1 信用・秩序違反
懲戒事由の3つ目は、「所属弁護士会の秩序又は信用を害し」たような場合です。
これについては、そもそも具体的な要件などが記載されていないため、実質的な価値判断を行う必要があります。
また、実際の処分例でも、会則違反や、品位を失うべき非行があった結果、会の信用を毀損したというような形で、他の懲戒事由とあわせて記載されることがあります。
たとえば、東京高判昭和53年6月26日の事件では、業務停止中に弁護士業務を行ったことが問題となりました。業務停止中は、弁護士業務を行うことは当然できず、これは法令・会則違反に当たる行為になります。このような事件で、裁判所は
「原告〔対象弁護士〕の行為は、所属弁護士会から一年八月の業務停止の懲戒処分に付されながら、右業務停止期間中に刑事弁護人として弁護士の業務を行ったというものである。業務停止の懲戒処分は、一定期間弁護士の業務に従事してはならない旨を命ずるものであって、この懲戒の告知を受けた弁護士は、その告知によって直ちに当該期間中弁護士としての一切の職務行為を行うことができないこととなるにもかかわらず、原告は、この処分に違反して弁護士業務を行ったものであり、所属弁護士会の統制に服さず、これによって弁護士会の秩序を乱した責任は、決して軽くない。」と判示しており、法令会則違反によって、弁護士会の秩序が乱れるというような論旨を記載しています。
2 弁護士法第12条
弁護士の登録・登録換えに関し、心身に故障があるなどの理由のほか、「弁護士会の秩序若しくは信用を害するおそれがある者」の請求について、単位会はその進達の拒絶をすることができるとされています。
これは、懲戒請求の事由の規定と同様で、予め弁護士会に入会することを防ぐ規定ですが、具体的な定めはありません。
これに関連して、東京高判昭和53年2月21日の事例では、過去に横領事件を起こしたこと(この横領は、弁護士としてではなく、政治家として起こしている)を理由として入会を拒絶した大阪弁護士会・日弁連の判断を否定しています。
その裁判では「原告〔弁護士〕の右犯罪事実のうち、その多くを占める詐欺、横領の事実は、いずれも政治家としての地位に関連して行なわれたものであるが、原告がその後政治家たることを断念し自粛自戒の生活を送つて来た事実は、成立に争いのない乙第一号証、原告本人の供述並びに弁論の全趣旨によつて認めることができ、これに右各判決確定後における時間の経過など諸般の事情を総合して勘案すると、右の各犯罪事実から、直ちに被告の主張するように、一般弁護士及び弁護士会の信用を害する虞れありと認定するには躊躇を感ぜざるを得ない。なお、乙第一四号証の一、二によると、原告は前示確定判決により大阪弁護士会を退会した後の昭和四一年八月二九日●●の依頼を受けて答弁書を作成しその手数料金三万円及び賃料供託金として金八、八〇〇円の交付を受けて、弁護士に非ずして弁護士業務を行なつた事実を認めることができるけれども、右乙号証によれば原告はその後右行為を反省してその金員も返還し、大阪弁護士会においても告発を猶予してこれを不問に付した事実を認めることができるから、右の事実によつて前叙認定を覆えすに足らず、他に原告の弁護士名簿登録によつて一般弁護士及び弁護士会の信用を害する虞れがあるとの事実を認めるに足りる証拠はない。」としました。