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【弁護士が解説】身代わり犯人の主張がなされた場合にはどうするべきか

2024-10-08

【事例】

 X弁護士は、Aさんの国選弁護人に選任されたため、勾留されている警察署に接見に行きました。

 Aさんと接見すると、次のようなことを言われました。

 「先生、実はこの事件はBが真犯人です。私は全く無関係で、現場にもいなかったのですが、世話になっているBから、何とかここだけ身代わりになってくれといわれたんです。私も身代わりになることを承諾したので、出頭して逮捕されたんですけど、このまま手続きを進めて欲しいと考えています。」

 X弁護士として、どのような対応をすることが適当でしょうか。

【解説】

 弁護人として接見をしていると、時々このような主張に出会うことがあります。ここまで丸々身代わりになっているというケースはそれほどないとしても、部分的に身代わりになるようなことをしていることはあります。

 このとき、弁護人としては、まず無実の事件で有罪判決を受けることは適切でないこと等を伝え、思いとどまるよう説得するべきです。しかし、仮説得に応じなかった場合にはどのようにすればよいでしょうか。

 私選弁護人の場合、弁護活動を継続できないということを理由に辞任することが考えられます。しかし、国選弁護人の場合には、自由に辞任することはできず(刑事訴訟法38条の3)、かといってこの内容を裁判所に報告することは守秘義務違反となりますので、裁判所に辞任を求めることもできません。

 それでは、X弁護士のように国選弁護人を継続することになった場合には、どのように対応すればよいでしょうか。

 これについて定まった見解はなく、『解説 弁護士職務基本規程(第三版)』にも複数の考え方が示されています(同書15頁)。

 国選弁護人であり、辞任できる状態ではない以上、弁護人は何らかの弁護活動をしなければなりません。たとえば、冒頭手続きでの罪状認否は、弁護人・被告人に陳述の機会を与えれば足りると考えられていますので、弁護人が陳述しなかったとしても手続きは進みます。また、証拠意見は本来被告人固有の権利ですので、弁護人ではなく被告人がすべて同意してしまえば、それで足ります。このように、裁判の場に弁護人がいるものの、弁護人が一切の弁護活動を行わないということも不可能ではないかもしれません。ただ、この手続きは通常の弁護活動ではありませんし、裁判官・検察官から見ても極めて疑問があります(間違いなく理由を問われるでしょう)。また、本当は無罪であるにもかかわらず情状弁護を行うのかという問題も生じ得ますが、仮に情状弁護を行った場合、情状証人に有罪であることを前提に尋問をすることも躊躇われるところです。

 反対に、被告人の意思決定を重視し、被告人の主張の通り弁護活動を行うことも考えられます。この場合、弁護人は偽犯人を作り出しており、真犯人の罪を免れさせていることになりますので、犯人隠避罪が成立しないかどうかの問題が生じます。実際には、正当事由があると判断される可能性もありますが、そのような確定的判断が示されたことはなく、先行きは見通せません。

 どのような選択をとるにしろ、身代わり犯人の問題が登場した際には、弁護人には難しい選択が迫られます。このような問題が生じた場合、最終的に自分の身を守るため、できる限り自身の行った判断を形に残すような行動を意識すべきです。たとえば、被告人とのやり取りを録音しておくとか、決めた内容を書面に残すなど、あとから「本当は・・・」と言われるようなことがないよう、弁護活動をする必要があります。

 

【弁護士が解説】薬剤師が交通事故を起こすとどのような処分が待っているか②

2024-10-01

【事例】

 薬剤師の資格を持ち、ある病院で勤務しているAさんは、ある日通勤途中、自家用車を運転している際に前方の車に追突してしまいました。

 Aさんはすぐに110番と119番をしたのですが、前方の車に乗っていたBさんが全治1週間程度のけがをしてしまったようでう。

 Bさんが診断書を出したことにより、Aさんに対する過失運転致傷罪の捜査が開始しました。

 このあとAさんにはどのような処分が待っているのでしょうか。

【解説】

 前回に引き続き、今回は薬剤師免許に対する行政処分について解説していきます。

 まず、薬剤師法8条により、行政処分は免許の取消し・3年以内の業務停止・戒告の3種類と定められています。ですので、処分を受ける場合にはこのいずれかの処分となります。

