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【弁護士が解説】依頼者との紛争についてはどのように対応すべきか?

2024-07-30

【事例】

 X弁護士は、Aさんから、貸金返還請求訴訟を起こされたとの相談を受けました。

 Aさんが持ってきた訴状や証拠書類を見ると、Aさんが金銭を借りたことは比較的明らかなようでした。また、Aさんに尋ねると、現金を借りたことは事実であり、現在まで返金していないと述べました。

 このような事案であったため、X弁護士は、Aさんに対して、「この事件は、争うと負けてしまう可能性が高いので、分割払いの合意などができないか和解を目指していくのがよいのではないか」と述べ、この説明に納得したAさんと委任契約を締結しました。

 期日が進み、相手方の訴訟追行態度に納得ができなくなったAさんは、突如否認をしたいと言い出しました。しかし、既に自白している事実も多く、X弁護士が難しい旨を述べると、突如としてX弁護士を解任し、弁護士費用の支払いも未払いのままに音信不通となってしまいました。

 このときX弁護士はどのように対応すればよいでしょうか。

【解説】

 弁護士と依頼者の信頼関係が破綻し、途中で委任契約を終了させるということ自体はそう珍しくありません。仮に終了させるにしても、金銭関係をきれいに清算し、後々問題が生じない形で終了できていれば、悩みも少ないと思われます。

 しかし、事例のように、突如解任され、報酬も未払いであった場合、弁護士としてどのように対応するべきか苦慮することになります。

 ここで、報酬未払いを理由として民事訴訟(調停も含みます)を起こした場合、どのような問題が生じるか考えてみましょう。

 通常、弁護士が委任契約を締結している以上、相手方の氏名や住所、電話番号といった基本的な個人情報は知っていると思われます。そのため、郵便を発送したり、訴状を作成することについては困難はないと思われます。

 ただ、訴状を作成すると、委任契約書を証拠として提出する必要があることは当然のこと、受任していた事件の推移や、解任されるに至った経緯など、「職務上知り得た秘密」(弁護士法23条)を書面に記載することになる可能性は高いと思われます。また、民事事件の記録はだれでも閲覧可能ですので、記録を閲覧した第三者に、元々の受任事件の内容を知られることになります。

 そのため、弁護士が元依頼者を訴えるということは、仮に報酬請求訴訟であったとしても、守秘義務の観点からそう簡単に肯定されるものではありません。

 このような観点から、各弁護士会には紛議調停委員会などの、依頼者との紛争を解決する機関が設置されています。弁護士職務基本規程26条では「弁護士は(中略)紛議が生じたときは、所属弁護士会の紛議調停で解決するように努める。」とされており、紛議調停委員会の利用を促しています。こちらであれば、非公開であることや、開示する相手も弁護士であることなどから、守秘義務違反の問題は少ないものと思われます。

医師・看護師・薬剤師等の処分とはどのようなものか?

2024-07-23

【事例】

Aさんは、車を運転している最中、交通事故を起こしてしまいました。

今後Aさんにはどのような処分が待っているのでしょうか。

【解説】

事故を起こしてしまったAさんには、この後様々な機関からの呼び出し、事情聴取、処分が出されます。それぞれについてどのような違いがあるのかを検討します。

0 大前提

 これから、様々な処分について説明していきます。ただ、その前提として1つ重要な問題があります。

 それは、「それぞれの世界は、独立した世界である」ということです。この後説明しますが、刑事の世界と民事の世界は別の世界ですし、一致することも多いですが、刑事の世界と民事の世界の認定が同じでなければならないという決まりはありません。ですので、それぞれが別々に来てしまうことも十分あり得ます。

1 運転免許について

 まずはなじみ深い運転免許の処分について考えていきます。ここで当てはまることが、基本的にはそのままあてはまります。

⑴点数

 交通違反をすると、点数が引かれます。この点数がたまると免許が取り消されたり、停止されたりすることからも分かるように、これは「都道府県公安委員会」という役所が個人(免許の名義人)に対しておこなう「行政処分」です。

