさんと委任契約を締結しました。

 期日が進み、相手方の訴訟追行態度に納得ができなくなったAさんは、突如否認をしたいと言い出しました。しかし、既に自白している事実も多く、X弁護士が難しい旨を述べると、突如としてX弁護士を解任し、弁護士費用の支払いも未払いのままに音信不通となってしまいました。

 このときX弁護士はどのように対応すればよいでしょうか。

【解説】

 弁護士と依頼者の信頼関係が破綻し、途中で委任契約を終了させるということ自体はそう珍しくありません。仮に終了させるにしても、金銭関係をきれいに清算し、後々問題が生じない形で終了できていれば、悩みも少ないと思われます。

 しかし、事例のように、突如解任され、報酬も未払いであった場合、弁護士としてどのように対応するべきか苦慮することになります。

 ここで、報酬未払いを理由として民事訴訟(調停も含みます)を起こした場合、どのような問題が生じるか考えてみましょう。

 通常、弁護士が委任契約を締結している以上、相手方の氏名や住所、電話番号といった基本的な個人情報は知っていると思われます。そのため、郵便を発送したり、訴状を作成することについては困難はないと思われます。

 ただ、訴状を作成すると、委任契約書を証拠として提出する必要があることは当然のこと、受任していた事件の推移や、解任されるに至った経緯など、「職務上知り得た秘密」(弁護士法23条)を書面に記載することになる可能性は高いと思われます。また、民事事件の記録はだれでも閲覧可能ですので、記録を閲覧した第三者に、元々の受任事件の内容を知られることになります。

 そのため、弁護士が元依頼者を訴えるということは、仮に報酬請求訴訟であったとしても、守秘義務の観点からそう簡単に肯定されるものではありません。

 このような観点から、各弁護士会には紛議調停委員会などの、依頼者との紛争を解決する機関が設置されています。弁護士職務基本規程26条では「弁護士は(中略)紛議が生じたときは、所属弁護士会の紛議調停で解決するように努める。」とされており、紛議調停委員会の利用を促しています。こちらであれば、非公開であることや、開示する相手も弁護士であることなどから、守秘義務違反の問題は少ないものと思われます。

係争権利の譲り受けが訴訟法上問題となった事案

2024-01-25

1 事案の概要

 XはYに対して土地を貸していたが、この賃貸借契約に対してXが契約解除の意思表示をした。
 しかしその後もYは延滞賃料を支払わず、この賃貸借契約に基づく紛争は解決していなかった。
 A弁護士はXからこの紛争について訴訟委任を受けていたが、その途中で訴訟の目的物である土地の一部を買い受けることを予約した。
 このような予約をしている弁護士の行った訴訟行為が問題となった。
(最判昭和35年3月22日の事案)

2 判旨

 ところで、弁護士法二八条は弁護士が事件に介入して利益をあげることにより、その職務の公正、品位が害せられまた濫訴の弊に陥るのを未然に防止するために設けられた規定であるから、たとえ弁護士が同条に触れる取引行為をしたとしても、その場合に右取引行為の私法上の効力が否定されまたその弁護士が同法七七条所定の刑罰を受けるのは別論として、右取引行為の目的となつた権利に関する訴訟委任およびこれに基く訴訟行為が同二八条により直ちに無効とされるものではないと解するのを相当とする。されば、弁護士AがXとの間でした右土地売買予約が前記法条に違反するとしても、これがためXがA弁護士に対してした訴訟委任およびA弁護人がその代理人としてした訴訟行為は無効となるものではない

3 説明


 今回の行為が弁護士法28条に違反すること自体は認定されています。
ただ、第1審の東京地裁も「右法条〔28条〕は同法第二十五条のように弁護士の職務活動を制限するものではなくて、弁護士の品位の保持と職務の公正な執行を担保するために抜本的に弁護士の係争権利の譲受を禁止し、その違反行為はこれを無効とする趣旨の規定であるから、右売買の予約が仮に同法第二十八条に牴触するものとしても、AはこれがためにXから本件訴訟を受任することができなくなるものではない」としています。つまり、あくまでも私法上の問題である以上、訴訟行為を無効とする理由はないというものです。
 もっとも、このような行為が懲戒事由に該当することには注意を要します。

非弁提携が問題となった事案

2023-12-28

1 事案の概要

 元々の事案は、原告である大手貸金業者が、被告(個人)に対してキャッシングに基づく貸金契約の返済を求めた事件でした。
 しかし、これに対して被告が原告に対して反訴提起しました。この反訴提起は、被告が、原告に対して不当利得返還請求権を有する別の人物からその債権を譲り受け、譲り受けた不当利得返還請求権を元に起こしたものでした。
 この債権譲渡について、弁護士法72条に違反するものではないかということが問題となりました。
(東京地判平成17年3月15日の事案)