 ただ、仮に薬剤師が刑事罰を受けた場合であっても、薬剤師法8条が「薬剤師が、第五条各号のいずれかに該当し、又は薬剤師としての品位を損するような行為のあつたときは、厚生労働大臣は、次に掲げる処分をすることができる。」と定めており、必ず処分をされるわけではありません。たとえば、弁護士法7条は「次に掲げる者は、第四条、第五条及び前条の規定にかかわらず、弁護士となる資格を有しない。一 禁錮以上の刑に処せられた者」としており、禁錮以上の刑(執行猶予付きも含む)を受けてしまうと、どのような理由であれ弁護士となる資格を喪失することになっていますので、違いが分かるのではないかと思います。

 次にどのような手続で処分を行うかです。薬剤師法8条を見ると「厚生労働大臣は・・・・」となっています。ですので、最終的な処分は厚生労働大臣名でなされます。このことは薬剤師免許が厚生労働大臣名であることの裏返しです。

 ただ、実際には厚生労働大臣が個人で決めているわけではありません。厚生労働省内に医道審議会という審議会が設置されており、そのなかの「薬剤師分科会薬剤師倫理部会」により答申がなされ、それに従って厚生労働大臣が処分をするということになっています。たとえば、直近であれば、準強制わいせつ未遂と傷害罪を起こした薬剤師に関して免許取消となっています。

 とはいえ、この医道審議会も東京で開かれているだけですから、全国にいる薬剤師に聞き取りを行えるわけではありません。そのため、薬剤師法8条5項により、都道府県知事が聞き取りを行い、これを厚生労働大臣が行ったことに代えることとされています。しかし、都道府県知事が聞き取りをしているわけではなく、実際には都道府県の担当部局がこれを行うということになっています。

 ですので、個々の薬剤師の方には、都道府県の医政担当部局から呼び出しがあり、そこで聴聞という手続きが開かれ、その内容が知事→医道審議会→大臣と上がっていくという仕組みになっています。

 今回のような交通事故の場合、どのような処分となるかは「行政処分の考え方」が事前に公表されています。過失運転致傷については、基本的には戒告の取扱いにするとされています(⑹ア)。ただ、情状が軽ければ処分がなされないこともあり得ると思われますし、反対に飲酒運転や危険運転、ひき逃げといった重い場合には処分がより重い処分となることが予想されます。

 処分の軽減を図るためには、最初の都道府県への聞き取りへの対応が必須です。むしろ、ここでしか話を聞かれませんので、都道府県での対応が鍵となります。有利な処分を得るためには、まずは刑事事件でより軽い処分を得て、それをもって都道府県の聞き取りに臨む必要がありますので、刑事の段階から処分を目標に示談交渉等を行う必要があります。これらの交渉には難しい点もありますので、まずは弁護士にご相談ください。

【弁護士が解説】薬剤師が交通事故を起こすとどのような処分がなされるのか①

2024-09-24

【事例】

 薬剤師の資格を持ち、ある病院で勤務しているAさんは、ある日通勤途中、自家用車を運転している際に前方の車に追突してしまいました。

 Aさんはすぐに110番と119番をしたのですが、前方の車に乗っていたBさんが全治1週間程度のけがをしてしまったようでう。

 Bさんが診断書を出したことにより、Aさんに対する過失運転致傷罪の捜査が開始しました。

 このあとAさんにはどのような処分が待っているのでしょうか。

【解説】

 Aさんは交通事故を起こしてしまいました。このような場合、Aさんにはいろいろな方面から処分がなされます。今回は、どのようなところから何を言われるのかを概観します。

1 刑事

 まずは刑事事件です。これは警察が捜査し、その後検察庁に送検され、最終的には懲役・禁錮・罰金といった刑罰を受けるような手続きです。ただし、検察庁が「今回限りは処罰しません」という風に決定した場合には、いわゆる「起訴猶予」となります。

