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1 処分事由
薬剤師の国家資格について、処分の理由となる規程は薬剤師法8条第1項に定めがあります。
そして同条は「薬剤師が、第五条各号のいずれかに該当し、又は薬剤師としての品位を損するような行為のあつたときは、厚生労働大臣は、次に掲げる処分をすることができる。」としていますので、具体的な定めは同法5条に規定されています。
同法5条の定めは
第五条 次の各号のいずれかに該当する者には、免許を与えないことがある。
一 心身の障害により薬剤師の業務を適正に行うことができない者として厚生労働省令で定めるもの
二 麻薬、大麻又はあへんの中毒者
三 罰金以上の刑に処せられた者
四 前号に該当する者を除くほか、薬事に関し犯罪又は不正の行為があつた者
となっています。
① 心身の障害により薬剤師の業務を適正に行うことができない者として厚生労働省令で定めるもの
これについての厚生労働省令である薬剤師法施行規則第1条の2によれば、「法第五条第一号の厚生労働省令で定める者は、視覚又は精神の機能の障害により薬剤師の業務を適正に行うに当たつて必要な認知、判断及び意思疎通を適切に行うことができない者とする。」と定めてあります。
具体的にどのような障害であるかどうかは定めがありませんが、同規則1条の3に「厚生労働大臣は、薬剤師の免許の申請を行つた者が前条に規定する者に該当すると認める場合において、当該者に当該免許を与えるかどうかを決定するときは、当該者が現に利用している障害を補う手段又は当該者が現に受けている治療等により障害が補われ、又は障害の程度が軽減している状況を考慮しなければならない。」とも定めています。
ですので、「必要な認知、判断および意思疎通を適切に行うことができない」からといって、一律に免許を交付しない(処分の対象とする)というものではないと定められています。
② 麻薬、大麻又はあへんの中毒者
このような規定は多数あり、麻薬中毒者については措置ができることになっていますが(麻薬及び向精神薬取締法第58条の2以下)、実例はほとんどないと思われます。
③ 罰金以上の刑に処せられた者
ここでいう「罰金」とは、刑事罰としての罰金を指しています。
たとえば、交通違反を犯し、青色や白色の切符を切られた際に支払う「交通反則金」は罰金ではありません。これに対して赤色の切符(通称赤切符)を切られ、裁判所に出頭して支払うものは「罰金」となります。
また、「罰金以上」と定めがあるだけですので、どのような罪で罰金以上の刑になったかは問われていません。たとえば、交通事故で罰金を支払った場合も、盗撮や痴漢で罰金を支払った場合も、法文上は同じ扱いとなります(但し、後述の基準が異なります)。
④ 前号に該当する者を除くほか、薬事に関し犯罪又は不正の行為があつた者
薬事に関し犯罪又は不正の行為があった者ですが、まず「犯罪」と「不正の行為」が分けられている通り、必ずしも犯罪だけが対象とされているわけではありません。ですので、犯罪には該当しないけれども不正であるような場合にも処分の対象となり得ます。
また1号と異なり「罰金」のような刑事罰を科せられたことは要件となっていません。そのため、犯罪が成立したけれども情状によって起訴されなかった、いわゆる起訴猶予(不起訴の一種)の場合であっても、処分の対象となる可能性があります。
2 手続
薬剤師法第8条2項によれば、「都道府県知事は、薬剤師について前項の処分が行われる必要があると認めるときは、その旨を厚生労働大臣に具申しなければならない。」としており、同4項は「厚生労働大臣は、第一項又は前項に規定する処分をしようとするときは、あらかじめ、医道審議会の意見を聴かなければならない。」と定めています。
ですので、まず都道府県の監督部局から連絡があり、都道府県内で具申を行うか検討された後、厚生労働省の医道審議会にて処分が審議されるという流れとなります。
ところで、薬剤師の資格に対して何らかの処分を行うことは、その者に対して不利益な処分となります。不利益処分の場合行政手続法が適用されますから、必ず聴聞の手続きが行われます。
ここで、自らの言い分等を述べることができるような仕組みがありますので、不意打ち的にいきなり処分が出るのではなく、処分を行うためになされる手続きが開始されたことについては必ず連絡が来ます。
3 処分の内容
⑴ 行政指導
