Archive for the ‘懲戒処分’ Category
【弁護士が解説】弁護士費用の未精算はどのような問題を生じさせるか
【事例】
X弁護士は、Aさんから交通事故損害賠償事件(被害者側)の依頼を受け、保険会社との交渉に当たり、保険会社から保険金を受領しました。
X弁護士がAさんから依頼を受けた当初、Aさんが被害者であることは明らかであり、それなりまとまった金額を受領できることが予想されたことから、委任契約締結時にはX弁護士は費用を貰わず、保険会社から取得出来た金額に対する一定の割合を報酬として差し引き、残った金額をAさんに渡すという契約を締結していました。
X弁護士は、保険会社との示談交渉が完了し、保険金の受領が終了したにもかかわらず、Aさんに保険金の一部の支払いをしないままでいました。このようなことはどのような問題を生じさせるでしょうか。
【解説】
「自由と正義」の末尾に、懲戒の事例が掲載されていますが、事案のように預かったお金を返金しないというケースは度々登場します。
弁護士職務基本規程45条によれば、「弁護士は、委任の終了に当たり、委任契約に従い、金銭を清算した上、預り金及び預り品を遅滞なく返還しなければならない。」とされています。保険会社からの保険金は、依頼者のために第三者あら預かったお金ですから、預り金に該当し、終了時に速やかに返金する必要があります。
事例のケースのように、保険金や遺産等のまとまったお金を返金しなかった場合、業務停止などの重い処分も十分予想されます。そのため、速やかに返金をする必要があります。
ところで、仮に返金できない何らかの事情が発生した場合はどうでしょうか。たとえば、依頼者から「今、妻と離婚しそうで、このまま自分の口座に保険金が流れ込んでしまうと、この保険金も遺産分割の対象となってしまう可能性がある。そのため、先生がしばらく預かっておいてください」等と言われた場合には、どうすればよいでしょうか。
この依頼者の述べている内容が法的に正確かどうかは別として、返金ができない事情(病気や行方不明など)がない以上、仮に依頼者側に事情があったとしても規程上は返金すべきでしょう。
医師・看護師・薬剤師等の処分とはどのようなものか?

【事例】
Aさんは、車を運転している最中、交通事故を起こしてしまいました。
今後Aさんにはどのような処分が待っているのでしょうか。
【解説】
事故を起こしてしまったAさんには、この後様々な機関からの呼び出し、事情聴取、処分が出されます。それぞれについてどのような違いがあるのかを検討します。
0 大前提
これから、様々な処分について説明していきます。ただ、その前提として1つ重要な問題があります。
それは、「それぞれの世界は、独立した世界である」ということです。この後説明しますが、刑事の世界と民事の世界は別の世界ですし、一致することも多いですが、刑事の世界と民事の世界の認定が同じでなければならないという決まりはありません。ですので、それぞれが別々に来てしまうことも十分あり得ます。
1 運転免許について
まずはなじみ深い運転免許の処分について考えていきます。ここで当てはまることが、基本的にはそのままあてはまります。
⑴点数
交通違反をすると、点数が引かれます。この点数がたまると免許が取り消されたり、停止されたりすることからも分かるように、これは「都道府県公安委員会」という役所が個人(免許の名義人)に対しておこなう「行政処分」です。
なお、免許センターに行けば警察官の服装をした方がいますが、⑵で出てくる警察官とは似ているようで違う存在です。
⑵刑事罰
交通事故を起こし、相手方が負傷すると過失運転致傷罪という犯罪が成立しえます。
警察は事件を捜査し、捜査を終えると「検察庁」という役所に送ります。
そして、検察官が起訴するか不起訴にするかを決定し、起訴されると裁判を受けることになります。
起訴後、裁判官が判決を下すことになりますが、罰金、執行猶予付き懲役・禁錮等、刑事罰を受けると、いわゆる前科がつくことになります。
これがいわゆる「刑事事件」です。
⑶賠償責任
事故で被害者がけがをしたり、相手の車がへこんだような場合には、賠償をする義務があります。
ただ、現在ではほとんどの方が任意保険に入られ、賠償については保険で対応されていると思われます。
