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【事例】
X弁護士は、殺人の容疑で逮捕されているAの弁護人に選任され、Aが勾留されているB警察署へ接見に赴いた。
X弁護士が接見を終え、警察署の外に出ると、いきなり多数のマスコミ関係者に囲まれ、「Aの弁護人の先生ですよね。Aはどのようなことを話しているのですか。」と尋ねられた。
Xとしてはどのように対応すればよいであろうか。
【解説】
事件自体が報道されるような大きな事件となると、被疑者、被告人本人の主張についても取材が行われます。また、連日警察署の前には多数のマスコミ関係者が取材のために訪れており、警察署に入るためにはマスコミ関係者の前を通らなければならないような状況になります。
そして、弁護士が接見室から出て警察署の外に出ると、上記の事例のようなやり取りが開始されることになります。
実際、このようなマスコミの取材に回答している弁護士の姿を報道で見ることもあります。ただし、この回答をするにあたっては、様々な面から検討をする必要があります。
1 刑事弁護の面
被疑者の主張について回答をすると、当然これを見た捜査機関側は対策を行ってくるということになります。たとえば、被疑者に完全黙秘を指示してそれが実行されている中で、弁護人がマスコミに回答していては何の意味もありません。
また、回答の内容や姿勢によっては、被害者と示談交渉を行う必要があるような事件で悪影響が出る可能性もあります。
そのため、刑事弁護という観点から見ると、本人の言い分を早期に世間に伝えるという目的がない限り、あまりメリットは大きくないものと思われます。
2 弁護士倫理の面
弁護士には、弁護士法23条により守秘義務が課せられています。本人との接見時のやり取りは、当然この守秘義務の範疇に入りますので、本人に無断でマスコミに回答したような場合には、守秘義務違反となります。実際、無断でマスコミ対応をしたことにより戒告の処分を受けた事例などがあります。
そのため、X弁護士のようにいきなりマスコミから対応を求められた場合には、ひとまずその場では回答せず、次の接見の機会に本人と協議することが適当であると考えられます。
3 本人が希望した場合
それでは、マスコミに自身の言い分を伝えることを本人が希望した場合はどうでしょうか。たしかに、本人が希望していますので、守秘義務違反の問題は生じません。もっとも、事前の打ち合わせにないような事柄を尋ねられた場合に、これを回答することは問題となる可能性があります。
しかし、マスコミに対応することは、守秘義務違反だけではなく、弁護活動の点からも問題が存在しています。回答することが本当に弁護活動上不利にならないかについても併せて検討する必要があります。