 交通事故の場合には、過失運転致傷罪が成立するかが問題となります。

 刑事事件では、警察官・検察官とやり取りをすることになります。後から述べる「免許」の手続きでも警察官が出てきますが違う部門の警察官ですし、免許の手続きは免許センターで行われることが多いのに対し、刑事事件で対応する警察官は事故現場を管轄する警察署の警察官となります。

2 民事事件

 次に民事事件です。

⑴損害賠償

 交通事故を起こした以上、民法709条自動車損害賠償保障法3条に基づき、加害者は被害者に対して賠償をする義務が生じます。これを「損害賠償」等と呼んでおり、治療費や慰謝料の支払いなどを行います。

 ただし、多くの場合は任意保険に入られていると思いますので、そのような場合には保険会社が代わりに賠償をしてくれることになっています。もし任意保険に入っていない場合でも、自賠責保険は強制加入ですから、人身事故に関する損害については、一定額までは自賠責保険会社が対応してくれることになっています。

⑵雇用関係

 仮にAさんが民間病院に勤務している場合、勤務先の法人等から交通事故を起こしたことにより何らかの処分を受ける可能性があります。戒告や訓告、けん責、減給、停職、解雇など、処分の種類は様々です。処分の内容については、各法人により異なりますので、就業規則を確認する必要があります。仮にこの処分に不服がある場合には、労働審判や民事訴訟といった法的手段により争うことになりますが、これも民事事件に分類されます。

3 行政事件

 最後に行政事件です。

⑴雇用関係

 仮にAさんが公立病院に勤務している場合、先ほどの民間病院とは異なる場合があります。

 Aさんが公務員の地位を有している場合には、Aさんの労働者の地位に対する処分は「行政処分」となります。

 地方公務員の場合、その処分は地方公務員法27,28条で定められています。「降任、免職、休職、降給」と法定されており、それ以外の処分は許されていません。なお、所属によっては「文書注意」や「所属長注意」というような注意がなされることもありますが、これは法律の定める処分ではなく、あくまでも内部的なものということになります。

⑵運転免許に対する処分

 交通事故を起こした場合、運転免許の点数が引かれることになります。また、事故態様や累積の点数次第では、免許停止や免許取消の処分を受ける場合もあります。

 これらの処分は、各都道府県の公安委員会が行います。運転免許証の右下には各公安委員会の印が押してありますが、反対に処分を行うのも公安委員会となります。ただ、実際には運転免許センターに呼び出され、センターの警察官により対応されるため、実質的には警察官により免許の処理もされているように見えます。

⑶薬剤師免許に対する処分

 最後に、薬剤師の国家資格について解説します。

 薬剤師の国家資格は、一定の理由があると取り消されるなどの処分を受けることとなっています。

 薬剤師法8条がその処分を決めており、取消し、業務停止、戒告の3つの処分が定められています。

 薬剤師に対する処分は、法文上厚生労働大臣が処分をすることになっていますが、薬剤師本人の聞き取りを行うのは都道府県の担当部局です(薬剤師法8条5項)。そのため、呼び出しは都道府県からくることになります。

