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【弁護士が解説】被害者代理人となればどのような要求でも加害者にしてよいのか

【事例】
X弁護士は、不同意わいせつの被害者であるAから事件の依頼を受け、加害者であるB(及びBの代理人弁護士)との示談交渉を行いました。
Aが被害に遭った内容は、いわゆる電車内の痴漢であり、時間にして10秒程度度の臀部を服の上から触られるというものでした。
XとAが事前に打ち合わせをしている際、Aからこのようなことを言われました。
「先生、加害者にはできる限り苦しんでほしいと思います。示談金はできる限り多く支払って欲しいと思うのですが、たとえば3000万円と提示してもらえないでしょうか」
さて、Xはどのように対応すべきでしょうか。
【解説】
今回は示談交渉の場面です。
示談である以上、双方が合意すればどのような合意内容でも問題ないようにも思われます。ただ、あまりにも暴利である、公序良俗に反するといった場合には、示談も契約である以上民法90条により無効となるおそれがあります。
その前段階として、示談交渉で相手に持ち掛ける金額というのは、いくらでも良いものなのでしょうか。
弁護士職務基本規程21条では、「弁護士は、良心に従い、依頼者の権利及び正当な利益を実現するように努める。」とされています。ここでは依頼者についても「正当な」利益を追求することが述べられており、単に「依頼者の利益」を追及するわけではないとされています。
弁護士は依頼者の利益を実現するように活動するものの、依頼者から独立した立場を保持する(規程20条)必要もあるため、何でも依頼者の言うとおりに動いていれば問題ないということにはなりません。
そこで本事例ですが、Aが被害を受けた不同意わいせつの慰謝料の金額は、おそらく100万円前後になることが予想されます。もちろんAの年齢(学生などであれば増額要素になり得ます)や回数(これまでにもBから同様の事をされているのであれば増額要素になり得ます)によってはこれを上回る金額となることは考えれます。また、今回の事件をきっかけに、Aが同じ電車に乗ることに心理的抵抗感を覚え、転居をしたような場合であれば、転居費用などが賠償の対象となる可能性もあります。
とはいえ、損害賠償額総額が3000万円となる可能性があるかというと、仮に民事訴訟を提起したとしても認容される可能性は無いに等しい金額だと言えます。
そのため、Aの言う通り3000万円で示談交渉を開始することは、基本規程21条との関係で問題となる可能性があります。ただし、この「正当」の線引きは極めて微妙なところでもあるので、問題であることが明白な場合(過去の例としては、同じ事件で慰謝料を同一人物から2回受領したなど)を除いては事件化しにくい累計ではないかと思われます。
【弁護士が解説】職務上請求書で取得した相手方の住民票を依頼者に交付してよいか

【事例】
X弁護士は、Aから依頼を受けた相続をめぐる事件に関し、調停を申し立てるために他の相続人Bの住民票を職務上請求用紙を用いて取得した。
そのことをXがAに言うと、Aは「長らく音信不通だったBがどこに住んでいるのか知りたいので、先生その住民票もらえませんか?」と依頼してきた。
XはAに住民票を交付してよいのだろうか。
【解説】
1 規則について
弁護士が、弁護士である地位に基づいて住民票等を取得できるのは、戸籍法や住民基本台帳法にその定めが存在するからです。
ただ、実際に弁護士が住民票等を職務上請求する際には、日弁連が定める規則等に従う必要があります。
日弁連では「戸籍謄本等請求用紙の使用及び管理に関する規則」を定めています。それ以外に、単位会でも実際の購入方法などを定めた規則が定められている例が多いものと思われます。
ただ、これらの規則でも、おそらくは取得した戸籍謄本や住民票についてどのような取扱いをするかについては定めがないものと思われます。
2 守秘義務
戸籍や住民票の記載事項は、本来であれば記載されている者や直系親族などでなければ見ることができないものです。
そうすると、これらの記載内容を第三者に漏らすことは、弁護士の「守秘義務」の関係で問題があるのではないかという問題が生じます。