この、金銭での賠償等についてのやり取りが「民事事件」です。⑴⑵との違いは、役所が登場せず、個人と個人でのやり取り(ただし保険会社が代理する)になるという点にあります。
⑷まとめ
以上の様に、1つの事故で「行政」「刑事」「民事」の3つの問題が発生します。これを念頭に置いて、今度は免許の方を検討します。
2 資格について
それでは、交通事故を起こしたとして、資格はどうなるのでしょうか。医師、歯科医師、看護師、薬剤師などは基本的には同じですので、ここからは医師を例に解説します。
⑴行政処分
医師などの資格は、基本的には厚生労働大臣から与えられた免許という形をとっています。
反対に、医師の資格を奪うときも、厚生労働大臣による処分という形式をとります。
医師法7条
医師が第四条各号のいずれかに該当し、又は医師としての品位を損するような行為のあつたときは、厚生労働大臣は、次に掲げる処分をすることができる。
一 戒告
二 三年以内の医業の停止
三 免許の取消し
このように、医師に対して、医師という資格自体を左右する処分を与えることができるのは厚生労働大臣に限定されており、これは「行政処分」ということになります。
⑵雇用関係
医師などのうち、多くの方はいずれかの医療機関に雇用されていると思われます。
そうすると、交通事故を起こしたことにより、医師免許自体に関わらず、職場を追われる可能性があります。
ただ、これがどのような事件となるかは、現在どのような医療機関に勤務しているかにより異なります。
たとえば、市民病院のような国立・公立の病院の場合、任命権者が市長などの首長になっていることがあります。そうすると、反対にクビ(免職と呼びます)にする場合も首長がクビにすることになりますから、「役所」が対立当事者として登場するので、「行政処分」となります。
これに対して、民間の病院に勤務している場合、理事長・院長であってもあくまでも「民間人」ですから、こちらは個人と個人の間の問題となりますので「民事事件」になります。
3 事件の種類
このように、民事、刑事、行政と様々な種類の手続きが登場するケースがあります。
この場合、それぞれの事件ごとに、手続のルールが異なり、結論が異なる場合もあります。
そのため、争うことを検討されるような場合には、予め専門家に相談し、何をどのように争えるのか検討しておくことが肝要です。
【弁護士が解説】相手方との交渉の際、許される言動はどの程度であるか

【事例】
X弁護士は、Aから、自身の配偶者BがCと不貞関係にあるとの相談を受けた。相談の結果、AはCに対して慰謝料請求をするということになったが、その時点でもAとBの間の婚姻関係は破綻しているとはいえなかったほか、BとCの間に不貞行為があるという証拠が具体的にある状況ではなかった。
このような状況で、X弁護士は、Cの1000万円の慰謝料を請求する旨の受任通知を送るとともに、Cの携帯電話に複数回電話をした上で、Cの勤務先にも電話をした。そして、折り返しをしてきたCに対して、1000万円の慰謝料を請求した上で、仮に応じなかった場合にはCの上司に通告する旨を伝えるなどした。
X弁護士の対応に問題はないか。
【解説】
1 弁護士の義務
弁護士である以上、法令や証拠に基づき主張をするべきなのは半ば当然です。もちろん、相談時点では事実関係が明らかではなく、当事者の一方の主張を聞いた結果、(結果的に見れば)一方的な主張となってしまうこともありますが、これはあくまでも結果論であり、やむを得ない面もあります。
ただ、明らかに証拠が不足している状況で、断定するような形で主張をするということは許されません。
今回のX弁護士の例の場合、婚姻関係の破綻がない以上、不貞慰謝料請求をすることになり、不貞の証明をする必要があります。ただ、Aの一方的な主張のみであり、他に根拠がないという状況では、慰謝料請求が認められる可能性はほとんどありません。せめて、婚姻関係が破綻していないのであれば、Bから話を聞き、不貞の事実を確認することは可能であったはずです。にもかかわらず、この段階で不貞慰謝料請求権の存在を前提としてCに交渉していくことは不適切と評価される可能性があります。
2 不安をあおる言動
さて、X弁護士は、Cに対して1000万円の慰謝料請求を行っています。