 なお、免許センターに行けば警察官の服装をした方がいますが、⑵で出てくる警察官とは似ているようで違う存在です。

⑵刑事罰

 交通事故を起こし、相手方が負傷すると過失運転致傷罪という犯罪が成立しえます。

 警察は事件を捜査し、捜査を終えると「検察庁」という役所に送ります。

 そして、検察官が起訴するか不起訴にするかを決定し、起訴されると裁判を受けることになります。

 起訴後、裁判官が判決を下すことになりますが、罰金、執行猶予付き懲役・禁錮等、刑事罰を受けると、いわゆる前科がつくことになります。

 これがいわゆる「刑事事件」です。

⑶賠償責任

 事故で被害者がけがをしたり、相手の車がへこんだような場合には、賠償をする義務があります。

 ただ、現在ではほとんどの方が任意保険に入られ、賠償については保険で対応されていると思われます。

 この、金銭での賠償等についてのやり取りが「民事事件」です。⑴⑵との違いは、役所が登場せず、個人と個人でのやり取り(ただし保険会社が代理する)になるという点にあります。

⑷まとめ

 以上の様に、1つの事故で「行政」「刑事」「民事」の3つの問題が発生します。これを念頭に置いて、今度は免許の方を検討します。

2 資格について

 それでは、交通事故を起こしたとして、資格はどうなるのでしょうか。医師、歯科医師、看護師、薬剤師などは基本的には同じですので、ここからは医師を例に解説します。

⑴行政処分

 医師などの資格は、基本的には厚生労働大臣から与えられた免許という形をとっています。

 反対に、医師の資格を奪うときも、厚生労働大臣による処分という形式をとります。

医師法7条

医師が第四条各号のいずれかに該当し、又は医師としての品位を損するような行為のあつたときは、厚生労働大臣は、次に掲げる処分をすることができる。

 戒告

 三年以内の医業の停止

 免許の取消し

 このように、医師に対して、医師という資格自体を左右する処分を与えることができるのは厚生労働大臣に限定されており、これは「行政処分」ということになります。

⑵雇用関係

 医師などのうち、多くの方はいずれかの医療機関に雇用されていると思われます。

 そうすると、交通事故を起こしたことにより、医師免許自体に関わらず、職場を追われる可能性があります。

 ただ、これがどのような事件となるかは、現在どのような医療機関に勤務しているかにより異なります。

 たとえば、市民病院のような国立・公立の病院の場合、任命権者が市長などの首長になっていることがあります。そうすると、反対にクビ(免職と呼びます)にする場合も首長がクビにすることになりますから、「役所」が対立当事者として登場するので、「行政処分」となります。

 これに対して、民間の病院に勤務している場合、理事長・院長であってもあくまでも「民間人」ですから、こちらは個人と個人の間の問題となりますので「民事事件」になります。

3 事件の種類

 このように、民事、刑事、行政と様々な種類の手続きが登場するケースがあります。

 この場合、それぞれの事件ごとに、手続のルールが異なり、結論が異なる場合もあります。

 そのため、争うことを検討されるような場合には、予め専門家に相談し、何をどのように争えるのか検討しておくことが肝要です。

【弁護士が解説】組織内弁護士が、自身の組織内で違法な行為が横行していることを発見した場合にはどのように対応すればよいか

2024-07-16

【事案】

 X社は、インフラ部門で大きな利益を上げ、業界最大手に数えられていた。

 しかし、X社内部では、実は不正な取引が行われており、その結果見かけ上利益が大きくなっているような状況であった。X社では、自社の商品をグループ企業に買い注文をさせ、あたかも売買が成立したかのように装いそれを売却したことにしていた。しかし、実際にはグループ内での売買であるため、商品自体は一切動いていなかった。このようなスキームを利用し、需要が増大しているように装って単価を上昇させ、利益を上げるという方法が10年以上にわたって続けられていた。

 X社の法務部門にいる弁護士として、このようなスキームを発見した場合にはどのように対応すべきであるか。

【解説】

 事案のスキームは、実際にアメリカで行われたエンロン事件を参考に、簡略化したものになります。

 そして、このエンロン事件では、会計事務所や顧問法律事務所も粉飾決算に手を貸し、全体で違法なスキームを継続していたことが明らかになりました。担当していた会計事務所は大手の事務所であったものの、この件により信用を失い、最終的には閉鎖されるに至っています。

 上記の事案では、これと異なり、社内に弁護士がいるという設定になっています。

 近年、弁護士の職域拡大の結果、企業内の弁護士が増加してきました。ただ、企業内の弁護士は、会社に対する義務を負っているのと同時に、弁護士としての義務(倫理)も負っています。

 弁護士職務基本規程50条は「官公署又は公私の団体(弁護士法人を除く。以下これらを合わせて「組織」という)において職員若しくは使用人となり、又は取締役、理事その他の役員となっている弁護士(以下「組織内弁護士」という)は、弁護士の使命及び弁護士の本質である自由と独立を自覚し、良心に従って職務を行うように努める。」と定め、同51条は「組織内弁護士は、その担当する職務に関し、その組織に属する者が業務上法令に違反する行為を行い、又は行おうとしていることを知ったときは、その者、自らが所属する部署の長又はその組織の長、取締役会若しくは理事会その他の上級機関に対する説明又は勧告その他のその組織内における適切な措置をとらなければならない。」と定めています。

