Archive for the ‘その他の手続き’ Category
看護師が刑事事件を起こすと看護師免許はどうなるのか
法制度上の枠組み
まず、法制度上どのような場合に処分が可能かを見ておきます。
(1)法的根拠:保健師助産師看護師法
- 保健師助産師看護師法では、第14条において、看護師(および保健師・助産師)が以下のいずれかに該当したとき、厚生労働大臣は一定の処分を行うことができると定められています(戒告・3年以内の業務停止・免許取消)。
- 具体的には、「第9条各号のいずれかに該当するに至ったとき」や、「看護師としての品位を損するような行為があったとき」などが処分事由とされています。
- 第9条には、「罰金以上の刑に処せられた者」や「業務に関し犯罪または不正の行為があった者」などが列挙されています。
- つまり、刑事上の有罪判決(少なくとも罰金以上)を前提とするケースが処分対象になりやすく、さらに看護師としての業務に関連する行為・職業的道義性・品位問題が問われるケースも含まれます。
(2)処分の種類
看護師に対して取りうる行政処分には主として以下のものがあります(重さの順に並べると):
- 戒告(もっとも軽い処分)
- 業務停止(3年以内)
- 免許取消し(最も重い処分)
- なお、行政指導レベルで「厳重注意」等が行われることもあります(これは処分ではなく、行政上の注意喚起)。
また、処分を受けた看護師には再教育研修が命じられることがあります。
(3)処分手続と医道審議会の関与
- 看護師に対する行政処分については、厚生労働省が医道審議会(保健師助産師看護師分科会・看護倫理部会)に諮問し、その答申を受けて処分を決定するのが通例です。実際、厚労省は過去に看護師・保健師の処分を医道審議会答申を踏まえて決定してきています。
- 審議会での議事要旨には、「看護師等行政処分関係審議」として、諮問された事案数と答申内容(処分/行政指導)が定期的に公表されています。例えば、2024年11月には36名が諮問され、24名に処分、12名に行政指導という答申がなされた例があります。
- 2025年8月の審議要旨では、33件を諮問し、うち5件で免許取消が投信されています。
- この医道審議会の手続先立ち、都道府県担当課を通じて本人から意見陳述(弁明聴取)を行う手続が設けられており、本人にとって有利な事情を主張・立証する機会が制度的に保障されています。
刑事事件の分類別リスク
どの程度の刑事事件か(軽微なもの、業務関連、重大犯罪など)によって、処分リスクや量刑・免許への影響が変わってきます。
刑事行為の種類 | 免許処分リスクの目安 | 考慮要素・典型的判断パターン |
---|---|---|
軽微な交通違反、軽犯罪(罰金未満) | リスクは低い | 「罰金以上の刑」が処分対象であるため、軽微な事案は処分対象外とされやすい |
罰金刑以上の有罪判決 | 処分対象となる可能性が高い | 被処分者の反省状況や再発防止策、被害者との示談、業務関連性などを考慮される |
看護師業務と関連する違法行為(業務上横領、薬剤不正使用、説明義務怠慢、暴行等) | 高リスク | 看護師業務との因果関係・職業倫理性・信頼性の損傷度合いが重視される |
性犯罪、重大暴力犯罪(傷害、強制性交等、殺人など) | 非常に高いリスク | 社会的信頼失墜性・被害の重大性・職業的品位損傷性が強く問われ、免許取消の可能性が大きい |
薬物犯罪(覚醒剤、麻薬等) | 非常に高いリスク | 医療業務に不可欠な信頼性・健康責任性を侵す行為と判断されうる事例が多い |
実際、看護師等に対する行政処分の実績を集計した研究では、2001~2020年度で看護師364名(合計で保健師・助産師含め404名)が処分を受けており、年平均で約20名弱が行政処分対象になっています。
また、ニュース事例でも、覚せい剤取締法違反、傷害、ストーカー規制法違反などで免許取消を受けた看護職の例が複数報じられています。
実際に生じうる問題・リスク
刑事事件を起こすことによって、看護師免許・業務に関して具体的にどのような問題が起こりうるかを挙げておきます。
- 免許取消または停止