婚姻関係が破綻したという事例での慰謝料請求であったとしても、この金額が裁判所によって認定されるとは通常考えられません。もちろん、算出方法等によって金額が高めになったり低めになったりすることはあり得ますが、今回の金額はあまりにも高額です。このような高額の請求を受けたCからすれば、相当不安を感じるはずです。
また、X弁護士は何度もCに電話をしています。もちろん交渉のために電話をすることは否定できませんが、あまりにも回数が多いようであれば、着信履歴の状況からしてもCは不安を感じると思われます。
弁護士として相手方と交渉をすることは当然ですし、一方の代理人の立場として交渉をする以上、客観的な事実や、当然予想される帰結(たとえば「裁判になったら、弁護士さんを通常雇うことになり、お金と手間と時間がかかります」など)を告げることには問題がないと思われますが、それ以上のことについては余程の証拠がなければ告げること自体も危険であると言えます。
3 脅迫的言辞
最後に、X弁護士は、Cの勤務先の上司に通告する旨を述べています。Cの行為は当然私生活上の行為であり、Cの仕事とは関係ありません。にもかかわらずこれを職場に告げるというのは、脅迫的な下農であり、弁護士として許されるようなものではありません。
このような脅迫的言辞は、弁護士として当然認められるものではありませんし、悪質なものであると認定されます。もちろん、事実としてそういうことになるということを告げることは問題ありません。たとえば、(今回の事案では問題がありそうですが)「慰謝料の支払いを裁判所に命じられることになり、それを支払わなかった場合には、給与について裁判所から差押えの命令が会社に行き、会社に裁判を起こされたことが分かってしまう」というのはあり得る結末の1つであり、弁護士であれば通常想定する手段だとは思いますが、一般の方からすると脅されているように感じると思われます。このような言動まで脅迫であると認定されることはないと思われますが、それでも表現や言い方などの点には注意を要します。
弁護士同士でも注意が必要ですが、そうでない方を相手に交渉を行う場合、弁護士の世界の常識が当然通用するわけではありません。表現や言葉遣いには十分注意をして交渉を行う必要があります。
【弁護士が解説】接見室内で被疑者・被告人に電話をさせるとどのようになるか

【事案】
X弁護士は、Aの国選弁護人として選任され、Aが逮捕されているB警察署で接見を行っていた。
Aはいわゆる特殊詐欺で逮捕され、他にも共犯がいると考えられるほか、接見等禁止決定が付されていた。
面会中、AはXに対して、「先生は面会室に携帯電話を持ってきていますよね。俺の彼女とどうしても話がしたいから、先生が電話をかけて、アクリル板越しに電話機を近づけて、電話で話をさせてくれませんか」と依頼を受けた。
このような依頼を受けて問題はないだろうか。
【解説】
1 面会室内での電子機器の利用について
警察署や拘置所で接見を行う際、携帯電話を預けるように言われることがあるほか、パソコンなどの電子機器を利用する際には事前に申し出るように言われることがあります。また、このような指示に従わなかった場合、面会の中が注されるといったケースもあるようです。
このような取り扱いに対し、日弁連は一貫して対抗する姿勢を見せていると思われます。確かに、現在刑事事件では電子データが証拠開示されることも多いところ、仮に電子機器の利用が禁止されるとすれば、電子データを示しながらの本人と話すことができなくなってしまい、防御上の不利益は極めて大きいものとなってしまいます。その他にも、現在はパソコンでメモを取ることもそう珍しいことではありませんから、電子機器の利用一切を禁止しようとする流れには対抗する必要があります。
2 面会室内での電話の利用
しかし、電話(LINE通話なども含みます)機能を使用するという話になると、問題の争点が変わってきます。
弁護士との間では秘密交通権が保障されていますが、これはあくまでも被疑者・被告人と弁護士の間で防御を行うために認められた権利です。そのため、被疑者・被告人と弁護士以外の人物との間での秘密交通が認められているわけではありませんから、弁護士が外部へ電話をかけ、被疑者・被告人とその者を会話させるというようなことは認められません。
今回の事例の場合、Aは特殊詐欺で逮捕されており、他に共犯者がいるということが容易に推察されます。Aが彼女であると称する人物が本当に彼女であるかどうかも分かりませんし、仮に彼女であったとしても事件関係者ではない保証はありません。そうすると、弁護士が罪証隠滅に加担することになる可能性もあります。