弁護士法23条では、「弁護士(中略)は、その職務上知り得た秘密を保持する権利を有し、義務を負う。」とされており、弁護士職務基本規程23条でも「弁護士は、正当な理由なく、依頼者について職務上知り得た秘密を他に漏らし、又は利用してはならない。」とされています。
特に弁護士職務基本規程では「依頼者について」という文言がある関係で、弁護士法23条の主義ヒムについても、今回のBのような「第三者」については守秘義務の対象外ではないのではないかとの解釈も成り立ちうるところです。しかし、日弁連綱紀委員会では「守秘義務の対象・範囲は、依頼者はもとより第三者の秘密やプライバシーにも及ぶことでは当然とされている」と判断しており、第三者の秘密も守秘義務の対象であると考えられています。
今回のBの住民票についても、通常であれば他人が見られるようなものではないため、秘密に該当します。そのため、職務上請求で取得したBの住民票をAに交付することは守秘義務違反に該当する可能性があります。特に、B以外の家族の名前などが同じ住民票に記載されている場合、違反となる可能性は一層高まります。
もっとも、調停申立書には当然Bの住所を記載します。そのため、調停申立書の写し等をBに交付すると、Bの住所をAに知られることになります。このことの是非も当然問題となります。
これまでのAの言動などからして、仮にBの住所を教えてしまうと、Aが直接押しかけたり郵便を送るなどして問題が生じる可能性があると感じられるのであれば、住所をマスキングするなどして交付したほうが安全であると言えます。
少なくとも、今回のケースで取得した住民票そのものを交付することは極めて危険であり、差し控えるべきであると言えます。
【弁護士が解説】看護師に対する懲戒処分はどのような場合に出されているか

【事例】
看護師であるAさんは、勤務中入院患者の態度にイライラしてしまったことから、つい患者を殴ってしまいました。
たまたまそのことを同僚に目撃されており、Aさんの行為は暴行罪として警察に被害届が提出されました。
最終的にAさんは罰金10万円を支払っています。
このとき、Aさんの看護師免許はどうなるのでしょうか。
【解説】
1 看護師に対する行政処分
保健師助産師看護師法14条によると「保健師、助産師若しくは看護師が第九条各号のいずれかに該当するに至つたとき、又は保健師、助産師若しくは看護師としての品位を損するような行為のあつたときは、厚生労働大臣は、次に掲げる処分をすることができる。」とされています。
そして、9条は「一 罰金以上の刑に処せられた者 二 前号に該当する者を除くほか、保健師、助産師、看護師又は准看護師の業務に関し犯罪又は不正の行為があつた者 三 心身の障害により保健師、助産師、看護師又は准看護師の業務を適正に行うことができない者として厚生労働省令で定めるもの 四 麻薬、大麻又はあへんの中毒者」として、4つの事由を定めています。
1号を見ると「罰金以上の刑に処せられた者」とあります。これは罪名を問いませんので、たとえ職務に関係のない私生活上の出来事で罰金を受けたとしても、看護師免許に影響が生じる可能性があります。
2 行政処分の実情
看護師に対する行政処分は、医道審議会(保健師助産師看護師分科会看護倫理部会)で議論されています。
そして、その処分の内容は、公表されており、おおよそ1年に1回程度まとめて看護師に対して処分が出されていることが分かります。
たとえば、直近の令和6年11月7日の会議では、24名に対して行政処分が出され、12名に対して行政指導がなされています。
一つ一つ見ていくと、Aさんと同じ系統の罪名として「傷害」であっても、業務停止1年となっているものや、2年、8月と様々な長さの処分がなされていることが分かります。
これは司法判断の重さに影響されている面もあります。たとえば、同じ傷害であっても、かすり傷程度であれば罰金刑で済むのに対し、骨折以上のけがをさせてしまったような場合には懲役刑が選択される可能性が高いなど、怪我の程度によって刑事処分の重さが変化してきます。そして、厚生労働省が処分をするにあたっては、おそらく刑事処分の程度をそれなりに重視していると思われます。そして、その処分の重さが、業務停止期間の長さに反映されていると思われます。