4 まとめ

 これまで見てきたように、1つの交通事故を起こすだけで、多数の部門から呼び出し・聞き取り・処分がなされることになります。

 このような多方面からの要求に、これまで法律と無縁であった方が対応することは困難だと思われます。

 事故を起こしてしまった場合、まずは弁護士に相談し、どのように対応することが適切か、方針を考えましょう。次回は薬剤師免許についての手続きを解説します。

【弁護士が解説】国選弁護人が担当被疑者の事件の私選弁護人となってよいか

2024-09-17

【事例】

 X弁護士は、窃盗罪で勾留中のAさんの国選弁護人として選任され、接見に行きました。

 数日間は何事もなかったのですが、ある日接見に行くと、Aさんから次のようなことを言われました。

ケース1

 「先生はすごくよくやってくれていると思う。でも、国選弁護人は報酬が低いということを聞くし、それでは先生に申し訳ない。先生を改めて私選弁護人として選任して、費用はお支払いしたいと考えています」

ケース2

 「先生に相談があるのです。実は、私は事件の直前に交通事故の被害に遭っていて、加害者の保険会社と示談交渉をしていました。先生を見込んで、この示談交渉について依頼をしたいと考えています。この示談交渉についての弁護士費用は、別途きっちりお支払いします。」

 各ケースにおいて、X弁護士は事件を受任してもよいのでしょうか?

【解説】

ケース1について

 まず、国選弁護人が同一事件の私選弁護人となれるかどうかについて検討しましょう。

 弁護士職務基本規程49条2項によると、「弁護士は、前項の事件について、被告人その他の関係者に対し、その事件の私選弁護人に選任するように働きかけてはならない。ただし、本会又は所属弁護士会の定める会則に別段の定めがある場合は、この限りでない。」とされています。この規程によれば、たとえばX弁護士が、「私選弁護人に切り替えてくれれば、もっとよく接見に来たりする」などというような発言をしていた場合に問題が生じることになります。この規程は「働きかけ」を禁じているものですから、何らの働きかけがなく、本人の方から自発的に私選への切り替えを要望してきた場合には問題がないように思われます。

 しかし、同項には但書があり、各単位会の会則などで別段の定めがなされている場合があります。『解説 弁護士職務基本規程(第3版)』をご確認いただければわかりますが、単位会によっては刑事弁護委員会の許可がない限り私選への切り替えを認めない運用をしているところもあります。ですので、働きかけがなかったからといって、直ちに私選弁護人になってよいというものではありません。必ず事前に所属の単位会の会則を確認する必要があります。

ケース2について

 ケース2の場合には、元の事件とは全く別の事件の依頼を受けています。これであれば許されるのでしょうか。

 ただ、仮にケース2で委任契約を締結すると、当然X弁護士にはいくらかの報酬が支払われることになります。

 弁護士職務基本規程49条1項によると、「弁護士は、国選弁護人に選任された事件について、名目のいかんを問わず、被告人その他の関係者から報酬その他の対価を受領してはならない。」とされています。確かに、別の事件での報酬であれば「国選弁護人に選任された事件について」の報酬ではないので、規程に反さないように思われます。また、今回の事件のように被害弁償を要することが予想される事件において、資力確保のための活動(今回でいえば、交通事故の賠償金の回収)を行うことは有益であるとも言えます。

 そのため、X弁護士の受任が禁止されるようなものではありませんが、たとえば報酬が通常以上に高額な契約になっている場合には、対価の受領ではないかという疑いが生じます。法テラスを利用しての契約であれば問題が生じる可能性は生じにくいと考えられるので、法テラスの利用などを検討する必要があります。

