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【事案】
A弁護士は、BからCを相手方とする不法行為に基づく損害賠償請求(交通事故)事件を受任しました。
A弁護士はCに連絡を取り、示談交渉を行いました。
その後、今度はCからAに連絡があり、C自身の離婚事件をA弁護士に受けてもらえないかと言われました。
このとき
①まだBC間の損害賠償事件が終結していなかった場合
②Bとの間の委任契約は別の形(別件刑事事件等)で存続していたが、BC間の示談交渉は既に終結し、示談が締結されていて、Cに対する事件が終結していた場合
③既にBとの委任契約は終了していた場合
で何か対応方法に違いがあるのでしょうか。検討していきたいと思います。
【利益相反】
弁護士として一般の方と示談交渉等をしており、特にその示談交渉が円満に解決したような場合には、相手方当事者から事件の依頼の勧誘を受けることはそ う珍しいことではありません。
しかし、自身の依頼者と相手方当事者では、利害対立があることが通常であり、利益相反をしていることになります。
ですので、このような依頼を無制限に受けてしまうと、誰の味方であるのかという根本的な点に不信感を生じさせる危険性があります。
そのため、弁護士法及び弁護士職務基本規程では、「職務を行い得ない事件」を定めています。通常これを「利益相反」と呼んでおり、利益相反がある場合には受任をしてはならないことになっています。
まず、今回直接的に問題となりそうな弁護士法25条3号(職務基本規程27条3号も同じ)を見てみましょう。
弁護士法25条
弁護士は、次に掲げる事件については、その職務を行つてはならない。ただし、第三号及び第九号に掲げる事件については、受任している事件の依頼者が同意した場合は、この限りでない。
三 受任している事件の相手方からの依頼による他の事件
弁護士法25条3号は、受任している事件の相手方からの依頼については、「他の事件」であっても原則職務を行うことを禁じています。ただ、他の利益相反規定と異なり、この3号については但書によって「受任している事件の依頼者が同意した場合」には受任が認められています。
A弁護士の例でいえば、①はまさにこの3号が問題になります。ですので、依頼者であるBの同意があれば受任できることとなります。
ただ②はより難しい状況です。BとCの間の事件は終了していますので、その意味ではCは「受任している事件の相手方」ではなくなっているとも言えます。しかし、Bとの委任契約は継続中ですから、Bは現在も依頼者であると言えます。仮にこの状況でA弁護士がCからの事件を受任した場合、Bは自己の事件(BC間の損害賠償事件)についてもCに有利に解決されたのではないかと相当の疑念を持つことが自然であると言えます。ですので、受任を差し控えるか、①と同様Bの了解を得ていた方が好ましいと考えられます。
③は、すでに委任契約が終了していますので、条文上はCは「受任している事件の相手方」には全く当たりません。そのため、自由に受任できるということになります。ただ、②で指摘した事情は当てはまりますので、Bとの委任契約終了から間がないのであれば、Bの同意を得ていた方が後のトラブル回避につながると考えられます。
【守秘義務】
しかし、このBの同意を得るためには、もう1つ考えなければならないことがあります。
Bから同意を得る以上、自身がCのどのような事件を受任するのかについて、Bに説明をする必要があります。これは、Cに対する守秘義務との関係で問題が生じます。
もちろん、Bに対しては、Cが同意をした範囲でしか話すことはできません。ただ、今回のような離婚事件の場合、Cの資力に影響が生じる可能性もあります。これは、B自身がCに対する債権者となる損害賠償請求事件を受けていた場合、BC間の交渉に影響を与えかねない事情となります。
Bからの同意はもちろん真意に基づく同意でなければなりませんので、錯誤等意思表示に瑕疵があるようなものであってはいけないと考えられます。そのため、Cから受任しようとする事件が、直接的にも間接的にもBC間の事件に影響を与えてしまうような場合で、その内容をBに説明できないような場合には、そもそも同意を取り付けることはできない(同意をしたとしても問題がある同意である)ということになりますから、最初から受任を差し控えるべきであると考えられます。
問題が生じてしまった後では、いかにこの事態を収拾するかがポイントとなります。(元)依頼者の方との間の話し合いが必要となった場合などには、第三者を介して話し合った方が冷静な話し合いが可能になります。
また、懲戒請求を受けてしまった場合には、これに対応する必要もあります。このような場合には、経験豊富なあいち刑事事件総合法律事務所にご相談ください。懲戒請求の流れや、弁護方針等についてお答えします。