3 Aさんの場合はどうか
Aさんの場合、罪名は暴行と、傷害より軽い罪です。しかし、患者に対する暴行であるため、私生活上の行為よりは重く判断される可能性が高いと思われます。これは行政処分だけではなく、刑事処分を考える上でも同様です。
そのため、免許に対する処分を回避するためには、まず被害者の方に謝罪をし、示談をした上で刑事罰を回避することが必要となります。
【裁判例紹介】医師免許に対する取消処分の考慮要素(東京地判平成27年3月27日判決)

【事案の概要】
医師であるXは、不正に作成した診療報酬明細書を提出して診療報酬を詐取したとして、詐欺の罪で起訴されました。
Xはこれを争ったものの、裁判所は有罪の判決を言い渡し、この有罪判決について厚生労働省に情報提供がなされ、医師免許が取り消されました。
この取消処分について、取り消しを求めてXが訴えを起こしたのが本事案です。
【裁判所の判断】
1 裁量審査について
医師法7条2項は,医師が「罰金以上の刑に処せられた者」(同法4条3号)に該当するときは,厚生労働大臣は,その免許を取消し,又は一定の期間を定めて医業の停止を命ずることができる旨定めているところ,この規定は,医師が同法4条3号の規定に該当することから,医師として品位を欠き人格的に適格性を有しないものと認められる場合には医師の資格を剥奪し,そうまでいえないとしても,医師としての品位を損ない,あるいは医師の職業倫理に違背したものと認められる場合には一定期間医業の停止を命じ反省を促すべきものとし,これによって医療等の業務が適正に行われることを期するものであると解される。
したがって,医師が医師法4条3号の規定に該当する場合に,医師免許を取り消し,又は医業の停止を命ずるかどうか,医業の停止を命ずるとしてその期間をどの程度にするかということは,当該刑事罰の対象となった行為の種類,性質,違法性の程度,動機,目的,影響のほか,当該医師の性格,処分歴,反省の程度等の諸般の事情を考慮し,同法7条2項の規定の趣旨に照らして判断すべきものであるところ,その判断は,同条4項の規定に基づき医道審議会の意見を聴く前提のもとで,医師免許の免許権者である厚生労働大臣の合理的な裁量に委ねられているものと解するのが相当である。
そうすると,厚生労働大臣がその裁量権の行使としてした医師免許を取り消す処分は,それが社会通念上著しく妥当性を欠いて裁量権を付与した目的を逸脱し,これを濫用したと認められる場合でない限り,その裁量権の範囲内にあるものとして,違法とならないものというべきである(最高裁判所昭和61年(行ツ)第90号同63年7月1日第二小法廷判決・裁判集民事154号261頁参照)。
2 裁量の逸脱濫用があるか
本件において,原告は,診療報酬の不正請求に係る詐欺で実刑判決を受け,前記認定事実(9)で見たとおり,判決において,犯行動機,常習性,被害額,医師に対する信用や医療保険制度に対する国民の信頼に与えた影響,反省の態度が見られないこと等を指摘され,刑事責任を軽くみることはできないと厳しい評価を受けていた(本件の証拠によれば,この評価を改めるべき事情があるとはいえない。)のであるから,医道審議会医道分科会が,原告に対する処分として医師免許取消しが相当である旨答申したことは,上記考え方に照らしても不合理とはいえないところである。
【解説】
医師免許に対する処分は医師法7条に定めがありますが、たとえ罰金以上の刑を受けたとしても、処分をすることが「できる」と定められているにすぎません。つまり、たとえ実刑の判決を受けたとしても、それだけで直ちに医師免許が取り消されるとは限らないということになります。これに対し、弁護士法17条は「日本弁護士連合会は、次に掲げる場合においては、弁護士名簿の登録を取り消さなければならない。」としており、一定の事由があれば必ず登録が取り消されることになっています。
このように、処分をするかどうかについて行政庁に判断がゆだねられているようなものを、「裁量処分」と呼んでいます。
裁量処分については、行政事件訴訟法30条により、裁量権行使に逸脱・濫用があった場合のみ取消されることになっていますので、上記の裁判例のような判決文になります。