 あくまでも、①担当する職務に関するものに限定され、たまたま知った者は含まないこと②法令に違反する行為を行い又は行おうとしている場合に留まり、行うおそれがある場合を含まないこと③内部での適切な措置を求めるにとどまり、外部通報まで求められていないこと等には注意が必要ですが、それでも、組織の一員であるということを理由に、組織の意向をそのまま受け入れてよいということにはなりません。

 ですので、事案のような違法行為に気が付いた弁護士は、法令違反となることを等を説明し、違法行為を行わないよう説得することが必要であると言えます。

【弁護士が解説】会社の顧問弁護士をしているときに、会社の役員・従業員とはどのような関係になるのか

2024-07-09

【事例】

 X弁護士は、長年にわたり株式会社Aの顧問弁護士を務めてきており、代表取締役を含む役員らの日常の相談や、会社の経営等について相談に乗ってきた。

⑴役員パターン

 しかし、あるとき、会社役員と株主の間に深刻な利害対立が生じ、役員らは株主代表訴訟を提起されるに至った。

 そのため、役員らは訴訟代理人を選任する必要が生じたが、これに普段から会社のことをよく知っているX 弁護士が適任ではないかという話が持ち上がった。

⑵従業員パターン

 あるとき、従業員のBが逮捕されたという報道がなされた。A社としても早急に対応する必要があったことから、X弁護士に依頼し、Bに面会してもらうこととした。

 話を聞いたA社幹部らは、Bのことを思い、このままXにBの弁護人になってもらうことを考えた。

 X弁護士として、これらの依頼を受任しても問題はないか。

【解説】

 会社の顧問弁護士を務めている場合、弁護士職務基本規程28条2号の「継続的な法律事務の提供を約している」状態にあるということができます。そのため、「会社」を相手方とする事件を受けることは、同号に該当し、同条但書の場合(依頼者・相手方の双方の同意がある場合)を除いては、職務を行ってはならないことになります。

 ⑴のようなケースの場合、株主代表訴訟の役員側代理人を務めることは、仮に株主=会社であると考えると問題が生じるということになります。たしかに、株主代表訴訟は、個々の株主の直接的利益を満たすものではなく、あくまでも会社の利益を保護するための制度です。その訴訟において、役員側の代理人となることは、会社を相手方にしているのと同じ状況になりますので許されるものではありません。

 しかし、会社法849条により、会社は役員側に訴訟参加することが許されています。そうすると、株主対会社・役員という構図の場合もあり得ますので、このような場合には役員の代理人となることが許されるのではないかという疑問もあります。これについては、『解説 弁護士職務基本規程(第3版)』では消極的な見解が取られています。このケースでも会社の代理人となることは問題ないものの、役員の代理人となることは利益相反の可能性が消滅しないとしています。ですので、受任を差し控える方が良いものと思われます。

 ⑵のケースの場合、会社が依頼者となり、従業員を弁護するというものです。従業員の起こした事件の内容が会社と全く関係ないのであれば、従業員と会社の間には何らの関係もないように思われます。

 しかし、弁護士は弁護士法上の守秘義務を負っていますので、逮捕された従業員から聴取した事項については、本人が同意しない限り会社関係者に告げることができません。対して、会社から顧問弁護士として従業員の処遇について尋ねられた場合には、会社の立場から検討してしまうことになります。こうなると公平性を疑わせる状況になりますので、場合によっては問題化する可能性があります。やはり、知り合いの弁護士に依頼するなどした方が妥当であると思われます。

【弁護士が解説】医師免許の取消処分に対する取消訴訟第一審後にどのようなことができるか

2024-07-02

【事案の概要】

 X医師は、精神科医として、クリニックを開業していた。しかし、X医師が自身の患者である女性ら3名に対し、胸を触るなどのわいせつ行為をしていることが明らかとなり、X医師は第一審の地方裁判所で実刑判決を受けた。しかし、控訴をした結果、X医師には執行猶予が付されることとなり、最終的に執行猶予付きの刑が確定した。