また、今回のAには接見等禁止決定が付されています。弁護士以外の者とは面会等をさせないという状態ですから、仮に会いに来たとしても彼女は面会できない状態です。そのような状態にある被疑者・被告人と電話をさせるというのは、接見等禁止決定の趣旨にも大きく反してしまいます。
ですので、仮にこのような依頼があった場合、X弁護士は必ず断らなければなりません。また、これに応じてしまった場合には、業務停止以上の重い処分が予想されます。最近でも類似のケースで処分を受けていることがありますので、注意を要します。
【弁護士が解説】利益相反規定に直接は当てはまらないような場合に受任をすることは可能か

【事例】
X弁護士は、亡Aの遺産相続に関して遺言執行者に選任され、遺言執行を終えた。
ただ、その遺産の中にあった不動産について、Aの相続人のBとCの間で対立があり、Aの遺言上はBが相続するということになっていたのでXもその通り手続きを進め、登記上はBが所有者となったのだが、実際にはCが占有を継続しているような状況となった。
X弁護士は、遺言執行が終了した後、Bから「先生、Cがまだ建物を占拠しているのは納得できないので、先生が私の代理人となってCを訴えてください」との依頼を受けた。
そこで、X弁護士は、Bを代理して、Cに対して明け渡し訴訟を提起した。
【解説】
X弁護士が最初に請け負っていた事件は、遺言執行であり、依頼者はいうなれば亡Aでした。しかし、遺言執行者は特定の相続人の代理人というわけではありませんので、相続人間では公平であるべきです。
実際、東京高判平成15年4月24日によると「遺言執行者は、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の権利義務を有し(民法一〇一二条)、遺言執行者がある場合には、相続人は、相続財産の処分その他遺言の執行を妨げるべき行為をすることができない(同一〇一三条)。すなわち、遺言執行者がある場合には、相続財産の管理処分権は遺言執行者にゆだねられ、遺言執行者は善良なる管理者の注意をもって、その事務を処理しなければならない。したがって、遺言執行者の上記のような地位・権限からすれば、遺言執行者は、特定の相続人ないし受遺者の立場に偏することなく、中立的立場でその任務を遂行することが期待されているのであり、遺言執行者が弁護士である場合に、当該相続財産を巡る相続人間の紛争について、特定の相続人の代理人となって訴訟活動をするようなことは、その任務の遂行の中立公正を疑わせるものであるから、厳に慎まなければならない。」とされており、中立性が要求されています。
本事例と同様の事例において、戒告の処分とした例があります。遺言執行者としての任務が終了したからといって直ちにどのような事件でも受任可能になるというわけではなく、特定の相続人に偏ったものではないかどうかを検討したうえで、弁護士の公平さ(弁護士職務基本規程第5条)に反しないかを検討するべきであると言えます。形式的には利益相反の規程に反しませんが、注意を要します。
【弁護士が解説】弁護士が受任をしてはいけない事件にはどのようなものがあるか
【事例】

X弁護士は、A株式会社の顧問弁護士を長らく務めており、会社の代表取締役Bからの信任も厚かった。
ある日、X弁護士のもとへ、Bから「大変だ。うちの従業員が何かをして逮捕されたらしい。先生が弁護活動してもらえませんか」という連絡があり、実際に警察署に行ってみると、A社に勤務しているCが盗撮の疑いで逮捕されていた。Cに話を聞き、弁護人をどうするのか尋ねたところ、社長の意向に従うということであったので、そのままXがCの弁護人となることになり、AとXの間で委任契約が締結されることとなった。
1 X弁護士として気を付けるべきことはなんでしょうか。
2 後にA社において、Cを懲戒処分とするべきかの議論が行われました。Xのところへも、Bから「C君について、懲戒解雇相当だと思うのが、どうだろう」という質問がありました。Xとしてはどのように対応するべきでしょうか。
【解説】
刑事事件の被疑者、被告人の方に、勤務先の顧問弁護士が面会を行い、そのまま弁護人として選任されるということはそれほど珍しくありません。しかし、注意すべき点があります。