最悪の場合、看護師免許が取り消され、以後看護師として業務できなくなる可能性があります。あるいは、一定期間(3年以内)の業務停止処分がなされることがあります。 - 業務停止(期間制限)
免許取消までは至らないが、一定の期間看護業務を停止させられる処分がなされ得ます。過去には業務停止3年の事例もあります。 - 戒告
最も軽い処分として、行為の非難・戒めとしての「戒告」がなされることがあります。刑事的には有罪にはなったが、処分としては最軽度にとどめられた例です。 - 行政指導(厳重注意)
刑事事件とまでは言えない、あるいは処分に至るほどではない事案に対し、行政的注意や指導として「厳重注意」がなされることがあります。医道審議会の答申例として、一部事案は処分ではなく行政指導とされた例があります。 - 再教育研修命令
処分を受けた看護師に対して、行政処分と一体で再教育研修を命じられることがあります。これは看護師の職務遂行能力や倫理意識の回復を図る目的です。 - 社会的・職業的信用喪失
免許処分とは別に、勤務先や患者、同僚からの信頼を失い、解雇や就職困難、配置転換、昇進停止といった不利益を被る可能性があります。 - 再取得・再登録の難しさ
免許取消となった後、再度免許を取得する(再交付を申請する)ことは制度上可能であるケースもありますが、実際には許可されにくい、要件が厳しい、長期の欠格期間が課せられるなどのハードルがあります。
判断に影響を与える要素・“情状”要因
看護師が刑事事件で有罪となったとしても、どの処分が選ばれるか、また処分の重さがどうなるかは一律ではなく、多くの情状要素が考慮されます。主なものを挙げると:
- 犯行の動機、態様(悪質性、反復性、計画性など)
- 被害の程度、被害者救済・示談状況
- 看護師業務との関連性(業務行為中/業務外かどうか)
- 被処分者の年齢・勤務年数・これまでの勤務態度・職務実績
- 反省・更生意欲、再発防止策の有無
- 社会的影響度・信頼性の侵害度
- 適切な弁明聴取など、本人主張・証明書面の充実度
これらの要素をもとに、医道審議会は個別事案を審議・答申を行います。
看護師が刑事事件を起こした場合、最も重大なリスクは看護師免許の取消しですが、それ以前段階として業務停止、戒告といった処分がありえます。処分に至るか、また処分が軽重どこまでかは、事件の性質、業務との関係性、被害・反省の有無、社会的信頼の喪失度合いなどによって変動します。
したがって、仮に刑事的に起訴されそうあるいは既に起訴されている段階であれば、早期に適切な弁護士を介して被害者との示談交渉、反省・更生計画提示、証拠整備などを行い、免許処分リスクを最小化する対応が極めて重要となります。
税理士の懲戒処分について

■ 懲戒処分の概要
税理士が職務上の義務に違反した場合や、税理士としての品位を損なう行為をした場合などには、「税理士法」に基づき、懲戒処分が科されることがあります。
■ 懲戒処分の種類(税理士法第44条)
税理士に対する懲戒処分には、以下の3種類があります:
- 戒告(かいこく)
注意・警告を与える最も軽い処分。 - 業務停止(最長2年)
一定期間、税理士業務を行うことを禁止する処分。 - 税理士業務の禁止(免許取消)
税理士としての資格を失う最も重い処分。
■ 懲戒処分の手続の流れ
懲戒処分に至るまでの基本的な流れは以下の通りです。
1. 【事案の発覚・通報】
- 税理士本人の行為について、以下のような経路で問題が把握されます:
- 税務署や国税局などの調査による発覚
- 顧客や関係者からの苦情・通報
- 税理士会による内部通報
- 裁判結果や刑事事件の報道
2. 【調査・審査】
- 税理士が所属する税理士会が調査を行う場合があります。
- また、国税庁・国税局が独自に調査を行う場合もあります。
- 調査では、事実関係の確認、関係書類の収集、関係者への聞き取りなどが行われます。
3. 【国税局長または国税庁長官への報告】
- 調査結果を踏まえ、懲戒に相当すると判断される場合には、
- 所属税理士会または
- 調査を行った国税局
が、国税局長または国税庁長官に報告します。
4. 【聴聞、弁明の機会の付与(行政手続法)】
- 懲戒処分を行う前に、当該税理士に対して聴聞又は弁明の機会が与えられます。
- 書面または口頭で、自らの行為について説明・反論を行うことができます。