【弁護士が解説】書面での表現はどこまでであれば許されるのか

2024-09-10

【事例】

 Aさんから離婚調停の委任を受けたX弁護士は、Aさんの配偶者(B)側が提出してきた準備書面について、Aさんと対応を協議していました。

 Aさんとしては、準備書面の内容は事実無根であり、そのようなことを言っている配偶者は決して許すことができないと強く憤っています。

 そこで、AさんはX弁護士に対して強い反論を書いてほしいと思っています。

 X弁護士の立場で、以下のような表現をすることは許されるでしょうか。

①Bは平気でうそをつく性格を有することは明らかであり、嘘で固めた人生を送っている

②Bのごね得は許されるべきではなく、これらすべてが演技であったとすれば俳優顔負けである

③Bの主張する事実は全て虚偽のものであり、良心のかけらも見出されない

【解説】

 弁護士職務基本規程6条によれば、「弁護士は、名誉を重んじ、信用を維持するとともに、廉潔を保持し、常に品位を高めるように努める。」とされています。

 弁護士法56条の懲戒事由に「その他職務の内外を問わずその品位を失うべき非行があつたとき」という規程が設けられていることからしても、弁護士が品位を失うような行為をした場合には、何らかの懲戒処分を受ける可能性があります。

 弁護士が職務上作成する書面は、基本的には読者が外部に存在するケースがほとんどです。また、その読者は、たいていの場合対立する当事者や裁判所であったりします。そうすると、どうしても依頼者の意向などに流され、過激な表現となってしまうケースがあります。

 弁護士としての表現が過激であった場合、それが不必要なものであると判断されてしまうと、品位を失うようなものとして懲戒を受ける可能性があります。なお、たとえば当事者らの発言を引用する形で書面を作成し、その発言内容自体が過激なものであった場合は、弁護士が行った表現というわけではありませんから、それを理由として懲戒を受けるということは考えにくいと思われます。

 上記に記載した①~③の事例は、いずれも実際に懲戒を受けた事案で問題となった表現を参考に作成したものです。「こんなこと書くわけないだろう」と思われたかもしれませんが、実際にこれに近い表現の書面が出されたことがあります。

 このような書面とならないよう、冷静な目で書面を作成し、依頼者に対しては懲戒の可能性や、裁判官の心証(おそらく、過激な表現をしても心証は良くならないばかりか、かえって悪化すると思われます)の点について説明を尽くし、合理的な範囲に収めることが必要となります。

前科がつくと保険医の資格はどのようになるのか

2024-09-03

【事例】

 医師であるAさんは、盗撮事件を起こしたことにより、性的姿態等撮影法により略式罰金となりました。

 医師免許についての懲戒処分があることは市っていますが、その他にどのような処分があるのかを検討しています。

【解説】

1 保険医とは

 医師法に基づく「医師免許」は、国内で医業を行うために必要なものとされています(医師法17条)。

 「医業」とは「医師の医学的判断及び技術をもってするのでなければ人体に危害を及ぼし、又は危害を及ぼすおそれのある行為を、反復継続する意思を持って行うこと」と考えられています。

 そのため、いわゆる美容整形のような自費診療であっても、人体に危害を及ぼすようなものですから、医師免許がなければしてはいけません。なお、「反復継続する意思」が必要とされていますが、1回目の行為であったとしてもその意思がある場合には医師法違反、傷害罪となります。

 この「医師免許」の有無とは別に、保険診療を行うことができるかどうかという問題があります。美容整形のような自費診療を除けば、多くの国民は国民健康保険等の保険を利用して、3割等の一部負担割合で診療を受けています。この健康保険を用いた医療を行うことができる資格のことを「保険医」と呼んでいます。

 そして、保険医となるためには、厚生労働大臣の登録を受けなければなりません。これを定めているのが「健康保険法」です。

 健康保険法64条では、「保険医療機関において健康保険の診療に従事する医師若しくは歯科医師又は保険薬局において健康保険の調剤に従事する薬剤師は、厚生労働大臣の登録を受けた医師若しくは歯科医師(以下「保険医」と総称する。)又は薬剤師(以下「保険薬剤師」という。)でなければならない。」としており、保険医でなければ健康保険の診療に従事できないとしています。

