【弁護士が解説】弁護士が依頼者の違法行為を助長、ついにしてしまった場合にどのような処分となるのか

【事案】

 X弁護士は、Aから、盗まれた自動車の取戻しを依頼された。
 Aから聞くところによれば、ある日Aがコンビニに寄ろうと車を停めた際、何者かによって車が盗まれてしまい、Aが戻ると車はなくなっていたとのことであった。
 Aは、どうやら敵対関係にあるBが怪しいと考えており、実際Bの会社の駐車場に行くとAの車が発見された。
 しかし、AがBに対して車の返還を要請すると、Bは「いや、この車は第三者から買ったものだから、代金も払われないのに返してもらうことはできない」と述べ、返還を拒絶した。
 この翌日Aが再びBの会社に赴くと、車は既になくなっていた。
 このような経緯でX弁護士はAから依頼を受けたが、ある日Aが「先生、車を発見しました。鍵は私が持っています。またBに車を隠されてしまっては大変ですので、この車は私のところに引き上げてきてよいですよね」と連絡してきた。
 このAからの連絡に対し、X弁護士が・・・
①「問題ありません。そのまま引き揚げてください。」と述べた場合
②「私からは何も言えません。ご自身で判断してください。」と述べた場合
③「それはダメです。」と述べた場合
にどのような問題が生じるか、検討していきましょう。

【解説】

 仮に本当にAに所有権があり、法律上はAの返還請求権が認められるような状況であったとしても、現在はBが平穏に占有をしていると考えられる以上、Aの行為は窃盗罪に該当する行為となります(いわゆる自力救済)。
 そうすると、Aの行おうとしている行為は、法律上違法なものであるとの評価を受けることになります。

①の場合
 弁護士職務基本規程第14条では、「弁護士は、詐欺的取引、暴力その他違法若しくは不正な行為を助長し、又はこれらの行為を利用してはならない。」と定められています。
 このような規定が設けられている趣旨は、社会正義を実現するべき弁護士が、違法行為等の助長や利用といった正義に反する行為をするべきではないと考えられているからです。
 今回のケースのような自力救済が違法であることは、弁護士として刑法を学習した者であれば当然理解しているというべきだと考えられます。
 そのため、Aの行為が違法であることは明白であり、これを問題ないとして承認する行為は、まさに違法行為を助長したと評価されることになりますし、場合によっては窃盗の共犯であると評価されかねません。
 このような助言はするべきでないと言えるでしょう。
 ただ、このような分かりやすい違法行為ばかりとは限りません。過失により助言をしてしまう可能性もありますが、このような場合には弁護士法56条1項の品位を失うべき非行になる可能性が生じてしまいます。
②の場合
 次に②の場合です。この場合は積極的に引き揚げを肯定していません。ただし、③と異なって否定もしていないことになります。
 しかし、自動車の取返しを委任されたX弁護士にとって、車が手元にあるということは、その後の交渉や訴訟を進める上で非常に有利になると考えられます。仮にX弁護士が、今後の自身の交渉等を有利にする目的で、Aの違法行為を放置したような場合には、X弁護士は違法行為を利用したということになりますので、やはり職務基本規程14条に違反することになります。
③の場合
 違法行為の追認を求められたような場合には、これをしっかりと拒絶することが必要です。
そして、このような違法行為を求めるような依頼者とは、十分協議の上、委任契約の解除、代理人の辞任等の措置を考える必要があります。
 依頼者が執拗に違法行為を求めるような場合には、弁護士に対する業務妨害として、各単位会の委員会、役員等にご相談されるのもよいと思われます。

 ①②の様に、違法行為の助長を故意にしてしまったような場合には、戒告以上の処分が下る可能性が高いと言えます。
 弁護士が懲戒請求を申し立てられた場合、弁護士は代理人ではなく紛争の当事者となります。代理人として紛争にあたるのと、当事者として紛争にあたるのとでは気持ちもパフォーマンスも大きく変わってくると考えられます。代理人を入れることで、事実をしっかりと整理し、懲戒処分の回避や軽減につながる可能性が上がります。
 懲戒請求手続について詳しく、懲戒請求に対する弁護活動経験が豊富な弁護士への相談を検討している先生方は、是非弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所にお問い合わせください。

keyboard_arrow_up

0120631881 問い合わせバナー 秘密厳守の無料相談