5. 【懲戒処分の決定と通知】
- 国税局長または国税庁長官が懲戒処分の内容を決定し、当該税理士に通知します。
- 業務停止や業務禁止の場合は、処分の内容と期間が明記されます。
6. 【公表】
- 懲戒処分を受けた税理士の氏名・処分内容・理由などは、官報に掲載され、公にされます。
■ 処分後の対応・影響
- 業務停止中は税理士業務が一切できず、違反すれば刑事罰の対象になります。
- 業務禁止処分の場合は税理士登録が抹消され、再登録には制限があります。
- 懲戒処分の履歴は一定期間残り、再登録や就職活動に影響する可能性があります。
■ 不服申立て(行政不服審査)
- 税理士は、懲戒処分に不服がある場合には、行政不服審査法に基づく審査請求や、行政訴訟を提起することが可能です。
■ まとめ
手続段階 | 内容 |
---|---|
① 事案発覚 | 通報や調査で問題行為が判明 |
② 調査・審査 | 税理士会や国税局が調査 |
③ 上申 | 国税庁に報告される |
④ 弁明 | 税理士に反論の機会が与えられる |
⑤ 処分決定 | 国税庁長官または局長が処分 |
⑥ 公表 | 官報に掲載される |
【弁護士が解説】看護師が万引きで検挙されるとどうなるのか
【事例】
看護師であるAさんは、ある日出来心からついスーパーで万引きしてしまいました。
すぐに警備員に発見されたAは、その場で検挙されてしまい警察署に連れていかれました。
この時、Aさんにはどのようなことが起きるのでしょうか。
【解説】
Aさんが起こした「万引き」というのは、刑法では窃盗と呼ばれる罪に該当します。
そのため、窃盗罪として処分を受けることになりますが、最終的に処分を決めるのは「検察庁」です。一般的な万引きの場合、初犯や2回目までであれば、示談をすることで不起訴処分となることもありますが、3回目以降となると何らかの刑事罰を受ける可能性が高いと言えます。
次に、Aさんのような看護師は、多くの場合病院に勤務していると思われます。万引きをしたことにより、勤務先から何らかの処分を受ける可能性があります。この処分の内容は、勤務している場所が国公立の施設か、民間の施設であるかによって大きく異なります。国公立の施設である場合、懲戒処分という形で戒告・減給・停職・免職というような処分を受けます。民間の施設の場合も、解雇や出勤停止、減給といった処分を受ける可能性があります。
最後に、Aさんの看護師免許です。看護師免許については、
一 罰金以上の刑に処せられた者
二 前号に該当する者を除くほか、保健師、助産師、看護師又は准看護師の業務に関し犯罪又は不正の行為があつた者
三 心身の障害により保健師、助産師、看護師又は准看護師の業務を適正に行うことができない者として厚生労働省令で定めるもの
四 麻薬、大麻又はあへんの中毒者
が欠格事由として定められており、これらの事由に該当した場合には何らかの処分を受けることがあります。
窃盗罪により罰金以上の刑に処せられると、1号に基づき、戒告、業務停止、免許の取消し等の処分の可能性があります。反対に、不起訴処分であれば通常このような処分はありません。
このように、万引きをしてしまうと看護師であるAさんには様々な不利益が生じてしまいます。もし事件を起こしてしまった場合には、早めに弁護士に相談し、問題を拡大しないようにしましょう。
【弁護士が解説】歯科医師の免許取消がなされている事例はどのようなものか

歯科医師の免許の取消しは、厚生労働大臣が行うこととなっています。
しかし、実際には医道審議会医道分科会が答申を行い、それに従って歯科医師に対する処分がなされています。
そこで、ここ数回の免許取消事例を見てみましょう。日付は分科会の開催日です。
2025年3月19日
・詐欺、歯科医師法違反
上にリンクを貼っている厚生労働省のホームページ上で公開されている歯科医師に対する免許取消は、この1件だけです。
医道分科会では同じように医師に対する処分も答申されていますが、医師についてはこの間多数の免許取消の答申が行われています。
なぜ医師の方が処分が多いのかは判然としませんが、いずれにしても歯科医師に対する免許取消は極めてまれなようです。