 刑が確定したことから、A県の担当者に調査が行われ、医道審議会に意見書が提出された。同意見書には「X医師は、被害者に対して高額な慰謝料を支払い示談も成立しており、その他贖罪寄付もしている。また、今後も医師として患者のために誠心誠意尽くしたいと考えている」との理由から「X医師は、事件後誠意を尽くして対応しているものと認められます」との意見が述べられた。この意味について、担当したA県によれば、医業停止処分に留める意味合いも含めての意見ではあるが、免許取消処分を望まないという意見までは含まれていなかった。

 このような状況で、厚生労働大臣は、Xの免許を取り消したため、Xが裁判所に訴えを提起した。

(名古屋地裁平成20年2月28日判決の事案を若干改変したもの)。

【解説】

 これから数回にわたり、この事案を元にして、医師免許に対する行政処分の流れや、これに対する争い方を見ていきたいと思います。全体の流れは以下の通りです

・事件から免許取消処分まで

・裁判所への訴訟提起(前々回)

・裁判所の判断方法、争い方(前回)

・判決後(今回)

今回は裁判所の判断が出た後についてお話しします。

1 請求認容の場合

 訴訟を提起した原告の請求が認められた場合、医師免許を取り消した処分は取り消されることになります。この判決に控訴、上告ができることはつぎの2と同じです。

 しかし、勝訴の原因が事実誤認以外であった場合、行政庁が処分をすることは認められても、重すぎるという理由で取り消されていることになります。

 このような場合であれば、別途より軽い処分に変更し、再度処分を行うということが可能です。

2 請求棄却、却下の場合

 原告の請求が認められなかった場合、日本の司法制度は三審制を採用していますから、あと2回裁判官の判断を仰ぐことができます。

 第一審の裁判が行われるのは、全国に50カ所(47都道府県の県庁所在地+函館、釧路、旭川)ある地方裁判所ですが、この地方裁判所の判断については、高等裁判所に「控訴」することができます。控訴審は全国に本庁8カ所(札幌、仙台、東京、名古屋、大阪、高松、広島、福岡)、支部6カ所(秋田、金沢、岡山、松江、宮崎、那覇)ある高等裁判所に係属し、3人の裁判官により判断がなされます。ただし、日本の裁判のルールでは、改めて高等裁判所の裁判官が判断するというよりは、第一審の地方裁判所の書類を全て高等裁判所が引き継ぎ、その上で判断するという形になります。

 高等裁判所の判断については、「上告」ができます。この上告は、日本に1カ所しかない最高裁判所に対して再考を求めるものです。最高裁判所は全部で15人の裁判官がいますが、15人全員で開く大法廷事件と、5人1組で合計3つある小法廷事件(第1、2,3小法廷があります)があります。通常の事件は小法廷で判断されますが、憲法上の重大な要素を含む場合などには大法廷で判断されることもあります。なお、最高裁判所が、高裁の判断を変更しない場合には特に何もなく上告棄却の処理がなされますが、高裁の判断を変更する可能性がある場合には、事前に弁論期日が開かれ、最高裁判所で直接手続きが行われるという慣習があります(刑事の一部事件などは除きます)。

3 裁判確定後

 控訴、上告ができる期限が経過すると、裁判が確定します。確定すると、請求認容判決の場合には当然に処分が取り消されますし、請求棄却の場合には処分が確定します。この場合、同じ理由でもう一度裁判を起こすことは双方ともできません。ですので、確定してしまうともう裁判で争うことができませんから、控訴・上告期間内に必ず手続きを行う必要があります。2週間とそれほど長い期間ではありませんので、ご注意ください。

【弁護士が解説】医師免許取消処分の取り消し訴訟ではどのようなことが行われるか

2024-06-25

【事案の概要】

 X医師は、精神科医として、クリニックを開業していた。しかし、X医師が自身の患者である女性ら3名に対し、胸を触るなどのわいせつ行為をしていることが明らかとなり、X医師は第一審の地方裁判所で実刑判決を受けた。しかし、控訴をした結果、X医師には執行猶予が付されることとなり、最終的に執行猶予付きの刑が確定した。

 刑が確定したことから、A県の担当者に調査が行われ、医道審議会に意見書が提出された。同意見書には「X医師は、被害者に対して高額な慰謝料を支払い示談も成立しており、その他贖罪寄付もしている。また、今後も医師として患者のために誠心誠意尽くしたいと考えている」との理由から「X医師は、事件後誠意を尽くして対応しているものと認められます」との意見が述べられた。この意味について、担当したA県によれば、医業停止処分に留める意味合いも含めての意見ではあるが、免許取消処分を望まないという意見までは含まれていなかった。