1 守秘義務違反
まず、弁護士には弁護士法上の守秘義務が課せられます。弁護士職務基本規程では「依頼者について」という文言となっていますが、一般的な解釈としてはこの対象は限定されていません。
今回でいえば、委任契約者はBということになりますが、基本的に秘密にしたい事項が多いのはCとなります。また、委任契約の当事者でなかったとしても、XはCの弁護人となりますので、Cに関する秘密は守秘義務の対象となります。
そうすると、Cの秘密は、たとえ委任契約を締結しているのがBであったとしても、Bに対しても口外してはならないということになります。
会社の顧問弁護士が従業員の事件を受けること自体は否定されるものではありませんが、守秘義務の点が問題となりますので注意が必要です。特に、このようなケースでは、C自身が「お金を払ってもらっているのだから話をしなければならない」と勘違いしている可能性も相応にあります。ですので、Cと面会する際には、守秘義務の存在や会社に伝えていい範囲などを十分に確認しておく必要があります。
2 利益相反
Cの性的姿態等撮影被疑事件の弁護人であったXですが、今度はCに懲戒解雇の話が持ち当たっています。
Cの刑事事件と、Cを解雇するという話では、当事者は同じCではあるものの、事件の種類や手続きは全く異なります。このような場合、Xは後の事件である解雇に関わってよいのでしょうか。
弁護士法25条及び弁護士職務基本規程27条、28条には、職務を行い得ない事件が記載されています。いわゆる「利益相反」に関する規制です。
弁護士法25条1項は「相手方の協議を受けて賛助し、又はその依頼を承諾した事件」を受任することを禁じています。
今回の事例で見ると、X弁護士は、①A社の顧問弁護士②Cの弁護人の順番で受任をしていますので、後から出てくるのはCの事件です。しかし、Cを解雇するかどうかという問題は、X弁護士がCの弁護人になってから生じた問題であると言えます。そうすると、契約の順番とは反対となりますが、「Cの弁護人であったXが、Cの解雇について助言できるか」という問題が設定されることになります。
Cの解雇に関する問題の「相手方」は、Cを指しています。ただ、解雇という労働問題と、刑事事件は全く異なる手続きですので、一見すると受任可能なように見えます。しかし、過去の日弁連の決定の中には、事件の同一性は、単なる訴訟物の同一等のみで判断するのではなく、実施的な判断するべきであることが指摘されています。
Cの刑事事件もCの解雇も、いずれもCが盗撮をしたことに端を発しています。そうすると、事実上事件は同一であるといえ、Cの弁護人であったXは、Cの解雇に関する事件について関与しない方が適切であると考えられます。
【弁護士が解説】共犯者双方の弁護人を引き受けるとどのような問題が生じるか

【事例】
X弁護士は、ある窃盗事件を起こしたAから私選の刑事弁護の委任を受け、弁護人として活動していた。窃盗事件の内容は、Aが別の共犯者Bと共謀してカードショップに忍び込み、高価なカードを盗むというものであった。
この事件でAは逮捕されていたが、同時にBも逮捕されているようであった。また、報道によるとAもBも両方とも事件について認めている様子であった。
AとBは元々地元の先輩後輩の間柄であり、AはBの先輩であった。本件事件についても、AがBを誘い、分け前を分配するということでBはしぶしぶ応じるような形で現場についてきていた。
ある日X弁護士がAの面会に行くと、Aから「Bも逮捕されていると聞いている。Bは自分の後輩だし、もとはと言えば自分が誘ったようなものだから、自分が迷惑をかけてしまっている。お金については自分が負担するので、先生がBの弁護士もやってください」と依頼された。
X弁護士はこの依頼に応じるべきであろうか。
【解説】
今回は、共犯事件において、共犯者相互の弁護人になることができるのかという問題となります。
弁護士法や弁護士職務基本規程では、同時に複数人の弁護士となることについて「利益相反」の規定があります。ただ、たとえば弁護士法25条1号では「相手方の協議を受けて賛助し、又はその依頼を承諾した事件」のような定め方をしており、ある事件において依頼者と相手方と双方を受けることなどは禁じていますが、刑事事件共犯者相互についてどのように考えるのかは明らかではないところもあります。
