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【事例】
X弁護士は、ある夫婦の女性の側から夫との離婚調停を依頼されました。女性曰く、夫は一切家事をせず、家にお金を入れることもなく、普段自分に暴言ばかり吐いている
とのことでした。
X弁護士が聞いていても、女性の境遇はあまりにも不憫であり、離婚をして自由になる方が幸せであろうと思えるほどでした。
そこで、X弁護士が家庭裁判所に離婚調停を申し立てたところ、夫の側から反論の書面が提出されました。
その書面には、妻が行っていることは全てうそであること、自分は妻を愛していること等が滔々と記載されていました。
これを読んで激高したX弁護士は、次の書面で「この夫は人でなしであり、人間の心を持たない化け物である」等と記載した書面を提出した。
【解説】
弁護士職務基本規程第6条によると、「弁護士は、名誉を重んじ、信用を維持するとともに、廉潔を保持し、常に品位を高めるように努める」とされています。
今回のX弁護士の書いた書面は、たとえ夫側の主張が事実に反する虚偽の主張であったとしても、虚偽であることを主張するものではなく、単にその人格を否定する内容となっています。
このような内容の書面は、いくら依頼者のためであるとしても、品位ある書面であるとは言えません。
ただ、さすがに弁護士個人の感情としてあからさまに名誉を毀損し、品位を害する書面を記載することはそれほど多くないと思われます。
実際には、依頼者から感情的な表現をすることを依頼され、弁護士もこれに同情して記載してしまうのではないかと予想されます。
それでも、たとえ依頼者からの依頼であったとしても、最終的には弁護士名義で書面を出すのですから、弁護士としての基本的なルールは遵守する必要があります。
だからと言って、依頼者自身が感情的な表現を記載した文書を、弁護士が証拠として提出することも、不法なものに加担することになりかねませんので注意する必要があります。
ですので、対外的に発出する文書や、証拠については、提出前に一旦見返し、冷静な気持ちで本当に提出してよいものかどうかを考える必要があります。
また、このような事案の場合には弁護士の側に非があることが比較的はっきりしているので、示談交渉を行い、謝罪等をして処分の軽減を目指していくことも考えられます。
【最後に】
弁護士が懲戒請求を受けた場合、弁護士は代理人ではなく紛争の当事者となります。代理人として紛争にあたるのはいつもどおり出来たとしても、当事者として紛争にあたる場合には思った通りの活動が出来ないということはあり得ます。代理人を入れることで、事実をしっかりと整理し、懲戒処分の回避や軽減につながる可能性が上がります。
加えて、勤務弁護士について懲戒請求を受けた場合に、実際に懲戒処分がなされれば事務所全体の評判に関わる可能性があります。当該勤務弁護士について解雇・業務委託契約解除をしたとしても悪影響が払拭できない可能性もあります。
勤務弁護士が懲戒請求を受けている場合も含めて、懲戒請求手続について詳しく、懲戒請求に対する弁護活動経験が豊富な弁護士への相談を検討している先生方は、是非弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所にお問い合わせください。