 このような状況で、厚生労働大臣は、Xの免許を取り消したため、Xが裁判所に訴えを提起した。

(名古屋地裁平成20年2月28日判決の事案を若干改変したもの)。

【解説】

 これから数回にわたり、この事案を元にして、医師免許に対する行政処分の流れや、これに対する争い方を見ていきたいと思います。全体の流れは以下の通りです

・事件から免許取消処分まで(前々回)

・裁判所への訴訟提起(前回)

・裁判所の判断方法、争い方(今回)

・判決後

今回は裁判所の判断方法についてお話しします。

1 行政庁の裁量

 行政事件訴訟法では、裁量処分について裁判所が行政処分を取り消すことができる場合について、30条で「行政庁の裁量処分については、裁量権の範囲をこえ又はその濫用があつた場合に限り、裁判所は、その処分を取り消すことができる。」と定めています。

 裁量処分とは、処分を行うかどうか、行うとしてどの程度の処分にするかについて行政庁に裁量がある処分を指しています。医師法の場合、7条1項で「医師が第四条各号のいずれかに該当し、又は医師としての品位を損するような行為のあつたときは、厚生労働大臣は、次に掲げる処分をすることができる。」としていますので、医師免許の取消しや業務停止は裁量処分となります。

 裁判所で処分の取り消しをが認められるのは、裁量権の逸脱や濫用があった場合に限られます。なお、処分についての瑕疵が重大であり、瑕疵があることが明白な場合には、処分が無効となります。

2 裁量権の審査

 裁判所は、裁量処分について次の通り判断します。

厚生労働大臣がその裁量権の行使としてした医師免許の取消し又は医業の停止を命ずる処分は,それが社会観念上著しく妥当性を欠いて裁量権を付与した目的を逸脱し又はこれを濫用したと認められる場合でない限り,これを違法ということはできない」(上記名古屋地裁判決)。

 あまり具体的なことを言っていないようにも思われますし、要件等が明らかにされているわけではありません。ただ、これまでの裁判例の傾向だと

・考慮すべき事項を考慮せず、考慮すべきでない事項を考慮したような場合

・処分をした前提に事実誤認がある場合

・平等原則が比例原則に反する処分の場合

などに裁量権の逸脱濫用が認められる傾向にあります。

3 争い方

 上記の通り、裁判所が処分を違法であると取り消してくれる場合には、一定の類型があります。

 ところで、医師、歯科医師の行政処分については、厚生労働省が「医師及び歯科医師に対する行政処分の考え方」というものを公表しています。

 ここには、具体的な罪名や類型を挙げつつ、このような場合にはどの程度の処分となるか、処分を加重・軽減する事情が何かということについて記載があります。

 この記載は、行政庁が内部的に定めた処分指針にすぎませんので、裁判所を拘束するものではありません。しかし、裁判所としては、この考え方に合致しているか、考え方内の他の処分との間で均衡がとれているかなどを審査しています。そのため、裁判所で争う場合のベースになるような基準ですので、基本的にはこの考え方への該当性や、考慮すべき軽減事項等を主張していくことになります。

【弁護士が解説】医師免許に対する処分についてどのような対応が可能であるか

2024-06-18

【事案の概要】

 X医師は、精神科医として、クリニックを開業していた。しかし、X医師が自身の患者である女性ら3名に対し、胸を触るなどのわいせつ行為をしていることが明らかとなり、X医師は第一審の地方裁判所で実刑判決を受けた。しかし、控訴をした結果、X医師には執行猶予が付されることとなり、最終的に執行猶予付きの刑が確定した。

 刑が確定したことから、A県の担当者に調査が行われ、医道審議会に意見書が提出された。同意見書には「X医師は、被害者に対して高額な慰謝料を支払い示談も成立しており、その他贖罪寄付もしている。また、今後も医師として患者のために誠心誠意尽くしたいと考えている」との理由から「X医師は、事件後誠意を尽くして対応しているものと認められます」との意見が述べられた。この意味について、担当したA県によれば、医業停止処分に留める意味合いも含めての意見ではあるが、免許取消処分を望まないという意見までは含まれていなかった。

 このような状況で、厚生労働大臣は、Xの免許を取り消したため、Xが裁判所に訴えを提起した。

(名古屋地裁平成20年2月28日判決の事案を若干改変したもの)。

【解説】

 これから数回にわたり、この事案を元にして、医師免許に対する行政処分の流れや、これに対する争い方を見ていきたいと思います。全体の流れは以下の通りです

・事件から免許取消処分まで(前回)

・裁判所への訴訟提起(今回)

