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【共通設定】
A弁護士は、窃盗罪で逮捕されたXの国選弁護人として選任され、留置先であるB警察署へ
接見に赴きました。
面会したXから、自身の両親に連絡を取って欲しい旨を告げられましたが、Xは両親の連絡先を知らず、元々Xが暮らしていた住所しかわからない状況でした。
そこで、A弁護士は、郵便を用いて両親へ連絡を取ることとしました。
このとき
事例1
A弁護士は、普通の官製はがきの通信面に「私は息子さんの国選弁護人となりました。息子さんの件でお話ししたいので、事務所までご連絡ください」と記載した。
事例2
A弁護士は、茶封筒の中に、事例1と同じ内容を記載した手紙を同封した。そして、Xが指示する郵送先へ郵送したが、Xの実家は既に転居しており、実家には別の第三者が居住していた。そのため、郵便物は第三者によって開封された。
事例3
A弁護士は、茶封筒の中に、事例1と同じ内容を記載した手紙を同封した。そして、Xが支持する郵送先に郵送し、そこは確かにXの実家であった。しかし、手紙はXの兄弟が受領し、郵便物は兄弟が開封した。
これらの事例で、A弁護士の行動には問題がないか、検討していきたいと思います。
(事例は架空のものです)
【守秘義務】
弁護士法第23条及び弁護士職務基本規程第23条では、秘密の保持が義務付けられています。
これは、信頼関係を基礎に置く弁護士の職務上、最も基本的な義務と考えられており、守秘義務違反は最も注意をしなければいけない点となります。
ただ、弁護士の守秘義務には例外もあり、一番大きな例外が「本人の同意がある場合」と考えられます。なお、ここでの「本人」は、秘密の対象となる本人と考えられます。たとえば、依頼者の相手方の秘密については、依頼者及び相手方双方の同意があった場合のみ守秘義務が解除されると考えられます。
今回の事例で、A弁護士はXから「両親に連絡を取って欲しい」と言われています。このようなやり取りがある以上はXが勾留されていることなどについては、両親に対しては守秘義務が解除されていると考えてよいように思われます。もっとも、事件内容をどこまで詳細に話してよいかなどについては、本人とよく相談の上考える必要があります。
ただ、あくまでも両親に対して守秘義務が解除されているにすぎませんので、両親以外については守秘義務は解除されていないことになります。
【事例の検討】
⑴事例1
事例1の問題点は官製はがきを用いた点です。はがきは封書よりも郵便料金が安くなる半面、はがきの通信面は誰からでも容易に閲覧が可能となってしまいます。実際に郵便配達を行う郵便職員から見えることはもちろんのこと、ポストなどに投函された後も場合によっては第三者から閲読可能な状況になる可能性が否定できません。
郵便職員については、郵便法8条2項により秘密保持義務がありますのでここからさらに外部へ広がるという可能性は高いものではありませんが、それでも郵便職員に対して内容を知られること自体が問題であると言えます。
今回、A弁護士は自身が「国選弁護人」に選任されたことを記載しています。この内容と、はがきに記載されている内容から考えれば、宛名の人物の子どもが何らかの刑事事件を起こしたことは容易に明らかになります。刑事事件を起こしたことは一般に知られたくないことでしょうから、守秘義務の対象となる秘密であるというべきです。
そのため、このようは秘密に該当する事項をはがきに記載することは、守秘義務違反として何らかの処分を受ける可能性がある事項ということになります。
⑵事例2
事例2の問題は、A弁護士が実家の住所の所在を確認せず郵送したところにあります。
Xが両親の連絡先を知らないということは、実家と疎遠になっていることは予想できたようにも思われます。ただ、本人から言われた住所を逐一確認しなければ郵送できない(たとえば戸籍の附票や住民票を職務上請求しなければ郵送できないと考えること)とするのは、現実的ではないようにも思われます。
ただ、A弁護士からすれば、正確性の担保がない住所である以上、郵送する際には慎重に行う方が望ましかったと考えられます。これに対し、Xから指示された住所が勾留状記載の住所であれば、捜査機関が特定した住所であるということになりますから、それに従って郵送することに合理性があると考えられます。
A弁護士とすれば、たとえば簡易書留などの方法で送り、対面での受け取りが必要となる手段を講じるとか、最初の手紙の中身を「お伝えしたいことがありますのでご連絡ください」程度とし、事案の推測がなどができないようにしておくなどの対策が考えられたと思われます。
⑶事例3
事例3の問題は、思った通りに郵送がなされたものの、郵送先で第三者が開封してしまったという点にあります。
とはいえ、Xの兄弟が実家にいること自体は全く不自然ではないため、両親以外の親族が開封してしまう可能性は否定しきれません。また、上述のように簡易書留で郵送した場合であっても、兄弟であれば受けることができてしまいます。
そのため、このような事態を回避するためには、郵便そのものを本人限定受取郵便という形で郵送することが考えられます。ただ、この方法で郵送した場合には、受け取りに手間がかかる場合があることもありますので、保管期限内容に郵便が受け取られない可能性があること、郵送費が高額となることが問題となります。
ですので、1つの方法としては内容を具体的に書かず「ご連絡ください」とだけ記載して郵送することも考えられます。ただ、昨今弁護士の名をかたった特殊詐欺も横行していますので、このような手紙に不自然さを覚える方がおられる可能性も否定できません。
このような事情もありますので、本人と十分協議を重ねたうえで、同居の親族への守秘義務解除について予め検討しておくことが必要であると思われます。そして、メリットデメリットを伝えたうえで、最終的には本人にどのような連絡先を取るか決定してもらうことが重要であろうと思われます。