 そして、個人の医師が保険医として登録されるためには「第六十四条の登録は、医師若しくは歯科医師又は薬剤師の申請により行う。」とされています(71条)。

2 保険医の欠格事由

 健康保険法81条は、保険医の登録を取り消す場合を定めています。その欠格事由は次の通りです。

①省令で定める保険診療をしなかった場合

②厚生労働大臣からの資料提出の求めなどを拒絶した場合等

③健康保険法以外の法律に基づく診療等について①②のような事由があった場合

④健康保険法その他国民の保険医療に関する法律で政令で定めるものの規定により罰金の刑に処せられ、その執行を終わり、又は執行を受けることがなくなる者に該当するに至ったとき

⑤禁錮以上の刑に処せられ、その執行を終わり、又は執行を受けることがなくなるまでの者に該当するに至ったとき

⑥保険医が国民健康保険法等の法律で政令で定めるもの又は法律に基づく命令処分に違反したとき

とされています。

 このうち、刑事罰に関するものは④⑤となりますので、その点を見ていきます。

 ④は、健康保険法等保険診療に関する法律違反により罰金の刑に処せられた場合です。刑罰の重さは死刑>懲役≧禁錮>罰金>拘留>科料というようなイメージです。懲役、禁錮は、いずれも刑務所に収容するという刑なのですが(執行猶予がついた場合を除く)、刑務作業を義務付けられているかどうかが異なります。ただ、この2つは、数年後に拘禁刑というものに統一されることが予定されています。

 保険制度を裏切るような罪を犯した場合には、比較的軽微な刑罰である罰金相当の場合であっても、登録取消が予定されています。

 ⑤は、全ての刑事罰違反を対象としたものです。殺人から交通事故、万引きに至るまで、医師の診療と関係あるかどうかを問わず、保険医が何らかの刑事罰を受けたかどうかを問うものです。ただ、保険診療と関係ないことを理由としますので、罰金よりも重い禁錮以上の刑を受けた場合に限定されています。

 今回のA先生の場合は、いわゆる盗撮罪で処罰されたもので、保険診療とは関係ありません。そのため、⑤の条文が問題となりますから、罰金刑であれば保険医登録は取り消されないということになります。ただ、あくまでもこれは保険医の登録の問題ですから、医師免許に対する処分とは異なります。医師免許に対する処分として、医業停止以上の処分が出た場合には、医業自体を行うことができなくなりますから、自動的に保険医としても業務ができなくなります。

 医師が禁錮以上の刑罰を受けてしまうと、保険医としての登録が取り消される可能性があります。国民皆保険制度がある日本では、保険医の登録を失うことは医師として働けなくなることに等しいとも言えます。

 そのため、医師が何らかの罪を犯してしまった場合には、刑事罰を受けなくて済む、仮に受けるとしてもできる限り軽い処分となるよう、速やカニ弁護活動を受ける必要があります。

看護師の懲戒事由にはどのようなものがあるのか

2024-08-27

【事例】

 看護師であるAさんは、帰宅途中に車を運転している際、誤って赤信号を見落とし、横断歩道上の歩行者を跳ね飛ばしてしまいました。

 慌てたAさんは、その場で停車することなく、そのまま帰宅してしまい、後日捜査を遂げた警察官により逮捕されてしまいました。

 Aさんの看護師資格はどのようになってしまうのでしょうか。

【解説】

 保健師助産師看護師法14条1項によると、「保健師、助産師若しくは看護師が第九条各号のいずれかに該当するに至つたとき、又は保健師、助産師若しくは看護師としての品位を損するような行為のあつたときは、厚生労働大臣は、次に掲げる処分をすることができる。」としています。そこで9条を見ると、

 罰金以上の刑に処せられた者

 前号に該当する者を除くほか、保健師、助産師、看護師又は准看護師の業務に関し犯罪又は不正の行為があつた者

 心身の障害により保健師、助産師、看護師又は准看護師の業務を適正に行うことができない者として厚生労働省令で定めるもの

 麻薬、大麻又はあへんの中毒者

が懲戒事由とされています。

 刑事罰の場合、1号により「罰金以上の刑」であれば、何らかの処分を受ける可能性が生じることになります。

 それでは、今回のAさんの行為の刑事罰を考えてみましょう。

 Aさんがしてしまった行為は、いわゆるひき逃げです。ひき逃げは、それ自体が道路交通法違反の罪となりますが、被害者がけがをしていた場合には過失運転致傷罪という別の犯罪が成立するほか、ひき逃げの罪の法定刑も格段に重くなってしまいます。