・裁判所の判断方法、争い方

・判決後

今回は処分が出た後の争い方について解説します。

1 行政不服審査

 医師免許に対する処分は、厚生労働大臣という行政庁が一方的に行う処分ですので、法律学の世界では「行政処分」と呼ばれています。

 行政処分はあくまでも行政庁の判断により行われた処分ですので、これについて不服の申立てを行うことができます。

 この申立てには大きく分けると①行政庁内部で再考を求める方法と②裁判所に訴える方法に大別されます。

 ①の行政庁内部で再考を求める方法については、行政不服審査法という法律が存在し、同法の規定に基づいて審査を受けることになります。行政不服審査法に基づく場合には、行政庁内部で再度処分について検討するため、裁判よりも早く手続きが進行すると言われていることや、違法かどうかでだけではなく妥当かどうかの判断も受けられるなどメリットがあるとも言われています。ただ、どうしても内部での再考となるので、外部性のある判断ではないですから、疑念は残ります。

2 裁判

 もう一つの方法は、裁判をすることです。裁判所に対して訴えを起こし、処分の取り消しを求めます。

 裁判所での裁判の手続きには、大きく分けると①民事②刑事③家事④行政と4種類あり、このうち医師免許に対して争う手段については行政事件訴訟法という法律で定めがあります。

 行政庁の処分を争う行政事件訴訟は、普段ニュースなどで目にする刑事事件や民事事件とは異なるルールが適用されることになっていますが、多くの部分は民事訴訟法という民事事件のルールが適用されることになっています。

 裁判所での行政事件は、それなりに長期化する傾向にあることや、裁判所が限定されていること(裁判所本庁でしか訴えられない)等の問題はありますが、裁判所という行政機関とは別の機関での判断を受けることができます。

3 どちらの手続きをとるべきか

 どちらの手続きをとるかはケースにより異なりますし、両方の手続きをとることも許されています。

 ただ、いずれにしても最終的には裁判となる可能性が相当程度ありますから、将来の裁判に向けて活動をしていく必要があります。

【弁護士が解説】医師が刑事罰を受けた際に、医師免許に対する行政処分は裁判所でどのように判断されたのか

2024-06-11

【事案の概要】

 X医師は、精神科医として、クリニックを開業していた。しかし、X医師が自身の患者である女性ら3名に対し、胸を触るなどのわいせつ行為をしていることが明らかとなり、X医師は第一審の地方裁判所で実刑判決を受けた。しかし、控訴をした結果、X医師には執行猶予が付されることとなり、最終的に執行猶予付きの刑が確定した。

 刑が確定したことから、A県の担当者に調査が行われ、医道審議会に意見書が提出された。同意見書には「X医師は、被害者に対して高額な慰謝料を支払い示談も成立しており、その他贖罪寄付もしている。また、今後も医師として患者のために誠心誠意尽くしたいと考えている」との理由から「X医師は、事件後誠意を尽くして対応しているものと認められます」との意見が述べられた。この意味について、担当したA県によれば、医業停止処分に留める意味合いも含めての意見ではあるが、免許取消処分を望まないという意見までは含まれていなかった。

 このような状況で、厚生労働大臣は、Xの免許を取り消したため、Xが裁判所に訴えを提起した。

(名古屋地裁平成20年2月28日判決の事案を若干改変したもの)。

【解説】

 これから数回にわたり、この事案を元にして、医師免許に対する行政処分の流れや、これに対する争い方を見ていきたいと思います。全体の流れは以下の通りです

・事件から免許取消処分まで(今回)

・裁判所への訴訟提起

・裁判所の判断方法、争い方

・判決後

 まずは処分が出るまでの流れを確認したいと思います。

1 どのようにして厚生労働省は事件を知るのか

 今回のX医師の場合、刑事事件で有罪判決を受け、その刑が確定しました。

 医師法7条1項、4条3号(以下、医師法は法令名を省略します)によれば、「罰金以上の刑に処せられた者」については、行政処分の対象となることがあります。

 しかし、そもそも厚生労働大臣(厚生労働省)は、医師が罰金以上の刑を受けたかどうかをどのように知るのでしょうか。

 これについては厚生労働省のホームページに記載があります(https://www.mhlw.go.jp/houdou/2004/02/h0224-1.html)。

 これによると、厚生労働省は、刑事事件の手続きを行う検察庁に対し、医師や歯科医師が罰金以上の刑が含まれる事件で起訴(公判請求と略式命令請求は両方「起訴」を意味します)した場合、起訴状の内容である事件の概要や、裁判の結果の提供を求めています。