ところで、歯科医師法7条の免許取消事由は、「歯科医師が第四条各号のいずれかに該当し、又は歯科医師としての品位を損するような行為があつたときは」となっています。しかし、上で見たように、実際に免許を取り消されている事件は、刑事事件に関係しているものになっています。そのため、単に「品位を損する」というような理由で歯科医師免許が取り消されることはないと考えられます。
また、罪名だけでは事案は判然としませんが、業法違反が免許取消となっています(ただし、診療報酬不正請求事案でも免許停止に留まる事案もあります)。ここからも分かるように、過失運転致傷(交通事故)や道路交通法違反(酒気帯び。ただしひき逃げは重く見られています)の事案では、免許の取消しまでは至らないものと考えられます。
しかし、刑事事件の処分だけで量定をしているわけではなく、被害者がいるような事件では被害者との示談が成立しているか、家族の監督が期待できるかなども考慮要素になっているのではないかと考えられます。ですので、刑事事件を起こしてしまった場合には、将来の処分に備えるためにも、早期から対応をしておく必要があります。
【弁護士が解説】刑事事件の報道の仕組み
【事例】
医師であるAさんは、ある日痴漢をしたとのことで逮捕されました。
その日の夜のニュースで、Aさんが逮捕されたということが報道されていました。
どうして報道されるのでしょうか。
【解説】
逮捕には、通常逮捕・現行犯逮捕・緊急逮捕と3種類あります。
通常逮捕とは、逮捕状という令状を持って警察官が逮捕しに来る手続のことです。
現行犯逮捕とは、事件が起きた正にその場で逮捕することです。
緊急逮捕とは、一定の重い罪に限って、逮捕状がなく、現行犯でなくとも逮捕できる仕組みですが、緊急逮捕後に事後的に審査が行われます(現行犯逮捕の場合には勾留の手続きまで審査はありません)。
このうち、現行犯逮捕であれば、一般の面前で逮捕されることもありますから、場合によっては人に逮捕されたことが知られる可能性もあります。ただし、その場で氏名を読み上げたりというようなことはありませんので、見ている人からすれば、何処の誰であるかということは必ずしもわかりません。
これに対し、現行犯逮捕と緊急逮捕は警察官が行うもので、人目があるところでやるわけでもありませんから、隣の家の人に気付かれることはあったとしても、それほど多くの人に気付かれることはほとんどありません。
では、なぜ報道機関はどこの誰が逮捕されたというようなニュースを流すことができるのでしょうか。
それは、警察と各報道機関の間で、逮捕した事件等について情報を提供する仕組みになっているからです。よくニュースでは、どこの誰が、何の罪で逮捕され、どのような主張をしているのかが報道されています。特に認否などは、警察官しか知りようがない事実ですから、警察から情報が出ているということが分かるのではないかと思います。
しかし、警察が報道機関に情報を流したとしても、どの事件を報道するかは各報道機関にゆだねられています。
ただ、医師や弁護士、公務員といった職業や、芸能人等であれば、多くの場合報道されることになります。
報道されそうな職種である場合には、予め警察署などに対して報道しないよう申し入れを行うことがありますので、弁護士に相談をしてみてください。
税理士の処分について

1 税理士の登録
税理士は、日本税理士連合会が備える税理士名簿に登録されなければ、税理として活動することができません(税理士法18条以下)。
2 税理士登録の拒否
しかし税理士法24条に定める事由がある場合には、税理士登録をすることができないこととなっています。
一 懲戒処分により、弁護士、外国法事務弁護士、公認会計士、弁理士、司法書士、行政書士若しくは社会保険労務士の業務を停止された者又は不動産の鑑定評価に関する法律第五条に規定する鑑定評価等業務(第四十三条において「鑑定評価等業務」という。)を行うことを禁止された不動産鑑定士で、現にその処分を受けているもの
二 報酬のある公職(国会又は地方公共団体の議会の議員の職、非常勤の職その他財務省令で定める公職を除く。第四十三条において同じ。)に就いている者
三 不正に国税又は地方税の賦課又は徴収を免れ、若しくは免れようとし、又は免れさせ、若しくは免れさせようとした者で、その行為があつた日から二年を経過しないもの