その上で、裁量権の逸脱濫用になるかどうかを、上記の裁判例では「当該刑事罰の対象となった行為の種類,性質,違法性の程度,動機,目的,影響のほか,当該医師の性格,処分歴,反省の程度等」といった要素から検討するとしています。この考慮要素は、条文ではありませんし、あくまでも東京地方裁判所の一裁判部が示した判断ですから、後の裁判で拘束されるようなものではありません。ただ、一般的なことを言っている部分ではありますし、内容自体も穏当なことを述べているだけですから、後に裁判を起こす場合などは、この部分に沿って事実を主張していくことが効果的であろうと思われます。
今回の事案は、診療報酬の詐取によって実刑判決を受けたことが取消しの原因でした。同じ詐欺でも、診療報酬の詐取は他のものよりも重く判断される傾向にありますので、実刑判決でなかったとしても免許取消になる可能性があります。そのため、早期の被害弁償等をして、できる限り刑事罰を回避できないかを検討することが医師免許を守るための最優先となります。
【弁護士が解説】弁護士として追求すべき正当な利益とは?

【事例】
X弁護士は、Aから建物収去土地明渡の依頼を受けました。
Xは、まずは交渉したほうが経済的負担が少ないと考えたため、土地上に建物を建築して占有しているBに直接会いに行きました。
Bはその建物内にいたのですが、X弁護士との話が全くかみ合わず、建物内も相当荒れ果てていました。少なくともX弁護士の話はほとんど理解できていないような様子でしたし、書類がたくさん散乱している様子から見ても、認知症ではないかと思われる状態でした。
以上のような様子を見て、X弁護士はこれ以上話し合っていても仕方ないと考え、Bを被告として建物収去土地明け渡し訴訟を提起しました。
すると、訴状は送達されたようですが、Bからは答弁書の提出もなく、そのまま欠席判決となってAが勝訴しました。
そしてこの勝訴判決に基づいて、Xは強制執行を断行しましたが、執行当日もBは以前と変わりない様子で、Xのことすらも忘れているようでした。
X弁護士の対応に問題はあるのでしょうか。
【解説】
依頼者Aからすれば、これ以上ない結果をもたらしており、Xの行為に問題はなさそうです。
ただ、XがBに会いに行った段階で、訴訟提起をしたとしてもBが防御権を行使することは不可能であろうと予想される状態でした。そのため、Xが訴訟提起をすればほぼ確実に欠席判決となり、勝訴できるという見込みがあったもので、Xからすればある意味当然の結果とも言えます。
弁護士としてこのような対応をすることが問題ないのでしょうか。
この事案は、実際にあった事案を少し改変しています。実際の事案では、弁護士職務基本規程5条、6条、21条、74条に違反するとされています。
相手方を利するような行為をすることは、依頼者に対する誠実義務との関係で緊張関係が生じます。しかし、弁護士である以上、無防備の人間を相手に法的手段をとることは、品位を失うと言われてしまう可能性があります。
今回の事例の場合、Bの戸籍等を調査し、親族がいるようであれば成年後見の申立てを依頼したり、仮に親族がいないような場合であっても、市町村長による申立ての手段を検討するなど、Bの防御権を行使させる方法は存在するように思われます。そのため、防御権行使のための検討をしなかった場合、X弁護士が懲戒を受ける可能性も否定できません。
もっとも、弁護士がどの程度Bの状況を認識していたのか、Bが受ける不利益の程度はどのくらいであるのかによっても結論は左右されます。建物収去土地明渡の場合、簡単に言うと住むところがなくなり、財産を失うわけですから、その不利益は相当大きいものといえます。不利益が大きくなればなるほど、防御権を行使させsる必要性が高いと言えます。反対に、Bに対する認識が小さいほど、Xとして取りうる手段を検討する機会が少なくなってきますので、Xが訴訟提起することがやむを得ないと評価されるようになります。
弁護士としては、勝てばよいという考えだけではなく、法律家としてその振る舞いが適切であるかということも評価の基準となっていることを意識する必要があります。
【弁護士が解説】マスコミの取材に応じることは許されるか?

