【弁護士が解説】弁護士が作成する書面にはどのような注意が必要か

【事例】

 X弁護士は、Aから不貞行為を原因とする損害賠償請求の依頼を受任しました。

 Aの夫であるBは、職場の同僚であるCと不倫関係にあり、AとしてCに対して損害賠償請求を行いたいと考えているようでした。

 ただ、いきなり訴訟というのも、ということで、まずはCの住所地に内容証明郵便をそうふすることとなりました。

 その文面を作成している途中、AからX弁護士に対して次のような依頼がありました。A曰く、できる限りCに対してプレッシャーを与えるような文章を作成して欲しいということのようで、Cへの文面に「泥棒猫」というような言葉を入れて欲しいようでした。

 はたしてこのような文言を入れてもよいのでしょうか。

【解説】

 弁護士職務基本規程6条では「弁護士は、名誉を重んじ、信用を維持するとともに、廉潔を保持し、常に品位を高めるように努める。」とされています。

 他方で、同22条には「弁護士は、委任の趣旨に関する依頼者の意思を尊重して職務を行うも
のとする。」ともされており、依頼者の意思の尊重も要求されています。

 そうすると、たとえば品位を損なうようなことを依頼者が依頼してきた場合、それは許されるのかどうかということが問題となります。

 この点について、規程20条は「弁護士は、事件の受任及び処理に当たり、自由かつ独立の立場を保持するように努める。」としています。これは、弁護士の職務の専門性から、事件処理に裁量があることを表しており、全て依頼者の指示通りにしなければならないということまでを義務付けているわけではないことを表しています。

 今回の様に、明らかに不当な文言を書面に記載することは、その必要性(たとえば、何らかの文章の引用等の場合)がない限り、弁護士として依頼者の指示に従うべきではないと考えられます。仮に依頼者の意向通りに書面を作成し、相手方から懲戒請求を受けた場合、依頼者の指示であることは違法性を阻却するものではないと思われますので、依頼者に対しては上記のような立場を説明し、できる範囲があることを説明する必要があります。

 ただ、たとえば「あなたは不貞行為をしました」というような文言についても、厳密に言えば言い分はA本人の証言しかなく、客観的な証拠が伴っていない可能性もあります(Bが自白している場合には、それで足りるとも考えられますあ)。このような場合に、断定的なような表現を使うことの是非も問題となり得ますが、これは記載をしなければ損害賠償請求自体が認められる(不貞行為があったか無かったかわからないけれども請求、ということになるとそのような請求自体も法的に適切ではなく、懲戒事由となる可能性があります)余地がないため、このような表現はやむを得ないと思われます。

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