看護師の懲戒事由にはどのようなものがあるのか

【事例】

 看護師であるAさんは、帰宅途中に車を運転している際、誤って赤信号を見落とし、横断歩道上の歩行者を跳ね飛ばしてしまいました。

 慌てたAさんは、その場で停車することなく、そのまま帰宅してしまい、後日捜査を遂げた警察官により逮捕されてしまいました。

 Aさんの看護師資格はどのようになってしまうのでしょうか。

【解説】

 保健師助産師看護師法14条1項によると、「保健師、助産師若しくは看護師が第九条各号のいずれかに該当するに至つたとき、又は保健師、助産師若しくは看護師としての品位を損するような行為のあつたときは、厚生労働大臣は、次に掲げる処分をすることができる。」としています。そこで9条を見ると、

 罰金以上の刑に処せられた者

 前号に該当する者を除くほか、保健師、助産師、看護師又は准看護師の業務に関し犯罪又は不正の行為があつた者

 心身の障害により保健師、助産師、看護師又は准看護師の業務を適正に行うことができない者として厚生労働省令で定めるもの

 麻薬、大麻又はあへんの中毒者

が懲戒事由とされています。

 刑事罰の場合、1号により「罰金以上の刑」であれば、何らかの処分を受ける可能性が生じることになります。

 それでは、今回のAさんの行為の刑事罰を考えてみましょう。

 Aさんがしてしまった行為は、いわゆるひき逃げです。ひき逃げは、それ自体が道路交通法違反の罪となりますが、被害者がけがをしていた場合には過失運転致傷罪という別の犯罪が成立するほか、ひき逃げの罪の法定刑も格段に重くなってしまいます。

 最終的にAさんに与えられる刑罰は、被害者のけがの程度によるものの、仮に軽いけがであったとしても執行猶予付きの判決となり、罰金刑ではおさまらない可能性が高いと思われます。

 ところで、看護師等の行政処分については、予め基準が公表されています(こちら。)

 この基準は作られた年度の関係で、交通事故は「業務上過失致死傷」となっています。ただ、その内容を読むと、ひき逃げの場合厳しく責任を問われると述べる等、交通事故それ自体について触れているものではありません。確かに、事故は起こそうと思って起こしているわけではなく、だれしも起こしてしまう可能性があるものですから、事故だけを理由として重い処分をすることは躊躇われます。実際、単なる事故ではそれほど処分されていないようです。しかし、ひき逃げ事案となると、各段に処分が重くなってしまいます。

 事故を起こした場合、まずは通報することが、最終的に資格を守るためにも必要です。交通事故だけであれば、被害者の方と示談交渉を行い、示談が成立すれば不起訴処分となる可能性があります。ですので、事故を起こした場合には、速やかに保険会社や弁護士に相談を行うことが必要です。

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