【事例】
X弁護士は、ある刑事事件の国選弁護人に選任され、第1回公判に弁護人として出席した。
裁判が終わった後、法廷を出たところで、記者の腕章をつけた人物から声をかけられた。
「○○新聞の△△です。被告人であるAさんは、事件について今どのようなお話をされているのでしょうか」
さて、この問いかけに答えてよいのであろうか。
【解説】
社会的に耳目を集める刑事事件等の場合には、法廷で記者の方が傍聴されている場合があります。もちろん傍聴自体は権利ですし、傍聴した内容を記事にすることも、裁判の公開という原則からは問題ありません(ただし、被害者保護やプライバシーの観点からの制約はあり得ます)。
ただ、中には公判終了後に裁判所の廊下で、弁護士が記者から話しかけられるということもあります。そのとき、弁護士はどのように対応する必要があるのでしょうか。
弁護士法23条や弁護士職務基本規程23条で、秘密保持義務、いわゆる守秘義務が定められています。文言は少し異なりますが、要するに事件処理の過程で知り得た情報を理由なく漏らしてはならないというものです。
上記のようなマスコミからの取材は、被告人の今の声を求めるものですから、当然「秘密」に該当します。そのため、本人からの了解があれば回答することができますが、そのような場合以外は回答すべきではありません。在宅事件であれば、本人が横にいるのでその場で協議できないわけではありませんが、身柄事件の場合にはすぐに本人と話すことはできません。マスコミが来そうな事件であれば、予め本人と対応を協議しておくことも1つの方法だと思われます。
また、事件の内容によっては、本人の言い分をマスコミを通じて世間に知らせることも有効になるかもしれません。そのような類型の事件である場合には、記者会見を設定するなどして、積極的にマスコミを利用することも考えられる手段です。ただし、これも本人の同意が必要です。
それでは、その直前の公判で明らかになった(かつ争いもない)事実について、確認の意味で再び尋ねられた場合(たとえば、「○○という事件で、本人はお認めなんですよね」と聞かれた場合)に回答することは問題ないのでしょうか。一見すると、直前の公判で公開されている出来事ですので、「秘密」に当たるような事柄ではないように思えます。確かにそうとも言えるのですが、公判で裁判官に対して認めるのと、記者に認めるのでは、その意味合いが異なるように思われます。少なくとも公判では何らかの応答をしなければならないのに対し、記者に対しては応答しなかったからといって問題があるわけではありません。その意味で、仮に公になった事実であったとしてもそれをそのまま記者に話していいとは言い切れないように思われます。
マスコミからの対応依頼があった場合には、一旦持ち帰り、本人と協議をしてから回答する方が妥当のように思われます。
【弁護士が解説】対立当事者からの直接の連絡にはどう対応すべきか?