 最終的にAさんに与えられる刑罰は、被害者のけがの程度によるものの、仮に軽いけがであったとしても執行猶予付きの判決となり、罰金刑ではおさまらない可能性が高いと思われます。

 ところで、看護師等の行政処分については、予め基準が公表されています(こちら。)

 この基準は作られた年度の関係で、交通事故は「業務上過失致死傷」となっています。ただ、その内容を読むと、ひき逃げの場合厳しく責任を問われると述べる等、交通事故それ自体について触れているものではありません。確かに、事故は起こそうと思って起こしているわけではなく、だれしも起こしてしまう可能性があるものですから、事故だけを理由として重い処分をすることは躊躇われます。実際、単なる事故ではそれほど処分されていないようです。しかし、ひき逃げ事案となると、各段に処分が重くなってしまいます。

 事故を起こした場合、まずは通報することが、最終的に資格を守るためにも必要です。交通事故だけであれば、被害者の方と示談交渉を行い、示談が成立すれば不起訴処分となる可能性があります。ですので、事故を起こした場合には、速やかに保険会社や弁護士に相談を行うことが必要です。

【弁護士が解説】弁護士費用の未精算はどのような問題を生じさせるか

2024-08-20

【事例】

 X弁護士は、Aさんから交通事故損害賠償事件(被害者側)の依頼を受け、保険会社との交渉に当たり、保険会社から保険金を受領しました。

 X弁護士がAさんから依頼を受けた当初、Aさんが被害者であることは明らかであり、それなりまとまった金額を受領できることが予想されたことから、委任契約締結時にはX弁護士は費用を貰わず、保険会社から取得出来た金額に対する一定の割合を報酬として差し引き、残った金額をAさんに渡すという契約を締結していました。

 X弁護士は、保険会社との示談交渉が完了し、保険金の受領が終了したにもかかわらず、Aさんに保険金の一部の支払いをしないままでいました。このようなことはどのような問題を生じさせるでしょうか。

【解説】

 「自由と正義」の末尾に、懲戒の事例が掲載されていますが、事案のように預かったお金を返金しないというケースは度々登場します。

 弁護士職務基本規程45条によれば、「弁護士は、委任の終了に当たり、委任契約に従い、金銭を清算した上、預り金及び預り品を遅滞なく返還しなければならない。」とされています。保険会社からの保険金は、依頼者のために第三者あら預かったお金ですから、預り金に該当し、終了時に速やかに返金する必要があります。

 事例のケースのように、保険金や遺産等のまとまったお金を返金しなかった場合、業務停止などの重い処分も十分予想されます。そのため、速やかに返金をする必要があります。

 ところで、仮に返金できない何らかの事情が発生した場合はどうでしょうか。たとえば、依頼者から「今、妻と離婚しそうで、このまま自分の口座に保険金が流れ込んでしまうと、この保険金も遺産分割の対象となってしまう可能性がある。そのため、先生がしばらく預かっておいてください」等と言われた場合には、どうすればよいでしょうか。

 この依頼者の述べている内容が法的に正確かどうかは別として、返金ができない事情(病気や行方不明など)がない以上、仮に依頼者側に事情があったとしても規程上は返金すべきでしょう。

【弁護士が解説】利益相反しかねない事例で、後から来た事件を受けることは許されるか

2024-08-13

【事例】

 X弁護士は、Aさんから建物収去土地明け渡しの訴訟提起を依頼されていました。事件の内容は、Aさんが所有する土地の上に、第三者であるBさんが無権原で建物を建てたという事案でした。ただ、訴訟にかかる費用を節約するため、最初から訴訟提起をするのではなく、まずは交渉で明け渡してもらえないか試してみるということになりました。