そもそも、刑事訴訟規則29条5項では「被告人又は被疑者の利害が相反しないときは、同一の弁護人に数人の弁護をさせることができる。」と定めており、1人の弁護士が複数人の弁護をすることが想定されています。ただ、こちらでも「利害が相反しないとき」という条件が付されています。
それでは、刑事の場合に「利害が相反する」とはどのような場合を指すのでしょうか。
典型的に問題になりそうなのは、共犯者の一方は認め、片方は否認というケースです。認め事件と否認事件では、事件への対応方針も大きく異なり、特に認めている共犯者の方が否認している共犯者についての関与を自白するような場合には、明らかに一方の行動が他方に不利になっていると言えます。
次に、共犯者双方が認めていたとしても、その間に上下関係や主従関係がある場合です。一方が主導的な役割を果たし、他方が従属的な場合、従属的な者の弁護人となった場合には当然主犯に従っただけであるという弁護活動を展開します。ただ、これは主犯に責任を多く負担させるという主張ですので、主犯から見れば不利益になっているとも言えます。
それでは、両方とも否認をする場合はどうでしょうか。この場合、否認の内容にもよります。たとえば、お互いが「相手方が1人でやった」というような主張であれば利益相反は明らかですが、双方黙秘の場合には表面上は利益相反は明らかではありません。
一般的に、複数人の弁護人を同時に引き受けることには慎重であるべきとされています。それは、弁護活動が時間の経過によりさまざまな変化を見せる以上、たとえ現時点で利益相反の問題が生じていなくとも、将来的に利益相反となる可能性は常に存在するからです。そして、いったん利益相反が顕在化してしまうと、どちらか一方の弁護人を辞任するだけでは足りず、双方の弁護人を辞任するべきであると考えられているため、どちらの依頼者にも迷惑をかけることになってしまいます。
今回の事例では、AとBの間に主従関係があるようです。また、Bの弁護士費用はAが負担すると述べています。このようにお金をAが負担していると、BとしてはAに反抗するような主張をしにくくなる可能性があります。以上のような理由から、X弁護士としては受任を差し控える方が好ましいと言えます。
【弁護士が解説】法令調査義務違反をした場合どのような処分となるのか

【事例】
X弁護士は、Aから労働トラブルについての相談を受けたが、その際同僚からの名誉毀損行為についての相談も受けた。
X弁護士としては、Aが受けた被害が、公衆の面前でAの様子などをバカにするような内容であったため、名誉毀損罪は成立するであろうと考えた。そこで、Aに対して慰謝料の請求ができるということのほか、刑事告訴が可能であるということを伝えました。なお、この名誉毀損発言があった時期は、令和5年4月3日、相談を受けた日は令和6年4月3日であるとします。
X弁護士の行為にはどのような問題があるのでしょうか。
【解説】
前提として、X弁護士の法的判断は正しく、名誉毀損罪は成立するとします。
名誉毀損罪は、親告罪となっています(刑法232条)。そのため、告訴がなければ公訴を提起することはできません。
しかし、「親告罪の告訴は、犯人を知つた日から六箇月を経過したときは、これをすることができない。」とされています。そのため、名誉毀損罪においては、公訴時効とは別に告訴できる期間に制限があるということになります。
冒頭の設例では、Aが犯人を知ったのは、当然同僚であるため事件日です。しかし、Aが相談に訪れたのは、事件から1年後になっています。そのため、親告罪の告訴期限を経過しており、現時点から受任したとしても、告訴をすることはできません。ですので、X弁護士はAに対して誤った説明をしたことになります。
弁護士職務基本規程第37条1項によると、「弁護士は、事件の処理に当たり、必要な法令の調査を怠ってはならない。」とされています。その他に、同規程7条には「弁護士は、教養を深め、法令及び法律事務に精通するため、研鑽に努める。」とされているほか、弁護士法2条にも「弁護士は、常に、深い教養の保持と高い品性の陶やに努め、法令及び法律事務に精通しなければならない。」とされています。