【事例】
X弁護士は、Aから建物収去土地明け渡し訴訟の依頼を受け、Bを被告として訴訟提起をした。
第1回口頭弁論前に、Bには代理人としてYが選任され、Yから答弁書が提出された。
弁論準備手続が何回か経過した後、裁判所から和解の話を持ち掛けられ、当事者双方が持ち帰り検討することになった。
ある日、Xの事務所にBから連絡があり、Bは以下のようなことを述べた。
「裁判所から出された和解案なのですが、もう少し金額を上乗せしてもらえないでしょうか。そうすれば応じることも考えたいと思っています。また、明け渡しの期限も少しだけ猶予をください。もし、先生の方でお考えいただけるようであれば、その結果を私の方に連絡してください。Y先生に連絡しても、どうせ私のところに連絡が来て、判断するのは私ですので、それなら直接電話をください」
X弁護士は、Bのいうように電話してよいのでしょうか。
【解説】
弁護士職務基本規程52条は「弁護士は、相手方に法令上の資格を有する代理人が選任されたときは、正当な理由なく、その代理人の承諾を得ないで直接相手方と交渉してはならない。」と定めています。
今回のYが「法令上資格を有する代理人」であることは争いありませんので、問題はしてはいけないと定められている相手方との「交渉」の範囲が問題となります。
交渉を辞書的に考えると、「話し合うこと」「かけあうこと」という意味になります。そのため、言わゆる示談交渉などを行うことは当然許されませんし、和解交渉を行うことも許されません。また、交渉の方法も限定されていませんので、対面で面会する以外にも、電話やメール、郵便物を送ることも許されません。
反対に、時効の援用や解除の意思表示というような、一方的な通知であれば、差し支えないと考えられます。それでも、相手方に対して何か応答を求めるような文言を記載することは、直接交渉になりかねませんので、差し控えるべきであると言えます。
それでは事案について検討をします。
まず、XはBから電話があり、その話を聞いています。これ自体は、かかってきてしまった以上、やむを得ないところです。もちろんXとしては、話の内容が和解条項に及びそうになった段階で「そういう話は代理人のY先生を通して伝えてください」という風に対応する方が望ましいように思われますが、話を聞く(ただし、それについて何も弁護士側から応答しない)だけであれば、弁護士が交渉をしているわけではないので、規程には該当しないように思われます。ただし、できれば「私の方から、Y先生にこのようなお電話があったことはお伝えしてよいでしょうか」と尋ね、Y弁護士に連絡をしておいた方がよいと思われます。反対に、ここでYへの連絡を拒絶するような場合には、YとBの間で問題が生じている可能性が高く、今後の対応方法についてより一層慎重になる必要があります。
次に、XがBに返事の連絡をする行為ですが、これは仮に「そのままお受けします」であったり、「お断りします」というような一方的な通知であったとしてもするべきではありません。和解の交渉ですから、さらなる提案がある可能性は十分ありますし、仮に受けるにしても場所や受け渡し方法の調整など、他に交渉すべき事項は残っています。ですので、相手方当事者への直接の連絡は、代理人がいる場合にはするべきではありません。
【弁護士が解説】介護福祉士が交通事故を起こした場合国家資格はどうなるのか

【事例】
介護福祉士であるAさんは、ある日通勤途中、自動車で交通事故を起こしてしまいました。
幸い被害者の方は全治2週間程度のけがではあったものの、警察の方からは事件を検察庁に送ると言われました。
Aさんはどのような刑事罰を受け、それによって介護福祉士の資格はどうなるのでしょうか。
【解説】
2 介護福祉士資格について
それでは、前回に引き続いて、今回は交通事故により介護福祉士の資格がどうなるかを解説していきます。
⑴欠格事由
国家資格が何らかの制限(剥奪されたり、効力が一時停止したり)を受けることになる事由のことを「欠格事由」と呼んでいます。欠格事由は、資格を取得するときに問題となっていますが、同様の事由が生じた場合には資格を取消すということになっています。
そして、介護福祉士についての欠格事由を定めているのは、社会福祉士及び介護福祉士法3条です。
(欠格事由)
第三条次の各号のいずれかに該当する者は、社会福祉士又は介護福祉士となることができない。
一 心身の故障により社会福祉士又は介護福祉士の業務を適正に行うことができない者として厚生労働省令で定めるもの