四 不正に国税又は地方税の還付を受け、若しくは受けようとし、又は受けさせ、若しくは受けさせようとした者で、その行為があつた日から二年を経過しないもの
五 国税若しくは地方税又は会計に関する事務について刑罰法令に触れる行為をした者で、その行為があつた日から二年を経過しないもの
六 第四十八条第一項の規定により第四十四条第二号に掲げる処分を受けるべきであつたことについて決定を受けた者で、同項後段の規定により明らかにされた期間を経過しないもの
七 次のイ又はロのいずれかに該当し、税理士業務を行わせることがその適正を欠くおそれがある者
イ 心身に故障があるとき。
ロ 第四条第三号から第十一号までのいずれかに該当していた者が当該各号に規定する日から当該各号に規定する年数を経過して登録の申請をしたとき。
八 税理士の信用又は品位を害するおそれがある者その他税理士の職責に照らし税理士としての適格性を欠く者
3 税理士登録の取消し
そして、7号イに該当する場合を除いて、先ほどの1~8号の事由に該当する場合には、登録が取り消されることとなっています。これは、懲戒処分とは別で、この事由に該当すれば必ず税理士登録が取り消されるというものです。
4 懲戒処分
これに対し、税理士法45条、46条に該当する場合には懲戒処分がなされることになっています。
懲戒処分の内容は戒告、2年以内の税理士業務の停止、税理士業務の禁止の3種類が予定されています。
たとえば、故意に不正確な書類を作成した場合には、税理士業務の禁止又は2年以内の税理士業務の停止が予定されていますが、法文上は「処分をすることができる」となっているため、必ず処分をされるとは限らないこととなっています(実際の運用はこの通りとは限らず、故意の作成は重い処分がなされていると思われます)。この点が先ほどの登録取消しとの違いとなっています。
【弁護士が解説】ケアマネージャーが交通事故を起こすとその資格はどうなるか

【事例】
ケアマネージャーであるAさんは、ある日通勤途中、自動車で交通事故を起こしてしまいました。
幸い被害者の方は全治2週間程度のけがではあったものの、警察の方からは事件を検察庁に送ると言われました。
Aさんはどのような刑事罰を受け、それによってケアマネージャーの資格はどうなるのでしょうか。
【解説】
1 ケアマネージャー資格について
⑴欠格事由
国家資格が何らかの制限(剥奪されたり、効力が一時停止したり)を受けることになる事由のことを「欠格事由」と呼んでいます。欠格事由は、資格を取得するときに問題となっていますが、同様の事由が生じた場合には資格を取消すということになっています。
ケアマネージャーの資格は、介護保険法にその定めがあり、正式名称は「介護支援専門員」となっています。
介護保険法69条の39第1号で「第六十九条の二第一項第一号から第三号までのいずれかに該当するに至った場合」には、都道府県知事は介護支援専門員の登録を消除(削除のことです)しなければならないとしています。
そこで、69条の2第1号から3号を見ると、次のような記載があります。
一 心身の故障により介護支援専門員の業務を適正に行うことができない者として厚生労働省令で定めるもの
二 禁錮以上の刑に処せられ、その執行を終わり、又は執行を受けることがなくなるまでの者
三 この法律その他国民の保健医療若しくは福祉に関する法律で政令で定めるものの規定により罰金の刑に処せられ、その執行を終わり、又は執行を受けることがなくなるまでの者
これがいわゆる欠格事由です。なお、これ以外にも介護保険法では定めがあります。
⑵刑事罰と国家資格
さて、それは本題の刑事罰を受けた場合の資格について検討します。
2号で「禁錮以上の刑」と定められています。刑事罰の重さは死刑>懲役>禁錮>罰金>拘留>科料と定められていますので、禁錮以上の刑は死刑・懲役刑・禁錮刑を指します。反対から言えば、罰金刑であればこの規定に該当しないことになります。つまり、交通事故によって罰金刑を受けた場合や当然ですが不起訴処分になった場合には、資格を取消されたりすることはないということになります。
それでは禁錮刑を受け、その刑に執行猶予が付けられた場合はどうでしょうか。