このように、弁護士は法律の専門家として、法令に精通し、法律を調査する義務を負っています。なお、弁護士職務基本規程37条2項は「弁護士は事件の処理に当たり必要かつ可能な事実関係の調査を行うように努める。」となっており、事実調査については努力義務の規程となっていますが、1項は義務づけられているところに違いがあります。
X弁護士は、法律的に誤った回答をしていますので、この法令調査義務に違反していると考えられます。事案の趨勢や勝ち負け等といったことは法令に基づくものではありませんので、見通しが誤っていたこと等はこの規程との関係では問題となりません。しかし、X弁護士のように、法律上不可能(かつ不変)な回答をしてしまったり、上訴等の期限を徒過してしまったような場合には、純粋に法律上の判断でありかつ裁量の余地もないようなものなので法令調査義務違反となってしまいます。
このような場合、戒告以上の処分となる可能性が否定できません。特に、今回のような刑法犯、親告罪の告訴というような比較的単純な法律についての問題であれば、その分処分が重くなってしまいます。
このような事態に陥った場合には、すぐに依頼者に正しい法律の解釈を伝えたうえで、場合によっては委任契約の解除や依頼者との和解等の手段をとる必要があります。また、そもそもこのような事態に陥らないためには、日常的に接する分野以外については直ちに回答せず法令調査をしてから改めて回答する旨伝える等、慎重に対応する必要があります。
弁護士において、法令調査義務は相当重い義務です。ただ、弁護士の信用の源泉となっていますので、処分としても比較的重いものが下されます。依頼者からの懲戒請求があったり、紛議調停申し立てがあったような場合には、一度弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所までご相談ください。
【弁護士が解説】依頼者からの要求は何でもするべきか、その危険性について解説

【事例】
X弁護士は、ある夫婦の妻Aから相談を受け、自身の夫であるBが浮気をしているので何かできることはないかと尋ねられた。
Aが持参してきた調査会社の報告書や、LINEの履歴などから見て、確かにBが不貞行為をしていることとはほとんど確実であると考えたXは、Aに対して離婚や慰謝料の請求を行うことができる旨を説明した。
しかし、Aとしてはそのようなことではとても収まりがつかず、Bの生活をめちゃくちゃにしてやりたいという希望があった。そのためAはXに対し、「あいつのことは絶対に許せない。今の生活ができないようにしてやりたいので、Bの実家や職場に先生から不貞慰謝料請求の内容証明郵便を出してもらいたい」と告げた。
Xはこのようなことに応じてよいだろうか。
【解説】
XにとってAは依頼者となりますので、弁護士職務基本規程第22条の「弁護士は、委任の趣旨に関する依頼者の意思を尊重して職務を行うものとする。」という規律が当てはまります。そのため、Aが希望することについては基本的にその意思を尊重すべきであると言えます。
しかし反面、弁護士である以上、「弁護士は、事件の受任及び処理に当たり、自由かつ独立の立場を保持するように努める。」(同20条)、「弁護士は、良心に従い、依頼者の権利及び正当な利益を実現するように努める。」(同21条)、「弁護士は、名誉を重んじ、信用を維持するとともに、廉潔を保持し、常に品位を高めるように努める。」(同7条)などの規程も定められています。そのため、たとえ依頼者の希望であったとしても、何でもそのまま行ってよいということにはなりません。
今回の事例で考えると、不貞行為をしているということは通常人に知られたくないものであることは間違いありません。また、公になっているようなもでもないですので、いわゆる「秘密」に属することは明らかです。このような秘密について、第三者に口外することは当然守秘義務との関係で問題となります。弁護士職務基本規程23条の秘密保持義務は「依頼者について」の秘密と限定しているものの、弁護士法23条の守秘義務にはそのような限定はありません。この弁護士法23条の守秘義務については、依頼者の秘密に限定されるのか第三者のものも含むのか争いがありますが、日弁連では第三者のものも含むと解釈しています。そのため、今回の事例と同様のケースで、相手方勤務先に離婚事件に関する事実をメールで送信したような事案で弁護士法上の守秘義務違反を認めたケースがあります。