二 禁錮以上の刑に処せられ、その執行を終わり、又は執行を受けることがなくなつた日から起算して二年を経過しない者
三 この法律の規定その他社会福祉又は保健医療に関する法律の規定であつて政令で定めるものにより、罰金の刑に処せられ、その執行を終わり、又は執行を受けることがなくなつた日から起算して二年を経過しない者
四 第三十二条第一項第二号又は第二項(これらの規定を第四十二条第二項において準用する場合を含む。)の規定により登録を取り消され、その取消しの日から起算して二年を経過しない者
これが欠格事由になります。全部で4つ欠格事由が定められています。
1は規則に細かい規定があり、「精神の機能の障害により社会福祉士又は介護福祉士の業務を適正に行うに当たつて必要な認知、判断及び意思疎通を適切に行うことができない者」とされています。
2が今回問題となる規定ですので後述します。
3は、同じ刑事罰でも福祉関係の法令に違反した場合です。2が「禁錮以上」となっているのに対し、3は「罰金」となっています。罰金の方が軽い刑罰ですので、福祉関係の法令に違反した場合にはより軽い刑事罰でも欠格事由となります。
4は一度欠格事由があって資格を取消された場合の規定です。仮に欠格事由が生じたとしても試験に合格した事実自体は残りますので、形式的には再度登録できるように思われます。しかし、この規程によって2年間は再登録ができないようになっています。
⑵刑事罰と国家資格
さて、それは本題の刑事罰を受けた場合の資格について検討します。
2号で「禁錮以上の刑」と定められています。刑事罰の重さは死刑>懲役>禁錮>罰金>拘留>科料と定められていますので、禁錮以上の刑は死刑・懲役刑・禁錮刑を指します。反対から言えば、罰金刑であればこの規定に該当しないことになります。つまり、交通事故によって罰金刑を受けた場合や当然ですが不起訴処分になった場合には、資格を取消されたりすることはないということになります。
それでは禁錮刑を受け、その刑に執行猶予が付けられた場合はどうでしょうか。
執行猶予とは、裁判が確定した後すぐに刑務所等に収容されるのではなく、執行猶予期間中無事に過ごせば収容されないという判決です。反面、執行猶予中に再び裁判を受けるようなことがあれば、基本的には刑務所に行かなければならない(もう一度執行猶予になることはほとんどない)という判決です。たとえば「禁錮1年執行猶予3年」という判決の場合、「もし3年間何もせずに過ごすことができれば、刑務所にはいかなく構いません。ただし、3年以内に再び裁判を受けるようなことがあれば、新しく犯した罪の刑罰に、追加して1年刑務所に入ってもらいます」という意味になります。
話を戻すと、交通事故で人をけがさせた場合、余程重大な事情(前科があるとか、飲酒運転であるなど)がない限りは執行猶予がつくことがほとんどです。しかし、先ほどの欠格事由の条文には執行猶予を除外する規程はありませんから、仮に執行猶予がついたとしても資格は取り消されることになります。
交通事故は誰でも起こしてしまう可能性があるものですが、一つ間違えると運転免許以外の資格さえ剥奪されてしまうものになります。これを回避するためには初動の対応が重要です。資格のことでご不安な方は、いち早く弁護士にご相談ください。
【弁護士が解説】刑事事件を起こすと介護福祉士の国家資格はどうなるのか

【事例】
介護福祉士であるAさんは、ある日通勤途中、自動車で交通事故を起こしてしまいました。
幸い被害者の方は全治2週間程度のけがではあったものの、警察の方からは事件を検察庁に送ると言われました。
Aさんはどのような刑事罰を受け、それによって介護福祉士の資格はどうなるのでしょうか。
【解説】
1 交通事故の刑事罰
⑴交通事故による処分の種類
Aさんは交通事故を起こしてしまいましたが、事故の場合、色々な処分がなされます。
1つ目は、運転免許の点数です。けがの程度や運転態様にもよるのですが、免許の点数が引かれる場合があります。そして、注意しなければならないのは、点数を引かれたからといって刑事罰を受けないというわけではないところです。よく似た制度に「反則金」というものがありますが、反則金で処理されるようなものの場合は、反則金を払えば刑事罰を受けなくて済むような仕組みになっています。しかし、点数と刑事罰は全く別のものですので、点数を引かれ、刑事罰を受ける場合があります。