2 判旨

 まず、弁護士法七三条は、「何人も、他人の権利を譲り受けて、訴訟、調停、和解その他の手段によって、その権利の実行をすることを業とすることができない。」と規定しているところ、被告が、本件債権譲渡を「業」としてしたことを認めることはできないから、本件債権譲渡が同条に直接違反するものとはいえない。
 また、弁護士法二八条は、「弁護士は,係争権利を譲り受けることができない。」と規定しているところ、本件債権譲渡の法律主体は被告であるから、やはり、本件債権譲渡が同条に直接違反するものとはいえない。
 また、弁護士法二五条の趣旨を受ける弁護士倫理二六条二号は、弁護士が「受任している事件と利害相反する事件」については職務を行ってはならないと規定しているところ、本件債権譲渡を前提とした反訴の提起自体が、被告及びApの債務整理受任事件と直接利害相反するものと認めるのは困難である。 
 さらに、弁護士法七二条本文は、「弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件(中略)その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。」と規定しているところ、被告が本件債権譲渡を受けて反訴を提起したこと自体が同条によって直接禁止される行為であるということも困難である。
 そうすると、本件債権譲渡に関する被告又は被告訴訟代理人らの行為について、これらの各規定の直接適用はできないものというほかない。
 もっとも、弁護士法七三条の趣旨は、非弁護士が権利の譲渡を受けて事実上他人に代わって訴訟活動を行うことによって生ずる弊害を防止し、国民の法律生活に関する利益を保護しようとする点に、また、弁護士法二八条の趣旨は、弁護士が事件に介入して利益を上げることにより、その職務の構成、品位が害せられることを未然に防止しようとする点に、それぞれ存するものと解される。
 また、弁護士倫理二六条二号の趣旨は、弁護士が、法律上及び事実上の利益・利害が相反する事件について職務を行うことを防止し、もって当事者の利益を保護するとともに、弁護士の品位を保持し、さらには、弁護士の職務の公正さと弁護士に対する信用を確保しようとする点に存するものと解される。
 さらに、弁護士法七二条本文前段の趣旨は、弁護士業務の誠実適正な遂行の担保を通して当事者その他の関係人の利益を確保し、もって、法律秩序全般を維持し、確立させようとする点に存するものと解される。
 ところで、前記に認定した本件紛争の経緯に、被告が本人尋問に出頭しないことにつき民事訴訟法二〇八条の規定の趣旨を併せると、本件債権譲渡は、Bら法律事務所に所属する弁護士主導のもとに斡旋されたものであることが明らかである。
 そして、これら一連の行為を実質的に見れば、法律事務所の弁護士らが主体となり、報酬を得る目的で、業として、自らが債務整理を受任した依頼者のうち原告に対して不当利得返還請求権を有している不特定多数の者から原告に対して貸金債務を負担している不特定多数のものに同不当利得返還請求権を譲渡させ、これらの権利の実現を訴訟等の手段を用いて実行しているものということができる。
 かかる行為は、前記の弁護士法七三条及び二八条の趣旨に抵触するものというべきであり、かつ、斡旋の際の説明内容や、対価の額及び支払態様、これらと債務整理事件の報酬との関係によっては、原告に対して不当利得返還請求権を有している不特定多数の依頼者の利益を損ねるという、前記の弁護士倫理二六条二号の趣旨に具体的に反するおそれが高い、看過し難い行為であるというべきである。
 そうすると、かかる債権譲渡行為の私法上の効力を認めてこれを放任することは、不特定多数の関係人の利益を損ね、広く弁護士業務の誠実適正な遂行やこれに対する信頼を脅かし、ひいては法律秩序を害するおそれがあると認められるのである。
 よって、かかる態様による債権譲渡は、公序良俗に反し無効であると解するのが相当である。

3 説明

 なぜ弁護士事務所がこのようなことをしたのかということについて明らかにはされていませんが、おそらく訴訟手数料の集約や、手続の負担を軽減する(同じ相手方に対して多数の訴訟が係属するより、一本の訴訟内でまとめて解決したほうが負担が少ない)という目的ではないかと思われます。
 このとき、弁護士自身が譲り受けるわけにはいかない(係争権利の譲り受けとなる)ため、依頼者の内の一部の者に権利を集約してしまうという手法がとられたものと思われます。
 しかし、このような手法は当然法の潜脱ということになりますから、上記判旨の通り無効されました。

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