 医師や歯科医師である以上、自身の職業が捜査機関に発覚しないということは考え難く、起訴されてしまうと、道路交通法違反事件のスピード違反のような軽微なもの以外は全て厚生労働省に伝わり、手続きが開始されてしまうことになります。

 それ以外にも、医師が逮捕されたような場合には報道がなされる可能性が極めて高いと言えますから、このような報道も情報源にしているものと思われます。

2 手続の開始

 事件が厚生労働省の知るところとなると、手続きが開始されます。

 最終的には厚生労働大臣が処分を行い(7条1項柱書)、処分をするにあたっては医道審議会の意見を聞くこととなっています(7条3項)。

 とはいえ、医道審議会は東京に存在する会議体であり、個々の医師への聞き取りを行うとなると大変です。そのため、7条4項で、都道府県知事に対して意見の聴取を行うこととしており、その意見聴取をもって厚生労働大臣の聴聞に代えることとされています。

 そのため、医師に対して実際の聞き取りを行うのは都道府県知事であり、しかも実際には知事が聞き取るのではなく、都道府県で医師の免許を管理する部局(医療、健康等の文言が入っている局)の担当者による聞き取りが行われます。

 この聴き取りが行われた後、担当者が庁内での決済をとって、意見書を医道審議会に提出をするという流れになります。

3 聴取手続き

 この都道府県の担当者による聞き取りには、行政手続法3章第2節の規定の適用があります(7条5項)。

 行政手続法3章第2節には、不利益な処分を科す場合の聴聞の方法についてのルールが定められています。

 具体的には、①代理人を選任できること(行政手続法16条)②行政庁が保管する資料の閲覧ができること(同18条)③処分対象者が陳述書や証拠を提出できること(同21条)④聴聞期日が開かれた場合には調書や報告書が作成されること(同24条)などのルールが定められています。

 ここで行政庁が考えている処分のポイントを探るためには、資料の閲覧等を行い、問題になりそうなところを予め把握することが重要です。

4 医道審議会

 意見書が提出されると、医道審議会で議決がなされ、実質的にはその結論に従って厚生労働大臣が処分をするということになります。

 医師が行政処分を受ける前には、都道府県担当部局からの聞き取りが必ず先行します。最終的に訴訟を行うにしても、この段階でどのようなポイントが問題となるのかを把握しておく必要性が高いと言えます。最終的な局面に備え、早くから代理人を選任し、手続きを行っていくことが重要です。

 

【弁護士が解説】相手方との交渉の際、許される言動はどの程度であるか

2024-06-04

【事例】

 X弁護士は、Aから、自身の配偶者BがCと不貞関係にあるとの相談を受けた。相談の結果、AはCに対して慰謝料請求をするということになったが、その時点でもAとBの間の婚姻関係は破綻しているとはいえなかったほか、BとCの間に不貞行為があるという証拠が具体的にある状況ではなかった。

 このような状況で、X弁護士は、Cの1000万円の慰謝料を請求する旨の受任通知を送るとともに、Cの携帯電話に複数回電話をした上で、Cの勤務先にも電話をした。そして、折り返しをしてきたCに対して、1000万円の慰謝料を請求した上で、仮に応じなかった場合にはCの上司に通告する旨を伝えるなどした。

 X弁護士の対応に問題はないか。

【解説】

1 弁護士の義務

 弁護士である以上、法令や証拠に基づき主張をするべきなのは半ば当然です。もちろん、相談時点では事実関係が明らかではなく、当事者の一方の主張を聞いた結果、(結果的に見れば)一方的な主張となってしまうこともありますが、これはあくまでも結果論であり、やむを得ない面もあります。

 ただ、明らかに証拠が不足している状況で、断定するような形で主張をするということは許されません。

 今回のX弁護士の例の場合、婚姻関係の破綻がない以上、不貞慰謝料請求をすることになり、不貞の証明をする必要があります。ただ、Aの一方的な主張のみであり、他に根拠がないという状況では、慰謝料請求が認められる可能性はほとんどありません。せめて、婚姻関係が破綻していないのであれば、Bから話を聞き、不貞の事実を確認することは可能であったはずです。にもかかわらず、この段階で不貞慰謝料請求権の存在を前提としてCに交渉していくことは不適切と評価される可能性があります。

2 不安をあおる言動

 さて、X弁護士は、Cに対して1000万円の慰謝料請求を行っています。

 婚姻関係が破綻したという事例での慰謝料請求であったとしても、この金額が裁判所によって認定されるとは通常考えられません。もちろん、算出方法等によって金額が高めになったり低めになったりすることはあり得ますが、今回の金額はあまりにも高額です。このような高額の請求を受けたCからすれば、相当不安を感じるはずです。