執行猶予とは、裁判が確定した後すぐに刑務所等に収容されるのではなく、執行猶予期間中無事に過ごせば収容されないという判決です。反面、執行猶予中に再び裁判を受けるようなことがあれば、基本的には刑務所に行かなければならない(もう一度執行猶予になることはほとんどない)という判決です。たとえば「禁錮1年執行猶予3年」という判決の場合、「もし3年間何もせずに過ごすことができれば、刑務所にはいかなく構いません。ただし、3年以内に再び裁判を受けるようなことがあれば、新しく犯した罪の刑罰に、追加して1年刑務所に入ってもらいます」という意味になります。
話を戻すと、交通事故で人をけがさせた場合、余程重大な事情(前科があるとか、飲酒運転であるなど)がない限りは執行猶予がつくことがほとんどです。しかし、先ほどの欠格事由の条文には執行猶予を除外する規程はありませんから、仮に執行猶予がついたとしても資格は取り消されることになります。
交通事故は誰でも起こしてしまう可能性があるものですが、一つ間違えると運転免許以外の資格さえ剥奪されてしまうものになります。これを回避するためには初動の対応が重要です。資格のことでご不安な方は、いち早く弁護士にご相談ください。
【弁護士が解説】薬剤師に対する処分はどのようになされるのか

【事例】
薬剤師であるAさんは、勤務中処方箋を持ってきた患者の態度にイライラしてしまったことから、つい袋を投げてしまいました。
たまたまそのことを同僚に目撃されており、Aさんの行為は暴行罪として警察に被害届が提出されました。
最終的にAさんは罰金10万円を支払っています。
このとき、Aさんの薬剤師免許はどうなるのでしょうか。
【解説】
1 薬剤師に対する行政処分
薬剤師法8条によると「薬剤師が、第五条各号のいずれかに該当し、又は薬剤師としての品位を損するような行為のあつたときは、厚生労働大臣は、次に掲げる処分をすることができる。」とされています。
そして、5条は「一 心身の障害により薬剤師の業務を適正に行うことができない者として厚生労働省令で定めるもの 二 麻薬、大麻又はあへんの中毒者 三 罰金以上の刑に処せられた者 四 前号に該当する者を除くほか、薬事に関し犯罪又は不正の行為があつた者」として、4つの事由を定めています。
3号を見ると「罰金以上の刑に処せられた者」とあります。これは罪名を問いませんので、たとえ職務に関係のない私生活上の出来事で罰金を受けたとしても、薬剤師免許に影響が生じる可能性があります。
2 行政処分の実情
薬剤師に対する行政処分は、医道審議会(薬剤師分科会薬剤師倫理部会)で議論されています。
そして、その処分の内容は、公表されており、おおよそ1年に1回程度まとめて処分が出されていることが分かります。
たとえば、直近の令和7年1月29日の会議では、2名に対して行政処分が出されいます。
一つ一つ見ていくと、Aさんと同じ罪名の「暴行」では、戒告になっているものがあります。
3 Aさんの場合はどうか
Aさんの場合、罪名は暴行と、傷害より軽い罪です。しかし、患者に対する暴行であるため、私生活上の行為よりは重く判断される可能性が高いと思われます。これは行政処分だけではなく、刑事処分を考える上でも同様です。
そのため、免許に対する処分を回避するためには、まず被害者の方に謝罪をし、示談をした上で刑事罰を回避することが必要となります。
公認会計士の処分について

公認会計士となるためには、公認会計士名簿に登録を受けなければなりません(公認会計法17条)。
しかし、この登録が抹消される場合が、21条で定められています。
21条の定めは、大きく2つに分かれていて、1つ目は必ず抹消される場合です。具体的には廃業した場合、死亡したとき、欠格事由に該当するときが定められています。2つ目は、登録を抹消する場合があるとしているもので、多く問題となるものとして、研修を受講していない場合などがこれに当たります。
これらの登録抹消とは別に、公認会計士に対する懲戒も存在します(同29条)。
懲戒処分の種類は戒告、2年以内の業務停止、登録の抹消となっており、こちらでも登録の抹消が掲げられています。