不貞行為があった場合、法的権利として認められるのは離婚や慰謝料の請求が基本的なものです。相手方配偶者の生活環境を破壊するということは、正当な利益ということはできないと考えられますので、これを実現することは、守秘義務違反の問題は別としても基本規程21条や7条の問題を生じさせます。ですので、X弁護士としてはAの依頼を断るべきですし、これで信頼関係が破壊されるようであれば委任契約の解約をする事案ということになります。
今回の事例では、Bの連絡先などが確実に分かっていると言えるケースでしたので、勤務先や実家に連絡をすることが問題となるケースでした。ただ、今回の事例とは異なり、Bの連絡先が勤務先や実家以外全く分からないということは十分あり得ます。そのような場合、弁護士から連絡をすることはやむを得ない場合も存在すると思われます。ただ、そのような場合であっても、事件の内容や弁護士の主張を過度に記載するなどした場合にはやはり同様の問題が生じると思われますので、「連絡が欲しい」程度の簡単な記載に留めるべきであろうと思われます。
【弁護士が解説】委任契約書の不作成はどのような処分となるのか

【事例】
X弁護士は、高校時代からの同級生であるAから債務整理の依頼を受けました。
X弁護士としては、無償で債務整理をするわけではないものの、旧来の友人であるAからの依頼であることから、堅いことはしたくないと考え、委任契約書を作成せず、現金を預り、委任状を作成しました。
X弁護士の行為に問題はないでしょうか。
【解説】
弁護士職務基本規程30条によれば、「弁護士は、事件を受任するに当たり、弁護士報酬に関する事項を含む委任契約書を作成しなければならない。」とされています。そのため、基本的に事件を受任する場合には委任契約書を作成しなければなりません。
ただし、委任契約書を作成しなくてもよい場合もあります。
1つ目は「委任契約書を作成することに困難な事由があるとき」です。この場合、事由が止んだ後作成しなければなりませんが、当面は作成しなくてもよいことになります。どのような場合が「困難な事由」であるかについて特段の解説などは付されていませんが、たとえば病院に入院中でプライバシーが確保できない場合などが考え得ると思われます。
2つ目は、「法律相談、簡易な書面の作成」の場合です。簡単なものである場合には、その場で業務が終了してしまい、報酬も支払われると考えられるので契約書の作成が免除されています。ただ、書面の作成でも複数回の打ち合わせが必要となるもの等の場合には「簡単な」と評価されない可能性がありますので注意が必要です。
3つ目は「顧問契約その他継続的な契約に基づくもの」です。継続的な依頼関係があれば、あえて個別の契約を作成しなくてよいということに基づきます。ただし、顧問契約の対象から外れるようなことを行う場合には、委任契約書の作成を要すると思われます。
いずれにしても「合理的な理由」があれば委任契約書を作成しなくてもよいとされていますが、『解説 弁護士職務基本規程』に明示されているように、旧知の間柄である場合には委任契約書の作成義務は免除されないとされています。ですので、今回のX弁護士の場合には委任契約書の作成義務があることになります。
その上で、契約書作成義務違反に対する処分ですが、弁護士報酬等が明示されるべき契約書作成義務の違反は比較的問題のある違反類型であるとされているようです。ただ、委任契約書を作成しない事例は、比較的期の上の弁護士にみられることや、委任契約書作成義務違反のみで処分を受けることは多くなく、何か他の義務違反も付随している例が多いこともあって、単発でどのような処分になるかは明確ではありません。
ただ、委任契約書作成は基本的な義務ですので、この義務に違反している場合にはほかにも何らかの違反を犯している可能性が高いとも言えます。そのような場合には戒告や業務停止といった処分も十分ありうるところです。
委任契約書の作成が免除されている場合であっても、委任契約書の作成を禁じられているわけではありません。委任契約書であるかどうかは書面の標題のみで決まるものではないので、契約書作成に迷った場合には安全策として何らかの書面を用意しておいた方が良いと思われます。
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