2つ目は刑事処分です。警察が検察庁に事件を送り、検察官が起訴をして有罪となると、何らかの刑事罰を受けることになります。刑事罰とは、死刑、無期・有期の懲役・禁錮、罰金、拘留、科料のいずれかを指していて、いわゆる「前科」に該当するようなものを指します。繰り返しになりますが、点数と刑事処分は別物ですので、両方が来る場合も珍しくありません。
⑵交通事故の刑事罰
事故により、人にけがをさせた場合には、その事故の態様次第ではありますが、過失運転致傷罪が成立します。
過失運転致傷罪は、7年以下の懲役・禁錮又は100万円以下の罰金が定められている罪です。ただ、人が死亡した場合の「過失運転致死」と同じ条文・法定刑が定められていますので、現実的に7年の懲役・禁錮になるということはあまり想定されていません。
一般的に交通事故で人にけがをさせた場合、骨折以上(おおよそ全治1ヶ月程度)のけがをさせた場合には、何らかの処罰を受ける可能性が高いと言えます。反対に、極めて軽微なけが(全治3日など)であった場合には、起訴猶予処分となることも多いようです。ただ、同じ程度のけがであっても事故態様や、不注意の内容、被害者の行動によって処分は左右されますので、必ずしもけがの程度だけで処分が決まっているわけではありません。また、被害者の方と示談をすることによって不起訴処分となることもありますから、事故を起こしたからといってすべてが処罰をされているわけではありません。
次回ご説明しますが、国家資格の多くは、刑事罰を受けたことを理由として処分の事由を定めています。そのため、国家資格に影響を与えないようにするためには、まずは刑事罰を受けない=不起訴処分となることを優先して考える必要があります。交通事故を起こしてしまった場合には、被害者の方との示談等をいち早く検討する必要があります。
【弁護士が解説】不当であると分かりながら訴訟提起をすることに何か問題はないか

【事例】
X弁護士は、Aから、ある不動産の明け渡しに関する相談を受け、Bに対して訴訟提起を行った。
しかし、この訴訟でXが主張した法的な構成は、第一審でも第二審でも認められず、Aは敗訴しました。
この結果に納得できなかったAは、Xに対して再び訴訟提起をすることを求めました。ただ、X弁護士としては、既に主張できる法的構成は1回目の裁判で主張してしまっており、今さら新たな法的構成を考えたとしても無理筋なものであると考えていました。既判力のことを考えると、どうしても訴訟提起は難しそうです。
このとき、X弁護士が訴訟提起をすることに問題はないでしょうか。
【解説】
弁護士は、不当な事件を受任することはできません(弁護士職務基本規程31条)。
今回のように、不当訴訟と思われるものを引き受けることは、この規程に違反する可能性があります。ただ、だからといって裁判を受ける権利がある以上、代理人になることが一律に否定されるものではありません。
裁判例で、弁護士の訴訟提起行為が不法行為を構成する場合は、「一般に代理人を通じてした訴や控訴の提起が違法であって依頼者たる本人が相手方に対し不法行為の責を負わなければならない場合であっても、代理人は常に必ずしも本人と同一の責を負うべきものと解することはできない。すなわち、代理人の行為について、これが相手方に対する不法行為となるためには、単に本人の訴等の提起が違法であって本人について不法行為が成立するというだけでは足りず、訴等の提起が違法であることを知りながら敢えてこれに積極的に関与し、又は相手方に対し特別の害意を持ち本人の違法な訴等の提起に乗じてこれに加担するとか、訴等の提起が違法であることを容易に知り得るのに漫然とこれを看過して訴訟活動に及ぶなど、代理人としての行動がそれ自体として本人の行為とは別箇の不法行為と評価し得る場合に限られるものと解すべきである。」(東京高判昭和54年7月16日)とされています。そのため、単に不当訴訟だと認識しながら訴訟提起するだけでは足りないと考えられていますので、弁護士としてはそこまで心配する必要はありません。
不法行為上の責任を負う場合よりも、懲戒請求を受ける場合の方がより厳格な場合に限定されます。そのため、懲戒請求を受けるのは、被告に損害を与える目的が明白な場合や、それにより弁護士が利益を得る場合など極限的な場合に限られると考えられます。
もっとも、原告(依頼者)側が敗訴に納得するかという問題も再びあります。弁護士は結果を装って受任することが禁止されているので、原告には敗訴の可能性を十分告知した上で受任しなければなりません。
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