懲戒を受ける理由は、虚偽又は不当の証明を行った場合と、一般の場合で区別されています。虚偽又は不当の証明は、簡単にいえば問題のある財務書類を通してしまった場合です。これに対し、一般の懲戒は、公認会計士法や内閣総理大臣(実際は金融庁)からの指示に従わない場合、著しく不当と認められる業務の運営を行った場合に、懲戒処分ができることになっています。「一般」とはいえ、私生活上のありとあらゆる行為が問題となるわけではありません。
このような公認会計士法上の懲戒処分は、最終的には金融庁によって判断され、処分がなされることになっています。
これに対し、公認会計士会自体でも、自主規制を行っています。個別の事案に対する監査だけではなく、一般的な職業倫理なども定めており、公認会計士会として何らかの処分がなされる事案(たとえば退会の勧告など)もあるようです。しかし、こちらは公認会計士法に明文の規定があるものではなく、一般的な会員に対する監督の一環として行われているものと思われます。
仮に公認会計士の方が処分を受けられた場合、いずれの処分であるのかによって争い方が大きく異なります。金融庁の処分であれば、これは行政処分となりますので、不服審査や行政事件訴訟などで争うことになります。これに対し公認会計士会の処分であれば、民事訴訟を提起することになると思われます。
様々な懲戒について
このサイトでは様々な「懲戒」を扱っていますが、その意味合いは文脈によって様々です。
そこで、ここでは「懲戒」という言葉について分類しておこうと思います。
①民間企業における「懲戒」
民間企業で仕事をしているうえで、「懲戒処分」と受けることがあります。
これは企業の労働者への監督権の一環として、懲戒権として認められているものになります。
停職、減給などの様々な処分がありますが、これは労働問題の一環としてなされるものであり、争う場合には労働審判、民事訴訟などで争うことになります。
②公務員の懲戒
公務員も労働者ですが、「懲戒処分」を受けることがあります。
これは地方公務員法、国家公務員法といった公務員に関係する法律により定められているものであり、行政処分の一環として行われるものです。これを争う場合には、人事院、公平委員会等の行政機関に不服申し立てを行った後、行政訴訟を提起することになります。
③医師・看護師の懲戒
医師や看護師に対しても懲戒処分がなされることがあります。
その前に、医師や看護師でも、民間病院や公立病院に勤務している場合があります。この場合、医師や看護師も労働者ですから、①②で見たいような懲戒処分が別途発生する可能性があります。
ここで問題にする医師や看護師に対する「懲戒」は、それらの資格に対する処分です。
罰金以上の刑を受けた場合などには、医師や看護師は何らかの懲戒処分を受けることがあります。これは、厚生労働大臣が個人に対して科すものであり、業務停止などの処分を行うことになっています。
これらの処分は、厚生労働省の医道審議会で検討されるのですが、一時的には都道府県の担当部局が聴き取り等を行います。そのため、都道府県⇒医道審議会と上がって、最終的に厚生労働大臣による処分が行われることになります。
そのため、これらの処分を争う場合にも行政訴訟を提起することになります。
④弁護士に対する懲戒
弁護士に対する懲戒処分は、これらの懲戒処分とは異なります。
まず、申立が認められています。何人でも弁護士に対して懲戒をするよう申し出ることができます。医師に対する懲戒をするように厚生労働大臣に申立てることはできませんので、これは大きな違いです。
次に、処分の第一次的な判断は各弁護士会及び日本弁護士連合会によってなされるというところにあります。たとえば、医師による処分は厚生労働大臣によってなされますが、これに対して不服の訴えを提起する場合には、地方裁判所に訴訟提起することになりますしかし、弁護士会の処分に不服がある場合には日本弁護士連合会に不服申立てをし、その処分にも不服がある場合には東京高等裁判所に訴えを提起することになっています。日弁連が第一審的な役割を果たすことになっています。
弁護士に対する懲戒処分は、いずれにしても資格に対するものになっています。また、官報に公告されることになっているので、必ず氏名などが公になります。公務員に対する処分も公表されていますが、氏名などまで公表されている例は多くなく、この点でも異なります。
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