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事案(フィクション)
東京都内の総合病院で勤務する外科医Aは、胆石手術を担当しました。本来は患者Bの画像データを確認すべきところ、別の患者のデータを参照してしまい、
位置を誤認しました。その結果、胆管を損傷させ、Bは重篤な合併症を発症し、長期入院を余儀なくされました。
病院内の調査により、
画像確認を怠ったこと
ダブルチェック体制が機能していなかったこと
が判明しました。
この場合の法的責任を、①刑事責任、②民事責任、③医師免許への影響の順に説明します。
① 刑事上の責任
医師の医療ミスが刑事事件となる場合、問題となる代表的な罪名は 業務上過失致死傷罪(刑法211条)です。
● 業務上過失致傷罪
医師は「業務として医療行為を行う者」にあたります。
本件では、画像の取違えをしてしまい、患者の同一性確認という基本的な義務に違反しています。
その結果、患者に無用な傷害が生じています。
注意義務違反と傷害との間に因果関係があると言えますので、業務上過失致傷罪が成立する可能性が高いと言えます。
法定刑は5年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金ですが、初犯であり、被害者に後遺症が残っていないこと、保険による賠償が見込まれることなどの事情がある場合には、不起訴や罰金で終了することも十分考えられますが、患者が死亡した場合は公判請求になる可能性が高いと思われます。
② 民事上の責任
民事では主に「損害賠償責任」が問題になります。
(1)不法行為責任(民法709条)
医師に過失があり、患者に損害が生じた場合、医師は不法行為責任を負います。
重篤な後遺障害が残れば、数千万円規模の賠償になることもあります。
ただし、多くの医師は保険に入っていると思われますので、その保険により賠償金は賄われます。
(2)病院の責任(使用者責任)
A医師が病院の雇用医師であれば、病院(医療法人等)も 使用者責任(民法715条) を負います。
そのため、実務上は医師個人と病院の両方を訴えることが多くなっています。
なお、国公立の病院などの場合には、国家賠償法1条に基づく責任追及も考えられます。
③ 医師免許への影響
医師免許に関する処分は、医師法に基づき、厚生労働大臣が行います。
(1)行政処分の種類
刑事有罪判決を受けた場合や、医師として品位を損なう場合などには、以下の処分があり得ます。
戒告
3年以内の医業停止
免許取消
の3種類が処分としてありますが、医療過誤についても、明らかな過失に基づく場合や、繰り返し行われた過失など、通常求められる注意が欠けている事案でも、重めの処分とするとされています(医師及び歯科医師に対する行政処分の考え方について)。
(2)刑事責任と行政処分の関係
重要なのは:
刑事責任と行政処分は別個に判断される
刑事で不起訴でも行政処分があり得る
という点です。