 また、X弁護士は何度もCに電話をしています。もちろん交渉のために電話をすることは否定できませんが、あまりにも回数が多いようであれば、着信履歴の状況からしてもCは不安を感じると思われます。

 弁護士として相手方と交渉をすることは当然ですし、一方の代理人の立場として交渉をする以上、客観的な事実や、当然予想される帰結(たとえば「裁判になったら、弁護士さんを通常雇うことになり、お金と手間と時間がかかります」など)を告げることには問題がないと思われますが、それ以上のことについては余程の証拠がなければ告げること自体も危険であると言えます。

3 脅迫的言辞

 最後に、X弁護士は、Cの勤務先の上司に通告する旨を述べています。Cの行為は当然私生活上の行為であり、Cの仕事とは関係ありません。にもかかわらずこれを職場に告げるというのは、脅迫的な下農であり、弁護士として許されるようなものではありません。

 このような脅迫的言辞は、弁護士として当然認められるものではありませんし、悪質なものであると認定されます。もちろん、事実としてそういうことになるということを告げることは問題ありません。たとえば、(今回の事案では問題がありそうですが)「慰謝料の支払いを裁判所に命じられることになり、それを支払わなかった場合には、給与について裁判所から差押えの命令が会社に行き、会社に裁判を起こされたことが分かってしまう」というのはあり得る結末の1つであり、弁護士であれば通常想定する手段だとは思いますが、一般の方からすると脅されているように感じると思われます。このような言動まで脅迫であると認定されることはないと思われますが、それでも表現や言い方などの点には注意を要します。

 弁護士同士でも注意が必要ですが、そうでない方を相手に交渉を行う場合、弁護士の世界の常識が当然通用するわけではありません。表現や言葉遣いには十分注意をして交渉を行う必要があります。

マスコミからの取材依頼に弁護士としてはどう対応すべきか

2024-05-28

【事例】

 X弁護士は、殺人の容疑で逮捕されているAの弁護人に選任され、Aが勾留されているB警察署へ接見に赴いた。

 X弁護士が接見を終え、警察署の外に出ると、いきなり多数のマスコミ関係者に囲まれ、「Aの弁護人の先生ですよね。Aはどのようなことを話しているのですか。」と尋ねられた。

 Xとしてはどのように対応すればよいであろうか。

【解説】

 事件自体が報道されるような大きな事件となると、被疑者、被告人本人の主張についても取材が行われます。また、連日警察署の前には多数のマスコミ関係者が取材のために訪れており、警察署に入るためにはマスコミ関係者の前を通らなければならないような状況になります。

 そして、弁護士が接見室から出て警察署の外に出ると、上記の事例のようなやり取りが開始されることになります。

 実際、このようなマスコミの取材に回答している弁護士の姿を報道で見ることもあります。ただし、この回答をするにあたっては、様々な面から検討をする必要があります。

1 刑事弁護の面

 被疑者の主張について回答をすると、当然これを見た捜査機関側は対策を行ってくるということになります。たとえば、被疑者に完全黙秘を指示してそれが実行されている中で、弁護人がマスコミに回答していては何の意味もありません。

 また、回答の内容や姿勢によっては、被害者と示談交渉を行う必要があるような事件で悪影響が出る可能性もあります。

 そのため、刑事弁護という観点から見ると、本人の言い分を早期に世間に伝えるという目的がない限り、あまりメリットは大きくないものと思われます。

2 弁護士倫理の面

 弁護士には、弁護士法23条により守秘義務が課せられています。本人との接見時のやり取りは、当然この守秘義務の範疇に入りますので、本人に無断でマスコミに回答したような場合には、守秘義務違反となります。実際、無断でマスコミ対応をしたことにより戒告の処分を受けた事例などがあります。

 そのため、X弁護士のようにいきなりマスコミから対応を求められた場合には、ひとまずその場では回答せず、次の接見の機会に本人と協議することが適当であると考えられます。

3 本人が希望した場合

 それでは、マスコミに自身の言い分を伝えることを本人が希望した場合はどうでしょうか。たしかに、本人が希望していますので、守秘義務違反の問題は生じません。もっとも、事前の打ち合わせにないような事柄を尋ねられた場合に、これを回答することは問題となる可能性があります。

 しかし、マスコミに対応することは、守秘義務違反だけではなく、弁護活動の点からも問題が存在しています。回答することが本当に弁護活動上不利にならないかについても併せて検討する必要があります。

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