未だ処分を行うほどではないような場合には「行政指導(厳重注意)」がなされます。
これはあくまでも注意ですので、資格そのものには影響しません。単なる注意ですが、再び同じようなことをしてしまったような場合には、過去に厳重注意を受けていることは処分を重くする方向で働きます。
⑵ 戒告
戒告も、資格そのものに影響を及ぼさない点には変わりありません。ただ、法定されている処分ですので、単なる指導ではなく行政処分を受けているということになります。
ただ、単に戒告だけであれば薬剤師業務には影響しないということになります。
また、行政指導と異なり、再教育研修(同法8条の2)の対象となりますので、場合によっては研修を受講する必要が生じます。
⑶ 業務の停止
薬剤師になるためには厚生労働省の免許を受けなければならず、薬剤師でなければ販売又は授与の目的での調剤ができません(薬剤師法19条)。
ですので、業務の停止を受けている間は薬剤師としての活動ができなくなります。
業務の停止をする期間について法律上の定めはありませんが、数か月から5年程度くらいまでがほとんどだと思われます。
⑷ 免許の取消し
これは、薬剤師としての資格を取り消す処分です。
ですので、薬剤師としての資格を失ってしまいますので、再度受験をしなければ免許を得ることができません。
免許取消処分は最も重い処分となりますので、相当悪質な場合に限定されていると思われます。
4 具体的な処分
薬剤師に対する行政処分は、医道審議会薬剤師分科会倫理部会の議事にまとめられ、公表されています。
ですので、どのような事件でどのような処分となるのかがおおよそ分かります。
令和4年2月28日
免許取消2件 麻薬及び向精神薬取締法違反及び常習累犯窃盗
保護責任者遺棄致死及び死体遺棄
業務停止6月 窃盗
贈賄
業務停止3月 薬機法
業務停止2月 過失運転致傷及び道路交通法違反
戒告 道路交通法違反
廃棄物処理法
免許取消となっているのは、人を死亡させた罪(保護責任者遺棄致死)や、何度も刑事罰を受けている罪(常習累犯窃盗)で、犯罪としても相当悪質性が高いものです。
また、過失運転致傷及び道路交通法違反というのは、交通事故を起こしたことに加え、ひき逃げ、飲酒運転、速度超過など悪質性が追加されているような事案であることを示唆します。単なる交通事故の場合には、それほど重い処分となるわけではないようです。
令和2年12月24日
免許取消 麻薬及び向精神薬取締法、薬機法
業務停止3月 窃盗
業務停止3月 児童ポルノ法
業務停止2月 麻薬及び向精神薬取締法
業務停止1月 迷惑防止条例違反
戒告 自動車運転処罰法
窃盗
傷害
同じ窃盗でも戒告と業務停止のように処分が分かれていることを考えると、おそらくはどのような刑事罰を受けたのかや被害の程度によって処分が分かれていると思われます。
また、薬剤師という性質上、薬物法令違反については重い処分が予想されます。
5 考え得る弁護活動
⑴ 刑事処分回避
処分の事由が「罰金以上の刑」となっている以上、まずは不起訴処分となることを目指す必要があります。
被害者のいる犯罪で、事実関係を認めているような場合であれば、被害者との間で示談交渉を行い、お許しいただくことで刑事処罰を回避できる可能性があります。
また、事実無根のような場合には、取調べの対応を行い、刑事処罰を受けないように受け答えを行う必要があります。
示談交渉の場合、日数が必要となることが多いですから、いち早く弁護士に依頼し、速やかに示談交渉に着手することが肝要です。
また、取調べ対応を行う場合でも、1通でも供述調書が作成されてしまえば問題となってしまう可能性が高いので、取調べを受ける前から備えておく必要があります。
⑵ 行政手続対応
先ほども述べたように、いきなり処分を受けるのではなく、まずは都道府県の担当部局から話を聞かれる機会(聴聞)が存在します。
その中で自身に有利な事情等を挙げていき、処分を回避する必要性があります。
たとえば、仮に刑事事件の最中に被害者との間で示談が成立せず、処分を受けたとしても、その後に被害回復をしているといった事情は、行政手続の中でも有利に働きます。
また、やむを得ずに犯罪に至った事情や、再犯防止に対する対応などについても、証拠化し、提出することが大切です。
このような作業は、行政手続きの処分に対する判断要素に対応して行う必要がありますから、専門的な弁護士に依頼して行う方が効果的な書類作成が期待できます。