1 守秘義務の例外
弁護士法第23条は守秘義務を定めていますが、その但書において「但し、法律に
別段の定めがある場合は、この限りでない」とされています。
ここにいう「別段の定め」というのは、刑事訴訟法105条但書(「医師、歯科医師、助産師、看護師、弁護士(外国法事務弁護士を含む。)、弁理士、公証人、宗教の職に在る者又はこれらの職に在つた者は、業務上委託を受けたため、保管し、又は所持する物で他人の秘密に関するものについては、押収を拒むことができる。但し、本人が承諾した場合、押収の拒絶が被告人のためのみにする権利の濫用と認められる場合(被告人が本人である場合を除く。)その他裁判所の規則で定める事由がある場合は、この限りでない。)などを指すと考えられています。
ただし、実際にはこのような法律の規定がある場合だけではなく、「正当な理由」がある場合には守秘義務違反にならないと考えられています。実際、弁護士職務基本規程第23条でも「弁護士は、正当な理由なく、依頼者について職務上知り得た秘密を他に漏らし、又は利用してはならない」としています。
2 正当な理由
この守秘義務違反が許される正当な理由とは、法律に記載のあるような別段の定めがある場合だけではなく、以下のような場合も許されると考えられています。
①依頼者の承諾があるとき
守秘義務は依頼者を保護するものですから、本人の承諾があれば解除されると考えられます。
ただ、この承諾は真意に基づくものである必要があり、全体的には慎重に検討する必要があります。
②自己防衛の必要があるとき
依頼された事件に関連し、弁護士自身が訴訟の当事者になったり(元依頼者から訴えられるようなケース)、紛議調停・懲戒の手続きに付されたような場合には、秘密の開示が許されると考えています。
ただし、注意を要する点があります。弁護士が依頼者に対して弁護士報酬の支払いを求めて訴訟を提起するような場合に、自己防衛であるかどうかが問題となります。
もちろん報酬請求権は重要なものですから、全く守秘義務が解除されないとは言えないと思われますが、弁護士自身が訴えられたようなケースと同様とまでは考えられず、この点についても慎重に検討するべきであります。
③公共の利益のために必要があるとき
弁護士には、依頼者の利益を守るという義務のほかに、公共の利益を守る義務も課されていると考えられます。
たとえば、依頼者が第三者に対する殺人を相当具体的に企てていることを知った場合に、警察への通報や、第三者への注意喚起が許されるのかという問題が生じます。
一般的には、生命や身体に対する重大な危害を防止するために必要がある場合には守秘義務が解除されると考えられます。
ですので、上記の例のような場合には、捜査機関への通報などが守秘義務違反になると考えられません。
次に、財産に対する危害を防止するために守秘義務が解除されるかですが、これについては、上記の生命・身体に対する危害よりは一層慎重に考える必要があります。現時点で決まった解釈があるわけではありませんが、安易に秘密を漏示することは許されないと考えらます。