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【事例】
医師であるAさんは、盗撮事件を起こしたことにより、性的姿態等撮影法により略式罰金となりました。
医師免許についての懲戒処分があることは市っていますが、その他にどのような処分があるのかを検討しています。
【解説】
1 保険医とは
医師法に基づく「医師免許」は、国内で医業を行うために必要なものとされています(医師法17条)。
「医業」とは「医師の医学的判断及び技術をもってするのでなければ人体に危害を及ぼし、又は危害を及ぼすおそれのある行為を、反復継続する意思を持って行うこと」と考えられています。
そのため、いわゆる美容整形のような自費診療であっても、人体に危害を及ぼすようなものですから、医師免許がなければしてはいけません。なお、「反復継続する意思」が必要とされていますが、1回目の行為であったとしてもその意思がある場合には医師法違反、傷害罪となります。
この「医師免許」の有無とは別に、保険診療を行うことができるかどうかという問題があります。美容整形のような自費診療を除けば、多くの国民は国民健康保険等の保険を利用して、3割等の一部負担割合で診療を受けています。この健康保険を用いた医療を行うことができる資格のことを「保険医」と呼んでいます。
そして、保険医となるためには、厚生労働大臣の登録を受けなければなりません。これを定めているのが「健康保険法」です。
健康保険法64条では、「保険医療機関において健康保険の診療に従事する医師若しくは歯科医師又は保険薬局において健康保険の調剤に従事する薬剤師は、厚生労働大臣の登録を受けた医師若しくは歯科医師(以下「保険医」と総称する。)又は薬剤師(以下「保険薬剤師」という。)でなければならない。」としており、保険医でなければ健康保険の診療に従事できないとしています。
そして、個人の医師が保険医として登録されるためには「第六十四条の登録は、医師若しくは歯科医師又は薬剤師の申請により行う。」とされています(71条)。
2 保険医の欠格事由
健康保険法81条は、保険医の登録を取り消す場合を定めています。その欠格事由は次の通りです。
①省令で定める保険診療をしなかった場合
②厚生労働大臣からの資料提出の求めなどを拒絶した場合等
③健康保険法以外の法律に基づく診療等について①②のような事由があった場合
④健康保険法その他国民の保険医療に関する法律で政令で定めるものの規定により罰金の刑に処せられ、その執行を終わり、又は執行を受けることがなくなる者に該当するに至ったとき
⑤禁錮以上の刑に処せられ、その執行を終わり、又は執行を受けることがなくなるまでの者に該当するに至ったとき
⑥保険医が国民健康保険法等の法律で政令で定めるもの又は法律に基づく命令処分に違反したとき
とされています。
このうち、刑事罰に関するものは④⑤となりますので、その点を見ていきます。
④は、健康保険法等保険診療に関する法律違反により罰金の刑に処せられた場合です。刑罰の重さは死刑>懲役≧禁錮>罰金>拘留>科料というようなイメージです。懲役、禁錮は、いずれも刑務所に収容するという刑なのですが(執行猶予がついた場合を除く)、刑務作業を義務付けられているかどうかが異なります。ただ、この2つは、数年後に拘禁刑というものに統一されることが予定されています。
保険制度を裏切るような罪を犯した場合には、比較的軽微な刑罰である罰金相当の場合であっても、登録取消が予定されています。
⑤は、全ての刑事罰違反を対象としたものです。殺人から交通事故、万引きに至るまで、医師の診療と関係あるかどうかを問わず、保険医が何らかの刑事罰を受けたかどうかを問うものです。ただ、保険診療と関係ないことを理由としますので、罰金よりも重い禁錮以上の刑を受けた場合に限定されています。
今回のA先生の場合は、いわゆる盗撮罪で処罰されたもので、保険診療とは関係ありません。そのため、⑤の条文が問題となりますから、罰金刑であれば保険医登録は取り消されないということになります。ただ、あくまでもこれは保険医の登録の問題ですから、医師免許に対する処分とは異なります。医師免許に対する処分として、医業停止以上の処分が出た場合には、医業自体を行うことができなくなりますから、自動的に保険医としても業務ができなくなります。
医師が禁錮以上の刑罰を受けてしまうと、保険医としての登録が取り消される可能性があります。国民皆保険制度がある日本では、保険医の登録を失うことは医師として働けなくなることに等しいとも言えます。
そのため、医師が何らかの罪を犯してしまった場合には、刑事罰を受けなくて済む、仮に受けるとしてもできる限り軽い処分となるよう、速やカニ弁護活動を受ける必要があります。