 そこで、X弁護士はBさん個人との間で和解ができないかを考え、Bさんと何度か電話でやり取りをしていましたが、あるとき、Bさんから以下のような話がありました。

「先生とこれまで何度かやり取りしていて分かるのですが、先生はとても言い方だと思います。実は、私の妻の妹が交通事故に遭い、亡くなるということがありました。先生が代理人となって保険会社や相手方と交渉してもらえませんか?」

 この話を聞いたX弁護士としては、どのように対応すればよいでしょうか。

【解説】

 事件の相手方に信頼されること自体は、交渉を進める上で悪いことではありませんが、かといって事件の依頼を受けるとなると話は別です。

 それでは、まずは利益相反に当たらないかを検討します。

 現在X弁護士が受任している事件は、建物収去土地明け渡し事件であり、交通事故の損害賠償事件とは全く異なる種類の事件であると言えます。また、当事者も一切共通していないことが予想されます。

 そうすると、各種利益相反の規程には該当しないようにも思われますので、受任してもよさそうに思われます。

 しかし、事件の相手方から紹介を受けた事件を受任した場合、元の事件の依頼者からすると、当然不信感を覚えると思われます。特に、紹介を受けた事件の方が報酬が高いことが予想されるような場合には、自分の事件の処理について手を抜かれるのではないかと思うのが通常です。仮に元の事件の依頼者に受任したい旨を相談した場合には、断られることが予想されます。

 そのため、このような場合には、仮に利益相反に該当しないとしても、弁護士の信義誠実の義務(弁護士職務基本規程5条)に該当する可能性が高いと思われますので、受任を差し控えるべきであると思われます。ただし、これは元の事件が現在進行中の事件であることによる部分が大きいと言えます。元の事件が既に終了している場合には、もう少し緩やかに検討する余地はあるかもしれません。その場合でも、元の依頼者が知ったとすれば「当初からそのような密約があったのでは」との疑いを招く可能性があります。ですので、受任に際しては十分注意する必要があります。

【弁護士が解説】保証人と主債務者の両方の代理人となることは許されるか

2024-08-06

【事例】

 X弁護士は、Aさんから貸金返還請求をされている旨の相談を受けました。見ると、Aさんを被告として訴えが提起されており、Aさん自身も金銭を借りた事実や、現時点で返済をしていないことを認めています。

 ところで、この借金をするにあたり、Aさんは自身の兄のBさんを連帯保証人としていました。Aさん自身には支払い能力はなく、今後Bさんも訴えられる可能性は相当高い状況にあると思われました。Aさんからは「兄も一緒に受けてあげて欲しい」と依頼されています。

 X弁護士として、Bさんの事件も受任することに問題はないでしょうか。

【解説】

 今回の問題は、主債務者の代理人が、連帯保証人の代理人を兼ねることが許されるかという問題になります。主債務者と保証人の関係では、どちらかが返金すれば、その分相手方が返金を免れるという形になりますので、一方の出捐で他方が得するという関係を見ると、利益相反思想にも思われます。ただ、時効の援用や弁済の抗弁など、双方に共通する主張ができる可能性もあります。

 しかし、主債務者と保証人は、求償の場面以外では「相手方」という立場にはなりません。そのため、弁護士職務基本規程28条3号が問題となり「依頼者の利益と他の依頼者の利益が相反する事件」に該当することになります。

 そのため、同条の柱書にある「第三号に掲げる事件についてその依頼者及び他の依頼者のいずれもが同意した場合」には、受任をすることができることになります。

 もっとも、途中で利益相反が顕在化した場合には、双方の代理人を辞任することになります。そのため、最初に委任を受ける際には、場合によっては双方辞任になる可能性を十分伝えた上、受任をする必要があります。

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