【事例】
X弁護士は、Aさんの国選弁護人に選任されたため、勾留されている警察署に接見に行きました。
Aさんと接見すると、次のようなことを言われました。
「先生、実はこの事件はBが真犯人です。私は全く無関係で、現場にもいなかったのですが、世話になっているBから、何とかここだけ身代わりになってくれといわれたんです。私も身代わりになることを承諾したので、出頭して逮捕されたんですけど、このまま手続きを進めて欲しいと考えています。」
X弁護士として、どのような対応をすることが適当でしょうか。
【解説】
弁護人として接見をしていると、時々このような主張に出会うことがあります。ここまで丸々身代わりになっているというケースはそれほどないとしても、部分的に身代わりになるようなことをしていることはあります。
このとき、弁護人としては、まず無実の事件で有罪判決を受けることは適切でないこと等を伝え、思いとどまるよう説得するべきです。しかし、仮説得に応じなかった場合にはどのようにすればよいでしょうか。
私選弁護人の場合、弁護活動を継続できないということを理由に辞任することが考えられます。しかし、国選弁護人の場合には、自由に辞任することはできず(刑事訴訟法38条の3)、かといってこの内容を裁判所に報告することは守秘義務違反となりますので、裁判所に辞任を求めることもできません。
それでは、X弁護士のように国選弁護人を継続することになった場合には、どのように対応すればよいでしょうか。
これについて定まった見解はなく、『解説 弁護士職務基本規程(第三版)』にも複数の考え方が示されています(同書15頁)。
国選弁護人であり、辞任できる状態ではない以上、弁護人は何らかの弁護活動をしなければなりません。たとえば、冒頭手続きでの罪状認否は、弁護人・被告人に陳述の機会を与えれば足りると考えられていますので、弁護人が陳述しなかったとしても手続きは進みます。また、証拠意見は本来被告人固有の権利ですので、弁護人ではなく被告人がすべて同意してしまえば、それで足ります。このように、裁判の場に弁護人がいるものの、弁護人が一切の弁護活動を行わないということも不可能ではないかもしれません。ただ、この手続きは通常の弁護活動ではありませんし、裁判官・検察官から見ても極めて疑問があります(間違いなく理由を問われるでしょう)。また、本当は無罪であるにもかかわらず情状弁護を行うのかという問題も生じ得ますが、仮に情状弁護を行った場合、情状証人に有罪であることを前提に尋問をすることも躊躇われるところです。
反対に、被告人の意思決定を重視し、被告人の主張の通り弁護活動を行うことも考えられます。この場合、弁護人は偽犯人を作り出しており、真犯人の罪を免れさせていることになりますので、犯人隠避罪が成立しないかどうかの問題が生じます。実際には、正当事由があると判断される可能性もありますが、そのような確定的判断が示されたことはなく、先行きは見通せません。
どのような選択をとるにしろ、身代わり犯人の問題が登場した際には、弁護人には難しい選択が迫られます。このような問題が生じた場合、最終的に自分の身を守るため、できる限り自身の行った判断を形に残すような行動を意識すべきです。たとえば、被告人とのやり取りを録音しておくとか、決めた内容を書面に残すなど、あとから「本当は・・・」と言われるようなことがないよう、弁護活動をする必要があります。